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2014年10月21日 (火)

2014年秋ニューヨーク・アート写真・
オークション結果
米国の量的金融緩和終了の影響は?

2014年秋のニューヨーク・アート写真・オークションは主要3社で合計6つのオークションが開催された。複数委託者オークション以外に、クリスティーズではフォーブス・コレクションとドン・サンダース・コレクション、フィリップスはシカゴ美術館コレクション。またササビーズはコール・ウェストン・トラストの548点のエドワード・ウェストン・マスター・セットのセールが行われた。
主要3社の売上合計は、春より約17%減少して1841万ドル(約19.3億円)、年間ベースでも2013年と比べて約15%減少している。これはほぼ2005~2006年くらいの売り上げで、リーマン・ショックによる市場規模縮小からの回復ペースがやや弱まってきた印象だ。高額落札が減少したことが総売り上げ減少の理由と思われる。今春は50万ドル越えが6点あったが、今秋は1点もなかった。
今季の高額落札は、クリスティーズのエドワード・ウェストンの"Nautilus Shell,1927"が461,000ドル(約4840万円)。ササビーズのマン・レイ"Lee Miller, c1930"が455,000ドル(約4777万円)だった。
今季の業者売り上げ高トップは、シカゴ美術館コレクション・セールが貢献したことからフィリップスが獲得した。同社の売り上げはここ数年安定的に推移している。ちなみに今春はササビーズがトップだった。

今季は、ササビーズで開催された548点のエドワード・ウェストン・マスター・セットの一括オークションが特に注目を集めていた。(以下がカタログの画像)

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Sotheby's "Edward Weston/Coke Weston:The Master Set"

いわゆるコール・プリントと呼ばれるウェストンの息子コールにより制作されたエステート・プリントだ。豊富な解説付きの単独カタログを制作するなど、ササビーズは大変な力の入れようだったが残念ながら不落札だった。落札予想価格は200~300万ドル(約2.1~3.15億円)。単純計算すると1枚当たりが3650ドル~5474ドル。コール・プリントの相場はイメージの人気度によりかなり異なる。人気作は1万ドル(約105万円)以上するが、不人気作は値がつかないこともある。不人気作品のヴァリューと、資料的価値をやや過大評価しすぎたのではないだろうか。

アート写真にとって作品の来歴は作品価値に大きく影響を与える。特に最強の来歴は美術館のコレクションだったこと。美術館が所蔵作品を売却することなどは日本では想像できないだろう。しかし海外の美術館はコレクターによる作品寄贈が多く、重複コレクションを市場で売却して新規購入資金にあてることはよくある。
今回のフィリップスで行われたシカゴ美術館コレクション・セールはそれに当たる。通常はかなり高い落札率なのだが今回は73.5%と特に際立って良い数字ではなかった。特に1万ドル以下(約105万円)の低価格帯の不落札率が30%をこえていたことが影響した。
最近は写真史上有名写真家の作品でも、不人気作は売れないことが多い。これは美術館コレクションの来歴でも不人気作だとコレクターは無理して買わないということなのだと思う。少しばかり気になる兆候だ。

現代アート系の結果はどうだっただろうか?アンドレアス・グルスキーなど、落札予想価格の高い作品は現代アート・オークションで取り扱われている。アート写真分野にはエディションが多いか、小さめサイズの作品が出品されることが多い。今回注目されたのが、ドン・サンダース・コレクションに出品されたデヴィット レヴィンソール(David Levinthal)の272点からなる"XXX: Volumes I, II, and III, 1999-2001"。落札予想価格25~35万ドル(約2625~3675万円)だったが不落札だった。全般的に高額カテゴリー作品の動きがやや鈍い印象だった。

「イコン&スタイル」系の写真は全般的に良好だった。注目されたのは、ヘルムート・ニュートンの"Private Property, Suites I, II, and III, 1984"。各15枚の合計45点からなるニュートンの代表作品。フィリップスとクリスティーズのドン・サンダース・コレクションのセールで2セットが出品された。落札予想価格に10万ドルの開きがあったのは興味深かったが、ともに389,000ドル(約4084万円)で落札されている。巨匠リチャード・アベドン、アーヴィング・ペンのファッション系作品も順調に落札されていた。この分野の代表作家の代表作品には相変わらず強いコレクター需要が感じられた。
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Christie's "Triple XXX"
もともと市場環境が良くない中で金融緩和による高額セクターの活況がアート写真市場を引っ張ってきた。しかし今秋は落札価格5万ドル(約525万円)以上の高額セクターの不落札率が高かった。 クリスティーズの複数委託者、ドン・サンダース・コレクションのセールでは高額セクターの不落札率が50%を超えていた。フィリップスの複数委託者セールも不落札率が40%以上だった。ササビーズのエドワード・ウェストン・マスター・セットの一括セールが不落札だったことがこの状況を象徴しているといえるだろう。

ここにきて米国の量的金融緩和の終了が取りざたされ、世界的な流動性の縮小が懸念されている。いままではアートも含むほとんどの優良資産が買われてきた。これからは資産価値のより精緻な評価が行われるようになると予想されている。アート写真でも主要購買者である中間層の経済状況の改善がないかぎり、より厳しい選択と評価が行われるようになるだろう。今秋のオークションでは、上記のように市場の先行きに一抹の不安を感じるいくつかの兆候が見られた。今後とも注意深く市場の動向を見守りたいと思う。

(為替レートは1ドル105円で換算) 

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2014年10月 7日 (火)

TOKYO PHOTO 2014(東京フォト)
アジア市場における独自フォトフェアの可能性

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「写真に何ができるか」(2014年、窓社刊)に書いているが、日本のアート写真マーケットの規模は欧米に比べて極端に小さい。お金がまわらないから、優れたアーティストや関連の専門家が育たない、優秀な若い人材がこの業界に入ってこないという状況に陥っている。特に日本人写真家の市場はインテリア向けの低価格帯のもの以外は本当に小規模でしかない。一時期、現代アート風のデザイン・コンシャスで大きなサイズの作品が売れたことがあったが、いまは全くダメになってしまった。ただし欧米で資産性が認知された外国人写真家の市場は日本にも存在するが、これも最近のドル高による輸入価格上昇と消費増税で厳しい状況となっている。

今年の東京フォトはこのような状況が全般的に反映されたものだったといえるだろう。規模が小さくなったという意見が多くの参加者、来場者より聞かれた。海外からの参加者が減少したのは明らかに9月のフォト上海にギャラリーが流れたことによるだろう。海外勢は多額のコストをかけて参加する。やはり市場拡大の可能性がある場所を選びがちになる。今回は過去の販売実績があったベルリンのギャラリー・カメラ・ワークが唯一3回連続して参加していた。彼らは「イコン&スタイル」の作品に特化している。今回は、ピーター・リンドバーク、エレン・ヴォン・アンワース、アルバート・ワトソンなどを展示していた。彼らの取り扱い写真の市場は日本にも存在するのだ。

アジアで初めてのフォト・フェアは、2009年から韓国で開催されているソウル・フォトだ。ソウル・フォトは回を重ねるごとにイベント内容が変化していった。今回の東京フォトの展開がそれに似てきたような印象をもった。ソウルも最初のうちは、欧米的フォトフェアをアジアで開催することを目指していた。多くの国内外ギャラリーが参加して表層的にはそれなりの活気があった。しかし、参加ギャラリー数が回を重ねるごとにどんどん減少していき、代わりにアマチュア写真家の展示や、主催者企画による写真家の個展が展示ブースで開催されるようになっていった。ギャラリーでなく写真家がブースを持って出品するイメージだ。つまり観客はそれなりに来るもののほとんどが鑑賞目的。作品がほとんど売れないことから商業ギャラリーが参加しなくなり、欧米的な販売目的のフォトフェアとは全く違うイベントに変異していったのだ。2010年は日本からもかなりの数のギャラリーが参加していたが、2011年は震災の影響もあり2業者だけとなった。その後は日本からもアマチュア写真家のグループや出版社が参加するようになっていった。私どもも3回参加したものの、しだいに参加する意味があまり見いだせなくなったので今年は様子見とした。
今年の東京フォトも展示スペースの半分が、独自企画の写真展示になっていた。私は市場が未成長のアジアでは、フォトフェアは特に欧米的な販売目的である必要はないと考えている。この地域で行うべきなのは、まず写真がアート作品であることを多くの人に知ってもらうための様々な啓蒙活動や展示活動である。ソウルフォトも販売目的の商業ギャラリーには参加する意味が希薄化したが、その他のエマージング・アーティスト、アマチュア写真家、有名アーティストの作品展示を見たいオーディエンスには魅力的な場なのだ。毎年、ヤングポートフォリオを開催して参加者を世界中から募集している清里フォトミュージアム。彼らはここ数年ソウル・フォトに参加しているが、韓国からの応募者が大きく増加したといっている。
作品があまり売れなくても、プロ・アマチュア写真家が参加して、多くのオーディエンスが来場するような、アジア的フォトフェアというビジネスモデルは構築可能なのではないだろうか?
これはまさに写真文化振興の側面も持つ。ソウル・フォトも国からの間接的な支援があると聞いている。東京フォトも今年から文化庁の「優れた現代美術の海外発信促進事業」を意識した展示を行っている。主催者は今後の外務省の文化事業とのかかわりも示唆していた。100%コマーシャル・ベースでない場合は、どうしても事業継続に様々な公的機関や企業の支援が必要になってくる。今年の東京フォトは、過去の経験の蓄積から欧米とは違うアジア独自のフォトフェアのスタイルが必要だと感じ、新たな方向の模索をはじめたのだろう。
一方で欧米の主催者が取り仕切っているフォト上海は、いまのところ市場性がある作品を現地の富裕層に新たなラグジュアリー・グッズとして販売していくことをメインにしていくようだ。ここも、もし作品販売が低迷した場合は、ソウルや東京と同じ方向性を模索するようになるだろう。

 

来週の15日から六本木のアクシスギャラリーで第1回の「フォト・マルシェ」というカジュアルなフォト・フェアが約14ギャラリーが参加して開催される。低価格の写真作品を提供することで市場の裾野を広げていこうという戦略的企画だ。アクシスの支援により出展料が安くなっていることから、ギャラリーも3万円からという低価格の写真作品の展示販売が可能になっている。9月には広告写真大手のアマナが中心になって同じようなカジュアルなフォトフェア「ヒルサイド・テラス・フォト・フェア」が代官山で開催されている。このフェアはフォトブックに重点が置かれていたのも特徴だった。日本では写真は売れないがフォトブックはまだ売れている。ここにも新たなスタイルのフォトフェアのヒントがあるように感じた。日本でもやっと市場規模を現実的に捉えた身の丈にあったフォトフェアの模索が行われるようになってきたようだ。

AXIS フォトマルシェ vol.1 についての詳細は以下をご覧ください。
http://www.axisinc.co.jp/building/eventdetail/360

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