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2010年8月31日 (火)

写真家にとっての写真集とは
横木安良夫「GLANCE OF LENS 1 Vladivostok」

Bs250

出版不況の中、写真集を出版し難い状況が続いている。
新人から中堅写真家の場合、一部の独立系出版社の編集者の好みに合った作品であるという幸運がなければ、自費出版しか手だてがない。多くの人は悪い環境を嘆いて諦めてしまう。

しかし、写真家のキャリア形成にとって写真集は重要な役割を果たしてくれる。営業的にも数々のメリットがある。1点もののポートフォリオを持って、関係者を回るのは非常に時間のかかる忍耐力のいる行為だ。コネクションがないと実力者とのアポすら難しいだろう。写真集なら、自分が作品を見てほしい人に送ればよい。DVDディスクだと、コンピューター・ウィルスの可能性もあるので見てもらえないことが多い。本ならページをめくってもらえる可能性がはるかに高いし、複数の人の目に留まるかもしれない。あのライアン・マッギンレーの輝かしいデビューも自らが関係者に送った自費出版の写真集がきっかけになっている。

写真展開催も作品アピールの方法だが、どうしても物理的、時間的に制限がある。残念ながら写真展終了後には世の中に忘れ去られてしまうことが多いのだ。ウェブサイトでの作品公開も世界中の人に見てもらえる可能性はあるだろう。しかし、膨大な情報量があるサイバースペースの中で、偶然に無名の人のポートフォリオが注目される可能性はかなり低いだろう。
一方、写真集は広く流通するので、予想もしない海外の関係者の目に留まる可能性だってある。また当初は認められなくても、将来的に世の中の価値観が変化したとき、写真集がきっかけで再評価されることもある。モノとして作品を残すことは重要なのだ。

ただし写真作品を単純に本にすればよいのではない。この点を勘違いしないでほしい。日本には様々な種類の写真集が存在する。上記のような写真家にメリットがあるのはアート系の写真集なのだ。
例えば、稼いでいる広告写真家が豪華な写真集を作ることがある。これらの多くが単に自分の過去の写真をまとめているだけなのだ。装丁にも凝っているが、写真がデザイナーの素材になっている場合が散見される。写真家本人のステーツメントが載っていないこともある。これらは最初に写真ありきの作例集で作品集ではない。(英語だと、photo illustrated bookで、photobookではない)アート作品なら、写真家がどうしても伝えたいメッセージが最初にあるはずだ。

さて今回の横木安良夫のコンパクトサイズの「GLANCE OF LENS 1 Vladivostok」は、ベテラン写真家が写真集制作の新たな道を後進に指し示そうとする試みだと思う。デジタル化の進行により、オンディマンド印刷で以前よりもかなり低価格で高品質ブックレットが制作できることを実践したのだ。多額の費用がかかる自費出版ではないことがポイントだと思う。メッセージの発信に豪華な体裁は必要はない。もっとカジュアルに自分の作品集に取り組んで、経験を積んでほしいということだろう。最初から高いレベルのものができるわけがない。自分の予算の範囲内で何度でも試行錯誤を重ねればよい。そうすれば、作品のセレクション、配列、レイアウトなどの経験を積むことが出来る。 自分のメッセージが伝わるかどうかの検証も可能だ。

多くの若手写真家が写真集作りに挑戦して互いに切磋琢磨すればその中から良いものが必ず生まれてくると思う。私も彼の考えに賛同する。写真史的にも、60~70年代の日本のフォトブックが頂点だった時代の精神を横木が受け継いでいると解釈できないこともないだろう。
また今回の横木安良夫の写真集はデザイナーの原耕一との深い信頼関係の上に出来上がっているのにも注目したい。本書は若い写真家が若いデザイナーと組んで互いに経験を積み重ねて欲しいというメッセージでもあるのだ。
私個人的には、より高い目標を持つ人は欧米のようにギャラリストとともに作品コンセプトのマーケティングにも取り組んでほしい、と願っている。

横木安良夫のコンパクトサイズの「GLANCE OF LENS 1 Vladivostok」は限定250、作家サイン・番号入り、ショートストーリー(ウラジオストクものがたり)の別冊付、ソフトカバー、サイズ:約29.8 X 21cm。販売価格は1650円(税込)
2010年8月27日(金)~9月8日(木)に、渋谷のロゴスギャラリーで開催中の「レアブック・コレクション2010」会場で販売しています。アート写真を志す人ならぜひ実物をご覧になってください。なお私は、だいたい夕方から夜の時間帯は会場にいます。遠慮なく声をかけてください。

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2010年8月24日 (火)

ファッション写真とレア・フォトブックが
見て、楽しめて、買える!

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8月27日から、渋谷パルコ地下1階のロゴスギャラリーで「レア・ブックコレクション2010」を開催する。例年はゴールデンウィーク明けに行っていたが、今年はお盆明けの時期となった。
昨年と同じく、壁面にはオリジナル・プリントを展示する「渋谷・アート・フォト・マーケット」を展開する。今年のテーマはストレートに「ファッション」だ。

今回のイベントでは、ロゴス・ギャラリーでオリジナル・プリントからレア・フォトブック、ヴィンテージ・マガジンまでを、見て、楽しめて、買える空間を作り出すことをイメージしている。価格帯も、数千円のフォトブックやヴィンテージ・マガジンから、数百万円のオリジナル・プリントまでの幅広い品揃いがある。
昨今、アート関係のイベントが数多く開催されている。しかし、その実態は参加することが目的になっている。つまり出店者はスタイタスを上げたり、広告宣伝のため。オーディエンスは展覧会のように見ることが目的となっている。主催するのは専門ディーラーではなくイベント屋さんだ。
欧米のアート・フェアーは、もともとは専門業者が販売を目的としてアート作品を持ち寄った蚤の市のようなものだった。それが専門分野ごとに集合し、アート・フェアーに進化していったのだ。誰しもフリーマーケットに行ったときのわくわく感を経験したことがあると思う。「レア・ブックコレクション2010」は、見て、楽しむだけでなく、それぞれの人の予算に合わせて何かが買えるような、アート写真関連のフリーマーケット的イベントを目指しているのだ。

今回はファッションがテーマなので、50年代~60年代のハーパース・バザー、ヴォーグを多数取り揃えた。雑誌は見て捨てるものなので写真集以上に状態の良いものは入手困難。仕入れにはほんとうに長い年月がかかっている。アヴェドン、ペンが表紙を撮影した号、アンディー・ウォーホールのイラスト、伝説のアレクセイ・ブロドビッチやカーメル・スノウが手掛けたものも含まれる。全て1点ものとなる。

写真集はファッション系レア・ブックの定番となる、リチャード・アヴェドンの「Observations(オブザベーションス)」(1959年刊)、アーヴィング・ペンの「Moments Preserved(モメント・プリザーブド)」(1960年刊)。人気写真家テリー・リチャードソンの初写真「Terry Richardson」(1998年刊)、リチャード・アヴェドンの「Made in France」(2001年刊)、デビット・ベイリーがロンドンのシティー・スケープを撮影した珍しい「Bailey NW1」(1982年刊)などを用意した。日本ではまだ知名度が低いJohn Swannell、Art Kane、Terence Donovan、Michael Doster、Paul Himmel など70~80年代のファッション写真家の写真集も数多くセレクション。

また、ファッション写真の歴史を網羅する資料的な写真集も充実させた。「ファッション写真の歴史」(ナンシー・ホール・ダンカン、1979年刊)、「Shots of Style(ショッツ・オブ・スタイル)」(デビット・ベイリー編集、1986年刊)、 「Appearances(アピアレンセス)」(マーティン・ハリソン編集、1991年刊)、「Fashion Photography of the Nineties」(Camilla Nickerson他、1996)など。これらは好きなファッション写真家を探すガイドとして最適だろう。
その他では、常にコレクター人気の高い、アンドレ・ケルテス、ロバート・フランク、ウィリアム・クライン、ウォーカー・エバンス、ヘルムート・ニュートン、ブルース・ウェーバーなどの写真集も多数展示販売される。

オリジナル・プリントもファッション写真家の作品で統一。
ホルスト P ホルスト、ヘルムート・ニュートン、ハーブ・リッツ、ピーター・リンドバーク、カート・マーカス、ブルース・ウェーバー、ウェイン・メイザー、メルヴィン・ソコルスキー、アーヴィング・ペン、フランク・ホーバット、デボラ・ターバヴィル、ジャンルー・シーフ、中村ノブオ、ナオキなどを予定している。
たぶん欧米のアート・フェアーのブースと全く見劣りしない展示だと思う。これらだけでも絶対に見に来る価値があるだろう。

レア・ブックコレクション2010」(同時開催 渋谷・アート・フォト・マーケット)は渋谷パルコ地下1階のロゴス・ギャラリーで、8月27日~9月8日まで開催します。
営業時間は朝10時~夜9時です。(最終日は5時まで)

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2010年8月10日 (火)

商業写真ギャラリーの適正サイズを考える
広さ、場所よりも写真展の継続!

Blog
都市部でギャラリーを経営する人なら、誰もがより広い展示スペースを持ちたいと願っているだろう。私どもも、開設以来、広尾、代官山、下目黒と移設してきた。都心から離れていくに従い展示スペースは少しずつ広くなってきた。
今回、新設されたインスタイル・フォトグラフィー・センター(以下IPC)での写真展を手掛けた。ここは約50坪の広さがあり、全壁面を利用して大小様々なサイズの作品約65点を展示した。IPCは場所も一等地だし、まさにギャラリストの理想の空間だろう。
しかし、今回は、広いスペースで行う写真展のマネージメントはかなりの大仕事であることを実感した。広いことは、単に家賃がかかるだけではない。壁面を埋めるのに多くの点数か、大きなサイズの作品を用意する必要がある。作家、ギャラリーともに開催、運営コスト負担が大きくなることを意味する。商業ギャラリーは作品販売で全てのコストを回収し、利益を上げなければならないのだ。

まず、写真展の企画段階で壁に当たりそうだ。だいたい現存作家で、一つのテーマで60点以上の写真展が開催できる人はほとんどいない。質の高いポートフォリオなら20~30点くらいが一般的。一部大きな作品を入れても40点くらいだろう。今回のハービー山口展では、回顧展ではないのに一つのテーマで質の高い作品65点も展示できた。彼の長年にわたる仕事の積み重ねがどれだけ偉大なことか改めて驚かされた。

IPCのスぺースはパーテションで二つにわけることができる。その一つ分が写真展示には理想的なスペースだと思う。全てのスペース利用の場合、大判作品を制作する現代アート系作家や、キュレーターがテーマ設定を行うグループ展が合っているだろう。
現実的には、20X24"フレーム入り作品約30点が展示できるくらいが適正な商業ギャラリーのスぺースではないか。実際、日本で長年続いている写真ギャラリーはコンパクトな展示スペースを持つ場合が多い。重要なのは、場所、広さよりも、写真展のコンテンツ、そして継続なのだ。

商業ギャラリー用の不動産を借りるときには注意点がある。それは、バックヤード・スペースの確保だ。レンタル・ギャラリーは、展示ごとに作品もフレームも入れ替わる。しかし、商業ギャラリーは、作品、フレーム、資料の写真集などが次第に増えていく。ここの部分は来廊者に見えないのだがだいたい展示スペースと同じくらいが必要になると言われている。最初はあまり荷物がないことから誰しも最低限のスペースしか確保しない。出来る限り広い収納スペースを確保しておかないと、将来的にかなり苦しいギャラリー運営に直面する。私どものギャラリーが代官山にあった時は、事務所と展示会場でスペースが手狭になり、バックヤードとして別の部屋を近くに借りざる得なかった。現在の目黒のギャラリーでは、1階がギャラリー・スぺースで2階が事務所兼倉庫になっている。
レンタル・ギャラリーに比べて商業ギャラリーの立地が良くないのは、実はこのバックヤード確保の必要性があるから。家賃が高い地域では、倉庫部分への固定費負担がかかりすぎるのだ。現代アート系のギャラリーは、取り扱う作品サイズが大きいので収納スペースはさらに大きな問題だ。それゆえ、倉庫などのもともとバックヤード的な不動産のなかにギャラリースペースを構築しているのだ。

インスタイル・フォトグラフィー・センターは近日中に11月以降の会場レンタルの申し込みを開始する予定。興味のある人はぜひ写真展会場に来てほしい。
オープンは、金、土、日の午後1時~6時(金曜7時)。私はだいたい会場にいます。

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2010年8月 3日 (火)

写真展での情報発信とは
作品コンテンツが伝わりはじめる!

Blog
(C)Terri Weifenbach / RAM

テリー・ワイフェンバック展が無事に終了した。
以前も書いたが、本展では作品テーマはかなりコンセプチュアルで、作品スタイルも大きく変化していた。従来のテリー・ファンが関心を持ってもらえるか若干の不安があった。(詳しくは過去のブログをお読みください)しかし、結果的には心配は思いすごしで、予想していた以上に多くの人が来てくれた。写真集発行人の加瀬亮氏のファンの人たちのクチコミ効果もかなりあったと思う。来廊者数は会期終了が近づくにつれ増加。最終日にはギャラリーとして非常に多い50名を超えた。著名な写真家、美術館関係者も多数来てくれた。
私どものギャラリーは決して交通の便が良いところにない。街を歩いていた人が何気なく入ってくるようなことはないと思う。ほとんどの人が写真を見るために暑いなか来てくれたのだ。来廊してくれた皆様、ほんとうにありがとうございました。

写真展情報は、いくつかの新聞や雑誌で紹介してもらった以外はすべてウェブ中心で発信された。ウェブ情報はポータルサイトなどを通じての情報提供が一般的。これは、顧客の情報入手方法の変化に対応し、旧来のメディアがウェブに置き換わっただけのことだ。
今回は写真展自体の開催情報だけでなく、いままではあまり感じなかったコンテンツ自体もある程度伝わっている感じがした。通常、アーティストのアイデアやコンセプトは評論家などの専門家が伝えるもの。実はこの点が日本では一番弱い部分で、どうしても開催情報伝達が中心になっている。
本展ではそれらが一般のオーディエンスを通じて伝わったという手ごたえがあったのだ。

ギャラリーとしても、作家の視点をやや独断と偏見で解釈した。オーディエンスにその評価を問いたいと思ったのだ。ブログで繰り返し発信し、ワークショップやギャラリー店頭でも伝える努力を行った。冒頭に書いたように、作家の視点が理解されないと写真集や作品が売れないと考えたからだ。
従来は、作家のコンセプトに対する反応のようなものはあまりないのだが、今回は、コレクターのブログなどでも評価してもらったり、作品の評判を聞いて見に来たという人がかなりいた。
これはテリー・ワイフェンバックの写真作品の高いアート性が評価されたという証拠でもある。低レベルの作品だと話題が広がらずに膨大な情報の中で埋没してしまうだろう。またこのような状況が起こる背景には、見る側のアート写真リテラシー(理解力)が全体的に高くなってきたことがあると思う。ウェブやクチコミ情報がコンテンツとして意味を持つには発信者が写真家のメッセージを理解し価値を見出す必要がある。単にイメージの好みを述べるのではなく、発信される情報の内容が重要なのだ。

ここまで書いて思い出したのは、いまや死語に近いかもしれない、「Web2.0」という概念。
「ウェブ進化論」で知られる梅田望夫氏のよると、ネット上の不特定多数の人々を、受動的なサービス享受者ではなく能動的な表現者と認めて巻き込んでいくための技術、サービス、というように説明している。これは期待はずれで、実態はモノを売るビジネスとしては従来の代理店制度などがネットに変わっただけの代物だった。しかし、アーティストのコンテンツの情報発信に関しては、一般人でも情報の受け手だけでなく発信者になり得るのかもしれないと感じた。

写真分野での、作家コンテンツへの関心の高まりは好ましい傾向だろう。やっと日本でもアート写真がコレクションとして広がっていく条件が整ってきたということではないか。いまや作家のメッセージに共感すれば、絶版写真集なども含めて5万円以下ならば抵抗感なく購入する人が増えている。実際、今回販売したオリジナル・プリント付きの限定50部の写真集は飛ぶように売れた。欧米市場並みになるのにまだ時間はかかるだろうが、この過程を経ることで初めて数十万円もする作品が普通に売れるようになるのだ。

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