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2009年11月 3日 (火)

(アート写真最前線)
ウィリー・ロニスが亡くなる
市場で過小評価されているフランス人作家

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戦後フランスを代表する写真家の一人、ウィリー・ロニスが99才で亡くなった。90年代の日本では、ロベルト・ドアノー、イジス、エドワール・ブーバなどとともにフランスのヒューマニスト系写真家のグループ展でよく紹介されていた作家だ。 私は、1992年にプランタン銀座で開催された写真展「I love Paris」展のチラシに使われた「バスティーユの恋人たち」という作品が印象に残っている(上の写真)。写真家名は知らないが、イメージは見たことがあるという人は多いと思う。もちろん彼の仕事はフランス本国では非常に高く評価されており、ナダール賞の受賞(1981年)、アルル写真フェスティヴァルの名誉招待作家にもなっている。死後にはフランス政府へ作品寄贈することが早くから決まっていた。

しかしアート写真市場の中心地、米国では彼の認知度はあまり高くなかった。50年代にはニューヨーク近代美術館でのいくつかの写真展に作品がセレクションされているが、北米ギャラリーでの個展は80年代中ごろになってからのようだ。オークションでの取り扱いが増加したのは最近のことだ。
彼のモダンプリントのギャラリー店頭値段は、11X14インチサイズで約50万円からだ。 写真市場の歴史が浅い日本人の感覚では高額だが、同世代のアメリカ人作家と比べると決して高くない。さらに調べてみたら、一部ヴィンテージを除いてオークションでの店頭価格を超えての落札はほとんどないようだ。これはセカンダリー市場で価格プレミアムがないという意味。既に高齢だったことを考えると、彼の人生が長くないことをギャラリー価格は既に織り込んで上昇していた感じだ。90年代の前半には、彼の代表作でも500ポンド(@240で約12万円)だった。

ロニスを含む、フランス人写真家の相場があまり高くないのは、米国の60年~70年代に訪れた写真ブームの流れから彼らの作品が外れていたことによる。 この時代に、いままでの主な情報提供メディアだった写真がテレビにその地位を奪われる。ロバート・フランク、ウィリアム・クラインらが登場し、いままで公共的な役割を果たしてきた写真は他のアートと同じようにパーソナルな視点を表現する手段へと大きく変化する。 その後、ダイアン・アーバス、ゲイリー・ウイノグランド、リー・フリードランダーなどが登場して現代写真がアメリカ中心に大きく発展していく。欧州の多くの写真家はその間もフォト・ドキュメンタリーの報道写真の流れを踏襲していた。アメリカの新しい写真家との違いは何かというと、時代の価値観との接点の有無と、写真家がそれをどのように解釈しているかが提示される点だ。
フランスのヒューマニスト系といわれる写真家たちは時代との接点が必ずしも明確ではなかったかもしれない。ロニスの写真集「Sur le fil du hasard」などを見るとテーマ性よりもヴィジュア優先で作品がセレクションされている印象は強い。しかし、彼らは決して世の中を記録しようと考えていたのではなく、人間愛の視点で労働者階級の日常生活をその内側から撮影していた。また、普段は見過ごしがちな写真でしか気付かない一瞬の面白さをヴィジュアに取り込んでいた。多くの作品は、依頼された仕事ではなく自らのプロジェクトだった。それはまぎれもなく社会を捉えるパーソナルな視点のひとつだと思う。その結果、それらの写真には、当時の街や社会の雰囲気が写っていた。しかし、同時代に生きる人にとって、それは当たり前のシーンだったので作品としての価値を認識出来なかったのだ。
彼らの写真が本価格的に評価されるようになったのは90年代以降。時代の価値観が多様化したことで、パーソナルな視点で撮影された優れたドキュメント、ファッション作品がアートとして認識されるようになってからだ。ロニスらによる40年~50年代のモノクロの都市風景を多くの人がノスタルジックに感じるようになった。それは、現代の価値観が昔から大きく変わったことを見る側に改めて気付かせてくれるという意味だ。

アート写真の値段は最大市場である米国のコレクター好みが強く反映される。それは作品の優劣と市場人気は必ずしも一致しないということ。投資の為に写真を買うなら米国人の動向は重要な判断要素となる。しかし、自分の感性を生かしたアート写真コレクション構築を考えるのなら、フランスのヒューマニスト系写真家は検討の余地がある分野だと思う。過小評価されている、日本人好みの写真作品がまだ多いのだ。

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