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2009年2月 3日 (火)

アート写真のフォト・ブックになりえるか?
日本人写真家による2+1冊の写真集

日本では、写真中心に掲載した書籍をすべて写真集と呼んでいる。それらにはアイドル系や自然などのポピュラーな題材で編集されたものも含まれる。欧米では写真中心の本は、フォト・ブック、モノグラフ、アンソロジー、カタログと分けられる。日本と同じく広い意味で使われるのが、フォトグラフィック・ブックとなる。その中でもフォト・ブックは写真家の自己表現のひとつ、つまり作品と考えられており、コレクターズ・アイテムになっているのだ。最近は専門のオークションも開催されている。

現在の日本は出版不況といわれて久しく、有名写真家でもコスト高のアート系写真集を出すことは困難になっている。書店ではアイドル系や自然などのポピュラーな題材で編集されたペーパーバック写真集が中心に数多く並んでいる。またそれ以外は、写真家自らが作った自費出版本だ。自費出版というと近年話題になった新風社などの低予算の本を思い浮かべることが多い。しかし、写真家の中には自分の納得のいくものを可能な限りの自己資金を使って製作する人もいる。それらの本の中には、フォト・ブックとして十分に通用する内容とクオリティーを持っているものもある。最近、そのような力作2冊を入手したので紹介したい。

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まず、丸山晋一の「Kusho(空書)」だ。彼のことは以前このブログでも紹介した。ニューヨーク在住の商業写真家で、最近はアーティストとしても活躍中。墨を天空に巻き散らかし、それを高速カメラで撮影した作品に取り組んでいる。彼の代表作は空中に禅の奥義を象徴した図柄の円を描いて撮影したもの。写真集の最初の収録作品"Kusho-1"(下のイメージ)だ。これら東洋の禅思想を思い浮かべる作品は、自我が行き詰っている欧米人の心をつかむことに成功した。今年の1月からニューヨークのブルース・シルベスタイン・ギャラリーでアーロン・シスキンドとともに写真展を開催している。その辺の事情はコマフォト12月号でも紹介している。

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photograph by Shinich Maruyama

本書は上記展覧会に合わせて彼が自ら製作したカタログを兼ねたフォトブックだ。ギャラリーは写真集はまだ早過ぎるのではないかと考えたらしいが、作品展示の記録を残したいという彼の強い希望から実現した。"Kusho"の現物作品は昨年のフォトグラフィーショーで見たが、かなり大きなサイズ。当初は、大判写真集を考えていたが、現物と写真集は別物との判断でコンパクトサイズで製作している。これがうまく成功しており、手にとってページを開くとイメージが視点にうまくおさまって心地よい。抽象的作品なので、大判だと視点からはみ出て違和感があったと思う。かなり横長ワイドの作品もあるので写真の配置には苦心したらしいが、写真の見せ方に十分に配慮がなされた秀逸デザインの本に仕上がっている。イタリアで行った印刷のクオリティーも非常によい。エッセーは評論家のMaurice Berger氏が担当。アルフレッド・スティーグリッツが雲と空を撮影した「イクヴァレント」と「空書」を対比しているところが面白い。彼らは、西欧の写真史のなかで日本人写真家の作品も評価するのだ。また、墨と白バックで表現された丸山のグラフィカルな作品を、 「写真は、記憶が写されるという現代的な解釈だけでなく、美、コンセプト、精神を表現する可能性を持った空間であることを示している」と解説。 さすがにプロの書き方は非常に上手いと感心させられる。
なお「Kusho(空書)」は、日本ではアート・フォト・サイトを通して販売することを現在検討中です。

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もう1冊は、金子親一の分厚い写真集「TORSO」だ。この本はなんと4.5cmもの厚みがある。
彼はいろいろな形のオブジェに布を被せて摩訶不思議な物体を製作する。さまざまなフォルムを試行錯誤して作り、合計約1000枚以上撮影した中から収録イメージをセレクションしている。写真の中には、いかにも意図的に作りこんだような不自然な形体も見られるが、偶然生まれた自然な感じのフォルムも数多く存在する。布が作り出す微妙なアールが不思議な感じだ。本自体のデザインも凝っていて、モノとしての存在感が際立っている。背部分のグリッド状の糸部分を生かして、表紙も同じような糸状のフェイクを印刷している。最初はこの写真集は編集作業や作品セレクションが未完成だと感じた。ステーツメントも抜け落ちているし、デザインが写真よりもやや目立ちすぎる気もした。だが写真家本人と話す機会があり、実はこの写真集自体のテーマが未完成とわかった。本が未完成であること自体が実は作品コンセプトに沿っているのだ。どうも写真家はそこまでも意識はしていなかったようだ。しかし、かなりの製作費用をかけて製作しているとのことなので、写真家の作品への思い入れが結果的に幸運を呼び寄せたのだろう。写真集「TORSO」は書店やアマゾンでも購入可能だ。

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この文章を書いていて同じような経緯で作られた写真集がちょうども手元にもう1冊あることに気づいた。現在、写真展開催中のNaokiの写真集「ORDINAL」だ。これも、1995年にこだわり抜いて500部だけ限定製作されたフォト・ブックなのだ。
彼は、一生に一度の贅沢と思って、イタリア製高級外車を買うかわりに一切の妥協をせずに作り上げたといっている。ほとんど一般には流通しないで関係者だけに配布された非常に高品位印刷の豪華写真集だ。現在の写真展の中心は「カワイイ」をテーマにした最新作品なのだが、この写真集と掲載作品の評判がすこぶる高い。たぶん刊行時は広告写真家の作例集と誤解されていた可能性が高いと思う。今回、Naokiの写真はアート作品として提示されている。写真集「ORDINAL」も本来見られるべきアート写真の視点でフォト・ブックとして正しく評価されるようになったのだ。商業分野で活躍している写真家によるフォト・ブックになりえる写真集が、いまでもどこかに埋もれているのではないだろうかと考えてしまう。「ORDINAL」は今回の写真展で、オリジナル・プリントが1枚ついて限定25部だけ販売されている。

3人の写真集から共通に伝わってくるのは、写真家の自作への強い思いだ。いま、多くの写真家が経済状況や出版不況などの外部要因に対して不平をもらしている。しかし自信があるならまず自分が作品のスポンサーになればよいことを彼らは教えてくれる。そして、そのような努力はアートとしての写真作品のアピールにつながるのだ。ただし非常に重要なのは、時代性を持った作品コンセプトが同時に発信されることで有効的な効果が出てくる点だ。広告写真家の人たちはここが弱点になっているので、写真集を製作するときはぜひ一度ギャラリストに相談してみてほしい。

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