« 2007年6月 | トップページ | 2007年8月 »

2007年7月25日 (水)

玄人受けする写真
ロイス・グリンフィールドの世界

Inf_press_31_image4
(C)Lois Greenfield

現在、ギャラリーでは米国人女性写真家のロイス・グリンフィールドの写真展を開催中だ。
この写真展は作家やコレクターに評判がいい。つまり玄人受けする写真なのだ。一方、アマチュアで写真撮影する人はあまり興味を持ってくれない。彼らはどうしても自分の撮影の参考になりそうな作品に惹かれる傾向がある。それはストリートで撮影されるスナップ系の写真となる場合が多い。

ロイス・グリンフィールドの作品が制作される環境はアマチュアとは縁遠い世界だ。プロのトップダンサーをモデルに起用し、すべてスタジオで完璧なライティングの中で撮影される。カメラもローライフレックスを利用している。パソコンでのイメージ操作を嫌い、100%ストレート写真でダンサーの決定的瞬間を追及する。
誰でも自分がこんな風に撮りたいという写真がわかってくると、それ以外のものを遮断してしまう傾向がある。好きな方向を追求するのは決して悪いことではない。しかし、自分の世界の中で満足してしまうと趣味で終わってしまう。作家を目指しているがスタイルが出来上がっていない段階の人は、ぜひ自分と撮影スタイルやテーマが全く違う写真家の作品に触れて色々と刺激を受けて欲しい。

本展では、銀塩とデジタル・プリントを同時展示しているのも見所のひとつ。デジタルでもGiclee Print(ジイクリー・プリント)という、美術館レベルのハイエンドのプリンターで制作された高品位の作品だ。デジタル・プリントに取り組んでいる人は必見だろう。
写真展は8月4日まで開催しています。日曜、月曜は休廊、営業時間は1時~7時30分まで。
http://www.artphoto-site.com/gallery_exh_073.html

次回の企画展は9月14日よりトミオ・セイケ写真展「ポートレート・オブ・ゾイ」を開催する。彼の代表作品のゾイ・シリーズの未発表作品を世界初公開するものだ。なんと、銀塩写真のマスターであるセイケによるデジタル・プリントも展示される予定だ。トークイベント、「ライカとゾイ・シリーズ」も開催予定。ライカやノクチルックス、また撮影の裏話などが聞ける興味深いイベントなるだろう。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2007年7月15日 (日)

マーティン・パー写真展
「ファッション・マガジン」
実感して欲しいファッション写真多様化の現場

Blog_19
私は80年代に英国に住んでいた経験がある。それゆえ、英国におけるレジャーの大衆化をテーマにしたマーティン・パーの初写真集"THE LAST RESORT"1986 Promenade Press刊, は非常に親近感を持って見ることができた。当時の英国にはインダストリアル・ペザントという言葉があった。直訳すると工業化された農夫で、生活は近代化したが自分の住む地域から全く外に出たことのない労働者階級の英国人が多いことを意味していた。それが変化してきたのが80年代になってから、その状況をユーモア溢れる視点で撮影したのが上記のデビュー写真集なのだ。彼の探求したマス・ツーリズムの虚像は、悪趣味で、のぞき的だと当時の英国ではかなりの論議が巻き起こった。作品の皮肉、ユーモア面が強調されるマーティン・パーだが、実は社会的背景の深い洞察を持った知的な写真家なのだ。

私は当時の社会的背景を知っていたので、この本をファッション写真の要素を持つ高度なドキュメント作品としてみていた。たぶん英国経験のない人にはこの本だけを見ても理解し難い作品だと思う。しかし、その後の彼の写真集を見て作品が好きになった人なら、その原点として興味が持てるのではないだろうか。"THE LAST RESORT"のペーパーバックのオリジナル版は非常に希少。しかしこの本は1998年にDewi Lewis から再版されているので、関心のある人はぜひご覧になってください。

彼の日本初個展「ファッション・マガジン」が東京都写真美術館で8月26日まで開催中だ。これはアートとしてのファッション写真に興味のある人にとって必見の写真展だ。写真展カタログとなる「ファッションニュースペーパー」もマスト・バイのアイテム。パーはカタログのなかで、「ドキュメンタリー、ファッション、アートと一見異なる分野の写真も、実は区別がつかないほどお互いに関連性を持っている」と述べている。また写真展のテーマは、"人生そのもの"とも言っている。アート写真は多様化し、もはや現代人の人生を表現している優れた写真作品はひとつのカテゴリーにとどまらないということを彼は示したいのだ。
これこそが、現在の欧米市場で人気の高い"広義のファッション写真"のこと。私があらゆるところで主張している、カッコイイ写真と同じ意味なのだ。個別作品の好き嫌いは別にして、約100点の作品展示とカタログを通してその広がりと多様性が実感できるはずだ。
そして日本のアート写真市場の問題点も浮き彫りになってくる。

会場では、ポール・スミスのTシャツを思わず購入してしまった。値段はTシャツとしては8400円と決して安くない。しかし写真展カタログ付だし、シャツというキャンバスの上にプリントされた一種の作品、そしてポール・スミスとマーティン・パーのダブルネームで十分価値があるのではと考えてしまった。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2007年7月 6日 (金)

跳ぶ肉体/瞬間の美学
ロイス・グリンフィールド写真展がスタート!

Gallery_exh_073_2
(C)Louis Greenfirld

今週からロイス・グリンフィールド写真展「エアー・ダンス」がはじまった。彼女は80年代から一貫して正方形のファーマットでダンサーの写真を撮影している。彼女はダンス自体ではなく、ダンサーの見たことのないような肉体の動きをテーマに撮影しているのだ。作品を眺めているとどのイメージも四角の画面の中にダンサーたちの完璧はフォルムがとらえられていることに驚かされる。コンピュータでの加工はない、完璧なストレート写真というから驚異的だ。1枚の作品完成にはたぶん膨大な時間がかけられているのだろう。そして年代経過するに従い、モデルの人数が増え、コスチュームが大仰になる。ダンサーの動きも複雑化していき、撮影がより高度になるのだ。こうなると完成形を考えてイメージを制作するというよりも、偶然により起こる奇跡的な決定的瞬間を求めて撮影しているのかもしれない。

人間がモチーフだとインテリアには飾り難い場合がある。しかし、彼女の作品は単色の背景に動きがあるイメージなのでモデル自体は抽象的な感じがする。全体的にシンプルかつモダンな印象なのでどんな場所にもマッチすると思う。デコレーティブなフレームを選べば、クラシックな感じのインテリアとも違和感がないだろう。弱点があるとすれば、時代性が強く感じられない点か。20年以上に渡って同じアプローチで撮影しているのだが、ダンサーという特殊なカテゴリーのモデルを採用しているので時代の変化は作品にあまり反映されてはいない。しかし、ダンスが好きな人なら登場しているモデルを通して時代性を感じるだろう。ゼラチン・シルバー・プリントとハイエンドのプリンターにより制作された高品位デジタルプリントのGiclee Printの2種類のプリントが展示されている。
写真集「Breaking Bounds」、「Airbone」は既に絶版だが、今回は簡単な図録を1000円で販売している。会期は8月4日(土)、日曜、月曜は休廊。
夏期開催の本展に限って、夜7時30分まで営業します。

以下に会場内で掲示している作品解説を転記しておきました。
ご来廊される前に一読されるとより興味が増すと思います。

---写真展解説の抜粋---
アート・フォト・サイト・ギャラリーはダンス写真で知られる米国人女性写真家ロイス・グリンフィールドの写真展を開催します。パフォーマンス・アートであるダンスは長年、写真によりドキュメントされてきました。しかし写真家は作家性よりも、振付家が演出した踊りのピークの瞬間を完璧にとらえることを求められてきました。過去には、アレクセイ・ブロドビッチやポール・ヒメルらが、ブレ、ボケ・アレを多用し、バレーの動きを作品として表現しようと試みています。しかし、彼らは様々な表現方法の一部にダンスを取り入れたにすぎませんでした。
ロイス・グリーンフィールドは70年代からダンスの仕事を行っているこの分野の専門家です。その長い経験の中から、ありふれた従来のダンス写真に満足できなくなります。80年代に自らのスタジオを持ち、ハッセルブラッドカメラの6X6インチ正方形フォーマットに出会ってから独自のダンス写真のスタイルを作り上げていきます。
彼女の興味は、人の持つエネルギーから発生する独創的な動きをとらえること。魅力的な肉体と優れた運動能力を持つダンサーはまさにモデルとして最適だったのです。舞台上でも、レッスン場でもない、環境がコントロール可能なスタジオで彼女はダンサーのオリジナルな動きを引き出します。一瞬をとらえた写真はコンピューター製作と誤解されることもありますが、実は加工なしの完璧なストレート写真です。彼女の写真はプロダンサーでも普段は気付かない新しい姿をとらえていました。次第に多くのダンサーたちの信頼を得て質の高い作品がスタジオから次々と誕生していきました。シンプルな背景の中でダイナミックに動き回るダンサーの魅力的なフォルムは独自の「跳ぶ人」のスタイルとして認知されるようになります。彼女の撮影スタイルはどんな状況でも変わりません、活躍の場は次第にコマーシャルや雑誌へと広がっていきました。撮影の基本スタンスが20年以上一定であることから、ダンスを通じてファッションの変遷が作品に反映されている点も新たな魅力として注目されています。
80年代の作品は1992年に写真集「Breaking Bounds」Thames & Hudsonにまとめられます。 その後、ダンサーの動きに、小物類や洋服の布地の動きが加わり作品の構成はより複雑化し洗練されてきます。
本展では彼女の20年以上のキャリアの中のベストセレクション作品約22点が展示されます。写真でしか見られないロイス・グリンフィールドによる、跳ぶ肉体の瞬間の美学をご高覧ください。                                                          
---抜粋 おわり---

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2007年7月 3日 (火)

大和田良の写真集「プリズム」
心地よく奥が深い写真作品

Blog_18
ギャラリーの取り扱い作家の大和田良の写真集「プリズム」が発売された。彼は仙台出身の28歳。東京工芸大学美術学部写真学科卒業、木村伊兵衛賞を受賞した本城直季氏と同級生だ。2005年にスイス・ローザンヌのエリゼ写真美術館が開催した“明日の有望写真家50人”に選出され注目された若手写真家だ。
2年前に私どものギャラリーで開催した写真展「I-D」-脱力社会の中の超個人主義- を開催している。写真集もこの個展からセレクションされた作品中心に新作が加えられている。
この本を見ただけだと作品のコンセプトがわかり難いので、前回の写真展の紹介文から一部を抜粋したので参考にして欲しい。

本文で引用しているシリーズの簡単な解説をしておくと、「ソース」は彼が子供のころ遊んでいたおもちゃをモチーフにして制作したカラーの大判作品、「ラウンド」は写真をデジタル加工して万華鏡のような瞑想感漂う作品に仕上げた彼の代表作。ギャラリーでも一番人気のある作品だ。

(2005年 11月に開催された個展での紹介文から引用)
本展では“明日の有望写真家50人”の受賞作品の「ラウンド」とともに、自らの子供時代に遊んだおもちゃをモチーフにした「ソース」、日常生活を撮影した多数のスナップ写真の3シリーズで構成されています。子供時代は自分が世界のすべてで誰しもが万能感を持っています。社会の価値観に自分を合わせるようになり大人になります。しかし社会生活が長くなると、環境に過剰適応して自分自身を見失います。社会人としては立派に見えても個人的に虚無感に潰されそうになります。
「ソース」のテーマである子供時代によく遊んだおもちゃを思い出すことは自分自身を再確認する行為なのです。子供の時に自分が好きで楽しかったことはその人の本質が一番現れています。膨大な選択肢がある現代社会でも自分の好きを常に意識できたら自由に押しつぶされることなく前向きに生きていけるというメッセージなのです。
「ラウンド」の重層的イメージは瞑想を思い起こさせます。「ソース」で自らに意識的であることを指し示した大和田は、瞑想でも自分を客観視できるよと語っています。瞑想では色々湧いてくる雑念を頭から消し去ることを目指します。その瞬間には悩みから開放され本来の自分を取り戻せます。枯れていた精神エネルギーが充電できるのです。海外での大和田の評価は瞑想というキーワードを持つ本シリーズがきっかけでした。
ギャラリー内で数多く展示される小振りのスナップ写真は上記の二つのシリーズをつなぐ
役割を持っています。これは仕事、家庭、趣味など様々な局面を持った社会での日常生活を表しています。私たちの感覚は状況によって過去、現在、未来を行き来しています。
一部作品の中には「ソース」につながる、子供時代に見たデジャブ(既視感)のようなイメージや、瞑想感が漂うイメージも発見できます。同時に私たちが日常生活でこだわる、
お金、地位、評価、異性、生存を象徴したイメージがちりばめられています。
大和田は社会的に注目されているジェネレーションYとよばれる世代です。本作品には、世の中は不条理で明るい未来は見えないけれども自分らしく生きるしかないという彼らの醒めた感覚が色濃く反映されています。またそのために、個人主義に徹してでも自らの存在意義つま、I-D(アイ・ディー)を発見することが大事なんだ、という彼の忙しい現代人へのメッセージがこめられています。
(以上、 引用終わり)

見る人は自分の気分に合ったイメージを写真集の中からサンプリングすることができるだろう。それだけでもこの本を手に入れる価値はある。一方でやや難解なコンセプトを噛み砕くとこの世代特有の新たな視点が見えてくるのだ。 心地よくはいりやすいだけでなく奥も深い、イメージとコンセプトがバランスした写真作品だ。彼の作品の多くは、アクリルで写真を挟み込んだ仕様となる。壁に飾ると非常にモダンでカッコいい。サンプルはギャラリーにあるので興味のある人はどうぞ見に来てください。

写真集「プリズム」(青幻舎)は、税込み2,940円、アマゾンなどでも購入可能です。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

« 2007年6月 | トップページ | 2007年8月 »