« 2013年3月 | トップページ | 2013年5月 »

2013年4月30日 (火)

京都グラフィー(KYOTOGRAPHIE) レビュー
写真鑑賞で古都京都を再発見!

「京都グラフィー 国際写真フェスティバル」は京都市内12会場で、約10カ国のアーティストによる写真作品を展示する今回が第1回目のイベント。フランスの「アルル国際写真フェスティバル」をモデルに企画され、オーディエンスが展示会場を順に回ることで古都京都の魅力を再発見してもらおうという趣旨。写真ファンだけでなく、インテリア、デザイン、建築に興味ある人も十分に楽しめるイベントなっている。

「京都グラフィー」は、写真には様々な種類のものがあり、それらを見せる空間、展示方法も多様なことを提示してくれる。
ファインアート系の写真は作品保護・保存を重視するので制作手法や展示全般にわたり決まりごとが多く案外自由がない。作品コンテンツを最重視するので、見せる空間はスポットライト付きのホワイトキューブ。シンプルデザインのアクリル付きフレームに入れて展示されるのが一般的だ。しかし、写真は見せる側の発想によってはアート分野の専門家が思いもよらない環境や方法での展示が可能なのだ。日本ではそのような空間デザインを意識した写真展示となるとアマチュア写真家や広告写真家のものが中心になってしまう。アート性が高くないことを見せ方や環境で補おうとしているのだ。どうしても、デザイナーのキャラの方が目立つ展示方法重視の写真展や、趣味の写真のグループ展のようなチープな雰囲気の展示に陥ってしまう。
しかし本フェスティバルの主要展示では専門家がキュレーションを担当。優れたコンテンツの写真作品による特異な空間と方法での展示を見事に成功させている。
フランス人キュレーターのクリスティーヌ・シベールが高台寺塔頭 圓徳院の細江英公と有斐斎 弘道館のニコラ・ブーヴィエを、京都造形芸術大学の竹内万里子が京都文化博物館別館のマリック・シディベを手がけている。京都なのだがどの会場も古い感じはない。むしろ写真の存在により西欧的なアカデミックな香りかつモダンさを感じられる空間になっていた。それには京都の街とマッチしていた黒と赤を基調とした展示関係やグラフィックのデザインが大きく貢献していたと思う。

今回の展示では空間デザインが非常に重要な役割を果たしている。その意味で、京都文化博物館別館で行われているマリック・シディベがメイン展示といえるだろう。
シディベは欧米の多文化主義の流れで注目されるようになったマリ人写真家。2003年にハッセルブラッド写真賞を受賞して知名度はいまや世界レベルだ。ここの空間構成を担当したのがクライディオ・コリッチ。彼はたくましく、また混沌としたアフリカ・マリの魅力を、明治時代のたたずまいを残す旧日銀京都支店の古いビルディングの中に再現しようとしていた。

Blog5

展示スペースは天井が高い講堂や体育館のような広い空間。建物入り口の間仕切りの壁面には色とりどりの布を吊るしたり、壁面やサロンスペースの複数の腰掛をカラフルにすることでアフリカの雰囲気を演出している。
シディベの写真はほとんどがモノクロなのだが、モノクロ写真はコーディネートによっては多色とうまくマッチするのだ。会場にはシンプルだが永遠にリズムが繰り返される感じのアフリカ音楽がオロゲ社のミニマムデザインのスピーカーから流れ、またシディベのマリのフォトスタジオが再現されていた。アフリカには植民地時代の旧宗主国のコロニアルスタイル古いビルが残っている。彼の作品とこの古い建物とは悪くない取り合わせに感じた。
代表作品は巨大サイズに引き伸ばされて高い位置に展示。また、貴重なヴィンテージ・プリントが赤く塗られた壁面にフレーム入りで展示されていた。アート的にはこれが本フェスティバルのメイン展示なのだと思う。

有斐斎 弘道館のニコラ・ブーヴィエの斬新な写真展示も必見だろう。

Blog3

ブーヴィエ(1929-1998)はスイス人旅行家、写真家。50年代、60年代に日本に滞在している。今回は当時の日本社会を撮影したモノクロ作品が展示されている。展示場所の弘道館は京都御所の近くの数寄屋造の邸宅。かつて学問や芸術をめぐって多くの人が集った学問所だったとのこと。
ここの空間デザインは同じスイス人のプロダクト・デザイナーのフランツ・オリバーによる。
古風な数寄屋造りの畳敷きの室内には、複数の特製の木製写真スタンドが置かれており、その上に横長の写真作品が展示されている。

Blog2
*KYOTOGRAPHIE カタログより

カタログには、「文机風写真スタンド(Low Picture Stand)」と記載されており、デザイナーの指示により職人の溝上吉郎が制作したとのことだ。この台は高さが低いので来場者は腰をかがめたり腰をおろして鑑賞することになる。眼を上げると、その背景には簾越しの美しい日本庭園が広がっている。まさに圧巻の展示空間だ。床の間には、写真がプリントされた和紙が竹を通して化粧版に留められて掛け軸の佇まいになっている。

同じくフランツ・オリバーが手掛けたのが高台寺塔頭 圓徳院の細江英公の展示だ。

Blog1
*KYOTOGRAPHIE カタログより


Blog6

ここは東山にある高台寺の塔頭のひとつ。豊臣秀吉の没後、正室・高台院(北の政所ねね)が移り住み、終生を過ごした寺として知られる。大名や禅僧、茶人、歌人、画家、陶芸家などが集った桃山時代のサロン的な場所だったとのこと。21世紀の今そこに写真を持ってくるとは心難い演出だ。細江の代表作は、床の間、蔵など屋内のさまざまな場所に、襖絵、巻物、掛け軸、屏風、着物をかけるラックなどを駆使して展示されている。
その中で最も目を引いたのが、掛け軸と巻物を組み合わせた展示。作品のポートフォリオを巻物にタテ方向に連続してプリントし、床の間のから吊下げて手前の展示台に敷きのばしている。その長さが様々に調整できて展示にメリハリをつけている。

二条城 二の丸御殿台所には銀座のシャネル・ネクサス・ホールがNAOKIの「MOOD-9GIRLS」を展示。

Blog4

展示場所で撮影された最新作も追加されている。シャネルは本フェスティバルのメイン・スポンサーの1社だ。シャネルというブランド力と社長リシャール・コラス氏の熱意が京都の人たちを動かしたことは想像に難くない。
NAOKI作品は会場の広いスペースに合わせるべく、2枚~3枚のシートが貼り合わされて天井を走る梁からつり下げられている。間接光の優しい光により写真が浮かび上がるのは昨年の銀座での展示と同じだ。NAOKIの大きな作品テーマはクール・ジャパンを象徴している「カワイイ」。その不完全さを愛でる眼差しは、日本古来の「侘び」、「寂び」などの美意識の延長上にある。シャネルがNAOKI作品を選び二条城で展示するのは、その作品テーマを意識してのことだろう。日本の伝統的美意識をモダンに再解釈した作品を世界遺産の一部で見せるのは“歴史伝統を背負うことは常にそれを新たに解釈し続けること”というメッセージなのだ。革新的作品と歴史的作品を交互に展示しているシャネル・ネクサス・ホールは、本展示を自らのポリシーと重ね合わせている。
※二条城会場のみ、4月24日(水)~5月12日(日)の開催となる。
なお、二条城には入城料が別途かかる。

二日かけて12の展示会場のうち、ハイアットリージェンシー京都以外の11箇所を回った。
もし時間が1日しかないのであれば、京都文化博物館別館、、有斐斎 弘道館、高台寺塔頭 圓徳院、二条城 二の丸御殿台所を回ればよいと思う。
もし予定にもう少し余裕があれば以下の場所を訪れることを推薦したい。

「ASPHODEL/富美代」  ハッセルブラッド マスターズ 2012とエールフランス ラウンジを展示。
「ASPHODEL」は、祇園の特に格式の高いお茶屋の「富美代」の一角に設けられている。お茶屋は、祇園などの花街で芸妓を呼んで客に飲食をさせる店のこと。「ASPHODEL」の建物自体はコンクリート造のモダンでシンプルなもの。アートを展示する最も一般的で私たちが見慣れた建物だ。実は作品の一部はお茶屋「富美代」の中にも展示されており、これが見どころなのだ。スタッフの人の案内でモダンな建物の裏側の通路を通り抜け、靴を脱いで日本家屋に上がるとステレオタイプの一見さんお断りの京都の小世界が突然登場する。内部空間にはイーゼルを使用して写真も数点飾られている。それらは展示時間が終わると片づけられるという。夕方からは舞妓さんなどが来て、もてなしの場として実際に営業しているらしい。完璧に磨き上げられたテーブルがあり、床の間には掛け軸と花、席からは端正な坪庭が見渡せる。正に息を呑む日本家屋の雅な空間だ。お茶屋の空間が見れるだけでも訪れる価値があるだろう。

「誉田屋源兵衛 黒蔵」ケイト・バリーを展示。

Blog8

誉田屋源兵衛は江戸期から続く帯の製造卸業者とのこと。店舗の町家は太い梁、木組みの意匠、坪庭、石造りの土間など、昔の佇まいをそのまま残している。足を踏み入れると江戸期に舞い戻ったかのような錯覚を覚える。母屋の土間を通り抜けると、敷地の一番奥に蔵を改装した建物がありここにケイト・バリーの作品が展示してある。
このスペースは少し前までモダンな洋服のショップがあったそうだ。その設えがそのまま利用されている。歴史伝統とモダンとの、ギャップと融合が共存している面白い空間だった。

「西行庵」では高谷史郎を展示。

Blog7

西行は平安から鎌倉時代に生きた僧侶で歌人。出家後は諸国を漂泊し草庵を渡り住んで歌を詠んだと言われるている。その生き方は現代人をも魅了し続けている。吉野や高野山にも西行ゆかりの場所があるが、この皆如庵は西行が終の住処を定めたとも伝えられる。その地は平安の昔から葛や萩などが生い茂る原野だったとのことだ。現在の草庵は明治26年(1893年)に、富岡鉄斎によって再建されたもの。究極のシンプルライフの佇まいがこの空間にはある。
ここに展示されているのは、地球時間を意識した高谷史郎のミニマルを追求した映像作品「Ice Core」と「Snow Crystal」。この場所と作品との組み合わせは見事と言わざる得ない。

「京都グラフィー」は、作家の創造性や作品の保存性に重きを置いているアート関係者やコレクターには非常に斬新な試みに映ったのではないだろうか。写真はアートという既成概念や市場への囚われから離れると、より自由に表現や展示が可能なメディアなのだ。また見る側にもアート鑑賞を通しての観光の可能性を提示してくれる。
今回、様々な展示スペースを訪れて感じたのは、写真を切り口とした京都の多様な楽しみ方だ。京都観光はこの地にあまりにも多くの名所旧跡があるのでどうしてもガイドブック的なものになりがちだ。多くの人は修学旅行などで一回は訪れているはずの京都。よほど時間に余裕がない限り、敢て行く理由はなかなか見つからないと思う。
また知名度の低い神社仏閣、古い町屋、お茶屋、蔵などは何かのきっかけがないと訪れないだろう。「京都グラフィー」の、写真を通してのモダンと歴史伝統が融合しているいまの京都再発見の目論みは非常に魅力的だと思う。主催者の多様な展示場所の選択とその所有者の協力こそが本企画の肝になっている。関係各位のその情熱と努力に敬意を表したい。色々なこだわりを持っていそうな京都人は非常に現実的な面も持っているのだ。
パンフレット片手に市内各所に分散している展示場所を回るために各自が観光プランを立てないといけない。それは、日帰りか、泊まりか。また宿泊場所により様々な可能性がある。できれば事前に掲載されたカタログを入手し、訪問先の詳細な歴史や情報を読んでからの方が興味がよりわくと思う。その情報収集と目的地に行く着くまでのプラン作りの過程が「京都グラフィー」の楽しさを増幅させる。
個人的に京都の魅力が再発見出来たとても楽しめた旅だった。京都という一大観光地でそれが必要かはともかく、「京都グラフィー」は写真を通しての町興しに成功していると思う。

『京都グラフィー 国際写真フェスティバル』
2013年4月13日(土)~5月6日(月・祝)
京都市内12か所で開催(高台寺塔頭 圓徳院、京都文化博物館 別館、大西清右衛門美術館、有斐斎 弘道館、西行庵、誉田屋源兵衛 黒蔵、虎屋京都ギャラリー、アンスティチュ・フランセ関西、ARTZONE、二条城 二の丸御殿台所、ASPHODEL/富美代)

*二条城会場のみ、4月24日(水)~5月12日(日)の開催となる。
会場地図や詳しい会場の説明などが記載されている公式ガイドブック2,000円(税込)は来場者必携だ。
問い合わせ:京都グラフィー事務局(HAPSオフィス内) tel.075-525-7525
http://kyotographie.jp/

1枚ですべての会場を周れる「京都グラフィーパスポート」がネットのイープラスで販売中。
各会場の入館料や拝観料も含まれているので(二条城は別途入城料が必要)多くの場所を周る予定の人はこちらの購入がおすすめ。
一般3,000円、学生2,000円
http://eplus.jp/sys/main.jsp

| | トラックバック (0)

2013年4月23日 (火)

2013年春NYアート写真オークション結果
景気回復期待で取引額が増大!

Blog

2013年春のニューヨーク・アート写真オークションは、クリスティーズ、ササビーズ、フィリップス(Phillips de Pury & Company)ともに、有力コレクションからの単独オークションをメインとして、それとともに複数委託者のオークションも開催した。結果はおおむね順調で、優れたアート写真に対する需要が強いことを改めて印象付けられた。ちょうど開催期間が、世界最大のアート写真フェアのAIPADフォトグラフィー・ショーと重なった。一部には、フォト・フェアの売り上げに影響が出たという意見も聞かれた。

有力コレクションの優れた来歴を持つ逸品が多かったことから、総売り上げは昨秋と比べ約81%も伸びて約3086万ドル(約30.8憶円)となった。これはほぼリーマンショック前の2007年のレベルとなる。売り上げ高トップは今期もクリスティーズ。開催した二つのオークションともに売り上げ総額は落札予想価格上限合計を超えている。

最近はトップエンド価格帯市場の勢いがやや弱まっている傾向がみられていた。今春、大手オークションハウスはこのセクターにかなりの逸品を投入してきた。結果は、5万ドル以上の高価格帯セクターでの予想落札価格上限の総額をオーバーしたのはクリスティーズだけだった。ここの落札率も約92%~68%とかなりばらつきがあった。価格推移についてはほぼニュートラルな結果だったと言えよう。主要3社全オークションの落札率は約81%。その後に開催されたフォトブックを含む低価格帯作品の出品の多いスワン・オークションズの落札率はずっと下がって66%だった。昨年来ずっと続いている、"高額作品の活況と動きが鈍い低価格帯"という傾向はまだ変わってないようだ。

高額落札は以下の通り。
最高額はクリスティーズの"the deLIGHTed eye, Modernist Masterworks from a Private Collection"に出品されたマン・レイの"Untitled Rayograph, 1922"。もちろん貴重はオリジナルの1点物。本作は最初に雑誌メディアで紹介されたマン・レイのレイヨグラフとのことだ。落札予想価格の3倍を超える、$1,203,750.(約1億2千万円)で落札された。久しぶりの100万ドル越えの作品だ。
同オークションからは高額落札が続き、ポール・ストランドの"Akeley Motion Picture Camera, New York, 1922"は落札予想価格25万~35万ドルのところ、$783,750 (約7837万円)で落札されている。

クリスティーズも複数委託者オークションでは、ロバート・フランクの歴史的写真集「The Americans」の表紙イメージの" Trolley-New Orleans, 1955"が注目された。本作は、1961年にニューヨーク近代美術館でエドワード・スタイケンのキュレーションで開催された、ハリー・キャラハンとの二人展用にフランク自身により制作されたもの。サイズが29X42.4cmと大きいことも作品の評価を高めている。落札予想価格40万~60万ドルのところ、$663,750(約6637万円)で落札されている。

驚きの高値が付いたのがフリップスに出品されたのダイアン・アーバス"Identical Twins Cathleen and Colleen, Roselle, NJ, 1967"。落札予想価格18万~22万ドルを大きく超えて$602,500(約6025万円)で落札。これはアーバス作品のオークションでの最高額だった。

ササビーズで高額落札が期待されていたのがエドワード・ウェストンの"Two Shells, 1927"。本作は珍しいマット系ペーパーにプリントされている上にサインも初期のものだ。
落札予想価格60万~90万ドルのところ、ややがっかりさせられる$533,000(約5330万円)で落札された。
クラシカルなエドワード・ウェストンの高額落札はクリスティーズでも続き、"Nude, 1925"は
$483,750(約4837万円)で落札されている。

次のアート写真市場の関心は、5月開催のロンドン、パリのオークションに移っていく。
(為替レートは1ドル100円で換算)

| | トラックバック (0)

2013年4月16日 (火)

ソウルフォト2013 現地レポート-(2)

私たちのソウルフォト参加は3回目になる。今回は以前よりもエマージングアーティスト(新人のこと)とギャラリーのプライマリーアーティストが中心の展示だと感じた。また現地の参加ギャラリー数が以前より減少しており、また大きな作品が減っている印象もあった。韓国には特に写真専門のギャラリーがあるわけではなく、現代アートギャラリーが写真で表現する作家を取り扱っている。彼らは秋に行われるKIAF(Korea International Art Fair) に注力しているという話も聞いた。
最近は世界的にもファイン・アート写真と現代アート写真の、フェアやオークションでの棲み分けが進行している。これは高額セクターが好調である一方で、中間価格帯以下の作品が低迷している影響だと思う。写真と現代アートはコレクター層の違う。それが業者間で意識されるようになり、各自はターゲットを絞り込んでフェアに参加しているのだ。

来場者はいつもように非常に多かった。カメラや関連商品を展示するフォトイメージング・ウィークの一環として行われることが影響している。しかし日本同様にカメラ関連が目的の人が多く、アート作品目当ての人はそんなに多くないと思う。
やはり韓国経済低迷の影響も感じられた。この国は現在の日本と同じように為替安政策を採用して輸出企業の活性化を目指してきた。しかし一部輸出企業は潤ったものの、賃金は上がらない上に輸入物価の上昇で国内経済はかなり疲弊しているという。日本が同じ道を歩まないことを祈るばかりだ。会場コエックスの地下モールもリニューアルとのことで全ての店が閉まっている地帯があった。最初に来た時より明らかに活気はなかった。

私たちはいままではモノクロの有名作家のセカンダリー作品中心に展示を行ってきた。結果としては、多少高くても世界的にブランドが確立している写真家の作品は売れた。しかし、日本人作家で金額が高めの人の引き合いが少なかった。
今回はあえてエマージングアーティストとギャラリーのプライマリーアーティストを持っていった。驚いたのは今回持ち込んだ低価格作品への反応が非常に良かったことだ。また実際に複数作品が売れた。
韓国マーケットの構造はかなり日本に近いのではないだろうか。一部の富裕層が外国人の資産価値のある作品を購入する。一方でこの国には独自の市場もあり、写真好きな中間層も存在する。彼らの一部が自分たちの予算の範囲内で写真を購入する。

地元で活躍しているKim Doohaの作品は250万ウォン(約20万円位)で売れていた。今回は彼は自分が育てた無農薬野菜を撮影した巨大モノクロ作品を展示。
Blog5
虫に食われて見た目は良くないがそれこそが最も美しい野菜の姿だ、というテーマだ。
彼は以前は毛糸を丸めた大判作品を売っていた。精神的に不安定な時に心が和むから撮影すると語っていたと記憶している。写真表現を通して社会との接点を見つけ作家キャリアを歩み始めたようだ。

もちろん韓国内にも海外でも活躍している作家もいる。慶一大学校教授のミョン・ホ・リー(Myoung Ho Lee)はニューヨークの有力ギャラリーが取り扱っている有名作家。
Blog1
彼は自然環境に生えている大木の背景に、白い布を四角いキャンバスに見えるような方法で掲げて写真を撮影する「Tree」シリーズを制作している。今回は彼の巨大な代表作が大きなスぺースで展示されていたが、優れた目を持ったコレクターがめざとく購入していた。
また、お前たちはここにブースを出して何をしているのか?という質問を老夫婦から受けたりもした。写真を売る行為が理解できないらしい。日本でも同じようなことがあるので思わず苦笑した。

韓国のオーディエンスは写真の表層だけではなく、作家のメッセージにも耳を傾ける人が少なからずいる。今回、通訳をお願いしたジョさんはとても丁寧に作品コンセプトを来場者に説明してくれた。どうも写真については現代美術と同様のアプローチをするように教育を受けているようだ。この点は日本とはかなり違う。今回は抽象的な作品を多く展示したが、制作アプローチがドキュメント、ストレート写真的なものへの反応は鈍く、制作手法に独自性がある、丸山晋一や、新人の三善チヒロ、石橋英之には関心が集まった。
全体的に展示作品はデジタルが多かった。日本でもよくあるのだが、大きくしたことでプリントのクオリティーに問題がある作品も見られた。インクジェット作品しか見たことがない人が多いようで、百瀬俊哉、高橋和海のCプリントの美しさには多くの人が驚いていた。
このあたりの総合的な分析が韓国での売れる写真作品のヒントにつながると思う。

日本と韓国は写真教育ではかなり交流があることも実感できた。ゲストで来ていた細江英公氏はこちらではスター扱いだ。それは、韓国人留学生が写真を学びに東京工芸大学、日本大学、九州産業大学などに数多く来ているからだ。それらの卒業生が教育者になったりしているようだ。ソウル芸術大学では、私どもが取り扱っている丸山晋一やテリー・ワイフェンバックを作例として紹介しているという。しかし学校現場と違い、写真ギャラリーでの交流があまりない。今後は写真にかかわる幅広い業界関係者の交流が必要だろう。

今回の招待国はロシアだった。キュレーターのイリナ氏による現代ロシア作家約10名によるグループ展示は見ごたえがある優れたものだった。テーマは「From poetical tradition and mythology」(詩の伝統と神話から)で、歴史を踏まえた上でオリジナルがアナログの銀塩写真から巨大な現代アートの作品までが展示されている。

Blog2

Blog3 
彼女によると、アートとしての写真と現代アートのメッセージ性とをバランスさせたキュレーションを行ったそうだ。写真としての優れたヴィジュアルと斬新なアイデアを合わせ持った作品が多い。やはり欧州写真の流れを引き継いでいる印象が強い。今後、国内市場が成長するにしたがいグローバルに活躍する人がでてくる予感がする。

展示作品はたぶんデータで送られたものを現地でエプソン製のインクジェットで出力したものだろう。ロシアからすべての作品を輸送するとなると膨大な費用が発生する。デジタル化の進行でデータさえ送れば展示地で作品制作が可能になったわけだ。たぶんオリジナル作品との違いはあるのだろうが特にクオリティーに問題は感じなかった。まだ世界的に無名の作家の場合は確信犯でこのような展示を行うことも決して悪くはないのだろう。

ソウルフォトはアジアのエマージングとプライマリー作家の交流の場となるのが理想ではないかと感じた。
清里フォトミュージアムは期間中にポートフォリオレビューを実施して、ヤングポートフォリオの参加者募集を行っていた。欧米と比べて市場がまだ黎明期のアジアではそれなどは実際的な活動だと思う。ソウルでは確かに資産価値のある作品が売れる可能性はある。しかしそれはマグロの一本釣りのようにまったく成果が上がらないリスクもある。そうなるとどうしても赤字覚悟の上で価格が安い作品の展示が中心になるだろう。
はたして、商業ギャラリーが多額の経費を出して参加する意味があるかどうかは個別オーナーの判断によるだろう。中長期的に日本と同様に市場が伸びると考えるなら先行投資と考えることはできるだろう。日本の作家レベルはまだアジアではかなり高いと思う。アジア全体を見据えて、優れた作家をこの地の市場で紹介することは、ギャラリーの広告宣伝にもなるだろう。海外のフェアのようにお金の匂いが弱いことがソウルフォトの魅力ではないだろうか。
しかし作家志望者とは価値観や創作の方向性が違うアマチュア写真家の展示が増えているのには不安を感じる。フェア自体が学園祭やグループ展の延長上になってしまう危険性がある。予算が厳しいおりから、どうしても主催者は彼らでも受け入れてしまいがちだ。ある程度の限度を超えた場合、アート・フェアとしてのレベルが保てなくなりその存在価値が危うくなるだろう。それではコレクターも商業ギャラリーも興味をなくすことになる。開催すること自体が目的でないことを主催者は自覚して欲しい。

| | トラックバック (0)

2013年4月 9日 (火)

ソウルフォト2013 (1)

ソウルフォト2013の会期が無事に終了した。
今回はその様子を写真で簡単に紹介します。

Blog7_2
会場入り口
会場はソウルの江南エリアにあるCOEX。国際展示や行事が多数行われる場所だ。

Blog3
今年のゲスト国はロシア。見ごたえのある展示だった。

Blog4
写真左がブリッツのブース。写真奥が入口。日本のフェアに比べて会場スペースが大きく、通路が非常に広い。

Blog10
ブリッツのブース。
正面の壁面は、左から百瀬俊哉、高橋和海の作品を展示。
右の壁面はJPADSのコーナー。The Emerging Photography Artists 展入選者の作品を展示。

Blog12
ブースに向かって左の壁には、丸山晋一、横木安良夫、下元直樹の作品を展示。

Blog11
通路側にもJPADSのコーナーを設けた。 

Blog2
ブリッツの向かいのブース。毎年参加している韓国の若手男性アーティストの作品を展示。無農薬で作られた、虫食いの野菜の巨大作品。

Blog6
ブリッツの通路を挟んで隣のブース。こちらは韓国の有名作家の作品だ。韓国人作家の作品は非常に大きい。

Blog9
隣接する会場では、カメラメーカーなどによる機器の見本市が開催されており、大変にぎわっていた。ソウルフォトは毎年カメラ機器の見本市とタイアップして開催される。機器の方からソウルフォトへと流れてくるお客様も非常に多い。

Blog8
ブリッツのブースで。The Emerging Photography Artists 展でグランプリを受賞した三善チヒロの作品コンセプトを解説する通訳スタッフ。彼女の作品の評価は韓国でも非常に高かった。

Blog1
清里フォトアートミュージアムの館長として来場されていた細江英公氏とカメラ。見事なカラーコーディネートだった。

Blog5
たくさんの方にご来場いただきました!まことにありがとうございました。

なお、詳しい解説は次回のブログに掲載いたします。

| | トラックバック (0)

2013年4月 2日 (火)

ソウルフォト2013
アジア市場拡大への挑戦

Blog

ブリッツは4月4日~7日にかけて韓国ソウルで開催されるソウルフォト2013年に出展する。私どもは2年ぶりの3回目の参加となる。昨年は、アート・エディション展の一部として開催された。写真家が直接参加する方法になりギャラリー参加がなくなったのだ。しかし、結果が芳しくなかったらしく今年からまた以前の運営方法で行われるようになった。
日本と同様に、アジアのアート写真のプライマリー市場も低迷が続いている。中国人コレクターの動向が注目された2010年のソウルフォトは日本から数多くのギャラリーが参加した。しかし、売り上げが上がらなかったことで翌年は日本からの参加ギャラリーは私どもだけだった。その後、中国人コレクターが資産価値のないアートを買わないことは周知の事実となった。詳しい状況はまだわからないが、今年も同じような醒めた感じのフェアになるのではないだろうか。
東京フォトはセカンダリー作品を主に展示するというフェアの方向性が見えてきた。しかしソウルフォトはまだ独自色をだせていないという印象だ。私はアジアのエマージング作家やプライマリー作家が集まるようなフェアを目指せば良いと思う。会場では主催者や参加者に色々と話を聞いてみたい。

私どもは、ソウルは重要な市場になり得ると考えている。ブリッツは主に欧米の写真家を日本を含むアジアに紹介している。日本人写真家も西洋的なテイストも持った作家が中心だ。韓国は儒教の国なので共同体的なセンチメントがいまだに強い。日本同様に西洋のクールでドライなセンチメント持った写真作品へのあこがれがある。以前、展示したファッション写真やマイケル・デウィックの作品は非常に人気が高かった。また、このフェアには中国、台湾などからも関係者が集まるので情報交換にも都合が良い。
作家を目指す人にとって、作品制作の継続が基本となる。それは見せる側も同じなのだ。その市場が重要と考えればギャラリーも展示を継続しなければならない。

いままでは主に資産価値のあるセカンダリー作品やプライマリーで活躍する外国人作家を展示していた。しかし、昨年の東京フォトでそれらの作品を出したので今回のソウルは現場に合わせて、日本人の取り扱い作家を展示することにした。現地のギャラリーはほとんどが地元のプライマリー作家を見せているのだ。
今回展示するのは百瀬俊哉、高橋和海の風景、横木安良夫、丸山晋一、下元直樹の抽象作品とした。取り扱い作家の、マイケル・デウィック、トミオ・セイケ、ハービー・山口、中村ノブオらの作品も持参する予定だ。
その他、ひとつの壁面をJPADS用に使用して、先日行ったジ・エマージング・フォトグラフィー・アーティスト展のプロモーションも行う。グランプリを受賞した三善チヒロの作品や、その他参加者の写真も展示する。

ソウルフォトのオフィシャルサイト。
http://www.seoul-photo.com/index.html

会場のcoexのサイト。
www.coex.co.kr

| | トラックバック (0)

« 2013年3月 | トップページ | 2013年5月 »