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2009年4月21日 (火)

約40年前の写真評論書
「現代写真の名作研究」(吉村信哉)

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最近、長らく探していた「現代写真の名作研究」(吉村信哉著、昭和45年、写真評論社刊)をとても安く入手した。これは、トミオ・セイケ氏がトークショーで引用された写真の評論書だ。彼が、代表作「ポートレート・オブ・ゾイ」シリーズを制作するときの創作ヒントになったのが、スイス人写真家ルネ・グルーブリィ(1927-)の「The eye of Love」。セイケ氏はこの本で初めてその作品に触れ大きな衝撃を受けたのだ。

暇を見つけて読み進めているが、いままでで面白かったのは、ウィリアム・クライン写真集「東京」を紹介している章だ。サブタイトルは、「過剰すぎるエネルギーという名の原罪を背負って生きているこの都市」。吉村氏は以下のように書いている。「クラインの都市を見る目はある意味で正確であり、冷静であり、公平でさえあります。わずか184ページの写真でもって、よくぞここまで東京というトータルイメージに肉薄できた、とほとほと感心させられるくらいなのです。---(中略)---ここに描かれている東京はまさしく本当です。本当だからこそ嫌悪せざるを得ないのです。・・・・つまり、他人から弱点を正確に指摘されると誰でも腹が立つ、というあの心境です。」
クライン作品の制作背景などを一通り説明して、写真家が読者に伝えたい視点を的確に解説している。60年代の日本は経済的に豊かになるという目標のために国全体が熱かったのだ。掲載イメージを見て感じたのは、この過剰なエネルギーはまるで今の中国ではないかということ。社会の大きな変動期には作品テーマにこと欠かない。かつて、クラインが東京を撮影したように、いま多くの写真家が上海、北京などを現代の方法論で撮影している。
世界同時不況のいま、いち早く経済回復するのは内需拡大を推し進めている中国といわれている。かつて、日本がオイルショックから回復したように、豊かになりたいというエネルギーを背景に中国も消費主導で立ち直る気がする。しかし、GDPに占める消費比率は、米国が約7割、日本が6割弱。中国はまだ4割弱という。中国がリード役になって世界経済が回復するようなことはなさそうだ。

本書をみていると、昭和45年つまり1970年の日本には写真評論がちゃんと存在していたことがわかる。
当時はまだ敗戦の精神的ショックを引きずっていた。西欧文化が流入する中で、戦前からの価値観や、伝統的地域コミュニティーも残っていた。この時代の日本には様々な価値観が混在しており、誰も将来像に確信が持てなかった。 混乱期には優れた時代感覚を持ったアーティストの先導的なメッセージが発せられ、その視点を解説する評論が求められるようになる。写真家マーティン・パーは写真集の歴史の中で最も優れた作品群が制作されたのが60年代から70年代前後の日本だったと書いている。日本人写真家は、オリジナルプリントでなく、写真集形式で自己表現していると考えられているので、この時期は日本の戦後写真史でのピークの時代だったということだ。市場の評価は正直で、70年代前半までの日本人写真家による写真集はいまだにコレクターズ・アイテムとして高値をつけている。
その後の日本はオイルショックを経験した後に、高度経済成長の拝金主義へと一丸となって突っ走ることになる。写真の主流は商業写真へ移っていく。 自己表現としての写真は残るのだが、反主流の日陰的な存在となる。アートと写真は離れていき、写真評論の影がどんどん薄くなるのだ。
一方、アメリカではベトナム戦争の泥沼化が進行、財政、貿易赤字拡大で経済が疲弊して社会が不安定となる。グラフジャーナリズムの衰退と相前後して、写真は自己表現として地位を確立していくのだ。

欧米と比べてアート写真市場が数十年遅れていると言われている日本。かつては同じ道にいたのが、70年代から徐々に分かれていったのだ。いま、「現代写真の名作研究」を読んで感じるのは、日本独自のアート写真は当時からあまり進歩していないということだ。これまでに、海外の現代アートの表層的なスタイルは持ち込まれたものの、何も新たには生まれてはいない。優れた才能を持った人は、日本ではなく海外で活躍している。市場で高く評価される日本人写真家は、いまだ圧倒的に60年代から70年代前後に活躍した人なのだ。21世紀のいま私たちは再び新たな価値観の混乱期を迎えている。しかし、豊かになった日本ではもはや新しいメッセージを生み出すようなエネルギーがなかなか噴出してこないようだ。

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