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2011年11月 8日 (火)

歴史を作品に取り込む
トミオ・セイケの写真世界

Blog
(C)Tomio Seike

アート作品において、古いということ、つまり歴史が積み重なっているだけである程度のブランド価値があると思う。しかし、単に古いだけではだめで、自らの想像力でさかのぼれる位の過去であることが重要だ。その範囲は人によって違うだろうが、現代人だと過去100年くらいではないか。それ以上古くなると、私たちはリアリティーを感じられなくなるのだ。
アートはコミュニケーションだとすると、その認識可能範囲を超える作品は骨董的な価値の方が強くなる。また、これには歴史と伝統が継続されていることが前提となる。日本の様に敗戦で過去が否定された国の場合、期間はもっと短くなる。たぶんコミュニケーションできるは戦後の時期だけである。
実際、明治や大正時代の写真をみても懐かしいという気持ちは湧いてこない。しかし、欧州のベルエポック時代やアジェのパリ位までの古い写真をみると不思議と親近感のような感覚を持つ。欧米の古写真をアートとしてインテリアに飾る人はいるが、日本の戦前の写真は資料的に収集されるのが一般的だ。たぶん現代日本人は分断された自国の歴史よりも、戦後に紹介された欧米の歴史文化の延長線上に現在をとらえているからではないか。
海外旅行で訪れたりテレビで紹介される欧州にはいまでも古い街並みが残っている。これもその感覚を強化しているのだろう。もちろん欧米でもファッションは大きく変化しているが、それは着物から洋服へほどの革新的変化ではない。

不況が続くと私たちは基本に戻る。新しいことや変化よりも伝統や現状維持に価値を見直すようになるのだ。だから古いものを大事にする一方で新しいものも選択的に取り入れる西洋の価値観がいま見直されている。
トミオ・セイケが追求しているテーマも時間であり、西洋の古いものを大事にする価値観だ。時間をテーマにしている作家では杉本博司がよく知られている。彼は、原始人が見たのと変わらない風景、また未来人も見るだろう風景として海景シリーズに取り組んだ。
トミオ・セイケの被写体はその時間軸がもっと短い。100年前に欧州の人が見たであろうランドスケープ、シティースケープをいま撮影しているのだ。1992年の「Paris」や、その延長上にある2010年の「Untitled」では、欧州都市の時代を経ても変わらないシーンを撮影。想像力が及ぶ範囲の歴史と伝統が息づいているシーンを撮影することで戦後日本の経済優先の価値感を疑った。
新作の「チャールストン・ファームハウス」では、テーマをさらに絞り込み、20世紀前半英国の作家、知識人の生きる哲学、思想に注目。その傾向は、「Glynde Forge」2006年、「Eighteen Months」2009年あたりから見られるようになっている。

「チャールストン・ファームハウス」で問題提起しているのは、長期不況とそれに続く大震災により引き起こされた日本人の内面の不自由さや危うさだ。世界史のなかに現在日本人が頼れるかもしれない考え方の可能性を見つけだし、それを作品として提示している。熟練した作家による心難い演出だと思う。しかし、撮影場所のイースト・サセックスや20世紀前半英国のブルムズベリー・グループの活動などは、現代日本人にはあまり馴染みがないだろう。
またインテリア中心の写真は決して派手さはない。しかし、ギャラリーの訪問者は絶えることがないのだ。数はそんなには多くないが、現在の日本社会が不自由だと感じる人の心に作家のメッセージは確実に届いているのだと思う。また日本のオーディエンスの写真理解力が進歩していることも実感する。来廊者の多くはじっくりと時間をかけて鑑賞している。作品と対話しながらいまの自分を見つめ直しているのではないだろうか。それはアートが元気を与えてくれる、というようなことではない。個人がどんな不安な社会状況の中でも同調圧力や多数の考えに流されることなく自立して生きて行くことが必要だと気付かせてくれる。地味だが飽きがこない非常に洗練された写真作品、これが本展のセールストークなのだ。

トミオ・セイケ「Charleston Farmhouse」展は、11月19日(土)まで開催中です。
営業時間は1時~6時、日、月休廊。

写真展の詳しい内容は以下でご覧になれます。
http://www.artphoto-site.com/inf_press_51.pdf

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