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2006年9月24日 (日)

解説「ZENフォトグラファーズ」
写真展はどのように企画されたか

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(C)Motoyuki Kobayashi 

本展のテーマ「禅」について簡単に説明を試みてみたい。
「禅」ではなく「ZEN」なのですね、とよく聞かれる。意識したのは、最近のインテリア雑誌などで取り上げられる、ミニマム主義建築デザイナーのジョン・ポーソンらが提唱する“ZEN”スタイルだ。ベースになる禅はもともと16世紀の日本で開花した思想。それが欧米のライフスタイルに反映されて“ZEN”スタイルになったのだ。現在の日本人には伝統の禅ではなく、海外経由の「ZEN」のほうがしっくりくると考えて英文にした。しかし、外人が好む漢字Tシャツのように、「禅」という文字自体が西洋的なので写真展入り口には「禅」と表示した。

欧米社会で、「禅」思想は1950年代からブームとなり、今では広く普及している。その背景には、西欧文化の精神的な支えだったキリスト教の価値観が崩壊し、「自我」という存在が出現したことがあるそうだ。哲学者ニーチェが「神は死んだ」と主張したことはあまりに有名だ。そして「自分とは何だろう」という自我の存在に対する根源的な疑問が出現し、それに対するひとつの回答として「禅」が注目されたとのことだ。

当時の西洋の状況が、価値観が激変しているいまの日本と似ていると感じたのが本展の企画の発端だ。かつての日本は共同体社会だった。しかし、戦後の都市化でまず地域コミュニティーが、 そしてその代わりだった会社コミュニティーが崩壊した。日本の神が死んだのだ。そしていま個人は自分自身をたよりに生きることが求められるようなった。しかし、現代社会で明確な自分のポジションを意識することは容易ではない。多くが自分を見失い焦燥感と不安を抱えるようになる。

本展のテーマは、そんな時代に生きる人々のひとつの処方箋が「ZEN」なのではないだろうか、という問いかけなのだ。「禅」では無我を主張する。色々と思い悩む根源の「自我」そのものに実体がない、と切り捨てることで社会のすべての出来事が幻のように消えてしまうのだ。禅を解説することほど難しいことはないのだが、社会で一生懸命に頑張る一方で、視点を変えることで世の中のすべてのしがらみから自由になることと私は解釈している。頑張りすぎていると視野が狭くなり自分の目の前の出来事がすべてだと思い込んでしまう。

本展の準備は、思い込みで心が固まっていることに気付くきっかけとなる写真探しから始まった。しかし、癒しのような雰囲気を持つ写真だけでは作家の本心はわからない。
結局、作品自体ではなくエゴにとらわれていない生き方の写真家を選びだし、「ZEN フォトグラファーズ」への参加を依頼した。全員が、周りがどう見るかという他人の価値観ではなく、自分の価値観を大事にして真っ直ぐに作家活動をしている人たちだ。

本展では「禅」というキーワードの意味を自分なりに理解した上で、できるだけ自由に写真作品を見て欲しい。癒しにつながる「ZEN」は、見る人それぞれの心の中にあるはずだ。

http://www.artphoto-site.com/gallery_exh_064.html

参考文献
「禅のすべて」1997年、PHP研究所編

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2006年9月14日 (木)

ストレス社会に生きる人へのアーティストからの癒しのメッセージ

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(C)Herbie Yamaguchi

9月12日からグループ展"ZEN フォトグラファーズ"が始まった。癒されたり、悩みから開放されるような作品をセレクションしたグループ展だ。"禅問答"という言葉があるように、言葉で非常に表現しにくい概念がテーマだ。本展のプレスリリースの内容執筆にはわかりやすい表現が見つからないで苦労した。結局は、"禅"というキーワードを胸に作品を見て感じてもらうしかないない。

本展では横木安良夫が1995年に撮影した阪神淡路大震災時の阪神高速倒壊の写真を2X3メートルの大きさで展示している。これは震災のドキュメントではない。4x5大判カメラで撮影された作家のパーソナルな視点でとらえた風景写真なのだ。巨大作品の前に立つと、 まるで自分が現場にいるかのごとく錯覚する。社会生活を送る現代人は日々、色々なことに思い悩んでいる。しかし、このような天変地異が引き起こした世界を目の当たりにするとそんな悩みや不安はちっぽけなものだと気付くのだ。できるだけ多くの人に横木の作品を体験して何かを感じて自分を見つめなおすきっかけにして欲しい。

ハービー・山口は、ミュージシャン、市井の若者の親しみやすいポートレートで知られた人気写真家だ。今回は、ポートレートではなく彼のモノクロームの風景写真を展示している。実は2003年に刊行されたポートレート中心の写真集"piece"からのセレクションだ。彼のポートレートが素晴らしいのは、その親しみやすいキャラクターと人間愛を信じて疑わない確固とした世界観による。雲のようなふわふわした気持ちよい話ぶりに被写体は魅了される。そしてすべてが受容されたことで心が和み自然な表情が引き出されるのだ。実は同じ自然体のアプローチは彼の気持ちよい風景写真にも感じられる。優れた写真家のスタイルは何を撮影しようと不変なのだ。今回の展示作品はエディション数30点で販売することにした。

小林基行は、現代の美人画をテーマにした女子高生のポートレートで知られている。一方で"Days of Heaven"シリーズなどで、自らが癒される写真にこだわって作品制作を行っている。今回展示するのは、森のなかで撮影した"Tree Scapes"シリーズで自然の"ゆらぎ"を表現しようとしている。不規則に動くもののなかにも"1/fゆらぎ"のように一定の法則が存在する。風、波、川のせせらぎなどはその代表として知られており、人間の感情や生体リズム、癒しとも関係している。彼は自分が心地よいのはゆらぎであることを意識して今回の作品制作に取り組んだ。小林の写真は見る人を元気にさせるといわれるが、ゆらぎがその謎を明かすキーなのかもしれない。

中乃波木は20代後半の若手写真家だ。"White times"では地元石川県の雪を撮影し90cm四方の大判作品に仕上げている。中は、自分は子供のころから怖がりだったが雪の中にいると安心感を感じたという。子供のころの外の大きな世界への恐怖は、大人になると人間関係が作る社会生活での恐れや悩みとなる。雪の中は砂漠のように完全に抽象化された世界だ。そこに身を置くことで中は癒され、瞬間的に社会のなかの自分を客観視し、癒されるのだろう。現代人の多くがもつ悩みへの対処法が提示されていると思う。中にとっての"雪の世界"と同じ何かを見る人それぞれが持っているはずだ。作品に触れて、その何か見つけだすきっかけにして欲しい。

大和田良は昨年の個展でも一部展示した、瞑想感が漂う"World of Round"シリーズからの作品がセレクションされている。本シリーズは2005年スイス・エリゼ写真美術館が開催した、次世代の50人の写真家を選んだ"re-Generation"写真展に選出された作品だ。記念写真集にも掲載された作品のオリジナルが鑑賞できる。アクリルに写真作品を貼り合わせるのが現在、特に欧州で積極的に取り入れられている制作手法なのだ。次の展開が心待ちの若手作家だ。

"禅(ZEN)"といってもアーティストの表現方法、モチーフ、癒し方は千差万別だ。ぜひ心が疲れ気味の多くの人に鑑賞してもらい、それぞれの癒しのヴィジョンを見つけて欲しい。また作家希望の人も"癒し"は作品として意識してもらいたいテーマだ。

ギャラリストは禅問答大歓迎。私をギャラリーで見つけたら声をかけて欲しい。
開催期間は10月28日(土)まで。午後1時から7時まで、日曜、月曜は休廊。

会場風景は以下からどうぞ
http://www.artphoto-site.com/gallery_exh_064.html

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