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2015年2月17日 (火)

若きロバート・フランクのインテリジェンス
「Robert Frank: In America」(パート2)

前回に引き続き、ピーター・ガラッシ著作による「 Robert Frank: In America」の解説を行いたい。

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The Americans」(Steidl, 2008年刊)

・「The  Americans」の内容分析
この写真史上の名著の内容については多くの専門家が多方面から分析している。「Robert Frank: In America」でガラッシが行っている同書の分析にも触れておこう。
内容に関しては、一般人が反応するようなアメリカ的なありきたりのフォトジャーナリズム的な題材が多く取り込まれており、それらが全体の1/4を占めているとしている。
いくつかのテーマに対応する明確なイメージがあり、そこからアメリカ国旗、自動車、ジュークボックスなどのシンボルを導き出される。またページ展開の中でそのバリエーションが続き、そこからテーマを掘り下げていく。 この流れの繰り返しは、ジャズの即興演奏のようだ、と指摘されることもあるアプローチだ。
旅の行程の検証からも、フランクがどのようにテーマを膨らませていったのがよくわかる。まず彼が題材にしたのは自動車のアメリカ社会や文化への影響だ。フランク最初の旅はデトロイトのフォード工場の撮影だった。関連する、生産工場、ガソリンスタンド、石油精製所、ボディー素材となる鉱山などを幅広く計画的に撮影している。
そしてウォーカー・エバンスが奨めた南部の旅では、社会における黒人の存在とそのコミュニティーを追っている。その他、普通の市民生活における「富と階層」、「政治」、「映画とテレビ(メディア)」 などを意識している。

また「The Americans」では、取り上げていない項目にも注目して紹介。それらはドラッグ・ストアー、ファイブ&ダイム ストアー、ナショナル・チェンストアーなどを通して表現されている「消費文化の状況」。「郊外化の波」、「高速道路」、「モーテル」、「多民族の移民」、「少数民族」などにおよぶ。
フランクは、奨学金リニューアル時の応募テキストに「いまのアメリカ人の日常生活のポートレート、平日と休日、現実と夢、町やハイウェイのながめ」を撮影するのがプロジェクトの目的と記載している。彼は、当時のアメリカ社会における幅広い様々なテーマを意識しながら各地でかなり計画的かつ慎重に撮影していたのだ。「The Americans」には、テーマを慎重に絞り込んで83点をセレクションしたことがわかる。

・フォトブックとして評価
フォトブックにおける写真の見せ方についても分析されている。写真を見開きページに2枚配置するのと、同書のように右側に1枚の写真を置き左側には短いキャプションをつける流れを意識した方法との違いについては、いままで多くが語られてきた。
「The Americans」はウォーカー・エバンスの「American photographs」を意識していたことは良く知られている。ガラッシによると、見開きはページでは、イメージの類似性やコントラストを強調する。また2枚の写真の関係性はシークエンスよりも強い。しかし1枚の写真でも、それらが慎重に系統だってイメージが並べられるととても強く、複雑になる、と分析している。
そして本書「Robert Frank: In America」では、あえて見開きページに2枚の写真を見せることで、イメージの類似性や関係性を強調している。これにより、いままであまり意識されなかったフランクの写真スタイルが明らかになる。
ライカという小型カメラが人に気付かれることなく様々な状況での撮影を可能にしていた。
もちろんこれは作品テーマとの関係性がある。彼が多く撮影している被写体には、社会の周辺の「孤立している個人」、社会的な存在としての「カップル」、様々な種類の人をとり入れている「多人数」に分類できることが例示されている。特に正面から被写体が平行に並んでいる写真は、シンプルなフォルムのまとまりを作り、黒人と白人の違い、貧富の格差、差別意識などの対比を表すことに成功している。
典型的なのが「The Americans」表紙のトロリーの窓を撮影した"Trolley-New Orleans, 1955"、「Robert Frank: In America」表紙の信号待ち人々をとらえた"Main Street - Savannah, Georgia, 1955"だろう。

・フランクの際立ったインテリジェンス
若いアーティストは自信過剰だが人生経験が不足しており、なかなか優れたアート作品を作り上げることができない。当時30歳前後だった若きフランクは、なんでこれほどの名作を制作できたのか?
本書を通して見えてくるのは、フランクが多くの専門家のアドバイスに真摯に耳を傾け、 また多くの写真家の過去の作品を研究し参考にしていた事実だろう。真の個性や創造性は、周りの影響を受けたからかわるものではない。"絶対的な価値があるものは、人がどんな状況であっても決して失わないものだけだ"とドイツの哲学者アルトゥル・ショーペンハウアーは語っている。才能は多くの経験や学習の上で花開くもの、若くても経験知を上げることは可能なのだ。

全米の旅に出る時点で、彼の頭の中には既に膨大なヴィジュアルとコンセプトのデータベースが出来上がっていたのだろう。その状況で、今のありのままのアメリカを表現しようというアイデアが浮かび、結果として「The Americans」誕生につながったのだ。フランクは、考え抜いて撮影された複数テーマと、多種多様なスタイルを持った写真イメージを自分の中で総合化して、新たな作品として提示する高いインテリジェンスを持っていた。ここの部分は才能と呼んでもよいだろう。USカメラ1954年9月号に掲載された、バイロン・ドベル(Byron Dobell)のフランクに関するテキストはその点に触れ"小さいカメラで人は直ぐに良い結果を得ることができるでしょう。しかし、多くの人はテクニカルなレベルで止まってしまう。良い仕事をするためには、更に知性が必要になる"と指摘している。彼は知的作業とヴィジュアルを駆使して行うアート表現に本当に喜びを感じていたのだろう。好きだったからこそ、継続して制作作業を行い作品にまとめることができたのだ。

しかし、ここでフランクのことを、現在の現代アーティストのように頭でっかちだったと誤解してはいけない。彼は、フランス人作家アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリの、"心でしかよく見えないんだよ。大切なものは目には見えないんだ"という言葉を好んで引用するといわれている。これは写真の表層を見たり、作品テーマを考えるだけではその本質は理解できない。写真家の感動に共感できることが一番重要なのだ、という意味ではないだろうか。かれはアートとして写真の本質をちゃんと理解していたのだ。

最後に本書31ページに掲載されているジョナサン・グリーン(Jonathan Green)の文章を紹介しておこう。"「The Americans」は写真のフォルムとスタイルの小さな百科事典だ。写真史において、写真家が、これほど作風、異なるスタイルを混ぜ合わせて、途方もない効果をもたらす新しい企画の作品へと発展させた例はない"。そして、ガラッシは「The Americans」は革新的なスタイルというよりも、異種のパーツから強く引き出されて統合することができた勝利だ、としている。
本書の、ガラッシによる制作背景、時代考証、撮影スタイルの解説・分析により、「The Americans」はより魅力的なフォトブックに感じてくる。2冊を見比べて、フランクの1枚1枚の写真が何を伝えたいか、どのテーマとつながるかを読み解く行為はアート写真ファンの知的好奇心を刺激してくれる。アート写真での表現者を目指す人にとっては、多くを学ぶことができる教科書になるだろう。

 

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