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2009年12月15日 (火)

"Two in one in England"
現在につながるハービー・山口の初期スナップ!

Blog
(C)Herbie Yamaguchi

"Two in one in England"の展示作品の中に、バスの中で撮られた笑顔のおばあさんたちの写真がある。何気ないスナップのように見えるがこれは凄い写真だ。人種の坩堝のアメリカと違い、英国それも地方部には外人はほとんどいない。東洋人は珍しい存在なのだ。彼らは、中国人、韓国人、日本人の違いも判らない。残酷な物言いをする子供は、チンクといって東洋人の目が細いのを小ばかにすることもあったと聞く。まして70年代前半の英国だ、まだ世界大戦の記憶が残る人もいたはずだ。
ハービー・山口はそんな難しいコミュニティーの中で、おばあさんたちの笑顔を引き出し撮影しているのだ。たぶんボディー・ランゲージを含む際立ったコミュニケーション能力があったからできたのだろう。彼はスナップの極意を既にこの時期に体得していたようだ。

彼ほどの写真家になると、そのスタイルを受け継ぐ若手が出てきてもおかしくない。しかし、残念ながらそのような人はまだ登場していないようだ。それは簡単そうなストリートのスナップが実は非常に難しいからだと思う。
まず、いまの東京で笑顔の人を見つけること自体非常に難しい。道端でいきなり中年の男性に写真を撮らせて下さい、と言われたらだいたいの人が断るだろう。彼は外見のビジュアルだけで判断して被写体を見つけだすのではない。その人生を一瞬のうちに見抜き、一生懸命に生きている人だけを撮影しているのだ。心の状態は自然と表情に現れるというが、それを読み取る高い感受性を持っているのだろう。彼はアイコンタクトを通じてそのあたりの一瞬のコミュニケーションを行うと語っている。これらの一連の行為ができるようになるには、トークなどでよく引用される高い"人間力"が必要なのだろう。
スナップでは、相手を好きになることが重要だとよくいわれる。これは相手を尊敬すること、受け入れることだ。それができないと緊張して被写体に接してしまい相手も緊張する。外国で撮影する時などはどうしても陥りがちなパターンだ。これでは、良い写真は撮れないだろう。ハービー・山口の写真の背景には当時の日本人の英国ライフスタイルへの憧れがあったのだと思う。彼は、イギリスではみんながモデルのようにかっこよく見えたと語っている。撮影するときに、あなたがたの人生は素敵ですよ、外見もカッコいいですよという気持ちを素直にぶつけていたのだと思う。良い写真の撮影には、相手を受容することがほんとうに重要なのだと山口青年の作品群は教えてくれる。
 撮影時の普通さも、隠れた人間性を引き出すマジックのひとつだ。そこには、カメラマン対モデルのような緊張関係はない。アシスタントもいないし、カメラマンと被写体はまったく普通に語り合い撮影が進行していく。被写体を意識させない、ライカカメラの静かなシャッター音も重要な要素となっている。カメラの存在は消え、自然とカメラマンと被写体とのコミュニケーションが生まれる。 その一連の結果として、彼がライフワークとしている、"見る人が幸せな気分になる写真"が積み重なっていくのだ。

ところで、20代前半のハービー・山口のたたずまいにファンなら興味のあるところだろう。彼のトークイベントでは、いつも自らを美少年だったと繰り返し冗談ぽく語っている。 しかし、どうもそれはジョークではないようだ。
実は、今回彼が20歳の時のセルフポートレートを持参してくれた。そこに写っているのは、スリムでロングヘアーのクールな眼差しの青年なのだ。その写真はギャラリーの小部屋に展示してある。ご興味のある人は美少年だったかどうかをご自身で確かめてください。

ヨーガン・シャドバーグとハービー・山口の二人展"Two in one in England"は、2010年2月6日まで開催中。

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