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2010年10月12日 (火)

「Imperfect Vision(侘び・ポジティブな視点)」
写真展の見どころ・注目点

Blog1

21世紀に入ってからの日本アート界で目だったのは、クールジャパンを標榜する現代アート作家たちの活躍だった。そのなかでも特に村上隆の追求していたテーマにはかなり共感できるところがあった。大衆芸術の浮世絵、マンガ、アニメ、ゲームを日本美術史の流れのなかで的確に分析した上で、自作の過去とのつながりを明らかにし、ポジションを論理付けした点はすごいと思った。
素朴な興味として、同じような展開がアート写真分野でも出来ないだろうかと感じていた。欧米の価値観で評価された写真ではない、現代日本人がリアリティーを感じる写真の追求は私のライフワークのひとつになっている。

インスタイル・フォトグラフィー・センターで現在開催中の「Imperfect Vision」はその一環ともいえる写真展だ。
もともとは、ギャラリーの写真展企画時に接するポートフォリオやワークショップ参加者の写真に、旅、癒し、自然、瞑想などをテーマにするものが多いと気付いたのがきっかけだった。それらの背景に禅思想や日本の伝統的な美意識が感じられた。日本人なのだから当たり前と言えばその通り。しかしそれらが目立つ背景には社会的な状況が影響している気がした。つまり、ポスト産業社会の到来、経済のグローバル化、新自由主義的な考え方の浸透。 それにより、多くの人が過度な競争の中での生き残りが求められ、心身ともに疲労困憊しているという状況だ。
癒し、旅行、ナチュラリスト、瞑想、カワイイなどは経済優先社会のアンチテーゼとして多くの人に愛でられるようになったようだ。その前提は疲れた心身を、旅行して自然の中で過ごしたり、瞑想したり、アートに触れることなどで元気になり、また競争社会に戻って頑張るということだった。 作家にとっても、上記テーマの作品制作は癒しの行為でもあったと思う。これはグローバルな現象で、杉本博司や村上隆が欧米で評価された背景にも同様な構図があったのだと思う。

そして2008年、米国でリーマンショックが発生したことで状況は一変するわけだ。経済成長という前提が崩れ去ったことでアンチも存在基盤が揺らぐことになる。
最初は何をやっても駄目だというような諦めの気分が支配的になっていた。しかし、開き直っていられるのはある程度余裕がある人だ。膨大な財政赤字、人口減少と低成長時代の到来。リアリティーを突き詰めると多くの日本人、特に若い世代にもはやそんな余裕は残っていない。
そのなかで一部の人たちが、諦めだけでは何も生まない、現状を認めたうえでポジティブに生きることを目指し始めた。頑張る一方で諦めを持つような生き方だ。自分のアイデンティティー探しの過程で、同様のアート表現に行きつく写真家も散見されるようになってきた。ここに私は、ネガティブな状況をポジティブにとらえる侘びの精神のようなものを感じたのだ。伝統的な美意識とのつながりがあるだけに、日本人の生きるよりどころになる可能性があるかもしれないという予感だ。

注目したいのは70年代以降に生まれた若手写真家二人だ。

Blog2
地現葉子は2種類の作品を展示している。
「植物園」では、人工環境の中で生かされている草木を現代人に置き換えて、現実は厳しく未来は決して明るくないという一種冷徹な現状認識を提示している。最新作の「空」では抽象的に表現された鳥のイメージで、そのような厳しい状況でも、 飛ばなければ何も起きない、行動を起こそうというネガティブをポジティブにとらえる姿勢が見られる。同世代の悩み苦しみを作品で見事に代弁していると思う。

Blog3
下元直樹は東北出身。「取り残された記憶」シリーズを出品している。これは東北の寂れた漁村を撮影したドキュメント作品。朽ち果て、錆びた漁村に残る住宅、店舗、倉庫、工場跡の壁面のクローズアップに美を見出している。グリッド状に展示されたタイポロジー的作品はカラフルでポップな色彩で非常に美しい。 アーロン・シスキンのカラー版のようにも見える。彼の展示からは、ネガティブな環境の中でもポジティブな視点を見出す日本的な精神を感じる。

東京広尾のインスタイル・フォトグラフィー・センターで開催中の「Imperfect Vision」は日本の伝統的な美意識を作品に取り込んでいる日本人写真家7人によるグループ展。ナオキ、高橋和海、丸山晋一、石毛一徳、山下誠一、地現葉子、下元直樹が参加している。ナオキの注目の新作"One second #1"の大判作品や、先週のニューヨーク・フィリップスのオークションで落札された丸山晋一の"Kusho #1"の銀塩写真版(非売品)などが展示されています。

毎週日曜日の午後2時~、写真展フロアレクチャーを開催します。どうぞおいでください!
http://www.instylephotocenter.com/exhibition/exhi_003_.html

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