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2015年10月 6日 (火)

横木 安良夫 写真展
『Day by Day( デイ・バイ・デイ )』
ヴィンテージと最新ラムダ・プリントを見比べる

ブリッツ・ギャラリーは、コマーシャル、エディトリアル写真および映像分野で活躍する横木安良夫(よこぎ・あらお)の写真展「Day by Day」を10月28日まで開催している。ちょうど東日本大震災発生時に開催していた「Glance of lens (レンズの一瞥)」以来4年ぶりの個展になる。

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(C)Alao YOKOGI
   
本展は2006年に発表された「Teach Your Children (ティーチ・ユア・チルドレン)1967-1975 あの日の彼 あの日の彼女」の続編となる。横木は、日本大学芸術学部の学生時代から、自分が素直に"カッコいい"と感じるシーンを一貫して撮影している。彼は、関東近県を精力的に動き回りながら、アメリカ文化の影響を受け、大量消費時代を生きる当時の若者が感覚的に反応するシーンをスナップしていく。それらは、原宿、六本木、渋谷などのお洒落な市街地、湘南、米軍基地のある横田や横須賀、地元の千葉市川周辺までに及ぶ。新宿の学生運動でさえ、それらの一部に含まれる。
彼は戦後生まれの第1世代であり、前世代の写真家のように輸入文化の影響による日本文化のアイデンティティー喪失のような危機感を強くは持っていない。谷川晃一が1979年に「アール・ポップの時代」で、アメリカ進駐軍文化の日本および世界の文化への大きな影響とそれによってもたらされた共通感覚を指摘している。この感覚が的確に反映されているのが「Teach Your Children」といえるだろう。同作は、当時の若者文化をコミュニティーの内側から撮影した団塊世代の青春グラフィティーとして絶賛された。

「Teach Your Children」は、学生時代から写真家キャリアを開始した時期までに撮影されたものだった。今回は1975年にアシスタントを経て写真家として独立した以降の70~80年代までの作品が中心となる。本作では、横木は日本社会の中で併存する輸入文化と国内文化の断片を的確にフレームの中にとらえている。横木の語る、"ちょっと奇妙な光景"とは、そのことをだ。実際のところ、戦後日本はアメリカ文化を無条件に受け入れたものの、日本文化が消えてしまったわけではないだろう。それらは排斥しあったり、融合したり、併存したり、様々な形態を生み出している。いままでは、アメリカ文化の影響を否定して日本の伝統的文化の残り香を強調する人、 逆にアメリカ文化を主題にする人は多かった。横木はアメリカ文化の影響と、それを受けつつも独自文化が併存している日本のシーンを対比させている。彼はそんな戦後日本の奇妙な混血文化の最前線のシーンを多少の違和感を感じつつも軽い感覚で自然に受け入れているのだ。
そして21世紀のいま改めてこの作品を提示するのは、現代日本でもその状況は全く変わってない、いやさらに進んでいることを示すためではないか。横木の写真を通して、私たちはいまやそんなシーンに違和感すら感じなくなっている事実に気付かされるのだ。当時、一種のフィクションのように横木が感じていたシーンが、いまやリアルな世界になってしまった。

本展では1985~1986年にかけて新宿ニコン・サロンなどで展示された一連の作品群から約24点が展示されている。最近の横木の写真展では、すべての展示作品はインクジェットによるデジタル・プリントで制作されていた。しかし今回は全作が当時に本人の手によりプリントされたアナログ銀塩写真になる。また前作「Teach Your Children」シリーズから、代表作の貴重なヴィンテージ・プリントも展示されている。
本展の注目点は、モノクロのデジタル銀塩写真が一部展示されている点だ。これは、Black & White Lamda Printsという手法。日本語訳では、モノクロ・ラムダ・プリントと呼んでいる。プリントは、アナログのネガからではなく、コンピュータにより制御されたデジタル・ファイルを、レーザーやLEDで印画紙に露光する写真プロセスで制作されている。制作過程の後半部分は、従来のアナログ写真と同じ工程の処理を経て制作されている。印画紙は、アナログ写真と同様の、キメ細かい質感による美しい描写が再現できる、感光材料(乳剤)を塗布したファイバー・ベースのものを使用している。特徴は、プリントに一貫した中間トーンがあり、また強い黒部分を持ち、ハイライト部分の細かい再現力に優れていること。デジタルプリントなのだが、インクジェット・プリントやジグリー・プリントとはまったくの別物だ。
横木がデジタル銀塩写真に取り組んだ理由は、シリアスなコレクターはインクジェットの写真作品を買わなくなっているからだろう。デジカメとインクジェットはいまやアマチュア写真家の定番と考えられている。コレクターにとって有難味があまりないということだ。一部には、これは銀塩写真信仰が強い日本だけの状況で、欧米では普通にコレクターが買っているというような発言をする写真家がいる。それは事実で、現代アート分野で活躍する作家の作品が大判のデジタル写真のことは多い。しかし、これは明確なテーマがあり、それに対するアイデアやコンセプトが提示されて作品の場合だ。日本では、自分で考えて社会との接点を持つテーマを提示する人はほとんどいない。つまり横木の写真作品のカテゴリーは私が最近提唱している限界芸術の一部である「クール・ポップ」写真に近くなる。デジタル・カメラで撮影され、インクジェットで制作された写真作品はこの範疇には含まれにくいという理解になる。手作業的アプローチと銀塩写真的なモノとしての質感が求められるのだ。デジタル銀塩写真の手作業の部分はなにかという、ツッコミが入るかもしれない。それは、自分の納得のいくプリントを制作する、デジタルファイル作りの工程だろう。 ここの部分は、かつて暗室で行われたような様々な試行錯誤がパソコン上で行われることになるのだ。納得のいくプリントを作り上げるにはかなりの時間と製作費がかかることになる。アマチュア写真家にはかなり敷居が高いといえるだろう。その辺がコレクターにアピールするわけだ。

本展タイトルの「Day by Day」は1985年に行われた初個展のタイトル。今回、横木のデビュー作が、約30年ぶりに蘇ったことになる。初期ヴィンテージ・プリント、80年代の古いモダン・プリント、そして最新のモノクロ・ラムダ・プリントが見比べられる写真ファンには非常に興味深い写真展だろう。ぜひご高覧ください!

横木 安良夫 写真展
『Day by Day』
( デイ・バイ・デイ )
2015年10月2日(金)~10月28日(水)
1:00PM~6:00PM/ 休廊 日・月曜日 / 入場無料 

フロア・レクチャー:10月24日(土)に開催。
ブリッツ・ギャラリー
 

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