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2013年2月 5日 (火)

百瀬俊哉「サイレント・シティースケープ」展
いま明かされる撮影エピソード

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ギャラリーでは百瀬俊哉「サイレント・シティースケープ」展を開催中だ。先週本人が九州より上京してくれて色々な撮影エピソードを聞かせてくれた。

撮影地は特に意識して決めるのではなく、単に行きたいところに行くという。現地に着いたらまず市内地図を買って全ての道路網を調べ、ひたすら歩いと通りをつぶしていく。それは場合によっては1日8時間にもおよぶ。彼の写真には夕方や夜が多い。日没寸前で風景を最も美しく表現できるマジック・アワーを意識的に狙っているというよりも歩いているうちに日が暮れてくるようだ。
日本との時差がある外国での撮影なので、当然昼間でも睡魔が襲うこともあるだろう。その上、4×5inの大判カメラを持っての移動は大変な重労働だ。途中で疲れ果てて意識が朦朧としてくるのではないかと想像してしまう。
写真家である以上、どうしても良い写真を撮りたいという気持ちが本能的にある。しかし、歩き続けるうちにエゴが消えていく。そのような心身状況の訪れの中で彼の写真作品が制作される。シャッターを押した瞬間は覚えてないかもしれない。彼にとっては作品以上に撮影過程が意味を持つのだ。撮影セッション中、彼は宇宙もしくは自然のリズムと一体化し、過去にも未来にも囚われずに真に今という時間を生きているのだ。彼の「サイレント・シティースケープ」はその記録でもある。
以前、この一連の過程は座禅や瞑想のような行為に近いのではないかと分析した。それは西欧心理学的では、20世紀を代表する心理学者ミハエル・チクセントミハイの唱える「フロー」のような精神状態に近いのではないだろうか。

百瀬の作品は私たちが抱く都市や街の魅力は人間が作り出す一種の幻想であることに気付かせてくれる。都市が魅力的に見えるのは、そこでは金銭力、社会的名声、愛情などを獲得でき私たちに幸せにしてくれると考えるからだろう。しかし都市は逆にそれらが獲得できないことで不幸にもなるところなのだ。実際のところ、私たちの人生では多くを望んでも全てを手に入れることなどない。幸せになれると考える都市で実際は私たちは悩みを抱え不幸になっているのかもしれないのだ。もう気付かれただろう。つまり都市とは人間の人生のことなのだ。
百瀬の「サイレント・シティースケープ」は人間が幸せになりたいと望む人生も実体のないものであることを示唆している。西欧の風景写真の伝統を踏まえつつ、 東洋の禅的な世界観を表現している点が彼の作品の大きな魅力なのだ。

撮影の苦労話も聞かせてもらった。
特に頭が痛いのは空港での荷物のX線検査だという。彼の経験則ではある程度の回数まではフィルムに影響が出ないとのこと。しかし、乗り換えが多いとどうしても検査の回数が増えてしまう。特にニューヨークの同時多発テロ以降は機械の精度も高くなり状況は厳しくなったようだ。確かに大判カメラと大量のフィルムを持ち込む旅行者は怪しく見えるかもしれない。デジタル時代に育った若い空港職員はフィルムの知識がないので説明に苦労するという。また彼は古く性能が悪そうな検査機械を探してその列に並ぶ工夫もするらしい。
実際に、「サイレント・シティースケープ」のなかで北米で撮影された作品はほとんどが90年代なのだ。百瀬の最近の撮影地が先進国ではなく、発展途上国が多いのはこのことによる。たしか現代美術家の杉本博司が代表作「Seascapes」シリーズを止めたのはX線検査の強化によると聞いたのを思い出した。

今月上旬から百瀬は南太平洋の小国ツバルに新作撮影に行くという。海抜が低く気候変動による海面上昇が問題になっている国だ。彼はたぶん海と夕焼けの写真は撮らないだろうと言っていた。ツバルは、シティースケープよりも自然風景という感じがする。もしかしたら「サイレント・ランドスケープ」のような新しいシリーズになるような気もする。今から楽しみなツバルの新作だ。

百瀬俊哉「サイレント・シティースケープ」展は3月23日までブリッツ・ギャラリーで開催中。
日曜、月曜休廊、営業時間 午後1時~6時、入場無料。

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