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2016年3月15日 (火)

クリスティーズNY" MODERN VISIONS"
オークション・レビュー
衰えない貴重作品への強い需要

2016年の年明け以降、原油価格急落、中国経済のバブル崩壊懸念、欧州景気の低迷、米国での金利上昇予想などにより世界経済先行きへの不安感が高まり金融市場が不安定になっている。日本でも、株価低迷と円高進行で日銀が追加金融緩和策としてゼロ金利を導入している。現在の市場は、原油価格の底打ち観測、日銀や欧州中央銀行の金融緩和策で落ち着きを取り戻しているものの、将来への不安は消え去っていない。
アート市場にもその影響が出始めているようだ。2月にロンドンで行われた現代アートオークションでは、大手の落札結果は極端に悪くなかったものの、昨年と比べて大きく売上高を落としていた。特に話題になったのがササビーズで落札されたパブロ・ピカソの油彩画“Tete de femme,1935”。落札価格は1885万ポンド/2714万ドル(約31億円)だった。実は本作は2013年11月のササビーズ・ニューヨークで約3990万ドルで落札されたもの。今回、委託者は単純計算で約2年あまりで手数料抜きで約1276万ドル(約14.6億円)の売却損を被ったわけだ。
ニューヨーク証券取引所のササビーズ・ホールディングの株価はすでにアート市場の減速を織り込んでいるようだ。2014年の初めにリーマンショック後の高値の50ドル台だった株価は現在20ドル台に低迷している。その他の今まで好調だった富裕層向けの高額商品市場でも、欧米大都市の高級不動産やクラシック・カーの相場も弱含んできたという報道が多く見られるようになった。
 
さてアート写真市場の動向を見てみよう。4月に予定されていたParis Photo L.A.の、売上低迷と過密なフェア日程によるキャンセルなど、年明けから気になるニュースが飛び込んできた。写真雑誌アパチャーの最新222号の裏表紙には同フェアの全面広告が掲載されている。本当に急な経営判断だったことが想像できる。
市場自体は早くも昨秋のオークションから明らかに勢いがなくなってきていた。低中価格帯とともに高額価格帯でも不落札率が上昇していた。(ただし全体のアート市場では、アート写真は低価格帯になる)私どもの集計では2015年のアート写真オークションは、売り上げベースで前年比約35%減、落札件数ベースで約15.7%減だった。
 
アート写真市場は、春にニューヨークで開催される定例オークションから本格スタートとなる。しかし今年は以前解説したように、2月17~18日にクリスティーズ・ニューヨークで"MODERN VISIONS (EXEPTIONAL PHOTOGRAPHS)"という、大注目のオークションが開催された。これらは、詐欺事件がらみで政府に押収されたフィリップ・リヴキン・コレクションのオークション。コレクションの中心は、20世紀初頭のフォトセセッション期の重要作家、エドワード・スタイケン、アルフレッド・スティーグリッツ、アルヴィン・ラングダン・コバーン、フランク・ユージン、ガートルード・ケーゼビアや、モダニスト写真の巨匠エドワード・ウェストン、ポール・ストランドなど。
また20世紀の欧州写真家、ウジェーヌ・アジェ、コンスタンティン・ブランクーシ、マン・レイ、アンリ・カルチェ=ブレッソン、フランチシェク・ドルチコル、ヤロミール・フンケ、ヨゼフ・スデク、ビル・ブラントなど。日本人では荒木経惟などが含まれる。
オークションの性格から落札予想価格はかなり抑え気味の設定で、低価格作品は最低落札価格なしだった。
 
落札結果は久しぶりの非常に好調なものだった。イーブニング・セールとデイ・セールにわかれて279点が入札され、252点が落札。落札率は驚異的な90.32%。トータル売り上げは、最近では珍しい落札予想価格上限合計額の約800万ドル(約9.2億円)を超え、約889万ドル(約10.2億円)を記録した。
イーブニング・セールでの出品数が多かったエドワード・ウェストンは、適正に最低落札価格が設定されていたようで、ほとんどが落札予想価格近辺で落札されていた。
しかし、その他作品では落札予想価格上限を超える作品が非常に多かった。特に5点出品されたコンスタンティン・ブランクーシは、ほとんどが落札予想価格上限の約2~7倍の高値で落札。貴重なドロシア・ラング、ポール・ストランド、アルフレッド・スティーグリッツなどのヴィンテージ作品も高額落札が相次いだ。
政府の差し押さえ作品ではあるものの、控えめな最低落札価格で、来歴はしっかりしたものばかりだったことからコレクターの関心を引きつけたのだろう。
 
注目作だったカタログの裏表紙掲載のギュスターヴ・ル・グレイ(Gustav Le Gray)の、港を去っているフランスの皇帝の艦隊帆船のイメージ"Bateaux quittant le port du Havre (navires de la flotte de Napoleon III)、1856-57"が最高値を付けた。
今回の落札予想価格は、30~50万ドル(@115/約3450~5750万円)と控えめだったが、96.5万ドル(約1.1億円)で落札。もともと本品は2011年6月フランス・ヴァンドームのルイラック(Rouillac)オークションでの88.8万ユーロ(1ユーロ/111円で約9856万円)で落札された作品。結果的に当初の購入価格が意識された落札結果となった。
 
評価が一番高かったはエドワード・スタイケンによるプラチナ・プリントの"In Memoriam, 1901"。
Edwardsteichen
Edward Steichen"In Memoriam,1901 Christie's
同じ作品はメトロポリタン美術館、オルセー美術館に収蔵されているという逸品。落札予想価格は、40~60万ドル(@115/約4600~6900万円)のところ66.5万ドル(約7647万円)で落札された。
昨年秋のニューヨーク・アート写真オークションにおける大手3社の売上合計は約1000万ドル(約11.5億円)だった。それを考えると今回の約889万ドル(約10.2億円)は極めて好調な売り上げと評価できるだろう。
しかし、今回の出品作はいまや市場で極めて貴重となっているヴィンテージ・プリントが中心だった。作品来歴も非常にしっかりとしていた。よく高級車フェラーリの売上から自動車業界全体の売り上げ動向を判断してはいけないといわれる。今回のオークション結果はそれに当たるのではないだろうか。
アート写真関係者の関心は、来月にかけて開催されるニューヨーク市場の定例オークションの動向に移っている。

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