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2012年5月22日 (火)

社会変化を作品テーマに取り込む
現状認識の次に未来を提示できるか?

Blog
(C)Terri Weifenbach /RAM

テリー・ワイフェンバックの新作は中間層の没落を意識した作品だ。その社会的状況については専門家が様々な解説を行っている。個人的には、サラリーマンの経験から次のように理解している。
私の新入社員時の仕事は事務が中心だった。コンピューターは存在したが、大型の企業向けのものでデータの入力や情報検索も仕事の一部だった。当時の事務はかなり複雑。それをこなすのには熟練が必要で会社ごとに人材を育成するのが一般的だった。それは工場の労働者も全く同じ構図だったと思う。それゆえ、当時のサラリーマンは長期雇用と年功序列をもとに安定した生活を享受出来た。これがいわゆる中間層。中流も同じ意味だ。いま思い返すと驚くべきことだが、当時の労働者は時間を企業に売っているという感覚があった。自由時間には消費で自分らしさを追求できると本当に信じていた。いまの中国はそんな感じなのだろう。
その後、資本主義がニューエコノミー、いわゆるポスト工業社会へと移っていく。労働者をとりまく環境が変化するわけだ。それは国境を越えて資本や人材が移動する、グローバル経済であり、インターネットやパソコンが普及する高度情報化社会の到来なのだ。社会とともに消費者も変化する、それまでの一元的な大量消費、大量生産から、より多様で個性的な生産と消費が主流になる。生産は、機械化、IT化が進み、労働コストの安い場所へとシフト。結果的に一般商品の販売価格は下がり続けることとなった。先進国では、それまで中間層が担っていた業務が減少。仕事は、新しい価値を生み出すものと、定型的な単純労働へと二分されるようになった。 しかし、いままでの中間層は誰でもが創造できる労働者になれるわけではない。多くは貧困層へと没落していったのだ。
この世界経済の大きな流れは1980年代に米英で始まった。そして90年代後半から2000年以降には日本社会も巻き込まれることになる。構造改革を目指した小泉改革はその流れを推し進める試みだった。米英社会が日本の未来図とすると、日本の中間層没落はまだ始まったばかりだろう。

さて写真家は常に社会の変化を作品テーマとして取り上げる存在だ。欧米では、上記変化をテーマにした作家が数多くいる。私の知る範囲でも、全米に広がるロードサイドのモールやショップなどのドキュメントを通して消費社会の変化を問うジェフ・ブロウスや、ブライアン・ウールリッチがすぐに思い浮かぶ。この変化をより世界的に俯瞰的にとらえているのがアンドレアス・グルスキー。彼はグルーバル経済の進行と最新の消費の現場をテーマにしている。その影響を南欧に見出すのがエドガー・マーティンス。彼はその後、米国の住宅サブプライム・ローンをテーマにした"This Is Not a House"を発表している。オリボ・バルビエリも自然観光のツーリズムを消費の一環としてとらえている。広く解釈すると、ワイフェンバックの新作もこの流れの延長上にあるといえる。

このテーマに取り組む写真家の多くは、社会変化の現状認識とその提示で終わっている場合が多い。はたしてワイフェンバックはその先になにかを伝えようとしているのだろうか。私の気になるのは、軽くないテーマに反して作品群が明るくて心地よいことだ。このギャップは何なんだろうか。彼女はフォーカスが一点に合い周辺がぼやけているスタイルで、一貫して自然を取り込んだ写真を撮影し続けている。本作でもそのスタンスが不動だ。私はこれが明るい庭での瞑想に近いと感じている。その行為は目を半開きにするので彼女の写真のような雰囲気になる。瞑想は過去や未来に囚われている自分を現在に取り戻す行為。私はそこに、いまこの時間に集中すること、そして自然の一部としての人間が強く意識されていると感じる。何らかの理念に囚われるよりも、その方が自由な精神で社会生活を送れるという見立てではないか。理念とは、たぶんアメリカン・ドリームであり、宗教だと思う。アーティストとして、資源を消費して経済成長を続けるいままでのシステムに限界を感じていることもあるだろう。本作では彼女の一貫して発していたメッセージがより明確になったと感じている。

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