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2007年12月31日 (月)

「フラワー・パワー」参加作家の解説
ロン・ヴァン・ドンゲン
花と共に生きる庭師兼アーティスト

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(C)Ron Van Dongen/RAM

ロン・ヴァン・ドンゲンは米国北西部のオレゴン州ポートランドに住んでいる。ポートランドは各種調査機関のアンケートで、”最も住んでみたい都市”の上位に常にランクインする美しい自然景観に恵まれた場所だ。花や植物をモチーフに作品制作するには理想的な土地なのだろう。彼は、自分が撮影する花木をすべて自邸裏庭で種や苗木から育てている。自らを写真家兼、庭師と呼び、日々庭で泥にまみれて草木の世話をし、数多くの花の成長と変化を見つめている。それは散歩できれいな花を見つけたり、切り花を買うのとは次元が違う。花に注がれる愛情はたぶん愛するわが子に対するものに近いのだろう。撮影に選ばれた花は庭から切り出され自宅スタジオに持ち込まれる。自然光を使い、強い影や強烈なハイライトをできるだけ避ける。気まぐれな光が花を最も美しく照らす決定的瞬間を待ち続けるのだ。花を育て撮影までの一連の行為が彼自身の癒しになっているという。作品制作を通して彼は自然のゆらぎとシンクロする。ゆらぎを取り込んだ彼の写真作品は、忙しい現代人を癒し、生きる力を与えてくれる。「フラワー・パワー」参加作家のなかでは一番ストレートに花を撮影しているが、生き難い現代社会でどのように正常を保ちながら生き抜くかというテーマは共通なのだ。

ヴァン・ドンゲンは1961年ベネズエラ生まれ。オランダの大学で生物学などの学位を修得。しかし写真に魅了され、その後サンフランシスコ・アート・カレッジで写真を学んでいる。最初はポートレート写真家を志し、その技術修得のために植物を撮影していた。それらの作品がギャラリーで評判を呼び次第に花に専念するようになる。重要なのは被写体ではなく、良い写真を撮ることだと気付いたからだという。当初はヴューカメラとポラロイドポジネガ4X5インスタントフィルムを使用したモノクロ作品が中心だった。白い花を白バック、濃い色の花を黒バックで撮影した独自な色味の作品を発表する。
彼の写真サイズは大判だ。サイズが大きな役割を果たしている。それはメイプルソープやペンの花とも通じるが、彼の花はパーツを画面全体にクローズアップされている場合が多い。 花の持つフォルムの美しさを極限まで引き出そうとしているのだ。
初期作品ではモノクロにより花の姿を抽象化しようとしている。それは非常に洗練されモダンで、ラルフ・ローレン氏が魅了された理由がよくわかる。モノクロの花のイメージは”Alba Nero”1999年刊、”Vulgaris” 2000年刊、”Nudare”2001年刊の超大判写真集三部作にまとめられ世界的な評価を得る。初期写真集は発行部数も少なかったことからすでに高価なレア・ブック扱いになっている。近年、カラーでの作品制作にシフト。4x5ポジフィルムで撮影しデジタルイメージを作成。作品は高品位のデジタル出力だ。ペーパーは、"Hahnemuhle Fine Art Photo"を使用している。
2006年にはカラー作品の写真集”EFFUSUS”を発表している。

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(C)Ron Van Dongen/RAM

アート写真市場では1920年代に活躍した、タルボット、ブロスフェルドなどから、カニンガム、ペン、メイプルソープにつながる写真によるボタニカル・アートの継承者と評価されている。作品は世界中のギャラリーで取り扱われており、ヒューストン美術館、エルトンジョン・コレクションなどにも収蔵。モノクロ作品はラルフ・ローレン、ポール・スミスのコンセプト・ショップにも飾られている。現在はギャラリーでの活動が中心だが、今後はオークション出品も期待されている有力な次世代作家だ。ライフワークの植物のポートレート写真はモノクロからカラーにシフトすることで新たな展開を見出した。今後、花以外の新たな作品展開が非常に楽しみだ。

写真展「フラワー・パワー」、年初は1月8日(火)からオープン。
2008年1月19日まで開催。(日、月曜休廊)

写真展についての詳細はこちらでご案内しています。

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2007年12月21日 (金)

「フラワー・パワー」参加作家の解説
セイリー 育緒
ハリウッドに見る日本の近未来図

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(C)Ikuo Salley

グローバル化、IT革命が引き起こした世界的なニューエコノミーの波が90年代後半ころから日本にも浸透してきた。小泉内閣が推し進めた構造改革で既得権や規制が徐々に崩壊していった。その結果日本も長い不況から脱出し、大企業の業績も持ち直している。
現在ややそのゆり戻しが起きているが、市場化という世界的な流れは変わることはないだろう。個人レベルでは、選択肢が増え何を行うのも自由になる一方で、その結果に全責任を負う社会が訪れつつある。そんな新しい社会には光と影があることが明らかになってきた。六本木ヒルズに住むようなリッチな成功者が生まれる一方で、ワーキングプワーといういくら働いても最低限の生活しかできない階層が出現している。社会は少数のエリートと定型化された仕事を行う非正規労働者へと分断され始めている。アート界の仕事も、まったく同じ構図だ。
そんな日本の将来にいま多くの人が不安を持っている。実は日本の近未来図はニューエコノミーの先進国アメリカで既に現実化している。セイリー育緒が撮影したハリウッドはまさにそんな場所だ。私たちが想像する華やかな映画の都のイメージは一部の成功者を捉えているだけにすぎない。圧倒的に多いのは競争に敗れ去った人々だ。ストリートの片隅には幽霊のような彼らの影が見え隠れする。ワーキングプワーどころではない、夢破れて希望が見えなくなった人間は落ちるところまで行くのだ。社会的役割がないので、格好や行動に規範などない。本能的に日々を過ごし、 ドラッグや犯罪に走るのも自由だ。そしてその先にあるのは死の匂いがする地獄だ。

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(C)Ikuo Salley

セイリー育緒は、ローリングストーンズの「メインストリートのならずもの」(1972年発売)というレコードカバーに衝撃を受け写真を撮り始めたという。それを撮影したのは、50年代の繁栄するアメリカ社会の暗部を写真集「アメリカ人」で暴き出したスイス出身のロバート・フランク。偶然にも彼女は、ニューエコノミーの恩恵を一番受けている現代アメリカの持つ暗闇をハリウッドという地で象徴的に暴き出している。「甘い地獄」は21世紀に生きるセイリー育緒による、ロバート・フランクの「アメリカ人」へのオマージュなのだ。

そしてセイリー育緒 の世界は、アメリカの後を追いかけている日本の未来像と重なってくる。そんなアメリカにも強い宗教倫理に支えられたボランティア精神という救いがある。欧州は市民権を重視した福祉型国家だ。宗教も共同体もない日本。心の拠り所がなく、個人の人生が自由主義の競争原理だけに 支配される社会の行き着く先はどうなるのか?社会の底が抜けていく不気味な兆候は世の中のあらゆるところで現れ始めている。

本シリーズは「フラワー・パワー」展の中での重要作品だ。単に花や草木を写した写真の
グループ展でないことを強調するためにあえてセレクションされている。作家の追求する社会的なテーマによっては、華やかなハリウッドのパームツリーでさえ不気味に見えてくるのだ。

写真展「フラワー・パワー」、年内は12月22日(土)までオープン。
2008年1月19日まで開催。
(日、月曜休廊、12月25日~1月5日・年末年始休廊)

写真展についての詳細はこちらでご案内しています。

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2007年12月15日 (土)

気をつけろ!
「惨めなオヤジ」に見えるギャラリスト

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フラワーパワー展開催中のギャラリーにて

ギャラリーには資料として国内外の膨大な数の写真集、カタログ、雑誌があり、日々その数は増加していく。収納スペースも限りがあるので年末には雑誌類だけは資源ごみ回収に出すことにしている。
先週末に悪戦苦闘して行った整理整頓では資源ごみが台車1台分にもなった。目黒区下目黒地区のごみ回収時間期限は午前8時まで。寒い中、トレーニングパンツとフリース姿で台車を押して回収場所へ向かった。ちょうど通勤、通学時間に重なり、前からダークスーツを着込んだビジネスマンの父親と私立小学校の制服を着た男の子が通りかかった。通り過ぎざまに男の子が発した一言が胸に刺さった。
「惨めなオヤジ・・・」。

なぜかこの男の子の発言に怒りは沸いてこなかった。これはもしかしたら昔の自分ではないかと思ったのだ。私はサラリーマンの家で育った。大学卒業後はサラリーマンになった。
ギャラリー業務を始めて驚いたのは、世の中には本当に色々な個性的な人間がいることだ。ビジネス社会で個性的とよばれる人はあくまでも会社や業界という共同体の枠組みの中での個性。そしてサラリーマンでいる限り、定年までずっとある程度限られた種類の人間としか付き合いがない世間知らずで終わるかもしれないのだ。
私は会社を辞めて初めて世の中には自分の知らない世界が広がっていることを学んだ。

ギャラリーの仕事の面白みのひとつは色々な価値観を持った人に出会うということだろう。特に大組織に属さないで成功した作家の発想は自由で魅力的だ。しかし彼らはだいたいどこか不健康そうに見えて、世間一般でいう怪しい格好をしている。現代社会では外見が重要だが、能力に自信があれば他人の目はあまり気にしないのかもしれない。
顧客もまったく同じだ。飾り気のないカジュアル・ウェアーを着た人が、ブラック・カードで作品や写真集を購入されることなど何回も経験している。当たり前だが色々と会話をしてみないとその人のことはわからない。特にアートを買う人は個性的な人が多いと感じている。だから、ギャラリーでは外見だけで人を判断することは絶対にしない。

作家や顧客の外見は個性的だが、一方でギャラリー関係者は世界中どこでもきちんとした身なりをしている。スーツ、ネクタイも珍しくない。高級デパートと同様で、日用品ではない高額作品を扱うので、服装で変な印象を与えてはいけない面があるのだ。
しかし、長く同じ仕事をしているとどうしても気が緩んでラフな格好をしてしまう。男の子の素直な言葉を思い出して、少なくともギャラリーにいるときは、「惨めなオヤジ」に見えないような格好を心がけないといけないと自戒の念を持った。

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2007年12月11日 (火)

「フラワー・パワー」参加作家の解説
テリ・ワイフェンバッハ・見る人の心が映る写真

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©Terri Weifenbach/RAM

「Flower Power」展の案内状に使われている、赤いチューリップが咲き乱れているイメージを撮影したのがテリ・ワイフェンバッハだ。
私の記憶が定かなら、彼女の作品が日本で展示されるのは、たぶん90年代後半に当時表参道にあったバーソウ・フォト・ギャラリーで開催された「In Your Dreams」展以来だと思う。実は2008年に彼女の2002年刊行された写真集「Lana」を中心とした個展開催を予定している。今回の「Flower Power」でも、個展のプロローグとして何か作品を展示しようと考えた次第だ。作品は2番目の写真集「In Your Dreams」から選んだ。作品発表後かなりの時間が経過しており、また総エディション数が14枚と少ないので有名イメージはかなり売れていて値段が上昇していた。彼女の作品は大判の20X24inch (約50X61cm)、フレームは24X30inch(約61X76cm)になってしまう。他作品との兼ね合いもあるので今回は5点を展示することとした。イメージと価格を考慮してかなり悩んだが、彼女らしい明るくカラフルで空気感があるイメージが上手くセレクションできたと思う。

見る人が色々な感じ方ができるのは良い作品の証拠。彼女の写真はお客さんから色々な意見が聞けて楽しい。強烈な色に一種の狂気の怖さが見える、ピントが1点に合っているからか瞑想感を感じる、春の光の中でワクワクしてくる気分、自然のリズムを取り込んでいて癒される、などだ。彼女が写真で自らの正気を保っている部分があるならば、狂気と癒しは作品に共に存在するはずだ。これらは、見る人のいまの心の状態が反映された意見なのだろう。

以下が作家解説になります。来廊の際のご参考になさってください。

(ギャラリーでの展示内容を転記)
テリ・ワイフェンバッハは1957年米国生まれ、自然風景をカラー写真で撮影するアーティストだ。多くのアーティストは、僻地へ旅し、見る側にインパクトを与える風景や珍しいオブジェをモチーフに選び出そうとする。しかし、彼女の作品は現在住んでいるワシントンD.C.郊外の自宅裏庭、公園周辺でほとんど撮影されている。モチーフも身の回りの当たり前の、空、花、木、昆虫、木葉、小枝、草などが中心。彼女の作品は写真テクニックの常識を覆していることも特徴だ。ほとんどピンボケの画面の中に、シャープなピントがあった部分が存在する、何か夢の中のようなイメージを作り出している。太陽の光が照りつける緑溢れる自然の中で瞑想をしたらきっと彼女の写真のようなイメージが目の前に出現するのだろう。瞑想をする時は呼吸を整えて、薄目がちにすると良いといわれている。目を僅かしか開いてないので遠くの明るい風景はぼやけて見え、近くの部分にまぶたの動きで焦点が合ったり、合わなかったりして、像が光の点滅とともに踊る。まさに彼女のカラー作品の世界そのものではないか。
写真技術にこだわる人は、ピントが一部しか合っていないイメージに戸惑いを感じるかもしれない。しかし、彼女の写真は室内にいながら私達を青空と太陽と緑の中の瞑想世界に誘ってくれる。ヒーリング系音楽を聞いているような感じになるのだ。その素晴らしさは50X60cmという大判イメージでこそ引き立つ。写真集では味わえない世界をぜひ本展のオリジナルプリントで実感していただきたい。
彼女は今まで以下の3冊の写真集を発表している。初期の本は売り切れで、いまや高価なレアブック扱いだ。作品はCenter for Creative Photography(アリゾナ)などの全米の美術館にコレクションされている。
アート・フォト・サイトは、2008年に彼女の個展「Lana」の開催を予定。

・「In Your Dreams」
90年代前半の作品24点を収録した1997年刊行の初写真集。
・「Hunter Green」
2000年に発表された、90年代後半に撮影された作品30点を収録。女優の内田也哉子が序文を寄せている。
本展の展示作品は同シリーズよりセレクション。
・「Lana」
2002年に刊行。『Lana』という北イタリアの村で撮影された35点を収録。

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