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2010年10月26日 (火)

Imperfect Vison展
現代日本人写真家の侘びとは?

現在開催中の"Imperfect Vison"(侘び・ポジティブな視点)展。その英文の意味をよく聞かれる。これは、辞書を引くと、不完全な、不十分な、と書かれている。実は、Imperfectは、岡倉天心が「茶の本」で侘びの意味で使った表現と言われている。 響きが良いので、侘びの視点という意味合いで採用した。さて、本展は禅とかかわりがある美意識が中心テーマだ。作家の視点が提示されないとそのメッセージが読みにくい場合がある。前回は、丸山晋一、地現葉子、下元直樹を紹介したので、今回は残りの作家の作品の世界観を簡単に解説しよう。

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まず注目してほしいのは、ナオキの新作"One Scecond"だ。今回はシリーズの中の#1が横幅約1.2メートルの大判サイズで紹介されている。#2、#3はA4のコンパクトサイズでの展示だ。これは彼が現在進めているハイビジョン動画の同名プロジェクトの際に撮影されたショットをベースに制作されている。動画はhttp://www.workshop.jp/で公開中だ。現在活躍中のモデルを、白いトップスとジーンズというシンプルなスタイルとナチュラル・メイクで撮影し続けるというもの。撮影数は現在までに100人を超えるという。
ワンセカンド、つまり1秒というのがポイント。ナオキ曰く、それ以上の時間だと女優に負けてしまう。1秒ならモデルが表現で勝てるという。彼は自分が選ぶと好みが出るので、モデルのキャスティングには一切関わってないという。
ある意味では、21世紀のモデルを客観的にフィールドワークを行った、タイポロジー的な作品。その元祖のベッヒャー夫妻が行ったように彼も写真をグリッド状に並べている。きれいな昆虫を採集してコレクションするようにナオキは日本の美女を写真でコレクションしているのだ。
興味深いのは、なにも先入観がないと、一瞬同じ女性のバリエーション写真に見えること。実際、彼は80年代のミラノ時代に一人の女性を様々な角度と光線で撮影している。前回の個展ではそれらをグリッド状に展示したが、その時は逆にすべてが別人のように見えていた。当時のモデルがいまよりも個性的だったということか。現代の女性は個性的になったと言われるか逆に画一化しているのかもしれないと感じさせられる。
いまは世間一般の価値観が多様化して絶対的なスタンダードが存在しない。この時代は個性的でないことが重要であるということかもしれない。ヘア、メイク、スタイリングにより自由に変化できるということだろう。従来のグラマラスなスーパーモデル像とかけ離れたケイト・モスがトップに居続けることも同じような背景によると思う。
現代日本におけるモデルのフィールドワークはナオキによる21世紀の美人像のドキュメントとなっているのだ。


高橋和海は、米国でも人気の高い風景写真作家だ。代表作の「Moonscapes」から20X24"の大判作品を2セット、4枚展示している。彼の作品はすべて月と海のイメージが対になっている。
月は日本の美意識である無常感を象徴するもの。その月の引力に影響されて潮の満ち引きが起こる。壮大な自然の摂理に神を見出したかつての日本人の心境が彼の作品からは直感的に伝わってくる。
彼の写真はカラーのタイプCプリント。裏打ちされた平滑性が高い作品だ。それゆえ、夜の月を撮影したものなどは闇の黒色がまるで鏡のようになり見る人の顔も写りこませるという特徴がある。これが気になる人とそうでない人がいて非常に興味深い。
写真自体を見ている人は、展示が悪いなどと言うものの、アート作品として見る人はまったく気にしないのだ。
「Moonscapes」のなかで最も人気の高いのが、写真集「High Tide Wane Moon」の表紙イメージ。20X24"作品はほぼ完売状態だ。本展に合わせて、限定25部だけ、同作の11X14"のオリジナルプリント付き写真集セットを制作した。写真集も完売なので、買い逃した人にはぜひお勧めしたい。手頃な大きさなので初めて写真を買う人にも最適だろう。


山下誠一は、写真による水墨画に挑戦している。滝、森林、山などをモチーフに作品を制作。それらは、山岳信仰や水に生命の源をみる、かつての自然崇拝がベースとなっている。もともと山水画は禅の悟りを描いたものだった。彼は技術探求に非常に熱心な写真家だ。ある時、墨とインクジェットとの技術的な類似点に気付き、独自のプリント技法を追求するようになる。その過程で、プリント用紙に最適の出雲の"みつまた"和紙と出会う。水墨画同様に、顔料インクで制作された和紙作品には科学薬品がほとんど使われない。とてもエコな写真なのだ。手すきの和紙なので作品自体に風合いと存在感がある。今後はこの技法を生かした上で、作品のテーマ性がより明確に提示されることを期待したい。


石毛一徳は、千葉出身の写真家。
この10年間くらい、彼は他人に評価される、認められる写真を撮ろうと悪戦苦闘してきた。
しかし、写真は正直だ。エゴがでたような作品はなかなか見る側の心を打たない。 つまり、それらは目と頭で撮影した写真で、心で被写体と向き合っていなかったのだ。彼は自分の邪念をなくすために座禅を組んだりしたらしい。そして、ここ数年は九十九里海岸に出向いて砂浜をひたすら歩くようになった。それも中途半端ではない。彼は体力があるのでエゴがなかなか消えないらしい。歩く時間はだんだん延びていき、今では短くて5時間、長い時は8時間以上もひたすら歩くという。さすがに最後の方になると疲労困憊して自分のエゴなど消えてしまう。そんな時に普段は見えない砂浜の姿が見えることがあるというのだ。本展ではそんな写真を撮るための荒行の末に撮影できた渾身の3作品を展示している。 今回は、砂浜だが、エゴが消えたときに見えた、海、空の写真も見てみたい。


東京広尾のインスタイル・フォトグラフィー・センターで開催中の「Imperfect Vision」は日本の伝統的な美意識を作品に取り込んでいる日本人写真家7人によるグループ展。
ナオキ、高橋和海、丸山晋一、石毛一徳、山下誠一、地現葉子、下元直樹が参加している。
いよいよ今週の週末が最終となります。10月31日(日)まで開催。どうぞお見逃しなく!http://www.instylephotocenter.com/exhibition/exhi_003.html

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