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2011年9月27日 (火)

東日本大震災から半年
写真家はどの様に向き合ったのか(1)

大震災後、多くの写真家が東北に入り写真撮影を行っている。その中で、私がずっとフォローしているのは、震災以来ずっと被災地の撮影を続けている仙台在住の写真家木戸孝子さんだ。彼女が高知新聞に最新作とエッセーを寄せているので紹介したい。

http://www.kokkophoto.com/TK2.pdf

彼女は四国の四万十市出身なので高知新聞なのだ。木戸さんは、一切の邪念がなく、心をオープンにして被災地、被災者と接している。その写真とエッセーを通してのメッセージは読者の心にストレートに伝わってくる。最近は、被災地や被災者の写真で売名行為を行う人もいるので、なにかほっとした気持ちになる。
今回の記事からは、震災のショックから少しづつではあるが彼女を含む現地の人が心理的に立ち直っていく過程が伝わってくる。彼女のライフワークの作品テーマは、普段見過ごしてしまうような日常にある輝きや美の瞬間を写真でとらえること。「Oridinary Unseen」としてまとめられた、ニューヨークなどの都市の一瞬の断片をとらえた作品は業界の玄人筋に高く評価されている。昨年には仙台のカロス・ギャラリーで個展を開催するとともに、インスタイル・フォトグラフィー・センターで行われた広尾アートフォトマーケットにも出展している。

彼女の写真だが、震災直後の時期はともかく、決して被災地の記録を意図していないのが特徴だ。今回の写真を見るにそれが明らかに伝わってくる。つまり、震災の写真ではない、彼女の写真になっているのだ。壊滅的な状況の中にも、見過ごしてしまいがちな、一種のパターンのような、まだ美とは言えないかもしれない状況があることを中判カメラで表現している。自然とともに生きてきた日本人。自然災害からある程度の時間経過後は、自然の美しい面を再確認しながら次第に復興してきたのではないかと思ってしまう。
そんな太古から続いてきたであろう日本人の心理的な回復過程が彼女の一連の写真から感じとれる。自然に痛めつけられたが、再び自然とともに生きかえる。神道や仏教の輪廻のようなセンチメントだ。大昔の日本人が持っていた自然を神として崇拝するDNAが今回の震災で再び無意識のうちに蘇ってきた、というのはやや言い過ぎだろうか。しかし記事中で紹介されている仙台在住の女性の、「きれいな東北を撮ってくれてありがとう」という言葉はそんな気持ちの表れの様な気がする。
これは、自然豊かな四万十市で生まれ育った木戸さんだから撮れたのだと思う。人工環境の中で育った都会の写真家には絶対に撮れないだろう。彼女はこれからも復興する被災地を撮り続けるという。もう少し時間が経過し作品をまとめるときが来たらぜひお手伝いしたいとお考えている。

3月22日の高知新聞はこちら。これも素晴らしいフォトエッセーです。
http://www.kokkophoto.com/TK.pdf

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2011年9月20日 (火)

2011年秋のオークション・プレビュー
アート写真市場のニューノーマルとは?

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欧州の債務危機が騒がれている。私も特に意識していたわけではないが、ギリシャ国債の1年物利回りが100%を超え、2年物が70%超えと聞いてさすがに驚いた。ちなみに日本国債の1年物は0.12%、2年物は0.14%くらい。ギリシャ国債の異常な高利回りは明らかにデフォルトを織り込み始めている感じだ。最近の日経の記事はそれにもかかわらず金価格が下落していると報道していた。原因は、欧州の銀行が資金繰りのために手前期日で金を売却しているからだという。銀行の資金繰りが逼迫していたリーマンショック前も同様の現象が起きていたらしい。
米国経済も厳しい状況が続いている。住宅市場は改善の見通しがたたず、雇用も失業率は高止まり、長期失業者が増加。それらの影響で消費見通しも悪化している。長期金利は、景気悪化懸念と中央銀行による低金利政策長期化の見通しから、10年債が2%割れまで低下している。株価は、経済見通しは悪いものの、金利低下によりレンジ内取引の乱高下が続いている。

さてこの厳しい市場環境下で、いよいよニューヨーク秋のアート写真オークション・シーズンが到来だ。そろそろ、オークション・ハウスからカタログが送付されてきた。
第一印象としては、厳しい経済状況のわりに各社ともにニュートラルからやや守りのスタンスかなと言う感じ。実はカタログを編集するのは入札の数ヶ月前になるので、相場環境の急変を反映させるのが難しいのだ。当然、夏場に起きたギリシャ情勢の変化とユーロ危機、米国の国債格下げなどは織り込んでいない。
全般的に、モノクロのクラシカルな作品が増えている。ファッションも同様でカラーのコンテンポラリー系はほとんどない。また、現代アート系もブランドが確立した作家の作品が厳選されている。カタログ編集も、作品価値を高めるために、イメージや、テーマの関連性を意識した配置が行われている印象だ。

今春に一番の売り上げだったクリスティーズが最も元気な感じだ。カタログ数は3冊から2冊に減少したものの、複数委託者のオークション出品数は、春の約419点から、約473点に増加している。注目作品は、アンセル・アダムスの珍しい5枚組の水墨画のような銀塩作品セット。予想落札価格は、20~30万ドル(@80、1600万円~2400万円)その他、ロバート・フランクの70年代にプリントされた複数作品、ユージン・スミスのコレクション約20点などだ。
ササビーズは今秋も複数委託者によるオークションのみの開催。出品数は、春の173点から微増の195点。目玉はこちらもアンセル・アダムス。代表作"Moonrise, Hernandez, New Mexico"の約76.5X101.6cmという巨大作品。このサイズの場合、サインが入らないことが多い。しかし本作は2回のサインされている超レア・アイテム。予想落札価格は、30~50万ドル(@80、2400万円~4000万円)
フィリップス(Phillips de Pury & Company)は、前回は好調だったが、今回は慎重な見通しの様子だ。出品数が261点から200点に減少している。現代アート系やコンテンポラリーのファッションが多いのだが、今回はクラシックな写真が目立つようになっている。不況で人気が落ちている分野を意識的に少なくしているのだろう。メインになるのは、リチャード・アヴェドンのダイランスファーによるビートルズ・ポートフォリオ。1968年1月号の雑誌LOOKマガジンの表紙になった有名作だ。予想落札価格は、35~45万ドル(@80、2800万円~3600万円)

リーマン・ショックのすぐ後に、経済界で「ニューノーマル」という表現が使われた。景気循環とは違い、危機後の経済はもはや前にはもどらない。まったく別物になるというもの。米国中心の自由化と規制緩和による市場主導型経済から、多極化した政府の役割が重要視される低成長経済へ移行するとのことだ。しかし、各国政府の財政支出により景気が盛り返し、一時期は以前のオールドノーマルに戻るかのような印象があった。しかしここにきてユーロの構造問題が顕在化して、やはりいまの状況は以前とは違うことが再認識された。
リーマン・ショック後のアート写真オークションは、上記のセンチメントが如実に反映された形で上下した。ここにきて低成長がしばらく続くことは多くの識者が認めるところ。今秋のオークションは、その本当のニュー・ノーマル時代の相場水準を探る重要なイベントになるだろう。

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2011年9月13日 (火)

日本の写真市場の現状
幅広い選択肢、消費される写真

過去1年間くらい、ギャラリーの仕事以外に、JPADSでフォト・フェアの企画、運営や、IPCでの各種写真展開催に携わってきた。おかげ様で多くの種類の人たちと接することができた。これら一連の活動を通して、日本でのアートの意味が欧米とはかなり違うことを改めて実感した。つまり、日本では様々な価値観のアートとしての写真が混在していているということ。 それらは混ざり合うことなく個別に存在しているのだ。ニューヨークなどは人種のるつぼではなく、共存するが混じり合わないサラダボールというたとえがあるが、それと同じ感じだ。

日本では、個人という存在が前提で、論理的な思考の上に構築されたアイデアや世界観を作品で他者に伝えていくというようなアートの考えが希薄だ。従って、特に写真はどうしても表層でとらえられる傾向が強い。感覚、イメージ、デザインによるインテリア系、作品クオリティが基準の工芸品系、などが多く見られる。それが、現代アート系、欧米ファイン・アート写真系、その派生の日本的ファイン・アート系などと混在しているのだ。同じようなたたずまいのギャラリーでも、実は価値観がみな違うのだ。
また、日本の特色として事業多角化の一環でギャラリー経営を行っているところもある。彼らは、広告宣伝を重視した事業スタンスをとる場合が多い。また空き不動産の有効利用のためのギャラリーも多い。ギャラリー以外でも、デパートの美術画廊、同インテリア小物売り場、催事場、フレーム専門店、レンタル・スペース、インテリア・ショップ、カフェなどでも写真は売られている。
欧米だと、アート系が、現代アート、伝統的写真にカテゴリー別けされ、それとは区別されて業販系があるくらいだ。日本はこれらがすべて混在して、膨張しながらカオス化している感じだ。

写真の取り扱いギャラリーでも、同じ考えを持って業務を行う業者数は思いのほか少ない。業界団体は、基本的な考え方やビジネススタイルが同じ業者の集まりのことだ。日本ではこの前提がみな違う、つまり同じ写真の扱いギャラリーでもみな分野が違うともいえる。
日本のフォト・フェアでアート写真の啓蒙活動がうまくできないのは、様々な思いの業者が、ただ写真も販売しているという理由で、イベント業者の掛け声で集まっているからだ。つまり全体で一貫した基準の情報発信が難しいということ。従ってアート・フェアは、見る人が喜ぶ企画を前面に立てた、観客動員数を目指したイベントになる。

この状況は、作品を作る写真家、購入する消費者にも当てはまる。それぞれの市場にそれぞれの考え方があり、それをサポートする、作家、ギャラリー、消費者が存在するということだ。写真家が写真を売る場合、その中のどの分野を目指すかは非常に重要になる。私どもで開催する、ワークショップでもここの解説には時間をかけている。
日本的だなと感じるのは、モラル感覚と同じようにそれぞれの考えを他人も共有するはずだと信じている人が多いこと。個別の基準を持つ様々な村が乱立しており、独自に勢力を拡大させようとしているイメージだ。

これが現在の日本の写真市場の現状認識だ。これを欧米市場と比較しても意味がないだろう。私は単純に市場が違うと理解している。写真を売り買いする様々なチャンネルが存在する環境は、写真家にとって欧米よりも写真を売ること自体が容易かもしれない。あまり高い目的を掲げずに、正しい現状認識を持って、確信犯で売っていくのも一つの考え方だ思う。
写真を取り扱う者としては、この中から将来にオークション市場で取り扱われるような人が輩出してほしいという希望を持っている。欧米市場でも、写真家が売れるきっかけは表層のイメージによる場合も多い。その後、写真家が作家として成長していくためには、ギャラリーやディーラーの役割が非常に重要になると考えている。
これは写真というインテリア関連グッズの商品開発ではなく、時間のかかる作家のブランド作りをおこなうことだ。巧みな仕掛けを考え、実践することが必要で、商売人ではなく、専門家しか担うことが出来ない仕事だろう。課題は、この部分で活躍できる人材作りと環境整備にかかっている。具体的に考えているアイデアは折に触れて紹介していきたいと思う。

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2011年9月 6日 (火)

キューバのシークレット・ライフ
マイケル・デウィック"Habana Libre"

Blog

先日、マイケル・デウィックの新刊"Michael Dweck: Habana Libre"を紹介したら写真展の問い合わせが多かった。写真展は、ブリッツで12月2日(金)よりスタートする予定です。

新刊に収録されているのは、ナイトクラブのパーティー、若者のナイトライフ、スケートボーダー、ファッションショー、音楽ライブ、ビーチライフ、サーフィンなどのシーン。作品をみて多くの人は、マイアミかリオという印象を持つだろう。しかしすべて共産主義国キューバの写真なのだ。キューバと言うと、ライ・クーダとヴィム・ヴェンダース監督の「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」の、古い街並みと50年代のアメリカ車が走っているというイメージを持つ人が多いだろう。
いまでも多くの住民は経済的には非常に貧乏だ。しかし、キューバの社会には違う面があるという。それはアーティスト、俳優、モデル、ミュージシャンたちの階層。デウィックが撮影したのは、西側はもちろん、キューバ内でも知られていない同国内に存在するクリエィティブな特権階級のシークレット・ライフのドキュメントなのだ。どうも実際のお金が平均以上の生活のために必要なのではなく、社会的なコネクションが重要らしい。お互いに才能を認め合った多分野のクリエイティブな人たちのコミュニティーということだろうか。
そのような人材が育った背景には、1959年の革命以来、政府がキューバ文化の振興に力を入れたことがあるようだ。本書に収録されている、"キューバは経済的には貧乏だが、人材的には豊かだ" というUNICEFのLimpias氏のコメントがそれをよくあらわしている。私はこの視点こそは、「お金がなくてもそれぞれが自分磨きをして魅力的になれば、仲間が集まってきて幸せになれる」、という不況で苦しんでいるアメリカ人へのメッセージではないかと感じている。私たち日本人にも当てはまるだろう。このあたりの事情は写真展開催の前にデウィックに聞いてみたい。

デウィックの写真集はプレミアムが付くことで知られている。"The End: Montauk"(2004年刊)の帯付き初版などは、誰が買うのだと思うくらい高額になっている、"Mermaids" (2008年刊)も価格上昇中だ。"Michael Dweck: Habana Libre"も初版限定3000部なのでフォトブックコレクターは要注意だ。なお、プリント付きの箱入り特装写真集も限定100部発売予定。収録作品イメージや値段はまだ未定。詳しい情報がわかりましたらご案内します!

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