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2015年1月13日 (火)

アーティスト志望者の修業期間
ブランド確立に何年かかるのか?

年末年始の休みには、本棚を整理して昔に買った本を再読することが多い。今年は20年以上前に買ったビジネス書を何冊か読んでみた。
その中で気になったのが、日本の伝統的芸術や武道の修行におけるプロセスを示す「守破離(しゅはり)」という言葉だった。この言葉は千利休が詠んだ歌に原型があるとのことで、ビジネス書ではビジネスマンのキャリア形成にそれが応用できるようなことが書かれていた。
私はこれはアーティストのキャリア形成にも当てはまると直感した。アート写真のノウハウを指導するワークショップの「ファイン・アート・フォトグラファー講座」では、よくアーティストのキャリアをどのように積み上げていけばよいか、また認められるのに何年くらいかかるかという質問を受ける。その時に行うアドバイスは、まさに「守破離」と重なるのだ。

「守破離」の「守」とは修業時代の心がけで、師匠の発言や行動を100%守ること。先人たちが作り上げた歴史を学んで吸収するのもこの時期に行うべきことだろう。重要なのは、この段階ではとりあえず自分を捨てて全てを受け入れること。自分の都合のよい情報だけを選んでいては本人の創作の可能性は広がらない。「破」は次のステップで、「守」で得た様々な知識や情報を自分なりの考えで組み換えたり突然変異を起こさせたりすることだ、ステレオタイプの発想を破るという意味だろう。「離」は、それまでの型から自由になり自分独自のスタイルが確立されることだ。

より具体的に、現代アートの重要要素であるテーマ性に当てはめてみよう。「守」は過去の先人たちの作品テーマを徹底的に学ぶ、また真似て追体験してみること。 いくら自分が気に入らなくてもキュレーターやギャラリストのアドバイスをそのまま取り入れてみるのだ。そうすると自分中にニュートラルな様々な種類の情報のデーターベースが構築されていく。「破」で、この中かから自分の時代認識をベースに、気になるテーマをセレクションして、再解釈していくのだ。この段階では様々な試行錯誤がなされて、最終的に「離」で一貫した自分の作品スタイルが出来上がるということだ。
私は「守」が非常に重要だと考えている。多くの人は自分が良いと判断した情報にしか関心を示さない。未経験の新人の判断基準が世の中が求めている価値観とぴったりと一致すればよいのだが、そのような奇跡的な状況は非常に起こりにくいだろう。このような人は自分が変化し成長することはなく、ただひたすら自分を認めてくれる人を探し続けることになる。多くの人が成功しないのは、アーティストのベースとなる「守」を軽くみて、いきなり「破」、「離」を目指すからだ。破ったり、離れるベース自体が出来ていないのだから、うまくいくはずがない。アマチュアからアーティストが生まれないのも同じ理由による。

それではアーティストとして認められるのにどのくらいの時間が必要だろうか?「桃栗三年柿八年」ということわざは良く知られている。これは果樹の実がなるまでに長期間を要することから、何事も成就するまでには長い時間がかかるということ。「石の上にも3年」も同じような意味だ。色々なアーティストのキャリアを見てきたが、私はもっと長い時間を要すると感じている。ビジネス書でよく引用されるのに「一芸八年、商売十年」がある。どんな芸事でも一通りの基礎を体得するのに最低8年はかかり、その後に独立して一人立ちするのにさらに10年が必要という意味で、一つの分野の仕事で成果を上げるには約18年かかるということだ。アーティストのキャリア形成にかかる時間もかなりこれに近いのでないか。基礎を学ぶには8年くらいかかるだろう。またアーティスト・デビュー後に地位が確立するまでに10年で最低3回の個展開催が必要だと考えられている。アーティストとして作品が売れるようになるということは、自分自身のブランドが確立することだ。修業時代を含めてそれには20年くらいはかかる。自分の職務経験に照らし合わせても、ディーラーとしての明確な作品の評価基準が確立するのに10年以上かかった。最初のうちは自分の好き嫌いでしか作品を判断できなかったのだ。

こうしてみるとビジネス書にかかれている企業社会での成功の秘訣はアーティストに対しても当てはまることがわかる。どちらも自分の生き方を信じ、地道に学び、活動を継続することに尽きるのだ。そして一番の大敵は自分のエゴで、常に感謝する気持ちを持っていなければ自分のファン層は広がらない。自由奔放に生きて自己実現しているようなアーティストのイメージは幻想で、ビジネス界で成功するような人でないとアート界でも成功できないのだ。

どのようなアーティスト支援が必要だろうか?「守」の時期では、教育機関の役割が大きいだろう。日本ではやや技術的なノウハウ教育に重点が置かれすぎているように感じている。欧米のように実際のマーケットで活躍しているアーティストによる指導が必要だろう。
商業ギャラリーに求められるのは、「破」以降の時期の支援だろう。昨今のマーケット状況では、ブランドが未確立のアーティストの作品販売は難しい。しかし、世の中に向かって斬新な視点を提供しようとしている人に対しては、できる限りのサポートを行いたい。2015年に、そのような人たちとの多くの出会いがあることを願っている。 

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