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2014年2月25日 (火)

ジ・エマージング・フォトグラフィー・アーティスト2014展
公募作品のレビュー

ジ・エマージング・フォトグラフィー・アーティスト展は3月2日(日)まで開催中だ。
12名の新進気鋭の写真家が参加しているが、そのなかで10名は写真教育機関の先生方の推薦による。会場内にはその推薦文が掲示してあるのでぜひ読んでもらいたい。
公募で選ばれたい高橋正典、伊藤雅浩の2名には推薦文がないのでここで簡単に作品解説を行っておきたい。

・高橋正典「In camera obscura -暗い部屋の中-」
Emerging2014press9

カメラ・オブスクラ(カメラ・オブスキュラも同じ意味)は写真の起源のようなもので、暗い部屋の中に小さな針穴から入った光で、その向かい側の壁面に外界の世界を反転して映し出す仕組みだ。
高橋は、自らカメラ・オブスクラの仕組みをホテルの部屋の中に作り作品を制作している。彼は映し出された反転した外界の像を、現実の室内の調度品などと組合わせて中判カメラで撮影。一種の抽象作品といってもよいだろう。フイルムに映像が記録されるまでに約4時間もシャッターを開けっ放しにしているという。カメラ自身のシルエットが写り込んでいる上記作品には、背景に複数の横線の束が見て取れる。それらはすべて壁紙の質感が反映されているとのことだ。

彼のテーマは現実ように見える世界の危うさの提示だ。都市が魅力的に感じるのは、見る人がそこに様々な幻想を抱くからだ。そしてその幻想は都市に対しての様々な思い込みを生み出し、場合によっては私たちを不幸にすることもある。客観的な都市の魅力などはない、目の前に見えるシーンはすべて見る人の認識によって違って見えている。彼はその事実を私たちに気付かせるために、外の風景を室内に再現している。私たちが現実だと信じているシーンも実は彼の写真のように実態のないものなのだ。

彼は以前、2枚の写真を絶妙にパソコン上で貼り合わせて1枚の都市風景を制作していた。 一見、何気ない普通のイメージなのだがよく見ると左右対象になっている。その作品はテーマ性よりも画像処理の技術を目的化した作品と勘違いされがちだった。 作品サイズがやや変形であったことから展示しにくい点もあった。旧作と新作は方法アプローチが違うものの全く同じテーマを扱っている。

新作の作品テーマと制作方法は共に面白い。これから意識的に様々なビジュアル作りに挑戦してほしい。今後も見る側の思い込みを撃つユニークな作品アイデアを考えて欲しい。

・伊藤雅浩「東京オベリスク-case02:排気所(首都高速道路)-」
Masahiroito_01

伊藤は首都高速トンネル内の二酸化炭素を外に出す排気所を撮影している。
一見すると普段見なれた都市風景なのだが、その中でビルや塔のよう見えるものが排気所なのだ。周りの都市環境と違和感がないようなデザインが心がけられているそうだ。
東京の街はよく統一感がなく醜悪だなどといわれる。それはそれぞれの建物がまわりの環境を無視して個性的であろうとしているからだろう。これを否定的にとらえる人は多いのだが、伊藤は逆にこれは東京の多様性と自由の表れととらえている。そのなかであえて周りの環境に配慮した存在であろうとする排気塔に魅力を感じているのだ。

伊藤は都市風景の構図を都市生活者の生き方に置き換えている。都市で魅力的であろうとする方法は、なにも個性を主張するだけではない。重要な役割を果たしている排気所は周りの環境に配慮をしながらも見る人が見れば重要な存在感を発揮しているのだ。人間も世の中でキャラをたてるために神経をすり減らすだけでなく、まわりの人たちに配慮しながらも重要な仕事を行うことが可能なのではないかということだ。
もちろんこれは、伊藤が自分自身に語りかけているメッセージでもあるのだろう。

本作は彼が取り組んでいるシティースケープ写真シリーズの新作。
前作では公共スペースに鎮座しているパブリック・アートの野外彫刻などを撮影し続けていた。普段はあまり意識されないそれらの無名作品を通して、私たちがアート作品の本質を見ているのではなく、ただ作家のブランドを確認している事実を明らかにいる。
東京という巨大都市で作品を制作するのは容易ではない。その中で野外彫刻や排気所という意識されない存在を通して作品テーマを模索する姿勢は好感が持てる。
ぜひそれらのドキュメント作品をインテリアでも飾れるように、作品提示方法も色々と探求して欲しい。

“The Emerging Photography Artist 2014”
(ジ・エマージング・フォトグラフィー・アーティスト 2014)
 -新進気鋭のアート写真家展-
 2014年2月18日(火)~3月2日(日)
 午後 1時 ~ 6時 (最終日5時)/ 入場無料
  週末にはトークイベントを開催します!
 会場:インスタイル・フォトグラフィー・センター
 東京都港区南麻布5-2-9
 東京メトロ日比谷線 広尾駅下車 徒歩7分

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2014年2月18日 (火)

INFINITY VS ~僕らと、たった一人のモナ~
パルコミュージアム渋谷

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松岡モナは僅か15歳でミラノコレクションにデビューした若手ファッションモデル。本展は、広告とファッション分野で活躍中の日本人写真家9名が様々なセッティングで彼女を撮影した作品を展示しているグループ展。

展示を見て「Kate」(1995年、Pavilion刊)というケイト・モスをフィーチャーした写真集を思い出した。彼女は長年にわたり第一線で活躍しているスーパーモデル。この本は、複数のファッション写真家が撮影したケイト・モスの写真をコレクションしたもの。その後しばらくしてから彼女がスーパーモデルとして世界中で大活躍するようになり、本書は古書市場で高額で売買されるようになる。
松岡モナはケイト・モス的な要素をもったモデルだと感じた。ケイト・モスが評価されたのは、彼女がデザイナーやフォトグラファーのディレクションによりまるで別人かのように様々な表情やスタイルをみせることだろう。 20世紀後半以降は人々の価値観が多様化したことで、強い個性がないことが個性になったのだ。90年代前半の各自があらゆる面で超個性的だったスーパーモデル・ブームとは状況が大きく変化した。いまや見る人が自分の理想像を反映させる対象になりえるモデルの人気が高いのだ。個性的だと見る側の好き嫌いが明確に出てしまう。
今回の展示の中には、本当に様々な顔を持つ松岡モナがいた。とても一人のモデルだとは思えなかった。オーディエンスは間違いなく、自分好みの彼女を展示作品の中から見つけられたのではないか。ほとんどの写真が、彼女の写真というよりも見事に写真家自身の作品になっていた。
ちなみにケイト・モスのデビューも同じく15歳だった。松岡モナも将来的にぜひケイト・モスのようになって欲しい。

個別の写真家の作品に触れておこう。
小林幹幸は彼の得意とするエロがない透明感のあるスクールガールの世界を表現していた。
鶴田直樹はいつものエンリケ・バドレスクを思い起こさせるカラーながら、サラ・ムーンの色見とスタイリングを感じさせる斬新なアイデアを展開、個別作品を見せるスタンスが強く感じられた。
北島明は、4点のグリッド状作品、2点の組作品で相変わらずややシュールでアバンギャルドな世界を表現していた。
半沢健は、様々なサイズのシート作品を壁面にインスタレーション。松岡モナを自分の日常世界に引き込もうとしていた。ウォルフギャング・ティルマンズを思い起こさせる展示アプローチだ。
設楽茂男は画家のように彼女自身の顔をキャンバスに、カラフルなペインティングを施したポートレート作品。
Rrosemaryは濃厚なモノクロームで松岡モナのフォルムを抽象的に表現。モダンとクラシックが共存していた。
舞山秀一は東京のストリートを背景にした、ドキュメント的作品だった。カラー、モノクロを混在させて小作品をグリッド状に並べた作品は映画のようにイメージが連続する効果が感じられた。見る側によって流れが変わっていく印象だ。
中村和孝は1点物のポラロイド作品の展示。 ニック・ナイトやパオロ・ロベルシの雰囲気を感じられる。

インフィニティーの人たちはアート性を目指していると公言しない点が清々しい。 変にエゴを押しつけるアート風の作品よりもはるかに親しみが感じやすい。世界的なモデルを日本の最先端の写真家が撮影した写真はカッコいいに決まっている。都会で暮らす現代人にはアート写真といわれる小難しい写真よりもはるかにリアリティーを感じるはずだ。
しかしこのような写真は広告写真の場合が多くなかなか販売はされていない。案外、カッコイイ写真がみれて買える機会はないのだ。
ちなみにサロンスぺースで展示販売されている8X10"の作品はフレーム込で21,000円。その他の作品も3万円くらいから売られている。
これらの写真ははたして将来的に値段が上がるのかという突っ込みが入るかもしれない。それは見る人、買う人の目利き次第だといっておきたい。もし将来的に、今回のどれかの展示作品が21世紀東京の時代の気分や雰囲気が反映されていると評価されれば、それはアートとしてのファッション写真になるということだ。また、松岡モナがケイト・モスのような有名モデルになれば、15歳の彼女をとらえた作品の価値は間違いなく上がるだろう。
まずは自分の目利きを試す意味合いで、単純に今の自分の気分に合った写真を選んでみてはどうだろうか。

INFINITY VS. ~僕らとたった一人のモナ~
期間:2014年2月7日(金)~24日(月)
時間:10:00~21:00(入場は閉場の30分前|最終日は18:00閉場)
会場:PARCO MUSEUM (渋谷パルコパート1・3F)
入場料:一般 ¥200、小学生以下 無料
写真家:北島明、小林幹幸、笹口悦民、設楽茂男、鶴田直樹、中村和孝、半沢健、舞山秀一、Rrosemary
モデル:松岡モナ

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2014年2月11日 (火)

「ジ・エマージング・フォトグラフィー・アーティスト2014」
いよいよ来週に開催!

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"ジ・エマージング・フォトグラフィー・アーティスト2014"「新進気鋭のアート写真家展」が来週の2月18日から広尾のインスタイル・フォトグラフィー・センターでスタートする。このイベント、早いもので3回目となる。

今年の参加者は以下の12名となった。学校による推薦はすべて個別の先生によるものだ。
金 成珉(東京工芸大学)、
蒋 沫琳(東京工芸大学)、
長谷川 治胤(九州産業大学)、
桑田 恵里(日本大学)、
重松 駿(日本大学)、
新庄 乃美(岡山県立大学)、
藪口 雄也(大阪芸術大学)、
田中 圭祐(大阪芸術大学)、
土田 祐介(多摩美術大学)、
菊地 教彦(東京ビジュアルアーツ)、
高橋 正典(公募)、
伊藤 雅浩(公募)

昨年まではアーティストを目指すというよりも、趣味で写真に取り組んでいる人が開催趣旨を勘違いして応募してくるケースが散見された。日本では写真で作家を目指すという意味が非常に幅広く解釈される。ディーラー主催の趣旨を理解しているかどうか、応募者の本心はなかなか読みづらい。従って今年から単純に年齢制限を設けることにした。効果は見事に現れ、公募の応募者が大幅に減少した。本来、社会人の中に真剣に作家を目指す人がそんなに多くいるはずはないのだ。

しかし、学生や若い写真家がアート写真市場の存在や仕組みを理解しているかといえば、これにも大きな疑問が残るだろう。学校の先生でさえあまり実態を知らないこともあるのだ。日本で売られている写真のほとんどはインテリア向けの装飾品扱いだ。また本来は写真展開催や写真集制作は作家のメッセージを伝えるために行われる。商業写真が中心の日本では、それらも写真家のブランド構築の手段になっている。しかし、世界には写真をアート作品として取り扱う市場が存在している。今回の選出をきっかけに、そんな市場に挑戦したいと思う人がでてくることを願っている。

会期中の週末には参加者による自作を語るフロアレクチャーを予定している。これで写真家の本質がかなり見えてくるのだ。
将来性のある若手新人の作品をいちはやく見つけたい人は、ぜひこのトークイベントに参加して欲しい。そこで写真家の発するメッセージを自分で理解できるかが、購入判断の大きな基準になるからだ。うまくしゃべるかどうかではない。そのような人は借り物の言葉で話している可能性がある。自分の言葉を選んで何かを伝えようとも悪戦苦闘している人の方が本物である場合が多い。コレクターを目指す人も本物を見抜くための経験なると思う。イベントに合わせてディーラー側からも何らかのレクチャーも行いたいと考えている。

今年も来場者の投票によりグランプリを選出する。受賞者には協賛のエプソン販売からプリンター PX-5V、Velvet Fine Art Paper、UltraSmooth Fine Art Paper、コスモスインターナショナルから写真の収納用品などが提供される。作家を目指す若い写真家を支援してくれる協賛企業には心から感謝したい。
昨年のグランプリだった三善チヒロは、その後に国際的フォトフェアやグループ展に参加するなど大活躍。自分のメッセージを更に洗練させて幅広く伝える努力を続けている。来場者による投票結果の信頼性の高さには本当に驚かされる。アートとしての写真に興味ある人が多く来場し、きちんと作品を見究めているのだ。今年は誰が選出されるか本当に楽しみだ。コレクターの人にとってもグランプリの行方は重要な情報となるだろう。

今回は韓国、中国の留学生の参加も決まり、少しばかり国際化したイベントとなった。市場規模ではアジア各国の状況は日本とはあまり変わらない。日本市場が一番大きく感じるが、これは外国人写真家が頻繁に売買されているということだ。自国の写真家の市場規模は各国であまり差がないと思う。
グローバル化経済の影響で世界各国の社会状況で重なる部分がかなり出てきて、同時に共感できるテーマも増えてきた。今回、韓国、中国の写真家のメッセージがどのように日本のオーディエンスに受け入れられるかは非常に楽しみだ。
アートとして表現された写真作品に対しては、政治的、歴史的な違いを乗り越えて互いに共感することが可能なのだ。


“The Emerging Photography Artist 2014”
(ジ・エマージング・フォトグラフィー・アーティスト 2014)
 -新進気鋭のアート写真家展-
 2014年2月18日(火)~3月2日(日)
 午後 1時 ~ 6時 (最終日5時) 2月24日(月)休館 / 入場無料
 会場:インスタイル・フォトグラフィー・センター
 東京都港区南麻布5-2-9
 東京メトロ日比谷線 広尾駅下車 徒歩7分

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2014年2月 4日 (火)

『フジフイルム・フォトコレクション』展
日本の写真史を飾った写真家の「私の1枚」

Guide488
「アメリカ・インディアン村の二つのゴミ缶」 (<消滅した時間>より) 奈良原一高 1972 年

富士フイルム株式会社のフィルム事業の規模は2000年がピークで、当時は写真関連事業が営業利益の約60%を占めていたそうだ。それが僅か10年後の2011年には、なんと売り上げに占める比率が僅か1%にも満たなくなったそうだ。ちなみに競合していたコダックは2012年に経営破たんしている。写真の急激なデジタル化を象徴した驚くべき数字の推移だろう。
もはや中身は写真関連企業とはいえない富士フイルム。このたび同社は創立80周年を記念して、日本の写真史を飾る写真家約100名を選び出し各1点を『フジフイルム・フォトコレクション』として収集した。そのコレクションを披露する展示が東京ミッドタウンのフジフイルム スクエアで5日(水)まで開催中だ。2014年2月21日~2014年3月5日には大阪の富士フイルムフォトサロンに巡回する。
プレスリリースによると、「約150年前の幕末に写真術が日本に渡来してから銀塩写真が最盛期を迎えた20世紀の間に活躍し、高い技術と感性で国内外で高く評価を受けた写真家約100名の「この1 枚!」という代表的作品を、優れた技術で新たに制作された高画質の銀塩プリントで後世に残すものです。」とのこと。19世紀から1950年代生まれまでの写真家が選ばれている。
それらは、フェリーチェ・ベアド、下岡蓮杖、上野彦馬、内田九一、福原信三、田淵行男、木村伊兵衛、濱谷浩、土門拳、林忠彦、秋山庄太郎、植田正治、石元泰博、長野重一、芳賀日出男、奈良原一高、東松照明、細江英公、前田真三、操上和美、立木義浩、篠山紀信など。各作家1点だが、歴史を網羅するこれだけの写真家の作品がまとめて鑑賞できる機会はあまりないだろう。

コレクションの監修は写真ディーラーを長年務めている山崎信氏が担当している。写真家の知名度というよりも写真家の作家性が重視されていることが興味深い。商業写真、ファッション写真の分野で活躍した人などを含む、日本の写真史では必ずしも評価されていない人たちも選出されている。
アートとして日本写真の歴史では、いまだに書かれていない分野が数多くある。本コレクション展がきっかけでそれらが再評価されることを願いたい。

同時刊行された約220ページにも及ぶカタログは分厚く非常に豪華。印刷も高品位だし、作品解説、作家情報など、資料も満載されている。将来的に、この本が日本人写真家の作品コレクションにおけるレファレンスになるのではないか。販売価格は2500円と非常にリーズナブル。資料として買っておきたい1冊だ。

会場 フジフイルム スクエア
住所 〒 107-0052 東京都 港区 赤坂9-7-3
開館時間 10:00~19:00
入館は18:50まで
観覧料 無料
お問い合わせ先 TEL: 03-6271-3350(10:00~18:00)
URL(PC) http://fujifilmsquare.jp/

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