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2010年12月21日 (火)

広尾・アート・フォト・マーケット無事終了
そして2月のフォトグラフィー・ショーへ!

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広尾・アート・フォト・マーケットが無事に終了した。これはアート写真を取り扱うギャラリー・ディーラーにより設立されたJPADS主催の初イベントだった。準備期間がほとんどなく、事前のパブリシティーは全くできなかったのだが予想外に多くの人が来てくれた。期間中に500名超の来場があった。年末の忙しい時にありがとうございました。

今回は10万円以下の作品という条件だったことから、多くは新人作家のものだった。ギャラリーが展示するということは、少なくとも一人はコレクターとしてその作家をサポートしているという意味。展示イメージはクラシックからコンテンポラリー風まで、メディアは銀塩写真からデジタルまでと幅広く出品されていた。日本でのアート写真の評価軸がとてつもなく多様であることが提示されていたと思う。 現在の日本のアート写真界の縮図のようなものだったのではないか。

写真家の渡辺さとる氏は、各ギャラリーが売り出そうと考えている写真家がどんなものなのか一堂に見比べられたのは興味深かったと指摘してくれた。ある編集者からは、ギャラリーの考えと顧客のリアリティーにギャップがあるのではないか? という指摘も受けた。要するに欲しい写真があまりないということだろう。
実際、何か欲しいものがあれば買おうとして来た人が予想以上に多かった印象だ。

ここで考えなければいけないのが、色々なところで常に語られている、顧客の欲しい写真を作家、ギャラリーが意識的に提供すべきか、ということだ。経験が浅い人は、売れ線のイメージを作る必要はないと考えるだろう。しかし、それは顧客のアート写真理解力を過小評価していると思う。彼らの主張は、写真家やギャラリーの提示する、アイデア、コンセプトにリアリティーを感じられないという意味なのだ。
意見は様々だが、展示写真を通じて色々な議論が生まれるのは好ましいことだと思う。ギャラリー、ディーラー、作家にとって、重要なのは現場での情報収集なのだ。企画を立て、作品セレクション行い、自分たちの良いと思うメッセージが顧客に的確に伝わるかの検証の場になる。通常、ギャラリーに来るのは写真展に興味を持つ特定の顧客になる。つまり興味ない人は来ないのだ。今回のようなイベントでは、様々な種類、値段、クオリティー、アイデアの写真作品が展示され、幅広い層の人が集うことになる。ギャラリー、ディーラー、作家、顧客が様々な感じ方をし、考えて話すきっかけが出来たと思う。そこで手ごたえを感じたり、反応がなかったと思う人も出てくるわけだ。 それらの現場での情報や反省点が作品や企画にフィードバックできれば、次第に顧客のリアリティーに近い写真作品に進化していくはずだ。それができないところはやがて淘汰されていくだろう。このようなイベントの地道な継続を通して、日本にも緩やかなアート写真のスタンダードのようなものが出来てくると考えている。

さて、2011年2月24日~27日にかけて、ザ・JPADS・フォトグラフィー・ショーを同じくインスタイル・フォトグラフィー・センターで開催する。私は、鑑賞するためのアートを否定しない。イベント化しているアートフェアーも日本ではありだと思っている。しかしそれとはべつに、アート写真コレクションのためのアートフェアーも必要だと考えているのだ。プロモーションに多大な金をかけなくても、優れた作家の作品が展示されていればコレクターは自然と集まってくるのではないか。最初は参加者が少なく小規模でもよい、同じ思いの人がゆるく集まる内容重視のイベントになればと思う。

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2010年12月14日 (火)

アート写真が見て・感じて・買える
広尾・アート・フォト・マーケット現在開催中!

12月19日(日)まで開催中の広尾・アート・フォト・マーケット。ブリッツは木戸孝子7点、下元直樹6点を展示している。写真家のプロフィールを簡単に紹介しておこう。

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木戸は高知出身で現在仙台在住の写真家。フリーランスの写真家を経て、ニューヨークのインターナショナル・センター・オブ・フォトグラフィーで写真を学び、現地でモノクロ・プリンター、スポッターとして活躍した経歴を持つ。今年の夏には、仙台のカロス・ギャラリーで個展を開催している。
経歴が物語るように彼女のモノクロ写真のクオリティーは秀逸だ。しかし、最初に渡されて読んだステーツメントにはやや分かり難い点があった。自分の本音を語っていないという印象だった。作品のレビューは撮影者のカウンセリングにかなり近いものだと私は思っている。写真家が何を考えているか、どんな人間なのかがわからないとポートフォリオの意味は決して理解できない。その前提として、まず本人の客観的な現状分析が必要となる。木戸の場合、作品背景を聞いている過程で、この人はいったんは絶望した人で、そこから這い上がってきたのだと分かった。感情に負けてしまう人は道を誤ることにもなりかねない。彼女を救ったのが写真を撮影する行為だったのだと思う。つらい人生なのだが、アーティストの視点を持って世の中に対峙すると、何気ないシーンの中にハッとするような美しい状況がみつかることを彼女は発見した。"The Ordinary Unseen"は、そんな中から生まれた。一瞬、ただ普通の綺麗なモノクロ写真だが、実はとてもポジティブな作品群なのだ。以上を踏まえてステーツメント書き直してもらったら、とても素直な文章が出来上がってきた。このような過程で今回展示することを決めた。ぜひ会場で現物に触れてほしい。

時代的背景は多分こんな感じだろう。彼女はちょうどアラフォー世代。若い時はまだバブル経済の残り香があった時代だ。この世代の人は大人たちに、お前には果てしない可能性がある、好きなように、自由に人生を選べばいい、と言われてきた。世の中には果てしない選択肢が広がっているかのように考えられていた。しかし、その後の長期の不況で、それらの考えの大前提として経済成長があったのが明らかになった。いまや、人生の選択肢などそんなにないことを多くの人が実体験から感じている。不況下に自由に生きることは下手すると社会の最下層に転落するリスクを抱えている。従って今の若者は極端な安定志向なのだ。自分の人生はこんなはずではなかった、と木戸の世代の多くの人は考えているだろう。
しかし、女性は強いと思う。そのようなネガティブな気分を写真撮影によりポジティブに変えているのだ。実は、彼女と同じような姿勢で世の中に対峙している女性写真家が私の周りに何人かいる。機会があれば、彼女たちのグループ展を企画してみたいと考えている。同じようなメンタリティーを持った同世代の人たちは必ずや共感すると思う。

下元直樹は仙台出身の写真家。彼は、アート・フォト・サイトが行っているワークショップ、ファイン・アート・フォトグラファー講座の出身だ。9月行った日本の伝統的な美意識を作品に取り込んでいる日本人写真家7人によるグループ展「Imperfect Vision」にもセレクションされている。
今回も、「取り残された記憶」シリーズから出品。これは下元が住んでいた東北地方の寂れた漁村を撮影したドキュメント作品。展示作品は、青森、気仙沼、新潟、相馬、釜石が舞台になっている。朽ち果て、錆びた漁村に残る住宅、店舗、倉庫、工場跡の壁面のクローズアップに美を見出している。若者が街を去り、人口が減少し、経済が疲弊した地方部。日本の経済成長の陰の部分にフィーカスした作品なのだが、グリッド状に展示されたタイポロジー的作品は、グラフィカルにきれいな上、カラフルでポップな色彩も魅力的だ。アーロン・シスキンのカラー版のようにも見える。朽ち果てた壁面などのクローズアップを精緻に撮影する写真家は数多い。しかし撮影コンセプトが明快に提示されないと、カメラの性能検査とプリントのクオリティーだけの作品に陥ってしまうのだ。
彼の作品はインクジェットにより制作されている。採用している局紙という用紙とのマッチングがぴったり。デジタル写真特有のモノとしての軽さがない。ぜひ現物をご覧いただきたい。

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広尾・アート・フォト・マーケットはインスタイル・フォトグラフィー・センターで今月19日まで開催中。オープンは1時~6時。10万円以下の価格の中堅エマージング・アーティスト中心のアート・フェアー。
P.G.I、フォトクラシック、MEM、ブリッツ、G/Pギャラリー、エモン・フォト・ギャラリーの国内6業者が持ち寄った約60点以上の作品が見て、買えるイベントだ。

私は、期間中はだいたい会場にいる予定です。見つけたらぜひ声をかけてください!http://www.instylephotocenter.com/exhibition/ce.html

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2010年12月 7日 (火)

アート写真ディーラーの団体が設立!
10日から広尾・アート・フォト・マーケット開催

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AIPADという組織がある。これはThe Association of Internatinal Photography Art Dealersの略称。1979年に北米で設立されたアート写真ディーラーの組織だ。ちなみに欧米では、ギャラリーのことも作品を扱う業者という意味でディーラーと呼ぶことが多い。AIPADは、アート写真を売買するビジネスでの高い基準の設定とその運用が目的としている。論理的な基準、コミュニティー内でのコミュニケーション、写真がアートとして認知されるための働きかけ、写真家とコレクターの権利の保護、責任あるディーラーの信頼向上などをうたっている。70年代後半にかけてアート写真市場が拡大してきたことに伴い専門業者が集まって業界の基準を定めようとして結成されたのだ。

実は日本にはアート写真を取り扱う業者の団体がいままで存在しなかった。過去30年くらいの間に多くの写真ギャラリーが生まれたが、だいたい10年以内に廃業していった。最近はビジネスの動きが加速していることから、わずか数年で撤退するところも少なくない。10年以上営業している業者はいくつかあるが、それらは独自に顧客層を開拓して生き残ってきた。
業界団体がなかった理由は、90年代くらいまでは多くのギャラリーが外国人作家を中心に取り扱っていたからだと思う。既に海外市場の基準で販売されている作品をそのまま日本市場に当てはめてきたので、独自の基準作りの必要性を感じなかったのだ。
しかし、ここ10年くらいで環境が大きく変化してきた。まず不況の影響で、比較的高価な外国人作家が売れなくなり割安の国内作家を取り扱うギャラリーが増えてきた。しかし前記のように、国内市場にはアート写真の、クオリティー、値段、コンセプトなどの基準がないことから、様々なレベルの写真が好きな値段で売られるようになってきた。
また最近では、商業写真家が不況による収入減少を補うために自分なりにアートだと解釈した写真を自ら値付けして販売するのも増えている。
さらに、現代アート分野の人が写真メディアで表現するようになったことで状況はさらに複雑化する。現代アートは高度なアイデアやコンセプトが全てなのだが、その表層面だけを取り入れて、高い値段をつける人も出てきている。
日本はデザイン王国と言われ、いまや写真家ではなくデザイナーがスターになる時代だ。グラフィックデザイン的に優れたイメージがアートだと解釈する人も散見されるようになった。
私は、感覚重視で制作されたものすべてがアートだと誤解されているのがこれらの混迷の原因だと理解している。なぜならフィーリングで写真を語ると作品価値の序列を否定することになり、客観的な優劣がつけられないからだ。
まとめてみると、日本のアート写真市場というものがあるとすれば、関係する人それぞれがアートだと解釈した、様々な価値観の写真が混在している状況なのだ。そこには統一した価値基準のようなものは存在しない。
以前も触れたが、最近数多く開催される、アートイベントでは非常に不可解な経験をすることがある。日本人の新人作家の大判作品が写真史に名前が残る外国人マスターの作品の値段よりも高価というようなきわめてシュールな情景が珍しくないのだ。私は個人的には日本のこのシュールさを楽しんでおり、この状況を論理的に解説することで弱点を長所に変える可能があると考えている。これについては別の機会に触れたい。

さて現在の状況で一番迷惑なのは、写真を買おうと考える人たちだろう。いったい何を基準に作品を選べばよいのか?はたして作品の市場性や資産価値は担保されるのか、という素朴な疑問を持ち始めているのだ。これが、日本で写真が売れない背景になっていると思う。価格の客観的な正当性が不明なモノに何万、何10万もお金を出す人は多くはないだろう。実際、コレクターは基準が明確な外国人作家や日本人でも外国で評価されている人を好んで購入する傾向が強い。
いままで、老舗のギャラリー同志は利害が一致しないこともあり必ずしも親密な関係ではなかった。しかし、このようなカオス状態が続くとさすがに自分たちの首を絞めることになるという危機意識を共有するようになってきた。 米国と比べ30年遅れだが、ここにきてP.G.I.のディレクターを約30年務め、現在、フォトクラシック代表の山崎信氏が中心となり、P.G.I、MEM、ブリッツなどが集まってやっと業界団体のジャパン・フォトグラフィー・アート・ディーラース・ソサエティー(JPADS)が設立されたのだ。(ジェイパッズと呼んでください)最初からアート写真の共通基準を提示するなどの大仰な考えはない。たぶんメンバーの意見も様々だと思う。とりあえず欧米のアート写真界の状況を参考にして日本独自のゆるい基準が顧客に提示できるようになればよいと思う。希望を語る若いギャラリーと違い、老舗ギャラリーは日本市場への絶望からスタートしている。いまの状況に対して現実的に対応できるのだ。このような、広くアート写真を話し合う場が出来たことが大きな一歩で、過度の期待を持たずに利害調整しながら継続していくことが重要なのだと悟っている。

JPADS主催の初めてのイベント"広尾・アート・フォト・マーケット"がインスタイル・フォトグラフィー・センターで今月10日から開催される。これは10万円以下の価格の中堅、エマージング・アーティスト中心のアート・フェアー。 P.G.I、フォトクラシック、MEM、ブリッツ、G/Pギャラリー、エモン・フォト・ギャラリーの国内6業者が持ち寄った約60点以上の作品を一堂に見て、買えるイベントだ。ちょうど季節は年末のクリスマス・シーズン。アート好き、写真好きの人へのプレゼントへ、また1年間頑張った自分へのご褒美にと、お気に入りの1枚を探しに来てください!私は、期間中はだいたい会場にいる予定です。見つけたらぜひ声をかけてください!
引き続いて、2011年2月には、ザ・JPADS・フォトグラフィー・ショーを開催する予定です。

www.jpads.org

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