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2010年3月23日 (火)

アート・ディラーの経験則
写真家の覚悟とは

Blog
(C)Nobuo Nakamura
「ハーレムの瞳」より "Girl and Mercedes, Harlem, 1983"
マフィア・ボスの女。教会の前で撮影したので「撃たれることはないだろう」と思ったそうだ。

写真家中村ノブオは作品が売れるごとに、自分が初めて私どものギャラリーを訪れたことを思い出すそうだ。恐れ多いことに、彼は以前から私どものギャラリーの存在を気にしていて、近くまで来たが場所が分からないで帰ったことが何度かあったそうだった。
彼の人生のポリシーは、自分が行動して新たな可能性を開くことだという。その典型的な例が、1970年にコネもないニューヨークに単独で渡り、自らのカだけで写真家キャリアをスタートさせたことだろう。誰も過去にやっていないことに挑戦しようと、80年代に8X10"のカメラで開始した「ハーレムの瞳」シリーズにも同様の強い意志が感じられる。
アートの世界に挑戦しようと考えた時も、自らで情報収集と市場調査を行い道を切り開こうとした。光栄にも私どものギャラリーのドアを叩いてくれた。

中村との会話から、ギャラリーで行う写真展に意外な傾向があることに気付いた。これはあくまでも確率で絶対ではないが、過去を思い起こすとギャラリーから初対面の写真家にお願いして行った写真展は失敗することが多い。逆に、写真家からのアプローチがきっかけで行った写真展はうまくいくことがなぜか多い。写真家との出会いを思いだしてみると、現在のギャラリー取り扱い作家は最初に彼らからコンタクトしてくれた人が多いのだ。

私たちは、日本で数少ない商業写真家のアート作品を取り扱うギャラリー。普段から写真家からのコンタクトは非常に多い。その中で、取り扱い作家たちに何か特徴があったかを考えてみた。彼らはギャラリーのポリシーや仕事内容をよく調べ、発信しているメッセージを知っている人たちだった。アート・ビジネスを自分の知らない分野と理解し、協力を依頼するようなスタンスなのだ。だから、よく話し合うことができ、信頼関係を構築しやすかった気がする。互いに同じ目的意識が持てるような感じだ。それが結果にあらわれるのかもしれない。
写真家を紹介されることも多いが、これにも経験則がある。写真家による紹介はほぼ間違いがない。プライドが高いアーティストが推薦する人はだいたい能力のある人だ。そのような紹介の機会は大事にしている。

逆にギャラリーから写真家にお願いする時は、この人の写真展をやれば作品が売れる、注目を浴びるといった、エゴが背景にあることが多い。ギャラリービジネスは、写真家とディーラーとの共同作業だ。どちらかが主張しすぎるとだいたいうまくいかない。ディーラーはそれ自体が仕事だから作品は売りたいのだが、商業写真という仕事のベースがある写真家は必ずしも販売に真剣でないかもしれない。 ディーラーの思いは、場合によってはエゴの押し付けになりかねない。この場合どうしても両者の取り組み姿勢の違いが出てしまう。ディーラーのマーケティング力だけでは作品は絶対に売れないのだ。
ある有力写真ギャラリーは、どんな著名写真家の写真展でもギャラリー側からはお願いしないことで知られている。私が若い時は、新しい作家を見つけようとしない姿勢はおかしいと思ったりしたものだ。しかし、今になってみるとそのポリシーが長いギャラリー経営の経験から導かれたものであることが良く理解できる。

このような経験則を中村に話してみた。すると一言「写真家の覚悟の違いかな」という言葉が返ってきた。それは写真展で多くの人に自分のメッセージを伝えて作品を買ってもらう、という覚悟かなと軽く受け取った。
続いて彼から、「ディーラーはどんなうまいセールストークで写真を売るんですか」と冗談交じりで尋ねられた。「写真は営業トークでは売れません。まずお客さんが写真に感動することが第一、心が動いた人には作品をよりよく感じるように、少しばかり情報を提供するんです」と普段考えていることを話した。その時に、ふとさっきの「写真家の覚悟」とは、作品制作時の覚悟なのだとという答えが天から降りてきた。
中村にしてみれば、当時は危険なハーレムで8X10"で作品に取り組むという覚悟。自分が心から撮りたいというテーマがあり、覚悟を決めて取り組んだ作品に作家は絶対的な自信がある。これは写真家だけに限らない。自信がある人は自分の中に基準があり、自らを客観視できる。自分のやりたいこと、できること、できないことが明確に見えているのだ。だから、作品の評価など気にせずに自信を持ってギャラリーに営業できるし、専門外のアートビジネスでは相手を信頼して一任する余裕があるのだろう。
冒頭の経験則は、覚悟を持って取り組んだ作品を持つ写真家からのアプローチで行った写真展はうまくいくことが多いという意味だったようだ。
オーディエンスの感情を揺さぶる作品の背景には写真家の覚悟がある。感覚重視で制作された作品が多い中、中村の作品はいまでも新しい世代のファンを引き付けている。

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