« 写真ギャラリーの目的別活用法
キャリアにより異なるアプローチ
| トップページ | 2010年ギャラリー情報アップ・デート
ソウル・フォト2010など »

2010年3月 9日 (火)

世にも残酷な写真展?
「Black & White Scape」展

Blog
(C)Nobuo Nakamura

「Black & White Scape」では国内外の複数作家の銀塩写真を展示している。ある来廊者から、この写真展は残酷ですねという感想がよせられた。本展の出品作が8X10"大判カメラから35mmまで、様々なフイルム・サイズで撮影されている。それゆえプリント・クオリティーの差が歴然としてわかるという趣旨のようだった。
そのような視点での写真展の見方もあると思う。しかし、今回ギャラリーが考えた作品展示の趣旨は少し違うところにある。逆説的だが、アート写真の作品評価軸はカメラ・フォーマットやプリント・クオリティーだけではないことに気付いてほしいのだ。アートの前提は見る人を感動させられるかどうかにかかっている。20世紀のアート写真の場合、印刷では再現できない銀塩プリントの美しさ、クオリティーがそのための大きな魅力と考えられていた。その最高峰がアンセル・アダムスのオリジナル・プリントだ。しかし21世紀の現在、プリント・クオリティーの作品評価上の重要度が低下してきているのだ。写真作品も現代アートの影響でよりコンセプト志向となった。写真家の投げかける時代に対するメッセージの重要度が増してきたのだ。つまり、今回はあえてアンセル・アダムスを展示することで、写真の価値観が揺れ動いている事実を象徴的にアピールしたかったのだ。
また以前触れたように、彼についても高品質の風景写真作家というステレオタイプ以外の見方をしてほしいとも考えている。

できる限り来廊者の感想を聞くようにしているが、彼らの見方や解釈が非常に様々なのが面白い。写真を撮影する人は、写真クオリティー、イメージを優先して見ている感じだ。一方で、写真をコレクションしている人は、写真を作家の世界観に導かれる入り口としてとらえ、そのうえでイメージ、プリントテクニックを考慮して総合的に評価しているようだ。かれらからは作家のバックグランドやキャリアの質問が多い。前者は作品を目で、後者はさらに頭と心でも見ているといった感じだろうか。

アート写真との接し方は、音楽の世界と比べてみるとわかりやすいかもしれない。時代を超えて支持されるミュージシャンは、必ずしも天才的なテクニックや歌唱力を持つ人とは限らない。彼が発しているメッセージなどの世界観と心を揺さぶる楽曲が総合的に判断され、味があるなどという表現で愛でられている。そしてミュージシャンのファンは過去のアルバムをずっと聴いている。蓄積された情報をベースに新曲の判断を下すだろう。写真もギャラリーの個展で1枚を見ただけでは評価できない。見る人の持つ情報量と思考の蓄積によって感じ方が左右されるのだ。今回展示している、ハービー・山口の桜のある風景は、彼のロンドンを始め一連の作品やメッセージ類を経験したことがない人には良さが伝わらないだろう。ナオキの東京風景も、彼の写真哲学を知り、ファッション写真、渋谷カワイイ・スタイルなどの作品を見たことがないと理解不能だと思う。

ベテランのコレクターによると、イメージ、クオリティー、そして作家の評判だけで作品を買うと後で後悔することが多いという。それらが無意識化でき、さらに作家のメッセージにも思いをはせることができれば作品を本当に自然に見られるようになるということらしい。それは、世間の評判ではなく自分自身の作品評価の基準が持てることでもある。しかし、そのような優れたセンスは自らが経験を積んで、努力しないと身に付かないことなのだ。
「Black & White Scape」はあらゆる経験レベルの観客が楽しめる作品セレクションになっていると思う。多くの人の視覚、思考、感情が刺激されて、少しでもアート写真理解力の向上につながれば幸いだ。

|

« 写真ギャラリーの目的別活用法
キャリアにより異なるアプローチ
| トップページ | 2010年ギャラリー情報アップ・デート
ソウル・フォト2010など »

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/170909/47767417

この記事へのトラックバック一覧です: 世にも残酷な写真展?
「Black & White Scape」展
:

« 写真ギャラリーの目的別活用法
キャリアにより異なるアプローチ
| トップページ | 2010年ギャラリー情報アップ・デート
ソウル・フォト2010など »