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2010年4月20日 (火)

木村伊兵衛写真賞
高木こずえ氏の受賞理由を考える

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第35回(2009年度) 木村伊兵衛写真賞は高木こずえ氏(1985-)が受賞した。マスコミ報道によると、"一作ごとに作風を変える、その多様性が高評価を得た"という。授賞式での篠山紀信氏による選考過程の解説はだいたい次の通りだった。篠山氏は正直に、自分は高木氏の写真が理解できないと語った。そして、高木氏は自らがわからないものを撮影しているのではないかと感じたという。 たぶん本人も自分が何を撮っているかはわからないだろうと解説していた。篠山氏は、わからないから判断できないので該当者なしの白票を入れたそうだ。
選考委員は、篠山紀信、土田ヒロミ、都築響一、藤原新也の4氏。二人が高木氏を強く推したそうで、ひとりは作品ごとにスタイルが変わるのがよい、ひとりが作品展示が良いという評価だったらしい。最後のひとりは何を撮りたいかわからないから、賞を与えることは若手を誤解させると反対。そして、2対1、白票1の多数決で受賞が決定されたとのことだ。作風を変えることへの評価はたぶん藤原新也氏ではないか。藤原氏は以前から若者の保守化を憂えており高木氏を評価していた。私もこの考えには賛同したい。スタイルを変えるのは、自らのスタイルが確立した人だけに許されるとよく言われる。やたら変わるは何を撮りたいか試行錯誤の最中だからと批判されることもある。反対した人はたぶんこの点を指摘したかったのだろう。
私は作家の伝えたいメッセージが一環していれば、作品スタイルの変化は問題ないと考えている。優れたアーティストの作品は、表現スタイルが変化してもその本質は変わらないのだ。 欧米と比べて日本では写真の表層が重要視される傾向が強いと感じている。

では、高木氏は一貫して何を伝えたいのか。篠山氏によるとそれは「自分がわからないものを写真で表現すること」。やや禅問答の感じがするが、高木氏は、自分がわからないと感じるなにかを、様々な表現方法で伝えることを徹底して行っている。いま同じようなアプローチで撮影する人は特に若い世代中心に非常に多い。彼らはそれらに何らかの意味づけをしようとする。しかし、高木氏はわからないものはわからないとその感覚自体を精鋭化してテーマとしているのだ。ある意味ではメッセージは一貫しているともいえる。

では作品テーマと時代とはどのように関わるのだろうか?前記のように現在の日本では多くの人が感覚重視で写真を撮影する。これは評価基準があいまいなので、写真がより内向きのパーソナルな表現にとどまる傾向を強めている。趣味の写真なら全く問題ないがアート作品となるとコレクターにメッセージが理解されにくい。高木氏は若い世代を代表して感覚重視のアプローチ自体を作品テーマに取り組んでいる。 これこそはいまの写真界への一種の問題提起になっているのだろう。本人が確信犯で行っているかどうかはわからないが、もし無意識で行っているのならこれは選考委員たちが賞という権威を与えることで現在の写真界にもの申しているということだろう。
そのような作品は非常にコンセプチュアル。高木氏はいまの写真界の様々なトレンドを問い直すアヴァンギャルドなアーティストなのだ。それゆえどうしても理解されにくいという宿命を持っている。資料によると現代アート・ギャラリーのTARO NASUが作品を取り扱っているという。納得である。最近の木村伊兵衛写真賞ではますます多様化する写真に対応してアイデアやコンセプトにも注目するようになったということだろう。

今回の受賞は若い世代の写真家に大きな影響を与えるのではないか。高木氏は、決して自分のわからないものや、奇をてらった対象をフィーリング重視で撮影したから評価されたのではない。逆にそれ自体をテーマに取り上げて作品作りが行われた点が重要なのだ。これからは他の人が同じような作品を対象を変えて提示しても、若い25歳の写真家の二番煎じとみなされてしまうことになるだろう。これをきっかけに多くの人が如何にオリジナルであろうとするか努力するようになればと願いたい。

高木氏は今後どのような展開を図っていくのだろうか。心配なのは、あまりにも感覚に頼りすぎることだろう。それは自分の身を削って表現しているような行為なのだ。過去には行き詰まり活動を停止した人もいる。賞をもらったことで、逆に表現に不自由を感じてほしくない。高木氏の今後の活躍に期待したい。

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