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2008年10月28日 (火)

「3000円で写真を売りましょ!買いましょ!展」のトーク内容
作品コンセプトのマーケティングについて

Blog
「売りましょ!買いましょ」展は、11月2日までギャラリーコスモスで開催中

先週の金曜日に、横木安良夫氏、五味彬氏とのトークイベントに参加した。私が話したのは、アート写真のマーケティングについて。しかし、これは売れ線の写真を撮影するという意味ではない。アートとして重要な作品コンセプトやテーマのマーケティングについてだ。
アート写真を語ることは非常に難しい。話す側と聞く側が様々な前提条件の共通理解が必要なのだ。今回は、それらを説明する時間がなかったので参加者の方々に私の趣旨が上手く伝わったかやや疑問だ。とりあえず、話の簡単な内容を紹介しておきます。言葉が足りなかった箇所には説明を加え、また余計な部分はカットしています。ほぼフリートークだったので内容にまとまりのないことはお許しください。


(10月24日 目黒のギャラリー・コスモスにて)
3000円で写真を買う、売るというのは素晴らしい企画です。3000円は安いですが、いざ買うとなると写真の見方が真剣になります。ただ見るのとは相当意識が違うと思います。撮影者にとって3000円でも売れることはすごく嬉しい経験でしょう。しかし、一方で疑問を感じた人もいたかもしれません。もし本業で写真を売ることに取り組むのなら3000円で売っている限り生活費を稼ぐことが難しいと。中にはもっと高く売りたい人もいるでしょう。

実は写真を売るということには二つの違った意味があります。
ひとつは工芸品と同じようにモノとして売ること。そしてアートとして売ることです。
違いは値段です。モノとして売る場合は作家の名前でなくイメージで売れるので上限があるのです。それは私の経験では、A3+でフレーム込みで25000円くらいです。一方アートとしての写真の価値には上限がありません。いままでで一番高い値段がついた写真はリチャード・プリンスとアンドレアス・グルスキーで、当時の為替レートで約4億円もしました。たぶん本日おいでになった方々は、将来的にモノではなくアートとして自作を売りたい人たちだと思います。そのためにはアート写真の世界がどのような仕組みで動いているか知る必要があるでしょう。アート写真の世界のことを説明するとすごく長い時間が必要です。それは別の機会に行うとして、今回はアート写真を目指す人にひとつだけアドバイスをしておきたいと思います。

それは作品作りで一人で悪戦苦闘しすぎないことです。色々な人のアドバイスを聞くことが必要だということです。広告写真では、写真家はアート・ディレクターやデザイナーの意見を聞いて撮影を行います。それは、最終顧客のニーズを彼らがより知っているからです。実はアート写真も同じです。しかし、どうもアート写真に関しては自分の感性を生かして作品作りをすることが重要だということだけが一人歩きしているように感じます。自分の良いと思うものは見る人もよいと思うはずだという誤解があるのです。アート写真も最終顧客相手の商売です。そしてアートとして写真を売るには、イメージだけではなくテーマやコンセプトが重要になるのです。はたして、経験の浅い新人がそれらに精通しているでしょうか、ということです。

例えば、ギャラリストやディーラーは普段から顧客と接しています。彼らの持つ情報を生かせば、より売れる可能性の高い作品ができるということです。このように言うと、それは市場での売れ線の作品を作ることだという誤解を招いて、批判されることはよく承知しています。もちろん最も重要なのは作家の感動を自由な発想で表現することだと理解しています。人によってアートの意味の解釈はそれぞれ違うのが日本の現状です。私が申しあげたいのは、アートの世界も資本主義のシステムの中に存在していて、それだけでは不十分だということです。

ここで突然、経済学者ケインズのことをお話します。ケインズは株価の価格形成を美人投票ということで説明しています。これは最も多くの票を集めた美人に投票した人に賞金がでるというものです。これに参加して勝とうと思う人は、周りが誰に投票するか予想するようになります。また他人の予想までもを予想するようになります。これには、自分の好みや、客観的な美の基準など関係ないのです。株価はこのような予想で変動する要素があり、それはある程度アート作品の価格に当てはまるのです。

どなたでも、自分では価値が理解不能の有名作家がいるでしょう。なぜそのようなことが起きているかは、有名で売れているから更に売れる、と予想する人が購入するという循環が続いていると理解できるのです。それは作品のいい悪いではないわけで、最近の中国の現代アートの暴騰もこのような作用でバブル化している、だからそれらは暴落もするのです。

アート写真では、専門家はお客様が誰を予想しやすいかの情報を持っているのです。それらを参考にすることは決して無駄ではないと思います。しかし、これは新人の方の場合です。有名になったらそんなことをあまり気にしないで好きにできます。有名作家はその世界観、スタイルが世間で知られている。それに共感するお客様は想像するのです。それらを愛でる人がいて将来高く売れるだろうと。だから購入してくれるのです。横木さんや五味さんは好きなことを追及できるのです。社会で認められると自由度が増す。そのために最初は確信犯で自分以外の人の情報を参考にすると考えてください。

何でそのように思うようになったかということです。これはブログでも書きましたが過去の苦い経験によります。最初のころのブリッツは、主に欧米で活躍中の外国人写真家による写真展でした。ここにいま展示している、カート・マーカス、デボラ・ターバヴィル、テリー・オニールなどの個展を行っていました。当時は作家や海外ギャラリーの意向を尊重すればだいたいうまく行っていました。しかし、不況になり、コストが低い日本人写真家を取り扱うようになると経済的、また観客動員で大きく失敗することが増えたのです。写真展開催時にギャラリーは場所代などかなりの資金を投資します。失敗が続くと、金銭的にはもちろん精神的にもかなり打撃を受けます。やり方は全く同じなのに失敗する。悔しいので何が原因か色々と考えてみたのです。

根本的な原因は、欧米と違い日本にはアート写真の世界いまだが存在しないことにあるという結論に達しました。アートとして写真に取り組んだ経験が日本人写真家にはなく、彼らは自分の感覚を優先して表現するのがアートと思い込んでいたのです。外国人作家の場合、いままで開催していたものは、すでにむこうのギャラリストがディレクションを行っていたのです。アートとして写真を売る場合、売れ線を過度に意識するという悪い意味ではなく、ある程度時代を考えてマーケティングを考えてないといけないことに気づいたのです。

経験がなかった私は日本の事情が海外と違うことを全く知らなかったわけです。アート写真界にデビューする日本人写真家を扱うときは、彼らの意見を取り入れつつもギャラリストが作品を見せる方向性や視点を、時代性を踏まえた上できちんと提示しないといけない、それこそが私の仕事なのだとやっとわかったのです。

しかし、いまでも失敗することはあります。ギャラリーの仕事は野球のバッターと同じで3割当たれば生き残れますが、2割では廃業なのです。しかし、バットを振っても凡打や三振も多いのです。最近はさすがに三振は減りましたが、いまでも大きな空振りや凡打はあります。

さて、作家を目指す人は誰にアドバイスをもらうと良いかです。作品販売している写真家はよいでしょう。しかし販売経験がない人は自分の好みで作品を評価しがちです。理想は販売に従事して顧客のニーズを知る商業ギャラリーのギャラリストでしょう。ギャラリーにはカラーがあります。自作がどこのテイストに合っているかを探求してみてください。しかし、日本での問題点はそのような人が非常に少ないことです。私どもでも、人材育成のためにワークショップを開催しています。また貸しギャラリーのオーナーや販売していても経験の浅い人は自分の好みで判断することがあるので注意が必要です。新人のときに自分の作品を理解してくれる専門家との出会いがあればその人の才能はすごく伸びると思います。今後の皆様方のご活躍を心よりお祈りいたします。

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コメント

Fukukawaさま

私も出品しました。67番です。
どのような写真を出品するかについては当然悩みましたが、あのメイプルソープも実際に売れたのは男性ヌード写真ではなく花写真じゃないか、というわけで私も花写真を出品しました。
結果として3枚ほど買っていただけたようなので、方向としては間違っていなかったのかもしれませんが、プロでもないのに余計なことを考えすぎたような気がします。次回はもっと自分に正直な写真を出そうかなと。

P.S.
デウィックのThe End: Montauk, N.Yは無事古本を手に入れることができました。その節はどうもありがとうございました。

投稿: Jin Adachi | 2008年11月 4日 (火) 21時33分

Jin Adachi さま
コメント、ありがとうございます。"写真を売りましょ!買いましょ!展"で作品が売れたとのこと、おめでとうございます。出品された方それぞれが、あれこれと悩んで作品を出品され、今後の作品制作についても思いをめぐらす、そのことが今回のイベントの大きな意義だったように思います。
デウィック写真集も手に入れられたとのこと、Mermaids 展にも是非おこしください。

投稿: Yoshiro Fukukawa | 2008年11月 6日 (木) 13時56分

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