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2014年1月28日 (火)

ザビーヌ ビガール写真展
「TIMEQUAKES 時のかさなり」

Guide492
#54-AFTER HANS HOLBEIN THE YONGER
Portrait of Margaret Wyatt, Lady Lee © Sabine Pigalle

シャネル・ネクサス・ホールでパリを拠点とするアーティスト、ザビーヌ・ビガールの写真展が開催されている。
展示作品はカラーによるポートレートの連作だが、実はデジタルによる画像処理を駆使して制作されている。15~16世紀ルネサンス期の、ダビンチ、ラファエロ、ホルバイン、ファンエイク、クルーエなどの巨匠の宮廷肖像画と、現代の様々な人種のポートレート写真を重ねて制作されたものなのだ。ただ顔の部分を入れ替えただけではなく様々なパーツにもデジタル処理で手が加えられているとのことだ。さらに、その合体した写真の背景には彼女の以前の来日時に撮影された抽象的な東京の夜景が使われている。大判を含む様々なサイズの全50点がクラシカルな雰囲気のフレームに額装され、黒を基調としたシックな会場に展示されている。

資料によると、本作は彼女が東京で経験した東日本大震災においての心理的混乱が制作のきっかけになっているとのことだ。そして大震災での物質的破壊を一時的な堆積(たいせき)と解釈し、それを表現するために本作に取り組んだという。やや難解なので、これはどのような意味なのか考えてみたい。
ネットで調べると、堆積とは、地層を形成するに至るまでの過程を意味するとのこと。彼女は震災経験後に思索を重ね、地震や津波による地形や構造物の破壊をより宇宙的な視点と時間軸で解釈しようとしたのだろう。天変地異は、僅か80余年の寿命しかない人間にとっては非常に衝撃的な出来事である。 しかし、地球規模の時間軸でとらえた場合、この破壊と再生は幾度となく繰り返されその痕跡が堆積したうえで現在の状況があることも事実だろう。大震災で起こされた破壊も時間経過の末にやがて堆積物の一部となっていく。日本人は八百万の神というように古代から自然に神を見出してきた。また地震や台風などを何度となく経験しているので、自然災害に対して諦めの感覚を持ち、また自然が再生するという仏教の輪廻のような感覚を本能的に理解している。しかし、キリスト教を信じる欧米人は自然は神が作ったもので人間が支配するべきという発想を持っている。ザビーヌ・ビガールは地震の直接体験がきっかけとなり、日本人が生まれ持つ自然への畏れのような感覚に気付き、それを論理的に作品コンセプトとして自作に落とし込んだのだ。永遠に繰り返される自然の営みや輪廻のようなことを理解してもらうためにその考えを言葉と作品で提示しているわけだ。その方法は画像を重ね合わせることで試みている。複数の時間軸が1枚の写真の中に共存することを時間の堆積として暗喩的に表現しているのだ。タイトルの「TIMEQUAKES」は、時間の「TIME」と、揺れる、振動するを意味する「QUAKE」をくっつけた造語だと思う。自然で繰り返される堆積を、時間の堆積で表現しようとした意図が読み取れる。

ビガールの作品は、時代性が反映されたアイデアと、インテリアにも飾り易い親しみやすいヴィジュアルをあわせ持っている。まさに欧米で主流の、写真表現を取り入れた最先端の現代アート作品だと思う。日本ではややなじみの薄いこのようなタイプの写真作品が、欧米市場では熾烈な生き残り競争を続けているのだ。作品テーマと時代との関連性構築の考え方や、デジタル技術を多用した巧みな画像処理による作品制作アプローチはアーティストを目指す人にも大いに参考になると思う。

ザビーヌ ビガール写真展「TIMEQUAKES 時のかさなり」
1月17日(金)~2月9日(日)まで。12時~20時、入場無料・無休
シャネル・ネクサス・ホール(東京都中央区銀座3-5-3 シャネル銀座ビルディング4階)

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2014年1月21日 (火)

ブライアン・ダフィー写真展
見どころの解説

Blog
"Queen, 1965"ⓒ Duffy Archive 禁無断転載

ブライアン・ダフィー(1933-2010)は、日本ではほとんど知られいないが、英国の60年代のいわゆるスィンギング・ロンドン時代に活躍したファッション写真家。
当時の英国には3人の有名な若手写真家がいた。彼はデビット・ベイリー、テレス・ドノヴァンとともに時代の最先端を走るロックスター並みの写真家だった。3人のうち、ベイリーは女優のカトリーヌ・ドヌーブと結婚していたことから覚えている人が多いだろう。

3人はファッション写真に新しい風を吹かせたことで知られる。それまで主流だったスタジオでのファッション、ポートレートの撮影を拒否し、ドキュメント的な手法を取り入れてストリートで撮影を行った。また彼らは南ロンドンの労働者階級出身で、当時のロンドンの、ギャング、モッズ、ロッカーズらをヒントにし、いまストリートで起きている新しい生き方が反映されたポーズを取り入れていたことも特徴。ストリートの状況が反映された方が見る側はファッション写真によりリアリティーを感じ、自己を投影しやすい。彼らはいまでは当たり前のストリートのファッション・フォトの先駆者だったのだ。
当時のファッション写真界の重鎮、ノーマン・パーキンソン(1913-1990)は3人を「The Black Trinity(不吉な3人組)」と呼んで恐れたそうだ。また彼らの写真は、当時米国で活躍していたリチャード・アヴェドン以上に大胆で斬新だったと言われている。

ダフィーはとてもアート志向が強い人だったと思う。彼は1979年に写真を止めてしまい、ネガ類を裏庭で燃やしてしまった。当時はやっと写真がアートの一分野と認められ始めた時期。作り物のファッション写真はまだアートと認められていなかった。ファッションが巨大ビジネス化し、クライエントの厳しい要求と自由な表現が次第に自己規制される中、多くの優れたファッション写真家が自分の表現の未来に絶望していった。このころには、ギイ・ブルダンやポール・ヒメールなども同様の理由でファッション写真から遠ざかっていく。
しかし21世紀になり、ファッションがアートと認められるようになり、市場では20世紀に活躍した人たちの再評価の動きが活発化する。
ダフィーもその流れの中で今度はアーティストとして注目されるようになる。息子のクリス氏が中心になり全仕事をまとめた写真集が刊行され、デビット・ベイリー、テレス・ドノヴァンに次ぐ、忘れ去られた当時の第3の男(ザ・サード・マン)として新たに紹介されたのだ。2010年に本人は亡くなるが、その後も全世界で写真展が開催される。
今回のブリッツの展示はオーストラリアで開催された写真展の作品が巡回してきたものだ。そして、2013年にロンドンのヴィクトリア&アルバート美術館で開催されたボウイの回顧展「デビット・ボウイ・イズ」のメインヴィジュアルに代表作「アラジンセイン」のアザーカットが使われ、ダフィー人気が本格的にブレイクする。アーカイブの責任者クリス氏は世界中からの企画オファーで多忙を極めているそうだ。

彼の代表作は、デビット・ボウイのLPジャケットのシリーズだろう。「アラジンセイン」(1973年)、「ロジャー」(1979年)、「スケアリー・モンスター」(1980年)などがある。ボウイによるグラム・ロックのSF的、宇宙的なファッションやメークがダフィーのヴィジュアルを通じて世の中に伝えられたのだ。スィンギング・ロンドン期は、ファッションの主流が上流階級のオートクチュールから、ストリート発、若者発の一般消費者に変化してきた時代。オートクチュールもモッズ、ヒッピー的なストリートの流行を取り入れていく。本展ではその状況がよく反映された当時のファッションを見ることが出来る。
またダフィーのファッション写真で気付くのはクルマを取り込んでいるものが多いこと。 写真集表紙はアストン・マーティン、その他にジャガーEタイプ、メルセデス(縦目)、 アルファスッド、オースティン・ミニ、フィレンツェでのシュートにはスクーターのヴェスパも写っている。 当時はクルマはまだ憧れに対象で、ラグジュアリーなライフスタイルや自由な生き方といま以上に密接に関係していたことがよくわかる。

本展では、ファッション、デビット・ボウイ、ポートレートを通して1960年代から1970年代の気分と雰囲気が強く感じられるだろう。当時を知っている世代には懐かしく、また知らない若い世代には新鮮に感じられる写真展になっている。
ぜひお誘い合わせの上でお出でください!

・ブライアン・ダフィー写真展
 「DUFFY...PHOTOGRAPHER」
 ブリッツ・ギャラリー 
 1月24日~3月29日
 1時~6時、日月休廊
http://blitz-gallery.com/

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2014年1月14日 (火)

2014年の展示予定など
ブライアン・ダフィー展
第3回新進気鋭のアート写真家展など

遅ればせながら、あけましておめでとうございます。
皆様にとって2014年が素晴らしい年になりますようにこころよりお祈り申しあげます。

2014年の展示予定など

・「ブライアン・ダフィー写真展」
英国人写真家ブライアン・ダフィー(1933-2010)の"DUFFY...PHOTOGRAPHER"がブリッツの新年初の写真展となる。少し先になるが、1月24日(金)にスタートする。

Blog

“Bowie, Aladdin Sane”ⓒ Duffy Archive 禁無断転載

ダフィーは60~70年代に活躍した英国のファッション写真家。キャリア晩年に作家性が認められ、死後の写真集刊行と、昨年夏にロンドンのヴィクトリ&アルバート美術館で開催されたデビット・ボウイの回顧展覧会で「アラジン・セイン(Aladdin Sane)」のアザー・カットがメイン・ヴィジュアルの一部に使用されて一気に人気が盛り上がった。世界的に行われている、過去に活躍したファッション写真家再評価の流れから見出されたのだ。
現在、展示準備を進めているがだいたい30点程度の展示になる予定。ファッション、ポートレート、デビット・ボウイから代表作がセレクションされる。
ボウイのセクションでは、「アラジン・セイン(Aladdin Sane)1973年」、「ロジャー(Lodger)1979年」、「スケアリー・モンスターズ(Scary Monsters)1980年」のLPジャットに使用されたイメージを展示。特に「アラジン・セイン」では、コンタクト・シートをグリッド状にしたり、モノクロに反転したイメージなども紹介される。
ポートレートでは、アーノルド・シュワルツネッガー、ブラックサバス、デビッド・ジョーンズ、デビ―・ハリー、ブリジッド・バルドー、ジョン・レノン、ジェーン・バーキン、ジーン・シンプソン、ポール・マッカートニーなど。
ファッションでは、雑誌ヴォーグ、クィーン、エルやピレリー・カレンダー用に撮影されたものなどが含まれている。
会場では1960年代から1970年代の時代の気分と雰囲気が感じられるだろう。その時代を知っている人には懐かしく、また若い人たちには新鮮に感じられる写真展になると思う。

詳細は以下をご覧ください。

http://blitz-gallery.com/gallery_exhi_cur.html


・「The Emerging Photography Artist 2014」
今年も"ジ・エマージング・フォトグラフィー・アーティスト2014"「新進気鋭のアート写真家展」を2月18日から広尾のインスタイル・フォトグラフィー・センターで開催する。
アート写真を取り扱う業者団体のJPADSが、新人アート写真作家を発掘するために行う3回目の試みとなる。
今回の募集要項にはいくつかの変更点がある。
まず写真を取り扱うギャラリー、ディーラーの推薦を止めて、写真教育関係者の推薦中心で行うことにした。また参加者の年齢制限を35歳までとした。本展の趣旨は写真分野で作家活動を行っている無名の若手、中堅に展示の機会を提供すること。しかしアート業界では40歳代も若手になる。ギャラリー、ディーラーが推薦する場合は、 業界的には新人だが写真家としては経験豊富なベテランになってしまう。どうしても学生との年齢差が大きくなってしまうのだ。残念ながら前回はその悪影響も見られた。
また過去2回はJPADSが考える写真作家の意味を正しく理解していない参加者が多かった。日本では写真は趣味の世界のもので、ファイン・アートとは考えられていない。理解が違うのはしかたないことだと思う。このあたりの啓蒙活動はJPADSにとって大きな課題だ。そうであるならば、社会の厳しさを知り、趣味の充実のために割り切って写真を撮っている人よりも、若くて自分が天才だと信じる怖いもの知らずの若いひとたちの展示の方が開催趣旨に合っていると考えたのだ。
その判断が難しいことがいままでの経験でわかったので単純に年齢制限を設けた。その分、学校関係者の推薦数が増加した。今回から新たに、大阪芸術大学、多摩美術大学、東京ビジュアルアーツからも写真家を推薦してもらった。日本人写真家以外に韓国、中国からの写真家も参加予定。少しばかり国際的になってきた。
昨年同様にカタログを制作するとともに、グランプリも選出予定だ。参加者による自作をアピールするためのトークイベントも開催する。これからも試行錯誤を行いながら時間をかけて作家志望者の登竜門に育てていきたいと思う。

○プレスリリース、参加者リストは以下でご覧いただけます。
http://www.artphoto-site.com/jpads_pr_011.pdf

○プレス用プリントは以下でご覧いただけます。
http://www.artphoto-site.com/jpads_pr_011image.pdf

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