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2010年6月 8日 (火)

アート・ビジネスの原動力
リスペクトされる関係

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アート業界でよく聞く言葉がいくつかある。以前、パッションを取り上げたが今回はリスペクトについて書いてみたい。欧米ではこれがアート・ビジネスを円滑に進めるための根底にある。基本的な考えはシンプルにこんな感じ。
たとえば写真家の場合、商業写真家の道に進んだ方が遥かに生活は楽だろう。アーティストのファインアート・フォトグラファーは、自分がどうしても世界に伝えたいメッセージがあり、作品での情報発信を優先する生き方をあえて選んでいるのだ。彼らは才能とともに高いプロ意識を持って活動している。その背景には以前紹介した様々なパッションがある。一般の人はアーティストのような生き方はできないので、彼らをリスペクト、つまり尊敬するということだ。商業写真家は、ビジネス優先なのであまりリスペクトされない。

米国では、コンセプトを突き詰めるアート系と徹底的に技術を学ぶ広告系と学校の段階で方向性が分かれている。アート系の学校はお金がかかるので、いったん社会に出てお金をためてから学ぶ人も多い。社会には彼らを金銭的に支援するシステムが整備されている。作品を購入して応援するコレクターがいて、また作品制作支援プログラムとして多くの奨学金、アーティスト・イン・レジデンス、 賞金が出るアワードや講師の職が提供される。
ロバート・フランクの歴史的写真集「The Americans」はグッゲンハイム財団の奨学金で1年をかけて制作されたことはよく知られている。現在、原美術館で写真展「パリ・京都」が開催されているシリアス・カラーの父と呼ばれるウィリアム・エグルストン。展示されている「パリ」のシリーズは、カルティエ現代美術財団の支援で制作されている。多くの優れた作品は社会の様々なサポートがあって生まれたのだ。

ただし、全てのアーティストが尊敬されるわけではない。アーティストであっても一般人と同様に社会の中で責任を持って生きていくことが求められる。世の中との関係の中に緊張感も持って自己表現を続けることが重要だ。それができない表現者は自分のエゴの押し付けになる可能性がある。リスペクトと対極の存在になってしまい、ディーラーや顧客などは応援しないのだ。日本ではアーティストといえば個性的な人という印象があるが、優れたアーティストは社会人としても一流だ。フィクションの世界に登場するような、エキセントリックな人は実在しない。

アートは資本主義の中で存在しているが、アーティストとディーラーのビジネスは信頼関係が基本に成り立っている。契約関係があっても信頼がなければアート・ビジネスは回っていかない。信頼の背景にあるのは互いがリスペクト出来るかによる。
リスペクトされるようになるにはいくつかの条件がある。アーティストには、才能はもちろん、知的さ、作品クオリティーに対するこだわり、人間性などが重要になる。ディーラーには、企画力、資金力、情報発信力、営業力が求められる。もちろん両者にアートへのパッションがあることは前提条件だ。互いのことを知るためには両者の密なコミュニケーションも絶対に必要だ。
私の経験則によると、お互いを利用しようという姿勢で行う写真展は失敗することが多い。お金儲けを目的とするアート活動なので、売り上げが上がらないと関係はすぐに消滅するのだ。
ビジネス社会の人間関係は損得勘定だけで成立している。人の評価は社会的な肩書や役割で判断され、互いを利用することだけを考える無味乾燥なつながりだ。アートの世界では、利害関係を超越した互いを真に尊敬しあう人間関係が稀にだが構築可能なのだ。アートが多くの人を引き付け、現代社会で存在が求められる理由のひとつがここにある。

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