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2015年8月25日 (火)

21世紀の新しいアート・カテゴリーの模索
オークション・ハウスの挑戦は続く

アートネット(Artnet)が7月22日発表したプレスリリースによると、2015年1~6月までの全世界にセカンダリー市場のアート作品の売り上げは、昨年比で6%減少、出品数も約17%減少したという。落札された作品数は141,200点、平均落札率は65%と微減。総売り上げは86億ドル(約1兆125億円)。地域別の数字をみると、見事にいまの世界経済の状況と重なっている。欧州と中国の売り上げが減少している。特に景気が悪い中国は売り上げが約30%ダウン。一方で利上げが囁かれている米国は19%も増加しているのだ。

アート写真はどうだっただろうか?。最近は、現代アートの一部として写真が取り扱われ、またレギュラー時期のオークション以外にも単発で行われることも多い。厳密なアート写真だけの統計は非常にとり難くなっている。 ここでは単純化して大手3社のニューヨーク・オークションの結果を比較してみよう。
2015年前期売上は、昨年同期と比べて約20%減少して約1771万ドル(約21億円)。昨年後期と比べると約3.8%減。平均落札率は68.6%と微減だった。ほぼ全体のアート市場のトレンドと重なった数字だったといえるだろう。

さて6月下旬から7月は、各主要カテゴリーのレギュラー・オークションが終了した時期。 例年は夏休み気分が強くアート業界の大きな動きはない。しかし、今年はクリスティーズ・パリの「アイコンズ&スタイル」、ササビーズ・パリの「Now!」、Bloomsburyロンドンの「Mixed Media: 20th Century Art」など、興味深いオークションが開催された。いずれも、複数カテゴリーのアートやコレクタブルが混在するという、オークションハウスの実験的な試みの印象が強いものだった。これらは低価格帯作品中心の品揃えで、富裕層のコレクターではない、新しい顧客を呼び込むために企画されていた。

さて、先般プレビューしたように、最も注目されていたのが7月22日にササビーズ・ニューヨークで開催された、リビング・ルームをテーマにした、写真、版画、家具、オブジェを取り扱う「Contemporary  Living」オークションだった。結果はというと、低価格帯中心だったものの総売り上げは約200.3万ドル(約2.5億円)、落札率は約74%だった。夏休みシーズンであったことを考慮するに、順調な結果だったと判断できるだろう。しかし中身を分析すると興味深い傾向が読み取れる。家具などのデザイン分野の落札率は約82%、現代アート系が91%だったものの、写真分野は約57%と低迷しているのだ。つまりインテリアの中の写真という切り口は不発で、新しいコレクターの関心を引き寄せる効果はあまりなかったようだ。従来の写真コレクターが彼らの基準で入札に参加していたと考えられる。写真の最高額の落札は、フランチェスコ・ウッドマンの貴重なヴィンテージ・プリント"Untitled(Self Portrait, Boulder Colorado, 1972-1975"で、落札予想価格上限の約2倍の68,750ドル(約859万円)で落札されている。

ちなみにササビーズは同様のマルチ・ジャンルのオークション「Made in Britain」を9月30日にロンドンでも開催する予定だ。
Sothebys_made_in_britain
Sotheby's"Made in Britain"Auction
 
写真は多くはないが、英国人写真家のテリー・オニール、デビット・ベイリー、マイケル・ケンナ、ビル・ブラントなどが出品される。ニューヨーク、パリ、ロンドンのコレクターのテイストは全く違っている。新ジャンルがどの地域にも最も適しているかを調査する意味合いがあるのだろう。

元大手オークション会社の写真スペシャリストに写真のラグジュアリー・グッズ化する傾向について話をする機会があった。彼は今に写真はハンドバックと一緒に売られるようになるよ、と皮肉たっぷりに答えてくれた。売り上げのためには何でもやるという考えがある一方で、その動きに批判的な従来の価値観にこだわる人たちもちゃんと存在するのだ。

アート写真市場の現状を、こんどは作品の供給面からも分析してみよう。最近の傾向は、ヴィンテージ・プリントの市場への供給が大きく減少しているという状況が影響している。いままでオークションハウスは、写真史を意識したエディティングを行ってきた。90年代くらいまで、オークションの内覧会はオリジナル作品で写真の歴史を学ぶ場でもあった。ところが美術館や有力コレクションに収蔵された貴重作品は二度と市場に出ることはない。かつてのように、まずオークションのメインとなる19~20世紀のヴィンテージ・プリントが中心にあり、戦前、戦後のマスターの作品、60年代のコンテンポラリー・フォトグラフィー、ニューカラー、そして現代写真、一部にファッション系と現代アート系というエディティングができなくなっているのだ。20世紀写真だけで質の高いオークション開催は困難なのだ。それとともに、現代アートが市場を席巻し、その価値観で写真史が再評価されてことも影響している。
またコレクターの購買傾向も大きく変化している。従来のコレクターは、写真や現代アートなど分野ごとに特化してコレクションを構築していた。しかし、新世代の人たちは自分のテイストが明確にあり、それに合致したものを買い集める傾向が強い。写真自体をコレクションしているのではなく、自分の感性に合致したアートの一部に写真がある、というような感じなのだ。過去の実績から分類されている既存のオークション・カテゴリーと顧客のニーズは必ずしも一致しないのだ。

今の状況を分析してみるに、私はシティグループの前会長チャック・プリンスが2007年に発言した「音楽が流れている限りは、立ちあがって踊り続けなくてはならない」を思い出した。 大手オークションハウスは競争を繰り返している。彼らは、他社が続ける限り、そして顧客のニーズがある限り、批判覚悟で新しいカテゴリ創造にも挑戦しなくてはならないのだ。
個人的には、クリスティーズの「アイコンズ&スタイル」までは、オークション・タイトルが意味する範疇で十分に趣旨が理解可能だと考えている。写真のテーマ性やコンセプトではなく、時代の移ろいやすい気分や雰囲気を反映させた写真作品のアート性は十分に認められのではないか。しかし、ササビーズのようにインテリアやデザインを含めるのは、やや範囲が広くなりすぎていると感じる。時代性の部分は果てしなく拡大解釈が可能なのだ。昨今の新しいオークションは、この限界部分の境界線を模索する動きだと理解したほうがよいだろう。新たな試みが成功するかは最終的に時間と市場が決めてくれるだろう。今後もこの動きには注視していきたい。 

(為替レート:1ドル 125円で換算)

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