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2014年11月 4日 (火)

70年代・古き良き時代のロックシーンを撮影
ギスバート・ハイネコート
「ABBA to ZAPPA」

今年の春、あるオランダ人夫妻がギャラリーを訪ねてきた。
60歳代後半になる写真家 ギスバート・ハイネコート( Gijsbert Hanekroot、1945-)と奥さんだ。京都や築地のマグロ・オークションを見に行く予定だといっていたので、来日目的は観光半分で、余った時間で作品を取り扱うギャラリーを探していたのだろう。
彼は60年代後半から80年代前半までオランダや欧州諸国で音楽雑誌や新聞などのためにロック・ジャズのコンサートやミュージシャンたちを専門に撮影していた。ブリッツが、ブライアン・ダフィーやテリー・オニールを取り扱っていることから来廊したのだと思う。

ロック中心地というとロンドンのイメージが強いが、だいたいのミュージシャンは欧州ツアーも同時に行っている。オランダ人写真家というと、写真ファンの人はエド・ヴァン・デル・エルスケン(1925-1990)を思い浮かべるだろう。彼は「Jazz」という有名なフォトブックを出している。実はロック誕生前はジャズが最先端の音楽だった。ジャズ・ジャイアントといわれる大物はだいたいオランダで演奏を行っていて、エルスケンはそのシーンを撮影したのだ。70年代以降は、その流れでロック・コンサートも行われるようになったのだろう。
ちなみにエルスケンのことをハイネコートに聞いてみたら、世代が一つ上であまり交流はなかったようだった。また、オランダ人写真家には、U2などのヴィジュアルで有名なアントン・コービンがいる。なんと彼はかつてハイネコートのアシスタントだったとのことだ。
多くの写真家が当時の最先端のファッションで風俗だったロックの現場を撮影している。しかし、だいたい良い写真は写真家が個人的に好きな特定のミュージシャンに集中する。しかし、 ハイネコートは本当にあらゆるジャンルのミュージシャンを同じエネルギッシュなスタンスで撮っているのだ。ちょうどジャズからロックへの過渡期にあたるので、ジャズやブルースの巨人たちから、カリスマのロック・スターまでをカッコよく撮影している。
Abba_to_zappa
Gijsbert  Hanekroot「ABBA  to ZAPPA」

2008年に刊行された写真集のタイトルが「ABBA  to  ZAPPA」。巻末のインデックスをみると、本当にAからZまでの幅広いミュージシャンのライブとオフ・ステージのシーンが高い完成度で撮影されていることがわかる。一部を上げると、デビット・ボウイ、ジョニー・ミッチェル、チェット・ベイカー、ジョン・レノン、オノ・ヨーク、ジェイムス・ブラウン、ニール・ヤング、ジョニー・キャッシュ、アリス・クーパー、ボブ・マレー、ブライアン・フェリー、エルトン・ジョン、ローリング・ストーンズなど錚々たる人たちだ。
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Gijsbert  Hanekroot "Lou Reed,1972, Amsterdam"

しかし、彼は80年代前半にミュージシャンの撮影をやめて、企業家に転身している。70年代くらいまでは、ミュージシャンは若者世代の政治的・社会批判的なメッセージを音楽で社会に伝えようとしていた。彼らと、カメラマンやファンはとても近い仲間のような存在だった。ハネクルートはそんなミュージシャンたちに憧れ、カッコいいと感じて撮影していた。しかし80年代以降はロックがビッグ・ビジネスとなり、みんなお金もうけのために仕事として演奏するようになった。彼は当時を振り返り、あまりにもコマーシャル的で機械的になり、面白い写真が撮れなくなったからやめた、と語っていた。
同時代にロンドンでミュージシャンを撮影してた写真家にハービー・山口がいる。彼によると、80年代以降はロックが巨額のお金を生むようになり、写真家は自由にミュージシャンと接して好きなように写真が撮れなくなったという。ミュージシャンも写真家は自分たちの写真でお金もうけをしていると認識するようになったらしい。実際にそのような写真家も数多くいたそうだ。ハービー・山口は、英国のデュオ・ミュージシャンのワムが登場したくらいからその傾向が明らかになってきたと感じたそうだ。
ハイネコートもそんな状況での不自由な撮影に嫌気がさしたのだろう。結果的に彼はジャズやロックの本当に良い時代のミュージシャンたちの素の姿を撮影できたのだと思う。彼は自らがカッコいいと感じるシーンを撮っていたので、その作品群は結果的に当時の気分や雰囲気を伝える広義のファッション写真とも呼べるだろう。

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Gijsbert  Hanekroot "Keith Richards 1976, Brusseles"
彼の代表作で一番売れている写真がキース・リチャーズのポートレートだ。同じくミュージシャンの撮影に定評のある鋤田正義は、このような温和であけっぴろげな雰囲気のキースは見たことがないとこの写真を絶賛していた。
その後写真界から離れていたハイネコートだが、写真展開催依頼がきっかけとなって、2000年代になってからデジタル・ピグメント・プリントによる作品制作を再開する。約2年の歳月を費やして膨大なアーカイブの整理整頓が行われ、2008年に上記写真集「ABBA to ZAPPA」が刊行された。その後、彼の作品はロックファンだけでなく、アート写真ファンも魅了して、欧州やロシアで写真展が相次いで開催されるようになったのだ。

私は、写真集を見て直感的に単なるライブ写真を超えた魅力的な作品群だと思った。しかし、いくら欧州で作品が売れていても日本のコレクターの反応はわからない。ちょうど時期的に「東京フォト2014」と「AXISフォトマルシェ」があったので、これらのフォトフェアで展示して作品の反応をみることにした。販売価格は欧州とまったく同じにしたのだが、現地の消費税が21%、日本が8%なので、日本での販売価格が欧州よりも安いという状況になった。
コレクターの反応は非常によく、結果的に作品も予想以上を販売できた。私は単なるライブ写真だと思われることを懸念していた。しかし日本のロックやジャズ・ファンは当時のミュージック・シーンの背景を本当に良く知っており、同時に高いヴィジュアル・センスを持っていることが改めて印象付けられた。
今回はフォトフェアでの公開というアート写真ファンに限定した作品の紹介だった。次のステージのプロモーション戦略としてギャラリー・べースでの写真展を検討したいと思う。最終的には、スポンサーを見つけてロシアで開催しているような大規模な展覧会を開きたいと考えている。

ギスバート・ハイネコート(Gijsbert Hanekroot)の70年代のロック・ジャズシーンの作品や写真集はブリッツで見ることができる。興味ある人は、事前連絡の上で来廊してほしい。

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