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2008年8月19日 (火)

偉大な作家は気分転換が上手い人
夏休みの過ごし方

よく目が回るほど忙しいというが、今年になって私は本当に目が回ってしまった。朝、起きて目をあけたら世界が回転していたのだ。医者によると"良性発作性頭位めまい症"とのこと。その原因は、内耳の半規管の耳石らしい。良性なので時間経過で改善するのだが、起きているのに車酔い状態でしばしば吐き気を伴い、外見は普通なのだが非常に不快な状態が続くのだ。2月に発病し、5月に再発した。好不調に波があるのだがいまでも本調子ではない。若いときは病気といえば、二日酔いか風邪くらいだったのが、40才代後半になると明らかに体にガタがでてきたことを実感する。

専門家によると、人間は単一の仕事には長時間耐えられるが、複数の案件を抱えて、あれもこれもと考える働き方には弱いという。(野田正彰関西大学教授の日本経済新聞インタビューより)ギャラリストの仕事はまさに後者の典型のものだ。情報化社会といわれて久しいが、特に90年代以降はネットが普及して処理しなければならない情報量が増大し常に何か追われているように感じる。また個性的な人との付き合いが多いので気苦労も多い。特に今年は昨年末からずっと忙しくて休みをとれず、ストレスも慢性化していた。これらも体調悪化の原因と関係していると思う。
若いときは長い休息などは体が弱い人間が必要なものだ、などと強気に考えていた。しかし、体調が悪化すると仕事の実績どころではなく相手にも迷惑をかけてしまう。そして、普段は暇なのに体調の悪いときに限って仕事が重なるのだ。

優れた作品を残している写真家のキャリアをみると、彼らは自分なりの気分転換方を確立している強い意志を持つ人であることがわかる。リチャード・アヴェドンは仕事には集中するが、長期間の休みをとって自らのプロジェクトに取り組んだという。アーヴィング・ペンは、もっと短いタームで気分転換を行っていたようで、週末にプライベートな作品作りに没頭したという。マイケル・ケンナは作品撮影のときは生活のモードを変えるいくつかの約束事があると語っていた。普段の忙しさから脱するために、まず一人旅に出るという。そして、最初の数日は写真を撮影しないで、徐々に意識を作品制作モードに変えていくという。
忙しいときの方が良い作品ができるという意見もあるが、これも程度の問題だろう。多忙が極まると、頭のなかが処理する仕事のことで一杯になる。完全に自分を見失っているのだが、充実していると思い違いをしてしまいがちなのだ。仕事がまったくないと、本能的な飢えの恐怖から精神的に不安定になる。かといって、超多忙が継続する中からは絶対に良い作品は生まれないと思う。仕事にのめり込んだ状態が長期間、慢性的に続くと平常心を失い、自らを客観視する余裕がなくなる。結果的に心身がダメージを受け悲鳴を上げるのだ。

気分転換は休息をとってただぼんやりすることではない。様々な情報や些細な出来事に振り回されていた生活を、自分本位に取り戻すことなのだ。ただし、自分らしい生き方が何かわかっていないと、どうしても忙しい日常生活に引きずられてしまう。短期的には様々な状況に対応するが、中長期的に自分の生き方を基準に生きていくのだ。
これができるかどうかがたぶん作家として破綻するか、成功するかの別れ道なのだろう。

今回感じたのは、体調を壊すことでも人間は自分を取り戻すことができるのだなということだ。普段気になる仕事の些細なことなどどうでもよくなるのだ。釈迦は誰にでも三種の奢りがあるとしている。若さ、健康、生きていること。この奢りをなくすことが迷いを断つ方法と説いた。体調を崩すとその意味が身をもって理解できた。そしてヘルムート・ニュートンのことを思い出した。彼は、多忙な生活が続いたことから大病を経験した。それ以来自分のペースを守り好きなものしか撮影しなくなり、ファッションどころか世界的なアーティストに上り詰めた。依頼仕事に振り回されていたのが、彼は病気をきっかけに自分自身を取り戻した。人生何が幸いするかわからないのだ。

今後、秋から年末にかけて忙しくなりそうな予感がする。だから今年の夏休みは意識的に休息をとり気分転換することに決めた。私も作家を見習い、自分のペースを取り戻すことに専念したい。

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2008年8月12日 (火)

テリー・ワイフェンバック展が無事終了!

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6月から開催していた"Lana"展が先週末に無事に終了した。期間前半は梅雨、後半は猛暑だったが、非常に多くのテリーファンが来てくれた。外国人作家にもかかわらず観客動員数は、ギャラリーのベスト5にはいる大入りの写真展だった。来廊してくれた皆様、ほんとうにありがとうございました。

さて結果だが、作品も写真集も予想をはるかに超える売り上げだった。季節柄、T-シャツも大人気でした。通常、カラーで花や風景をモチーフとした作品は売り難い。しかし、テリーの作品はまさにカラーで撮影された、草木や花がメイン風景写真だ。まして外国で評価されている中堅作家なので販売価格も日本人よりはるかに高い。それでも人気だった背景には、作品や写真集を購入した人は感じ方は様々だがまちがいなく彼女の表現している世界観に共感しているのだ。そして、彼らの多くは今回初めて彼女が好きになったのではなく、「In Your Dreams」や「Hunter Green」、ワン・ピクチャー・ブックの「Instruction manual」などを通して既に彼女の写真世界を知ってる人たちなのだ。アメリカで活動している作家のメッセージが写真集を通して海の向こうの日本人にも伝わっていたのだ。写真集でイメージが好きだったが大判のオリジナル・プリントを実際に見て欲しくなった、というような意見も聞いた。今回は好きなイメージが多すぎて購入作品の絞り込みに苦労している人が多かった。また、「検討してまた来ます。」というお客さんはだいたい気に入った作品がない断りの場合が多い。本展では、検討するといった人は、本当に検討してまた来廊してくれた。結果的に、人気が1作品に集中しない珍しい写真展になった。写っている何かではなく、彼女の作り出すイメージ空間の雰囲気に魅了されているのだと思う。

現在のような高度消費社会では、好きなものなら多少高くても購入するが、なにも感じなければ値段が安くてもいらないということなのだろう。特にアートの場合その傾向が顕著なのだ。実際に写真は上手いものの、何を伝えたいかが明確でない日本人写真家の場合、値段が安くても全く売れない。

今回、テリーの次回作に対する質問が多かった。「Lana」は2002年の作品、そろそろ新作がでてきてもおかしくない時期だ。最新情報によると現在取り組んでいるのは「Between Maple and Chestnut」というプロジェクトとのこと。メイプルとチェスナッツが冠された通りはかつて米国全土でみられるありふれた光景で、 中流アメリカ人が理想とする郊外生活の象徴だった。新作は経済的変化により顕在化している現在の不安定な社会情勢をテーマにしているという。今回は作品の時代性がより明確になっているようで発表されるのが楽しみだ。写真集化の予定などは現時点では未定とのことだ。新情報が入りましたらすぐにご紹介します!

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2008年8月 5日 (火)

マイケル・デウィックの新作「マーメイド」
限定2000部の写真集が刊行!

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以前も紹介したが、今秋には前作「ザ・サーフィング・ライフ」が評判だったマイケル・デウィックの新作「アメリカン・マーメイド」展を開催する。最初に作品の一部を見せてもらったときは、プールでモデルの女性を水中撮影しているのだと思った。しかし、これはフロリダの小さな町に水と共に生活する現代のマーメイドたちをドキュメントした作品と聞かされて驚いた。 地元で「ウォーターベイビーズ」と呼ばれる彼女たちは本当に裸で泳いでいて、水中に5~6分も潜っていられるそうだ。私は彼のデビュー作の写真集「The End : Montauk」の表紙イメージを見たときの勘違いを思い出した。最初、誰しもモデルの女の子にサーフボードを抱えさせて海岸を走らせた一種のファッション写真だと思っていた。実は、地元のきれいなローカル・サーファーのドキュメントのワンシーンだった。古きよき時代のアメリカの気分と雰囲気を現在のモントークでつむぎ出した本作は、写真展開催を契機に日本でも大人気になった。サーフィンは日本人にとってカッコいいアメリカ文化の象徴なのだ。彼のオリジナルプリントは、欧米のセレブたちが相次いで購入したことで価格が急騰した。
マイケル・デウィックが追い求めるのは古きよき時代の憧れのアメリカン・イメージを現在に再構築すること。今回はフロリダ州の小さな漁村アリペカを舞台に、現代に生きるマーメイドたちを通して理想のアメリカン・ガール像を探求している。ブロンドヘアーの若い女性たちは水中空間を背景に、光、影、反射、水のレンズ効果を駆使することでまるで抽象絵画のように表現されている。また夜間の水中撮影では彼女たちの美しい肉体が闇の中にシンプルかつモダンに撮影されている。通常、ヌード・イメージはコレクター向けでインテリア用に向かない。しかしマイケル・デウィックの抽象的作品なら全く抵抗感なく飾ることができるだろう。まさに壁に飾れるアートとしてのヌード写真の好例だ。作品サイズは、前作より一回り大きい50X60cmくらいになる予定だ。

さて、新作をまとめた写真集「MERMAIDS」がニューヨークの個展開催にあわせて7月に刊行された。限定2000部、ハード・カバー、サイズ約25X33cm、カラー36点、モノクロ65点を収録している。前作の大判写真集「The End : Montauk」(Bulfinch、2004年刊)は2刷までされたが、瞬く間に完売。状態の良い初版は古書市場でも値段が上昇中だ。その高い人気を考えるとこちらもかなり人気が出るのでないだろうか。発行部数は2000部とかなり少なめ。普及版以外にも、限定100部の、布張り専用ケース入りのサイン、エディション付き特装版(上の写真)も発売される。8X10インチのカラーイメージが2種類(各エディション50)あります。いずれも10月開催の写真展会場で販売されます。
特にオリジナルプリント付き特装版は人気が高く、早くも現地でも残りが少なくなっているそうだ。いまできるだけ多くの冊数を確保するように画策中。9月中旬から、東京都内の一部洋書店で新刊のキャンペーンを行う予定です。詳細がきまりましたら改めてご案内します。

○開催案内
マイケル・デウィック写真展
「アメリカン・マーメイド」
2008年10月14日(火)からブリッツ・ギャラリーで開催。2009年には名古屋のギャラリー・オーチャードに巡回します。

○お知らせ
「ザ・サーフィング・ライフ」写真展が神戸元町にあるTANTOTEMPOでの開催が決まりました。欧米の人々が絶賛したマイケル・デウィック衝撃のデビュー作を2008年10月4日(土)より行います。

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