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2011年1月11日 (火)

パワー・スポットの写真展
小林伸幸「Nature Feel」

Blog
(C)Nobuyuki Kobayashi

木々の深い緑に囲まれた神社を訪れると、なぜか身が引き締まるような感じをしたことが誰でもあるだろう。日常生活の喧騒から離れ、凛とした空気の中でなぜか心が落ち着き、癒された気分になっていく。
「八百万の神(やおよろずのかみ)」という言葉がある。日本人は古来から、太陽、山、草木、海、川、岩石などの自然に神が宿ると信じてきた。その土地の神を祀る場所が神社の原型なのだ。明治以降はそのような自然に神を見出す精神は急激に衰退していく。キリスト教では自然は神が創造したものととらえている。工業化の進行とともに、自然を人間がコントロールする西欧合理主義的な考えが支配的になっていく。
しかし、私たち日本人の記憶のどこかにはかつての精神のなごりが残っている。だから、神社などに行くと精神が洗われたような清々しい印象を持つのだ。また、各地で愛でられている、ゆるキャラや、鉄腕アトム、ドラえもんなどのロボットに親しみを感じるメンタリティーは、全てのものに神がやどるという考えがベースにある。神を感じるというと、やや違和感を感じる人も多いかもしれない。しかし、昨今はやりのパワー・スポットを愛でるような意味と解釈すればしっくりくるのではないか。

いまなぜ自然に神やパワーを感じる精神なのだろうか?もちろん、生活に疲れた現代人が癒しを求めていることもあるだろう。実は自然崇拝の精神が経済成長と環境保全を両立させる知恵として注目されているのだ。西欧的な近代工業文明の問題点は資源の一方的な消費と環境に与えるダメージにあると言われている。昨今の世界的な異常気象のように地球環境のバランスは大きく崩れてきた。その対処法として、自然と共存するという考え方の可能性がフォーカスされているのだ。

小林の作品を見ると日本はまだまだ自然豊かな国であることがわかる。環境が保存されている神社だけではない、21世紀日本に残る風景の中にも神を感じるような美しい草木、水の流れ、巨石のある自然環境が残っているのだ。その場所は生命の源でもある。私たちは、原初の記憶のなごりを感じるのだ。自然の中にあるパワー・スポットの原点でもあるのだろう。都市部のスーパー・フラットだけが日本の風景ではないのだ。
かつて杉本博司は、名作「Seascapes」シリーズの空と海の写真作品で、太古の昔と変わらない、そして未来も同じであろう時間の流れを表現した。同じようなスタンスで、小林はいま古代人が神を感じた風景を撮影しているのではないか。そして、未来の日本人が見る風景として残っていて欲しいとも願っているのだろう。
全作品は、個性的な質感と色合いを持つ伝統的な和紙と、19世紀の古典的手法プラチナ・パラディウム・プリントにより制作されている。写っているのは、今なのか過去なのか不思議な感覚が去来する。作品の風合いが観客の持つ時間軸を揺さぶるのだ。商業写真家が作品制作する時に、大型カメラで撮影してプラチナプリントで制作することは少なくない。しかし、撮影アプローチとプリント制作自体が目的化してしまい、見る側が作品にリアリティーを感じない場合が多い。本作の場合、プラチナ・プリントと作品コンセプトとは深く関わっているのだ。

彼の作品は一種の風景写真なのだが、その距離感覚が興味深い。 ステレオタイプの風景写真は雄大な自然を撮影しているが、彼は風景をスナップしている。ドラマチックとはかけ離れた、何気ないシーンだ。理想化された雄大な風景ではない、普通の中にある神やパワーを感じるシーンを見つけている。それゆえ撮影場所は重要ではないのだろう。特定地域のドキュメントではなく、一種のフィクションなのだ。ジョン・ゴセージの写真に近い視点を感じる。

都会生活者は気軽に神社や自然の中に身を置くことは難しいだろう。小林の作品を通して古代人が感じたであろう森羅万象に宿る神がみに心をはせて欲しい。一人ひとりの自然を敬う気持ちの意識化が環境保護の原点になるのだ。
本展は視点を変えると作家が発見した日本中の知られざるパワースポットを展示する写真展でもある。パワースポットについての解釈は様々あるので考えを強制することはしない。しかし、個人的には自然のリズムと一体化することは何らかの癒し効果はあると思う。
幸運をもたらす写真展のような、トンデモ説を唱える気はまったくない。しかし、来廊者が少しでも心が洗われるように感じてもらえれば幸いだ。

小林伸幸写真展「Nature Feel」の開催情報はこちらをご覧ください。

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