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2012年10月30日 (火)

アーティストに求められる素養
バランスのとれた思いやりのある性格

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ショーペンハウアーの「『幸福について」(新潮文庫)という古典本が今年の春にミニブレイクした。本の帯によると、きっかけはテレビ東京の経済番組「ワールドビジネスサテライト」の本を紹介するコーナーで作家の本谷有希子さんが取り上げたことらしい。私は、「大反響いま売れています」のキャッチコピーにひかれてアマゾンで購入してみた。
アルトゥルト・ショーペンハウアーは19世紀のドイツの哲学者。彼の考えは欧州のペシミズムの源流になったともいわれる。文章はそんなに難解ではないが、内容は時間をかけて集中しないと理解できない。もっと分かりやすい本はないかと探した結果、彼の発言のエッセンスをシンプルにまとめた「ショーペンハウアー大切な教え」(イースト・プレス)を見つけた。現在、2冊を併せて読み進めている。彼の人生論にはアート関係の人にも参考になるアドバイスが書かれている。これから機会を見つけて紹介していきたいと思う。

"他人に対するとるべき態度"として以下のような項目がある。
「礼とは道徳的にも知性的にも貧弱なお互いの性質を互いに見て見ぬふりをしてやかましくとりたてないようにしょうとする暗黙の協定である。礼とは利口さ、非礼は愚かさである。敬意を表するに値しない人間にも、全ての人間に最大限の敬意いを表することを要求し、関心がないのに、関心を装うことを要求するという意味で礼は実行の困難な課題である。侮辱とは相手に敬意をいだいていないことの表明だ。世の常の礼は仮面に過ぎず、その下では舌を出していることを念頭におけ。礼をわきまえない人間は裸になったようなようなもので見られた様ではない。」

ショーペンハウアーによると、関心がないのに、関心を装うのが礼というわけだ。なかなか本質をついたやや皮肉が強い人生哲学だと思う。これを一番実践しているのはビジネスマンだろう。会社を代表して行動するのできわめて礼をわきまえている風に見える。彼らは個人対個人でつきあうのではなく、メリットがあるかないかで判断して会社の肩書で付き合いをしている。ビジネスを円滑に行い、自分自身や会社を不利な立場にしないように、相手の立場や意見を尊重して、不愉快な思いをさせないようなこころ配りを行う。
学生が会社に入るとその点を教育される。一流企業、大企業ほどそれは徹底している。まず彼らは若くても笑顔での挨拶ができる。それは自然にできるのではなく、意識的になされるのだ。就職活動の競争を勝ち抜いた学習能力の高い人がさらに高い社会性を身につけるわけだ。

個性が尊重されるアート関係の仕事はその対極のように思われている。アート志望の若者のなかには学生と変わらない態度の人もいる。相手に挨拶しない、関心を表さないのは敬意を持ってないことの表れだ。自分の考えだけを話したり、相手の意見をきかないどころか平気で反駁、否定する人もする。自分のことだけを一方的に話されては聞く側はうんざりしてくる。不愉快な気持ちになる人とは誰しも距離を置くようになる。会社ではそんな若者を上司が叱り、鍛え直すわけだ。しかし、組織に属していないと誰も社会性のなさを指摘してくれない。
ショーペンハウアーは、「交際している人が不快な態度をとったり、腹を立てる態度をとった場合、よほど大事な人間でないかぎり永久に付き合わないことが必要だ。」と書いている。ビジネスの世界では、単純にそんな個人とは距離を置くようになるだけだろう。

アーティスト志向の人は自分の気持ちに素直すぎるのだ。これは単純に世の中の仕組みを教えてくれる人が周りにいないからだと思う。私はアート関係の人は一般ビジネスマン以上に礼をわきまえた方がよいと考えている。
ワークショップでもよくいうことなのだが、ビジネスマンはたとえ性格が悪くても会社組織が身分を守ってくれる。しかし、礼をわきまえないアーティストは誰も守ってくれない。勢いがある時はメリットを感じて付き合う人もいるだろう。しかし、勢いがなくなったら落ちるところまで簡単に行ってしまう。

ニューヨークのアート・ディーラーのアレックス・ノバック氏の上げているアーティストに求められる条件は非常に興味深い。彼は"バランスのとれた性格"を"才能"よりも高い優先順位に上げている。才能があればどんな態度でも許されるとの考えは欧米のアート界では通用しないようだ。また、才能があることは当たり前で、評価はそれ以外の要素で決まるという意味でもあると思う。

実際に私の会った成功しているアーティストはみんな、相手に対する気遣いができ、話していて気持ちよくなるような性格の人ばかりだ。成功者から礼を尽くされたら誰でもその人を更に好きになり応援する。コレクターやディーラーは作品の購入を考えるだろうし、マスコミ関係者ならば良好な作品評を書くことになるだろう。売れる人の人気が更に上昇していく背景には本人の態度が影響しているのだ。

しかし、ショーペンハウアーが指摘しているように、売れている人の性格が元々よいというわけではない。彼らはあくまでも意識的に自分に有利になるように行動しているのだ。なんで彼らが他人に礼をつくせるかというと、彼らが高い目的意識を持っているからだと思う。
アーティストは、自己表現を通じて自己実現ができる選ばれた人なのだ。彼らにとって、自分の自意識の充実などよりも、そのキャリアを追求できることのほうが人生でより重要なのだ。だからそのために必要なら、またメリットがあると考えれば、確信犯で自分の嫌いな人に対しても関心があるように装うことが出来るだ。それが出来ない人は、結局アーティストの幻想だけを追っているのではないだろうか。彼らの多くは、高い自己評価と社会評価とのギャップが広がることへの不満が態度に表れるようになる。結果的にさらに人心が離れていくという悪循環に陥ってしまうのだ。

アーティストは自らの考えを追求して表現していくのが仕事だ。しかし、情報化社会が進行したことで考える力が急速に失われているともいわれている。 私は優れたアーティストが日本から生まれない原因はここにあるのではないかと疑っている。
今回取り上げたショーペンハウアーのメッセージは一回読んですぐに理解できる内容ではない。上記の本谷有希子さんは、「何度も繰り返して読んでいる」という。何度も読むとは、そのたびに自分の頭で作家のメッセージの意味を考えることだと思う。原点回帰ではないが、あんがい古典を読むことがアーティストの考える力を鍛えてくれるのではないだろうか。

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