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2015年10月20日 (火)

「ジ・エマージング・フォトグラフィー・アーティスト2015」
グランプリは韓国出身のイ・スジンに決定!

今年で4回目になる「ジ・エマージング・フォトグラフィー・アーティスト2015」が、六本木AXISのシンポジアで開催された。10月18日までの6日間で約400名が来場。参加者の投票によるグランプリは、韓国出身で大阪芸術大学奥田先生推薦のイ・スジンに決定した。
実は参加12名の中で投票数が多かったのは、イ・スジンと東京工芸大学の小池莉加の二人だった。イ・スジンは大阪在住で、東京にはたぶん多くの知人はいないと想像できる。その中で地元大学の小池とトップを争ったのは見事だったといえる。私は、二人の差はトークイベントの内容で明らかになったと感じた。

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小池莉加の作品
小池の作品解説は非常に感覚的で、作品制作の意図が分かり難かった。彼女の大判作品は抽象的でデザイン的な印象を持つ人が多いだろう。このタイプの作品は、出来るだけシンプルにわかりやすく自分のメッセージを伝えることが極めて重要になるのだ。しかし、それには自分自身の本質を徹底的に掘り下げていくことが必要になる。若い女性アーティストには非常に難しいことだろう。今後の活躍に期待したい。
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イ・スジンと作品
ヴィジュアルに関しては二人に大差はなかった。イ・スジンの写真も、小池同様にデザイン的な印象を持つ人が多いだろう。しかし、作品テーマに関しては彼女の方がわかり易かった。韓国の寺院などに見られる伝統的な花の文様を取り込んだという作品。この「太平花」は、世の中の太平を望む伝統的なシンボルだということで、おのずと社会的なテーマにも広がっていく。それは、隣国の北朝鮮との緊張関係だけにとどまらず、現在の良好とは言えない日韓関係にも思いを馳せることができる。このような状況下で日本に留学している、アートの可能性を信じる韓国人留学生からの、自国民や日本人へのメッセージだと受け止めることも可能ではないか。彼女は特に政治的なことは意識していないと語っていたが、無意識のうちにアーティストとしての将来の各国間の関係性への願望が表現されていたのだろう。また、「太平花」は仏教の伝来とも関わっているという。古来から続くアジアの国々の繋がりの歴史も意識させられた。
投票結果の発表後に、私もイ・スジンに投票したという知り合いからのポジティブな連絡を数多く受け取った。彼女のトーク・イベントは最終日だったので、前日に行っていたら得票数はもっと増えていただろう。

残念ながら、今回の参加者の作品には強いメッセージ性を感じるものが少なかった。その中で、可能性を感じたのは東京ビジュアルアーツ出身の山本圭一だった。

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トークイベントでの山本圭一
愛知県豊田市出身の山本は、すべてが単独企業の価値観が優先されて成り立っている地元の状況に違和感を感じて写真撮影を行っている。都市という大きな閉じられた空間の中で、大企業に価値観を与えられて住民は生かされている。企業はグローバル資本主義のメタファーでもある。しかし、これは非常に広範囲におよぶ大きなテーマだ。彼は現段階ではテーマの方向性は見えているようなのだが、まだ絞り切れていないようだ。大判作品1点のみのやや物足りない展示にも、自分の中でのテーマの未消化が明らかだ。展示点数が多ければテーマ内容がより見る側に伝わり、得票は伸びただろう。絞り込みには、写真を撮る前に徹底的な情報収集を行って、自分で視点がなにかを考え抜くことが必要だ。その先にアイデアやコンセプトが見えてくるだろう。世界的にこの分野で作品に取り組んでいる人は数多くいる。彼らの作品を分析することはもちろんだ。最終的には、本人がどれだけ継続して、テーマを掘り下げ続けることができるかかが問われるだろう。

最近は、クールでポップなマージナル・フォトグラフィーとして、限界芸術や民藝の写真バージョンの普及と啓蒙活動を行っている。興味ある人は、いままで4回にわたって書いているので過去のブログを参考にしてほしい。今回の新人展でも明らかにこの範疇の人を見つけることができた。彼らは、ファイン・アートではないが、アマチュア写真やデザインでもない作品を制作している。
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今野竣介の作品

まず東京工芸大学出身の今野竣介の抽象作品だ。
彼の作品制作過程は手作業の部分が非常に多い。また、完成した作品よりも制作過程に意味を見出しているようだ。ストレスの多い現代都市で生き抜くため、自分の正気を取り戻す瞬間が作品制作なのではないだろうか。興味深いのは、従来の多くの人のようにファイン・アートとして作品を提示しようと、タイトルをつけてステーツメントを提示している点だ。それらは非常に感覚的で、内容も難解だ。マージナル・フォトグラフィーのカテゴリーだと理解すると、一気にわかりやすい作品になると考える。
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浅田慧子の作品

日本大学出身の浅田慧子もこの分野だと理解すればよいだろう。彼女は、古い日本家屋の障子をフレームにして作品を制作している。時間の経過を作品に落とし込むことも意識しており、額となる古い障子を見つけることから作品制作が始まる。汚れ傷んでいるものを、修復して清掃していく。そして、障子紙に写真を出力して手作業で貼り付けていく。いまやデジタル技術の発達により、障子紙にも写真がプリントできるようになったのだ。この一連の作業は、一種のパフォーマンスでもあり、完成作品は写真を利用したインスタレーションなのだ。今回は壁面展示になったが、後方からライトアップしたり、実際の民家に設置したりと様々な見せ方が考えられる。日本家屋には、額装された写真作品を展示する習慣がない。床の間への展示の可能性もあるが、現代の住宅ではほとんど見られなくなった。しかし、障子は案外モダンなインテリアとの相性がよい。もしかしたら、日本の住民は額装写真よりも障子写真の方にリアリティーを感じるのではないかと感じた。このような写真は分類が的確に行われれば、新しい分野の日本のアート作品になり得るのだ。

今回の新人展には多くの問題点もあったと感じている。一部参加者の意識レベルの低さ、本展の趣旨である、偏見のない自由なアートの視点がすべての関係者に共有されなかったことなどだ。しかし、今回のグランプリ選出はそれらをすべて些細なこととして忘れ去るほど納得のいく結果だった。私は今回の投票によって集団無意識的に導き出された、ニュートラルで、自由を尊ぶ、日本人観客のアート写真理解力に本当に驚かされた。機会があったらぜひその背景を分析してみたい。

最後に、来場者、協賛・協力企業、参加者、関係者に、心より感謝したい。

本当にありがとうございました。

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