フォト・ブック・コレクションの魅力
注目したいアート写真の新カテゴリー
ハッセルブラッドセンターで開催されたフォトブック展のカタログ
毎年、写真集人気ランキングをまとめている。今年から、従来の総合ランキングに加えてフォト・ブックのランキングを新たに集計してみた。写真集という言葉、日本語では非常に幅広い意味で使われている。きれいなイメージをコレクションした企画もの、アイドル系、エロ系、自費出版本から、 古典のロバート・フランクの「アメリカ人」までも全て写真集と呼ばれている。
欧米で広い意味での写真集にあたるのが、"Photographic Books"や"Photographically Illustrated Books"。それらは、フォト・ブック、モノグラフ、アンソロジー、カタログなどの種類に分けられる。
実はこの分野、欧米でも最近まで明確にジャンルが分かれていなかった。いままでのアート写真市場では、オリジナル・プリントが中心で写真集は作品コレクターの資料と考えられていた。しかし、作家にとっての理想は写真展でのオリジナル・プリント展示と、写真集発売を同時に行うことだろう。写真展は時間的、物理的に制限があるが、写真集はオブジェクトとして残るので、世界中の多くの人に見てもらうことができる。時代が変わり価値観が変化することにより、過小評価されていた作品が写真集を通して再評価される機会もある。
2001年にブック・ディラーのアンドリュー・ロス氏が「The Book of 101 Books」を著し、にわかにアート写真の表現手段としての写真集が注目されるようになる。欧米では常に歴史を意識した上でアートの評価軸が語られる。プリント中心だったアート写真の歴史のなかに新たに写真集の歴史を付け加えたのが、マーティン・パーとゲイリー・バージャーによる、ガイドブック「The Photobook: A History Volume 1」「同-Volume2」なのだ。その後、美術館やコレクターが相次いで同様のガイドブックを制作して話題となった。ハッセルブラッドセンターでは、2004年にフォトブックが主役の展覧会「The Open Book」が開催されている。
写真集で、世界のアート写真ファンが注目している分野がフォト・ブック。これは、アート写真のポートフォリオ作品と同様に、ひとつのコンセプト、テーマが2次元の本のフォーマットで表現されたもの。最近は、スワンやクリスティーズなどでフォトブック専門のオークションも開催されており、はやくもコレクションの一分野になってしまった。アート写真コレクターの中にはフォトブック専用のコレクションルームを設えた人が何人もいる、と米国のある出版関係者が言っていた。写真だけでなく、グラフィック的なデザインの美しさを持つことから、オブジェクトとしても愛でられているらしい。近年高騰したオリジナル・プリントよりも値段が安いことも、多くの写真ファンを惹きつけた理由だろう。
一連のフォト・ブックの歴史検証作業で、オリジナル・プリントよりも写真集形式で作品を発表していた60年代の日本写真が再評価された。国内愛好家が密かに集めていた狭い日本の古書市場に、世界中のディーラー、コレクターが参入。特に上記ガイドブックに紹介された日本の写真集の価格が暴騰したのだ。
モノグラフもしくはアンソロジーは、画集同様に過去の写真作品をコレクションして編集されたもの。資料的な意味合いが強く、いわゆる音楽CDのグレーテスト・ヒットと同じ。しかし、それらの中にも単にベスト作品を集める以上の意思で編集されたものはフォトブックになる。写真集ガイドブックの「The Photobook:History volume 1」では、アンリ・カルチェブ=レッソンの「決定的瞬間」やウォーカー・エバンスの「アメリカン・フォトグラフス」はベスト写真を集めたモノグラフだがフォトブックだと評価している。
最近、注目されているファッション写真系の写真集はこのカテゴリーのものが多い。しかし、ファッション系のモノグラフはコレクターズ・アイテムとして高い人気がある。単にベスト・イメージが集められただけでなく、写真家が活躍した時代の気分や雰囲気が写真集に反映されている場合が多いからなのだ。
ファッション写真家の旬の時代はだいたい短く、その期間に撮影されたイメージには時代のエッセンスが詰まっている。特に90年代まではその傾向が顕著だ。
カタログは、美術館やギャラリーでの回顧展開催時に出版されるもの。しかし、これも作家やキュレーターが独自の視点でまとめたものはフォトブックになりえると考えられている。
実際のところフォトブックの明確な線引きはかなり難しい。評価する人の主観で意見が分かれる場合が多い。初心者だと最初は混乱するかもしない。しかし経験を積めば次第に良い本の判断基準がわかってくるだろう。アート系の写真集の新刊はだいたい2000部くらいしか印刷されない。もし世界的に人気が出れば直ぐに完売してしまう数だ。新刊発売後わずか数年で売り切れてとなり、レア・ブックとしてプレミアムがつくこともある。最近のフォト・ブック・ブームで、写真集を何10冊も段ボールケースごと購入する人もいるらしい。まるで良いヴィンテージのワインをケースごと購入して値上がりを待つコレクターのようだ。
私は好きな作家の気になる新刊フォトブックは、多少高くても迷わず買うようにしている。アマゾンで定価で売られていた本が比較的短期間で売り切れ扱いになることが以前よりもはるかに増えているからだ。間違いなく顧客層が世界的に増加している表れだろう。 また最近は高い値段がつく絶版フォト・ブックも抵抗なく買えるようになった。写真集を本ではなく、アート作品と意識できるようになったからだ。相場が高いということは、本自体に既に本源的な価値があることを意味する。つまり、高い値段で買っても大事にしていれば高く売れるからだ。
優れたフォト・ブックかどうかは、ヴィジュアルだけでなく写真家の持つ世界観を読み解くことでわかってくる。イメージが好きで、作家の考えに共感できたら購入候補にすればよいだろう。ただし、好きでない作家のものを、ガイドブックに掲載されているから買うのは止めた方がよい。頭で考えて買った本は後悔することが多いのだ。フォト・ブックは知識、コレクションが増えるにつれて面白みが深まっていく。一生付き合える非常にディープな趣味の世界なのです。
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