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2012年2月14日 (火)

マイケル・デウィックの写真世界
ファッショナブルの背景にある深い洞察

Blog
Club Tropicana Dancer, Habana (C) Michael Dweck, 2010 禁無断転載

マイケル・デウィックのハバナ・リブレ展も残すところあと2週間となった。まだ見てない人はどうぞお見逃しがないように!

彼の一連の作品は、表層だけを見ると軽い写真だと勘違いされることが多い。
最初の写真集「The End:Montauk NY」(2004年、Harry N. Abrams刊)が出た時、多くの人がサーフボードを抱えてモントークのビーチを走るオールヌードの女性のイメージに魅了された。しかし、作品としての評価は必ずしも高くなかった。きれいなモデルを砂浜で走らせている、作り物のファッション写真だと考えられからだ。日本でもそれは同じで、年末の洋書バーゲンで割引価格で売られていたのを良く覚えている。実は私も最初はブルース・ウェーバー風のファッション写真だと思っていた。
しかし、彼の作品はすべてモントークでのドキュメントがベースだった。ニューヨーカーのデウィックは子供の時からロングアイランドの先端にあるモントークを訪れていた。この地はかつて地元サーファーたちが集う東海岸のサーフィンのメッカだった。しかし、いまでこそ観光地化したモントークにも、時間や場所によってはかつての残り香が残るシーンが現れるのをデウィックは発見した。古き良き時代のフルサイズのアメ車、ロングボードなどを背景に、サーフィンとともに生きる美しい男女のライフスタイルを21世紀のモントークで紡ぎあげたのが本作だったのだ。
プロジェクトが成功したのは彼がサーファーのコミュニティーの一員になれたからだ。最初はよそ者扱いをされて、いやがらせにもあったそうだ。しかし、彼の情熱が伝わりサーファー・コミュニティーの内側からのドキュメントが実現した。写真集の中には古き良き時代の強いアメリカのエッセンスが凝縮された世界があった。表紙の写真は、かつてのモントークはオールヌードでサーフィンが出来るほど自由な場所だったと言うことなのだ。いまやそのような世界は存在しない。それゆえに現代人にはより一層輝いて魅力的に見えるのだ。
2001年の同時多発テロで自信を失っていたアメリカ人はデウィックの世界に瞬く間に魅了されてしまう。写真集「The End:Montauk NY」は一時1000ドルの高値で取引され、表紙を飾った"Sonya Poles"の大判作品は、2011年4月のフィリップス・ニューヨークのオークションでは3万ドルで落札されている。

2番目の作品が2008年の「Mermaid」(Ditch Plains Press刊)だ。これも多くの人が、モデルをプールで泳がせて撮影したと誤解した。しかし、これらは全てがフロリダの小さな漁村アリペカで水と共に生活する現代のマーメイドたちをドキュメントした作品だった。彼女たちは地元では「ウォーターベイビーズ」と呼ばれており、本当に裸で泳いでいて、水中に5~6分も潜っていられるそうだ。
デウィックは現代に生きるマーメイドたちを通して理想のアメリカン・ガール像を探求した。ブロンドヘアーの若い女性たちは、水中空間を背景に光、影、反射、水のレンズ効果を駆使することでまるで抽象絵画のように表現されている。また投光機などの機材が持ち込まれて行われた夜間の水中撮影では、彼女たちの美しい姿が闇の中にシンプルかつモダンに浮かび上がってくる。ほとんど顔が写されていないことが、見る側のイマジネーションをかきたてる。21世紀は価値観がばらけて絶対的な美人像がない。この時代を象徴するファッション写真とも言えるだろう。

現在展示中のHabana Libreはデウィック的には上記2作に続くアイランド3部作の完結編。
撮影されているのは、ナイトクラブのパーティー、若者のナイトライフ、スケートボーダー、ファッションショー、音楽ライブ、ビーチライフ、サーフィンなどのシーン。
全2作同様に本作も最初は、マイアミかリオで撮影されたファッション写真と多くの人が勘違いした。しかし、すべて共産国家キューバのクリエイティブ・クラスと言われる人たちのドキュメントなのだ。
キューバは、ライ・クーダとヴィム・ヴェンダース監督の「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」の、古い街並みと50年代のアメリカ車が走っているというイメージが強い。実際いまでも多くの住民は経済的には非常に貧乏だ。しかし、キューバの社会には違う面があるらしい。それはアーティスト、俳優、モデル、ミュージシャンたちの階層。デウィックが撮影したのは、西側はもちろん、キューバ内でも知られていない同国内に存在するクリエィティブな特権階級のシークレット・ライフのドキュメントなのだ。
撮影にはキューバ政府が非常に協力的だったという、カメラ機材の持ち込みにも配慮があったそうだ。その背景には、高齢のフィデル・カストロ後のキューバの青写真があるようだ。上記のクラスの一員には、カストロやゲバラの息子も含まれる。将来的に文化観光事業を国の根幹の産業に育てたいという意図があるようだ。
なお同展はハバナのFototeca de Cuba museumで2月24から開催される。これはキューバ革命後、アメリカ人写真家による初めての個展になるという。
興味深いのは、キューバでは実際のお金よりも社会的なコネクションが平均以上の生活に重要らしいということ。お互いに才能を認め合った多分野のクリエイティブな人たちが助け合うコミュニティーということだろうか。私はこの視点こそは、現代アメリカ人に対する作家デウィックのメッセージだと理解している。リーマンショック後のアメリカ人は中間層が経済的に苦境に立っている。しかし、本作の幸せそうな表情のキューバ人を見ればわかるように、それぞれが自分磨きをして魅力的になればお金がなくてもハッピーに暮らせることを示しているのだ。これは日本人にもあてはまるだろう。

版元によると「Habana Libre」の在庫が早くも数100部単位になっているとのこと。あとは流通在庫のみになるらしい。写真展が世界各地で開催されていることが売り上げアップにかなり影響しているらしい。他の2冊の写真集のように売り切れが近い予感がする。

マイケル・デウィックの「Habana Libre」展は、2月25日(土)まで開催中です。
ぜひ、ファッショナブルなイメージの背後にあるデウィックの深いメッセージを読み取ってください。写真集「Habana Libre」、「Mermaid」はまだ少数ですが在庫があります。ともに作家のサイン入りです。

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