写真展「地図のない旅」
斎門富士男 動き出す!
(C)Fujio Saimon
斎門富士男の写真展が始まった。今回展示するのは彼のいままでのキャリアを網羅する作品群となる。彼が考えてくれた写真展タイトルは、「地図のない旅」。彼自身の人生を象徴した素晴らしい響きのものだ。
斎門はいままで作家として理想的なキャリアを歩んできた。90年代後半に、「CHINESE LIVE」を皮切りにパルコ出版や光琳社出版などから次々と写真集を出版し、当時のアート写真の情報発信地だったパルコ・ギャラリーで「StarKids」展などを開催している。彼のポートレート写真は非常に定評が高く、ロッキングオンなどの音楽雑誌で有名ミュージシャン、アーティストを撮影している。また、女性タレントのセクシー系の写真や写真集も手がけている。葉山の約1600坪もある大邸宅に多数の猫たちと生活していることも話題となった。
しかし、2002年からの一時期、バリ島に渡ったことで一般への露出が減るようになる。 業界内では相変わらず高い評価を受けているものの、作品を購入する一般顧客への知名度が落ちてしまったのだ。昨年彼も参加して開催したグループ展「フラワーパワー」で感じたのは、彼の花のポートレートと過去の一連の仕事との繋がりを知らない人が特に若い世代に多いことだった。考えてみれば、彼が大活躍していた時代から10年以上が経過しているのだ。また、彼の主要写真集を出していた光琳社が倒産したことで、現在入手できる本が少ないことも影響しているだろう。
以上の理由から、個展では彼のいままでのキャリアをテーマごとに見せる会場構成にするつもりだった。それなくして一般に作品は売れないと思った。
小さなギャラリーで彼のキャリアをコンパクトに見せるためには、展示枚数を増やすしかない。そのため今回は四つ切程度の小さめのプリント中心の展示を心がけた。壁面ごとにテーマを設け、「アメリカ人」、「中国人」、「風景」、「有名人ポートレート」、 「上海ドキュメント」、「薔薇」、「ヌード」、「写真集カヴァー」、「犬・猫」など約150点以上を展示した。当ギャラリー始まって以来の大量の展示枚数だ。準備には従来の5倍くらい時間がかかった。
特に「アメリカ人」、「中国人」のポートレートを各30点ずつ展示した壁面は個人的に気に入っている。写真集ページをめくるとどうもドキュメント写真の感じがしないでもない。壁面一杯にグリッド状に見せた方が、彼がカッコイイと感じた人を選んで撮影しているのがわかりやすい。これらは一種のファッション写真なのだ。
本展を欧米のギャラリストが見たら、一見脈絡のない幅広い分野の作品展示は、コマーシャルっぽいと指摘するだろう。しかし、そのような反応は想定済み。欧米のアート写真の伝統や歴史を知らない日本人が親しみを感じるのは、一般大衆の目線を持ち広い分野で活躍している写真家の作品なのだ。最近は、優れたディレクションがなされた一部グラビア写真も日本独自のアート系ファッション写真になりえるとも考えている。
しかし、何度も主張しているように、日本ではコマーシャル写真イコールがアート写真という意味ではない。一番重要なのは作家の持つ生き方や世界観が明確で、それが作品に反映されていること。そして作品がポップなだけではなく、作家のメッセージが時代に合致しないと絶対に売れないのだ。斎門富士男の場合、彼がいままで生きてきた自由な人生がカッコイイ。これが全ての根底にあるのだ。
80年代の社会は若者には窮屈な時代だった。みんな自由に生きることに憧れていた。しかし、自由に生きて社会的にも認められる人などほとんどいない。彼は写真を通じて自分の気持ちに素直に生きてきた。邪念などない少年のように真っ直ぐな心を持ち続けてきた類まれな人なのだ。そのスタンスは経済状況が大きく変化したいまでも変わらない。現在では人生を客観視できるようになり、今という瞬間にヘブン感を追求し生きることを信条としている。
彼は照れながら、やせ我慢の人生だと言っている。しかしそんなぶれない人生、才能だけではなかなか実践できない。私を含め中途半端な人生を歩まざる得ない一般人は憧れてしまうのだ。だから彼の歩んできた生き方自体が写真展のテーマなのだ。
日本の一般人がリアリティーを感じる作品が提供され、それが実際に売れないと日本のアート写真の低迷は続くだろう。今回はギャラリーにとっても大きな挑戦になる。はたして、日本独自の価値観を持つアート写真が日本の顧客に受け入れられるか?そして、写真コレクションの未経験者が購入を検討してくれるか?斎門自身も積極的に協力してくれたおかげで非常に戦略的な値段設定と、風景などポピュラーイメージを多数含む豊富な選択肢提供が実現できた。
なんと作家自身製作のフジクリスタル・プリントを2.5万円から提供する。斎門カラーのヘブン感溢れる風景も3万円~購入できる。
作家自身が短期的な儲けを度外視して、中長期的な顧客作りを意識した結果実現した。
斎門富士男は作家として本気で動き始めたのだ!
写真展「地図のない旅」は6月7日まで開催。
営業時間午後1時~7時。休みは日、月曜。休廊日以外はゴールデン・ウィーク中も普段どおり営業します。詳しくは以下をご覧ください。
http://www.artphoto-site.com/gallery_exh_082.html
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