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2009年7月14日 (火)

残念!エスクァイア、スタジオ・ボイスの廃刊
いま求められる情報の品質とは?

Blog
スタジオ・ボイス 1990年4月号

今年になって、エスクァイア日本版、スタジオ・ボイスという写真をよく特集した雑誌廃刊のニュースが伝わってきた。ここ数年、上記2誌による写真特集は、一時期に比べると内容レベルが下がったという意見が多かった気がする。私は特にコレクターの人たちからそのような感想を良く聞いたのを覚えている。つまり以前のように読者を唸らすような高いレベルの特集が少なくなったということだ。
新しい書き手が生まれなかったことも影響していると思う。写真関連の特集だと編集者、ライター、写真家はだいたい同じような人が起用されていた。特にここ数年は編集者による特集の方向性がよく見えない内容も散見された。もともとはサブカルチャー的な話題に編集者が興味を持ち特集を組んでいた。 写真もそんなマイナーなトピックのひとつだった。みんなが知らない面白いことを編集者が熱心に伝えていた。
しかし、営業から編集長が来るようになり、広告を意識した特集記事が多くなっていった。それに伴ってページ数は増えたが、編集部の特集内容や情報へのこだわりが希薄化していったような気がする。いつしか、広告主とのタイアップや関係者とのコネががないアート情報は掲載されなくなった。ここにも新自由主義経済の影を感じてしまう。

しかし、内容が物足りないと考える人が増えたのは、決して雑誌の情報提供力の低下だけではないと思う。読者の写真の理解力がレベルアップし、知識量が増加したことの影響も大きいのではないだろうか。もはや知らないことが少なくなってしまったのだ。90年代はじめにはネットなどなかったので、写真好きの人はとにかく写真家や写真集の情報に飢えていた。
エスクァイアは海外で活躍する写真家のポートフォリオをよく米国版から転載していたし、オリジナル・プリントの啓蒙活動にも熱心だった。90年代の初めには、私たちは雑誌ページ内でオリジナル・プリントの販売を行ったこともある。当時はUPUという会社が発行元だった。
またスタジオ・ボイスはアート系写真集の広範な情報を継続して提供してくれた。90年4月号の、「写真集の現在」はほんとうに画期的な企画だった。それまで、市場にどのような写真集が刊行され、流通しているかの情報がまったくなかったのだ。当時の編集者は本当に熱心に情報収集をしていて、通常の号でも数ページに渡って写真家の新作特集を組んだりしていた。その後に定番化する写真集特集をきっかけに写真集コレクションを始めた人は多いのではないか。私もその一人だ。
いまアート写真集コレクションが日本でこれだけ定着したのは、間違いなくスタジオ・ボイス誌の功績だと思う。その後、1996年には「ヒロミックスが好き」という特集などで、ガーリー・フォト・ブームのきっかけを作ったりもしている。

これら2誌はいままでに様々なサブ・カルチャー情報提供の役割を果たしてきた。皮肉なことに、雑誌が読者を育てたことが逆にいま自分たちの首を絞めることになってしまったのだ。いまや客観的情報はネット経由で世界中からほぼコストフリーで入手可能になった。アート写真に関していま読者が求めるのは、写真作品を読み解くためのコンセプトや視点などについての情報へと質が変化してきたのだ。

90年4月号の、「写真集の現在」の巻頭で、高橋周平氏が、「写真から何かを読み解くトレーニングが必要」だと述べていた。最初はみんなただ多くのビジュアルをみれば写真が判るようになると誤解していた。約20年を経て、写真から読み取る何かとは、写真家の伝えようとするメッセージを時代の中で理解することだったと気付いたのだ。2誌の廃刊はまさにひとつの時代の終わりを象徴しているのだと思う。

今後、一般的な情報提供はネットに移り変わるだろうが、いまだアート写真を読み解くためのものがどのように誰によって提供されるかは見えてこない。読者のニーズの変化に情報発信側の意識がまだついてきていない気もする。写真の表層についての個人的な意見や感想は求められていないのだ。今の日本は写真が欧米並みにアートと認識されるようになる過渡期を迎えている。たぶんギャラリーの情報発信も重要な役割を果たすのだと思う。私たちも色々と試行錯誤していきたい。

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