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2013年9月10日 (火)

「TIMELESS TIME」トミオ・セイケ写真展
デジタル写真独自のアート性を問う

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ⓒ Tomio Seike

ブリッツでの次回展、トミオ・セイケ"タイムレス・タイム"が今週末より始まる。今回はセイケがデジカメのカタログの仕事で訪れたプラハで2012年に撮影された写真を展示する。
カタログはカラ―だが展示作はモノクロ。カタログ未発表作が数多く紹介される。カタログ掲載イメージのアザー・カットは見る側にとって親しみやすいだろう。実は、ファッション写真でも仕事の後に同じモデル、ファッション、ロケーションでパーソナルワークが撮影されることがある。写真家本人の意図が、広告の仕事と隔てられていれば作品として成立するのだ。これは決して珍しいことではない。

今回の写真展、セイケはデジカメを使うアマチュア写真家の来場を意識しているようだ。まず撮影機材を一通り紹介しておこう。カメラはシグマのDP3メリル。RAWからシグマのソフトでモノクロ現像し、エプソンのPX-5002で出力。用紙はハーネミューレとキャンソンだ。
アマチュア写真家でも、プラハに赴いて撮影し、同じ条件で作品制作することは可能だろう。しかし、多くの人は決してセイケのように撮れないと感じるのではないか。これこそがセイケが本展で見て欲しいプロとアマチュアとの作家性の違いだ。これは2010年に開催した「Untitled」から続いているメッセージ。ぜひ来場者自身の目で作品を見て判断してもらいたい。

今回はA2(420×594mm)とA3ノビ(329×483mm)のモノクロ作品21点が展示される。すべてエディション15点、英国での価格が基準で販売される。作品サイズはセイケにしては大判だ。彼は銀塩のファインプリントの場合、両手を伸ばして持って全体が視野に入るサイズが適当としている。それは大体11x14"(279X356mm)くらいになる。彼のいままでの銀塩写真はだいたいこのサイズまでだ。
しかし、今春のライカ・ギャラリーでの個展の際もA2サイズだった。これはデジタルプリントの特性を顧客に見せるために確信犯で行っている面があると思う。銀塩写真ではモノクロの抽象的なメリハリを直感的に認識できる。大判カメラなどでの撮影を除いて、近くで見て細部の表現を愛でるようなことはあまりしない。一方、インクジェット写真は銀塩と比べると一見フラットに感じるが近くで見ると細部まできれいに表現されている。小さなシグマのDP3メリルで撮影され、A2サイズで出力された写真は、画面細部のクオリティーに関して全く表現力不足を感じない。 銀塩写真とデジタル写真は全く別物なので、デジタルに関しては大判サイズが相応しいということなのだろう。

最近の流行にデジタル・ゼラチンシルバーモノクロプリントがある。これはデジカメで撮影したデジタル画像から銀塩モノクロ印画紙をプリントする技法だ。 巷では関連したワークショップが頻繁に行われている。私はこのアプローチは、デジタル写真でオリジナル作品を安定したクオリティーで制作可能にすることがメリットだと理解している。
この技法についてセイケが興味を持ち、盛んに情報収集していることが写真愛好家の間で話題になっている。今回の個展開催に際して、多くの人から、今回はついにセイケ氏もデジタル・ゼラチンシルバーモノクロプリントで個展開催を行うのか、という質問を受けた。これは非常に重要なことなので、その可能性についてセイケ本人に聞いてみた。彼の現時点の見解は、いまやインクジャット作品でも十分に銀塩写真と遜色がないプリントが制作できるようになった。問題は、銀塩かデジタルかではなく、撮影者の作家性なのだ、とうことだった。
もし将来的にセイケが、デジタル・ゼラチンシルバーモノクロプリントを考えているのなら、ギャラリーとして、いまなぜインクジェット作品を販売するかをコレクターに説明する義務があるだろう。しかし、現時点ではセイケはデジタル・ゼラチンシルバーモノクロプリントでの
情報収集はするものの、作品制作は考えていないと断言した。二つは別物なので、デジタルで銀塩を目指すのではなく独自の道を追求するべきという見解だ。今回、デジタル作品の販売価格を銀塩写真と同じにしたこともその現れだと思う。

写真のデジタル化進行で、ここ10年で作品の制作フローが様変わりした。様々な表現方法と解釈が生まれ、それらの成否が市場で問われることになった。現代アートのコレクターにとって銀塩とインクジェットとの違いはなくなりつつある。 彼らは技法よりも作家のメッセージ性の方を愛でるのだ。しかし従来のファイン・アート写真分野、特にモノクロではデジタル撮影・インクジェット出力に対する評価は定まっていない。今後、この分野は現代アートの一部に取り込まれるのでなく、デジタル写真独自の展開があるかもしれない。セイケはここ数年に渡りでその実験を試みており、本展もその延長上にある。結果は、長い時間の検証が行われ、最終的に市場の判断にゆだねられるのだろう。コレクターや関係者の反応が非常に楽しみな今回の写真展だ。

「TIMELESS TIME」トミオ・セイケ写真展
9月14日(土)より開催
ブリッツ(目黒)
13:00~18:00/ 入場無料
日曜、月曜、9月24日~28日は休廊

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