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2013年4月30日 (火)

京都グラフィー(KYOTOGRAPHIE) レビュー
写真鑑賞で古都京都を再発見!

「京都グラフィー 国際写真フェスティバル」は京都市内12会場で、約10カ国のアーティストによる写真作品を展示する今回が第1回目のイベント。フランスの「アルル国際写真フェスティバル」をモデルに企画され、オーディエンスが展示会場を順に回ることで古都京都の魅力を再発見してもらおうという趣旨。写真ファンだけでなく、インテリア、デザイン、建築に興味ある人も十分に楽しめるイベントなっている。

「京都グラフィー」は、写真には様々な種類のものがあり、それらを見せる空間、展示方法も多様なことを提示してくれる。
ファインアート系の写真は作品保護・保存を重視するので制作手法や展示全般にわたり決まりごとが多く案外自由がない。作品コンテンツを最重視するので、見せる空間はスポットライト付きのホワイトキューブ。シンプルデザインのアクリル付きフレームに入れて展示されるのが一般的だ。しかし、写真は見せる側の発想によってはアート分野の専門家が思いもよらない環境や方法での展示が可能なのだ。日本ではそのような空間デザインを意識した写真展示となるとアマチュア写真家や広告写真家のものが中心になってしまう。アート性が高くないことを見せ方や環境で補おうとしているのだ。どうしても、デザイナーのキャラの方が目立つ展示方法重視の写真展や、趣味の写真のグループ展のようなチープな雰囲気の展示に陥ってしまう。
しかし本フェスティバルの主要展示では専門家がキュレーションを担当。優れたコンテンツの写真作品による特異な空間と方法での展示を見事に成功させている。
フランス人キュレーターのクリスティーヌ・シベールが高台寺塔頭 圓徳院の細江英公と有斐斎 弘道館のニコラ・ブーヴィエを、京都造形芸術大学の竹内万里子が京都文化博物館別館のマリック・シディベを手がけている。京都なのだがどの会場も古い感じはない。むしろ写真の存在により西欧的なアカデミックな香りかつモダンさを感じられる空間になっていた。それには京都の街とマッチしていた黒と赤を基調とした展示関係やグラフィックのデザインが大きく貢献していたと思う。

今回の展示では空間デザインが非常に重要な役割を果たしている。その意味で、京都文化博物館別館で行われているマリック・シディベがメイン展示といえるだろう。
シディベは欧米の多文化主義の流れで注目されるようになったマリ人写真家。2003年にハッセルブラッド写真賞を受賞して知名度はいまや世界レベルだ。ここの空間構成を担当したのがクライディオ・コリッチ。彼はたくましく、また混沌としたアフリカ・マリの魅力を、明治時代のたたずまいを残す旧日銀京都支店の古いビルディングの中に再現しようとしていた。

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展示スペースは天井が高い講堂や体育館のような広い空間。建物入り口の間仕切りの壁面には色とりどりの布を吊るしたり、壁面やサロンスペースの複数の腰掛をカラフルにすることでアフリカの雰囲気を演出している。
シディベの写真はほとんどがモノクロなのだが、モノクロ写真はコーディネートによっては多色とうまくマッチするのだ。会場にはシンプルだが永遠にリズムが繰り返される感じのアフリカ音楽がオロゲ社のミニマムデザインのスピーカーから流れ、またシディベのマリのフォトスタジオが再現されていた。アフリカには植民地時代の旧宗主国のコロニアルスタイル古いビルが残っている。彼の作品とこの古い建物とは悪くない取り合わせに感じた。
代表作品は巨大サイズに引き伸ばされて高い位置に展示。また、貴重なヴィンテージ・プリントが赤く塗られた壁面にフレーム入りで展示されていた。アート的にはこれが本フェスティバルのメイン展示なのだと思う。

有斐斎 弘道館のニコラ・ブーヴィエの斬新な写真展示も必見だろう。

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ブーヴィエ(1929-1998)はスイス人旅行家、写真家。50年代、60年代に日本に滞在している。今回は当時の日本社会を撮影したモノクロ作品が展示されている。展示場所の弘道館は京都御所の近くの数寄屋造の邸宅。かつて学問や芸術をめぐって多くの人が集った学問所だったとのこと。
ここの空間デザインは同じスイス人のプロダクト・デザイナーのフランツ・オリバーによる。
古風な数寄屋造りの畳敷きの室内には、複数の特製の木製写真スタンドが置かれており、その上に横長の写真作品が展示されている。

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*KYOTOGRAPHIE カタログより

カタログには、「文机風写真スタンド(Low Picture Stand)」と記載されており、デザイナーの指示により職人の溝上吉郎が制作したとのことだ。この台は高さが低いので来場者は腰をかがめたり腰をおろして鑑賞することになる。眼を上げると、その背景には簾越しの美しい日本庭園が広がっている。まさに圧巻の展示空間だ。床の間には、写真がプリントされた和紙が竹を通して化粧版に留められて掛け軸の佇まいになっている。

同じくフランツ・オリバーが手掛けたのが高台寺塔頭 圓徳院の細江英公の展示だ。

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*KYOTOGRAPHIE カタログより


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ここは東山にある高台寺の塔頭のひとつ。豊臣秀吉の没後、正室・高台院(北の政所ねね)が移り住み、終生を過ごした寺として知られる。大名や禅僧、茶人、歌人、画家、陶芸家などが集った桃山時代のサロン的な場所だったとのこと。21世紀の今そこに写真を持ってくるとは心難い演出だ。細江の代表作は、床の間、蔵など屋内のさまざまな場所に、襖絵、巻物、掛け軸、屏風、着物をかけるラックなどを駆使して展示されている。
その中で最も目を引いたのが、掛け軸と巻物を組み合わせた展示。作品のポートフォリオを巻物にタテ方向に連続してプリントし、床の間のから吊下げて手前の展示台に敷きのばしている。その長さが様々に調整できて展示にメリハリをつけている。

二条城 二の丸御殿台所には銀座のシャネル・ネクサス・ホールがNAOKIの「MOOD-9GIRLS」を展示。

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展示場所で撮影された最新作も追加されている。シャネルは本フェスティバルのメイン・スポンサーの1社だ。シャネルというブランド力と社長リシャール・コラス氏の熱意が京都の人たちを動かしたことは想像に難くない。
NAOKI作品は会場の広いスペースに合わせるべく、2枚~3枚のシートが貼り合わされて天井を走る梁からつり下げられている。間接光の優しい光により写真が浮かび上がるのは昨年の銀座での展示と同じだ。NAOKIの大きな作品テーマはクール・ジャパンを象徴している「カワイイ」。その不完全さを愛でる眼差しは、日本古来の「侘び」、「寂び」などの美意識の延長上にある。シャネルがNAOKI作品を選び二条城で展示するのは、その作品テーマを意識してのことだろう。日本の伝統的美意識をモダンに再解釈した作品を世界遺産の一部で見せるのは“歴史伝統を背負うことは常にそれを新たに解釈し続けること”というメッセージなのだ。革新的作品と歴史的作品を交互に展示しているシャネル・ネクサス・ホールは、本展示を自らのポリシーと重ね合わせている。
※二条城会場のみ、4月24日(水)~5月12日(日)の開催となる。
なお、二条城には入城料が別途かかる。

二日かけて12の展示会場のうち、ハイアットリージェンシー京都以外の11箇所を回った。
もし時間が1日しかないのであれば、京都文化博物館別館、、有斐斎 弘道館、高台寺塔頭 圓徳院、二条城 二の丸御殿台所を回ればよいと思う。
もし予定にもう少し余裕があれば以下の場所を訪れることを推薦したい。

「ASPHODEL/富美代」  ハッセルブラッド マスターズ 2012とエールフランス ラウンジを展示。
「ASPHODEL」は、祇園の特に格式の高いお茶屋の「富美代」の一角に設けられている。お茶屋は、祇園などの花街で芸妓を呼んで客に飲食をさせる店のこと。「ASPHODEL」の建物自体はコンクリート造のモダンでシンプルなもの。アートを展示する最も一般的で私たちが見慣れた建物だ。実は作品の一部はお茶屋「富美代」の中にも展示されており、これが見どころなのだ。スタッフの人の案内でモダンな建物の裏側の通路を通り抜け、靴を脱いで日本家屋に上がるとステレオタイプの一見さんお断りの京都の小世界が突然登場する。内部空間にはイーゼルを使用して写真も数点飾られている。それらは展示時間が終わると片づけられるという。夕方からは舞妓さんなどが来て、もてなしの場として実際に営業しているらしい。完璧に磨き上げられたテーブルがあり、床の間には掛け軸と花、席からは端正な坪庭が見渡せる。正に息を呑む日本家屋の雅な空間だ。お茶屋の空間が見れるだけでも訪れる価値があるだろう。

「誉田屋源兵衛 黒蔵」ケイト・バリーを展示。

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誉田屋源兵衛は江戸期から続く帯の製造卸業者とのこと。店舗の町家は太い梁、木組みの意匠、坪庭、石造りの土間など、昔の佇まいをそのまま残している。足を踏み入れると江戸期に舞い戻ったかのような錯覚を覚える。母屋の土間を通り抜けると、敷地の一番奥に蔵を改装した建物がありここにケイト・バリーの作品が展示してある。
このスペースは少し前までモダンな洋服のショップがあったそうだ。その設えがそのまま利用されている。歴史伝統とモダンとの、ギャップと融合が共存している面白い空間だった。

「西行庵」では高谷史郎を展示。

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西行は平安から鎌倉時代に生きた僧侶で歌人。出家後は諸国を漂泊し草庵を渡り住んで歌を詠んだと言われるている。その生き方は現代人をも魅了し続けている。吉野や高野山にも西行ゆかりの場所があるが、この皆如庵は西行が終の住処を定めたとも伝えられる。その地は平安の昔から葛や萩などが生い茂る原野だったとのことだ。現在の草庵は明治26年(1893年)に、富岡鉄斎によって再建されたもの。究極のシンプルライフの佇まいがこの空間にはある。
ここに展示されているのは、地球時間を意識した高谷史郎のミニマルを追求した映像作品「Ice Core」と「Snow Crystal」。この場所と作品との組み合わせは見事と言わざる得ない。

「京都グラフィー」は、作家の創造性や作品の保存性に重きを置いているアート関係者やコレクターには非常に斬新な試みに映ったのではないだろうか。写真はアートという既成概念や市場への囚われから離れると、より自由に表現や展示が可能なメディアなのだ。また見る側にもアート鑑賞を通しての観光の可能性を提示してくれる。
今回、様々な展示スペースを訪れて感じたのは、写真を切り口とした京都の多様な楽しみ方だ。京都観光はこの地にあまりにも多くの名所旧跡があるのでどうしてもガイドブック的なものになりがちだ。多くの人は修学旅行などで一回は訪れているはずの京都。よほど時間に余裕がない限り、敢て行く理由はなかなか見つからないと思う。
また知名度の低い神社仏閣、古い町屋、お茶屋、蔵などは何かのきっかけがないと訪れないだろう。「京都グラフィー」の、写真を通してのモダンと歴史伝統が融合しているいまの京都再発見の目論みは非常に魅力的だと思う。主催者の多様な展示場所の選択とその所有者の協力こそが本企画の肝になっている。関係各位のその情熱と努力に敬意を表したい。色々なこだわりを持っていそうな京都人は非常に現実的な面も持っているのだ。
パンフレット片手に市内各所に分散している展示場所を回るために各自が観光プランを立てないといけない。それは、日帰りか、泊まりか。また宿泊場所により様々な可能性がある。できれば事前に掲載されたカタログを入手し、訪問先の詳細な歴史や情報を読んでからの方が興味がよりわくと思う。その情報収集と目的地に行く着くまでのプラン作りの過程が「京都グラフィー」の楽しさを増幅させる。
個人的に京都の魅力が再発見出来たとても楽しめた旅だった。京都という一大観光地でそれが必要かはともかく、「京都グラフィー」は写真を通しての町興しに成功していると思う。

『京都グラフィー 国際写真フェスティバル』
2013年4月13日(土)~5月6日(月・祝)
京都市内12か所で開催(高台寺塔頭 圓徳院、京都文化博物館 別館、大西清右衛門美術館、有斐斎 弘道館、西行庵、誉田屋源兵衛 黒蔵、虎屋京都ギャラリー、アンスティチュ・フランセ関西、ARTZONE、二条城 二の丸御殿台所、ASPHODEL/富美代)

*二条城会場のみ、4月24日(水)~5月12日(日)の開催となる。
会場地図や詳しい会場の説明などが記載されている公式ガイドブック2,000円(税込)は来場者必携だ。
問い合わせ:京都グラフィー事務局(HAPSオフィス内) tel.075-525-7525
http://kyotographie.jp/

1枚ですべての会場を周れる「京都グラフィーパスポート」がネットのイープラスで販売中。
各会場の入館料や拝観料も含まれているので(二条城は別途入城料が必要)多くの場所を周る予定の人はこちらの購入がおすすめ。
一般3,000円、学生2,000円
http://eplus.jp/sys/main.jsp

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