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2010年1月26日 (火)

速報 2009年写真集人気ランキング
不況でも根強い定番写真集人気

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アート写真コレクションの人気分野として定着しつつあるフォト・ブック。アート・フォト・サイトでは毎年写真集人気ランキングをネットでの売上冊数をベースに算出して発表している。2009年の速報データが揃ったのでその一部を紹介し、傾向を分析してみたい。

まず、外部環境を見渡してみよう。リーマン・ショック以降の世界経済は大きく変化した。それまでの金余りから供給されていたリスクマネーが消滅し、一時期は元気だったベンチャー企業の元気がなくなくなった。情報革命などともてはやされたけれど、今までの商売の方法が単にネットに置き換わっただけの感じ。大手マスコミは大きな変化に直面しているものの、ビジネスの世界では昔と同じように大企業がしぶとく生き残っている。
アート写真市場も景気悪化の影響を大きく受けた。市場規模が縮小し資産価値が確立した作家の代表作しか売れなくなってきている。金余りのリスクマネーが霧散して、現代アート系写真の勢いがなくなった。

しかし、2009年の写真集売り上げは予想外に健闘した。新刊でのベストセラーはなくなったものの、売上高、冊数ともに2008年の約10%減にとどまっている。それらは2007年よりは良い数字なのだ。年間に約10%の円高が進んだことを考慮すると売上は微減ともいえるだろう。売り上げの背景にはアート系出版社の巧みなマーケティング手法があったと思われる。米国でサブプライム・ローン問題が発覚したあたりから、彼らは評価が定まった写真集の、新版、再版に力を入れるようになった。2009年のランキングを見渡すとその戦略が見事に成功していることが一目瞭然なのだ。

アート市場と同様に、顧客はイメージ、内容がわからない新人、中堅の新刊写真集を買わなくなった。作品と比べ値段が安い写真集でさえ彼らはリスクを取らなかったのだ。一方、完売した絶版本の新版、普及版、定番本の増刷など、すでに評価の定まった写真集群が売上を支えたのだ。出版社はアート写真趣味の人の心理をかなり明確に読み取っている。特に、アート写真文化の歴史が浅い日本ではこの傾向が顕著だった。
純粋の新刊で売れたのは、ブルース・ウェバー、ティム・ウォーカー、マーク・ボースウィックなどのファッション系が中心だった。イメージ重視のファッション系写真集は内容の当たり外れが少ないからだろう。

1位はロバート・フランクの歴史的な写真集「The Americans」。2位はスティーブン・ショアーのロングセラーの「Uncommon places」。その他、ダイアン・アーバス、ウィリアム・エグルストン、リー・フリードランダーの写真集の定番がランクインしている。
ウィリアム・クラインの「Rome」の新版、プレミアム写真集の先駆けになった、ヘルムート・ニュートン「Sumo」の普及版もよく売れた。
中堅、若手でランクインしたのは、私が個人的に好きな、エドガー・マーティンズの「Topologies」だけだった。この本は私がコマーシャル・フォト誌で連載していた世界のファインアート・フォトグラファーで昨年に紹介した。普段はあまり反応は聞こえて来ないのだが、彼の写真集には若い人中心に多くが興味を持ってくれた。コマーシャル写真と現代アート写真の要素を兼ね備えたヴィジュアルが日本人に受け入れやすかったのだと思う。しかし、彼は非常に深遠なコンセプトを追及している知的な写真家でもある。より抽象度が増した新シリーズの新刊が最近発表されたので、近日中に紹介したい。

現状は真のすぐれた作品が吟味されている過渡期だと私は認識している。2007年くらいまでは空前の金余りを背景に、新しいアート写真表現が市場に紹介されてきた。現代アートの視点から、伝統的なアート写真も再評価された。多文化主義の流れで日本を含む欧米以外の写真家にスポットライトが当てられた。景気が良いと気分は浮つきがちになる、本質を見極めるというよりも売れれば勝ちというような市場性が優先されがちだ。一転してマネーが回らなくなると、誰しも冷静に作品の真の価値を見極めるようになる。
その影響を受けているのが、評価が未確定だったが勢いで売れていた現代アート系の作家なのだろう。彼らのコンセプトは社会との接点が肝になる。時代の価値観が急激に変化したので、作品コンセプトが新時代にまだ追いついていないのではないだろうか。
しかし常日頃主張しているように、アートが好きな人は不況でも興味をなくすことはない。作品の見立てが従来よりも厳しくなるだけだ。実際に不景気でも写真集は相変わらず売れているのだ。
ポジティブに考えれば、このような状況はアートの質がレベルアップする良いきっかけになるのではないか。アートの歴史を見ていると、景気の良い時に多様な作品表現と多くの新人が登場してきて、景気悪化時に生き残り戦争が繰り返されてきた。この混乱期を生き延びた写真家は21世紀の写真史におけるクラシック候補となるだろう。

2009年の人気写真集ランキングは近日中に発表します。

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2010年1月19日 (火)

ヨコハマ・オープン・ポートフォリオ・レビュー
フォト・フェスティバルは日本の写真を変えられるか?

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先週末に横浜赤レンガ倉庫1号館で開催されたオープン・ポートフォリオ・レビューに参加してきた。横浜は写真発祥の地で、今回の企画は2012年開催予定のヨコハマ・フォト・フェスティバルに向けてのプレイベントとのこと。メインとなるイベントはオープン・ポートフォリオ・レビュー。それ以外にも限られた予算内でアイデアを絞って写真展示やトークイベントも行われていた。

フェスティバルの状況は現在の日本の写真界を見事に反映しているものだった。主催者は欧米の一般的なフォト・フェスティバルを意識しているのだと思う。欧米ではその前提となる価値基準が少なくとも参加者に共有されている。しかし、日本では様々な写真の価値観が混在しているのだ。
たとえば、オープン・ポートフォリオ・レビュー。レビュアーとして参加したのは写真の様々な分野の人だった。常に自分の写真が優先される写真家、雑誌や写真集に関わる編集者、美術館のキュレーター、商業写真を営業するエージェント、オリジナルプリントを販売するディーラー、学者である写真研究家など。彼らの写真の価値基準はそれぞれ違うのだ。本イベントの趣旨が、対外的に、また参加者にも徹底できなかった原因もここにあると思われる。様々な分野出身の運営者がいたので、意見集約ができなかったのだろう。

しかし私はこの日本の現状に決して否定的ではない。逆に、もしかしたら日本独自の写真の強みになるかもしれないと考えている。つまりこの状況は、欧米のように歴史に規定されることなく多様な価値観が存在するということだ。欧米では却下されるような表現が、アートとして認められる可能性を秘めているかもしれない。
アートは非常に幅広い解釈が可能。明確な視点と方向性が示されれば、すべてを受容することは可能ではないだろうか。しかし、それにはそれぞれの分野の固有の価値観を互いに認め合うことが重要になるだろう。自分のよいと思うことをただ押し付けるだけでは今までの分裂状態が続くだけだ。フォト・フェスティバルはそのような日本独自のアート写真を提示する核になる可能性を秘めていると感じた。この件に関しては、私も色々考えているので別の機会に意見を述べたいと思う。

ポートフォリオ・レビューに参加した人は約50人あまり。わたしは、アート写真ディーラーの見地から10人くらいの人のポートフォリオを見て回った。少なくとも私が作品をレビューした人は、アート写真を売る人の価値基準を理解してくれたと思う。多くの人は写真のヴィジュアルづくりにはすぐれた才能を発揮している。ただし写真と顧客とをつなぐ方法論を知らないのだ。 また自分が写真で何を伝えたいかをあまり意識していない参加者も散見された。欧米のレビューでは明確な目的達成を目指し具体的にコンサルテーションを行っていく。参加者の写真表現の方向性が不明確だと、レビューはアマチュア向けの写真教室のように単に感想を聞くだけの場になってしまう。

実は、私は約10年にわたってアート写真の啓蒙活動をワークショップを通じて行っている。今回のイベントでは多くの過去の参加者と再会できて非常に嬉しかった。その後のキャリア展開の話をきいてみると、どうも彼らはアート写真の敷居が高いという印象を持っているようだった。実はこれには私も気づいており、深く反省している。昨年末にオンライン・ギャラリーを立ち上げたのはそのような人たちのために短期目標を提供したいという思いからだ。

今回のイベントには色々な意見はあるだろう。しかし様々な思惑がぶつかり合う写真界の中で多くの人を巻き込んで実行できたことは高く評価したい。ぜひ次回は今回の経験を活かしてフォト・フェスティバルの進化形を見せてほしい。

参加者、実行委員、ボランティアの皆様、大変お疲れ様でした!

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2010年1月12日 (火)

アート写真の鑑賞ヒント
駅ナカ書店での本探し

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現在開催中の写真展では、入り口を入って右奥(写真左奥)に
解説文が掲示してあります。


出張のときなど、新幹線の中で読む本を駅ナカ書店でさがすのが習慣になっている。なぜだか普段よりも面白い本に出会う確率が高い気がする。だいたい駅ナカ書店は小規模で本の品揃いも少ない。何でこのような傾向があるのか不思議だった。色々と考えてみたが、たぶんこれは私の意志と注意力の問題ではないかと思った。休日に大きな書店を時間の制限なく回っていても面白い本とはあまり出会えない。そんな時はあまり気持ちが入っていない時なのだ。しかし、新幹線の発車までの限られた時間という制限と、移動中に時間を有効に使いたいという気持ちがあると、本のコンテンツを読み解こうという集中力が違うのだろう。

意志や注意力は、アート写真の鑑賞時にも重要な役割を果たす。集中力を高めないと、作品を見て真に感動することはできないのだ。ギャラリーでゆっくりと時間をかける人はあまり集中して作品を見ていないのではないか。美術館での鑑賞と同じように、アートのある空間で時間を消費することに重きを置いているのだ。これは気分転換の効用はあるだろうが、アートの面白みを真に体験していないと思う。

どうすれば、集中力を高めて作品と真剣に向き合えるのだろうか。
お勧めする方法の一つは、時間がない時の駅ナカ書店での本探しと同じように、写真展で作品を購入しようという気持ちで接することだ。会場内にあるプライス・リストで値段を確認してから作品を見てみよう。それだけでも感じ方がかなり違ってくる。そして鑑賞にあまり時間をかけないことも重要だ。人間の集中力は長時間は継続できない。だからギャラリーで実際に作品を買う人は非常に迅速に決断する。思い悩んだ人はだいたい購入しない。
私は仕事柄多くの写真を見る機会が多いが、1点に時間をかけることはしない。写真のヴィジュアル面、テクニック面、感動面の評価は慣れれば瞬時にできるようになる。じっくりと見るときは、写真のプリント状態を確認するときだけだ。

しかし、私は見るのは早いが鑑賞前の準備にはある程度時間をかける。デザインや、タイトルだけで本を買う人は少ない。帯などの説明、目次などを参考にして内容を判断したうえで購入するだろう。これに当たるのが、写真展のタイトルであり、ギャラリー内に展示してある、ギャラリストや写真家のメッセージなのだ。これらをじっくり読んで、鑑賞する視点を明確にしたうえで写真展に臨む様にしている。特に現代作家によるアートはアイデア重視なので内容の把握が重要だ。このように集中して接することでアート写真の新たなは断面が明らかになる。自分がただ好きだった写真から、作家の深い世界観の入口が見えてくる。それがきっかけで、生きて行く上での新たな視点が発見できるかもしれないのだ。これこそがアートの真の醍醐味だろう。

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2010年1月 5日 (火)

2010年のギャラリー・スケジュール

あけましておめでとうございます。

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写真集"Another Summer"より

まずは今年のギャラリー・スケジュールを簡単に紹介しておきます。年末年始をまたいで開催中の、ヨーガン・シャドバーグとハービー・山口の二人展「Two in One in England」は2月6日まで行います。

2月中旬からはモノクロによるランドスケープ、シティースケープ写真をセレクションした「Black & White-scapes(モノクロームの地球風景)」を開催します。伝統的なモノクロ風景写真はプリント自体のトーンの美しさを強調する作品が中心でした。本展では、見る側が写真家の表現したい世界観を意識して接することで新たな視点が見えてくるのではないか、という問いかけをしたいと考えています。現在の風景写真は、カラーによる大判作品が中心。現代人にコンパクトサイズのモノクロ作品の新たな魅力に触れてほしいということです。参加作家は、アンセル・アダムス、マイケル・ケンナ、カート・マーカス、トミオ・セイケ、中村ノブオ、ハービー・山口、ナオキなどを予定。

春先には、米国人女性写真家テリ・ワイフェンバックの「Another Summer」を開催します。2年前に写真展「Lana」を行ったので覚えている人も多いと思います。彼女の写真はピンボケ画面の中にシャープにピントがあった部分が存在する、何か夢の中のような瞑想感が漂うイメージが特徴。何気ない自然風景のカラー作品には様々な感情のフックがちりばめられています。今回は、昨年秋にThunder storm pressから500部限定で刊行され、瞬く間に完売した写真集「Another Summer」からのセレクション。彼女の写真は通常は20X24"と大判ですが、今回は比較的小ぶりのカラー作品の展示となります。エディション数は相変わらず5点と非常に少なめです。

秋口にはナオキの「Tokyo Now & then (仮称)」を開催します。昨年に「渋谷・カワイイ・スタイル」を開催したときに、彼の倉庫から90年代の東京を撮影した「ordinal」の貴重なヴィンテージ・プリントが発見されました。すべて今は亡き伝説の英国人プリンターのビル・ローリンソン氏により制作された写真です。本展ではそれらを核に、21世紀を撮影した最新作を加えて、常に変わり続けている東京の90年代から00年代の気分が反映されたイメージを展示します。

以上が主要写真展の予定です。その他も色々と質の高い企画を考えています。企画が固まり次第、順次紹介していきます。

今年もよろしくお願いいたします。

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