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2013年6月 4日 (火)

現代のお伊勢参り?
「アートな旅」のブーム到来

いま「アートな旅」がちょっとしたブームになっているようだ。今年5月の日本経済新聞には「アート町に咲く」という、町を活性化させる手段としてのアートの有効性を考察する連載記事が掲載されていた。数年前には、「観光アート」(山口裕美著、光文社新書2010年刊)という日本全国のアート観光ガイドも刊行されている。

日本人は美術鑑賞も旅行がともに大好きな国民だ。「アートな旅」はその二つがうまく合致しているからブームになったと考えられるだろう。
これには歴史的な背景がないとは言えない。「アートな旅」は一生のうちに一度は訪れたい、といわれたお伊勢参りの現代版と言えないこともないだろう。伊勢神宮以外でも、日本では古来から神社仏閣は神聖な場所と考えられている。そのことを現代ではパワースポットというような呼び方をする。実はファイン・アートも神聖なものであると考えられている。
現代社会では全ての人間は単なる労働者で代替可能な存在だ。しかしアーティストは自らの創造性と努力の結果、世界でオンリーワンの作品を作り出す唯一無二の存在なのだ。アートは実用性から離れ、アーティストの創造性や論理性のみを愛でるもの。その面から現代社会ではアートは特別な存在で宗教的な要素を持つとも言われているのだ。多くの人々が(特に欧米では)アートやアーティストに対して高い尊敬の念を持っている。神を祀った神社仏閣や教会と、アート作品を展示するホワイトキューブの美術館とは共通する空気感があるのはこの神聖さによる。

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横須賀美術館屋上

美術館・博物館は日本全国に約1200施設あるそうだ。しかし全てが「アートな旅」の対象になっているわけではない。日本人は美術鑑賞好きだが、実は美術館を頻繁に訪れているのではない。多くの人が行くのはメディア主催で広告宣伝が盛んにおこなわれる大規模展覧会なのだ。
それらのイベントが開催されない美術館の集客は、展示作品のコンテンツの質と企画力が非常に重要になる。いくら外見が良くても優れた作品がなければ単なる箱でしかない。
最近話題の、金沢21世紀美術館、直島の地中美術館。これらはともに優れた常設展示の作品が有名建築家の設計した建物に展示されている。 それゆえ「アートな旅」の聖地になっているのだろう。
優れた企画展の開催も「アートな旅」を演出できる。例えば6月下旬まで開催されている、横須賀美術館の「街の記憶」展。一流作品が展示されている会場から私は神聖な空気を感じた。優れたアート展示なら、それを鑑賞するために旅する価値があると思う。

最近は全国で様々なアートプロジェクトが開催されている。これらも「アートな旅」の対象地になっている。2010年に開催された「瀬戸内国際芸術祭」は105日の会期中に93万人の来場者を集めたと上記の日本経済新聞の記事に紹介されていた。実際的には、多くの人はこれらのアート鑑賞は大規模展覧会や名所旧跡周りと同じようにとらえているのではないだろうか。
地方の芸術祭は何かに似ていると感じた。現在人気が高まっているNHK朝の連続ドラマ「あまちゃん」だ。これでは海女による東北の過疎地の活性化がテーマになっている。モデルの漁村は非常に行き難い場所という設定。芸術祭の会場は行き難い場所に分散してある場合が多い。ドラマの登場人物による、苦労してわざわざ行くからありがたみや感動が生まれる、という分析は芸術祭にも当てはまると思う。ローカル線、ウニ、海女さんを、芸術祭、アーティスト、アート作品に置き換えると似たような構図になる。アートは食べられないのでかわりに地元のグルメをアピールすればよい。旅、アート、グルメという3つの娯楽が揃うことになる。
そしてマーケティング的にもアートがブレンドされることにより、他の町興しイベントよりも多少は神聖な感じがして差別化が可能になるという仕組みだ。

最近は写真でも多くのイベントが地方都市中心に開催されている。日本では写真は撮影するものでアートとは考えられていない。欧米と比べてアート写真のオーディエンスも少ない。どうしてもアマチュア中心の町興しイベントになってしまう。日本には膨大な数のアマチュア写真家がいる。彼らを集めての街を活性化プロジェクトはメーカーや地方都市にとってメリットがあるだろう。
しかし、アマチュア写真は自分の為に撮られたものなので、アート性や神聖さが決定的にないのだ。 写真愛好家同志が親交を深めるために集うのにはよいだろうが、優れたアート写真を求める人には行く意味が見つからない。その点では今年春に開催された「京都グラフィー」は優れたコンテンツが魅力的な会場で展示されていた。写真での「アートな旅」を成功させた類まれなイベントだったと思う。アート志向を持った企業やアーティストが中心に行われるイベントは日本の写真界では非常に珍しい。

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京都グラフィーの会場になった世界遺産二条城の台所

いま流行りの「アートな旅」現象。どうも世間一般でアートへの理解が進んだから起きているのではないようだ。メディア主催の大規模美術展に旬のイベントとして訪れるアートファンの一部が流れているのだろう。アートが地方への集客と町興しのためのマーケティングの道具になっている感が否めない。
しかしアーティストにとっては、どのようなかたちでも作品が展示されるのは自身のブランディングにとってメリットはあると思う。写真も同じで、コレクター不在の日本ではアマチュア写真家に認知、支持されることは重要だ。もし機会があるのならば、アーティストは状況判断を正しくした上で確信犯でこれらのイベントを利用すればよいだろう。

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