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2017年3月22日 (水)

展覧会レビュー
MEMENTO MORI
ロバート・メイプルソープ写真展
シャネル・ネクサス・ホール

Guide095
『Orchid』 1988
©Robert Mapplethorpe Foundation

ロバート・メイプルソープ(1946-1989)は、エイズでわずか42歳で亡くなった伝説の米国人写真家。80年代に写真をファイン・アートのコレクション対象物に広めたことで知られている。彼は、当時はタブーだった黒人メールヌードやSMなどをテーマにするとともに、自らがエイズで若くして亡くなったことからスキャンダラスな写真家の印象が強い。アート性の評価は、ゲイの美意識により制作された、モノクロの抽象美を追求した高品位のファインプリント作品のというものだった。フォーマル・デザイン、被写体のディーテールや対称性、フレーミングへのこだわりが結合して、耽美なメイプルソープの写真世界が構築されていた。
彼の作品相場は、エイズであることが明らかになった1986年ごろから大きく上昇した。しかし1989年の死後の価格上昇は穏やかなものだった。当時の写真としては斬新だったものの、現代アートが市場を席巻するのに従い、表層重視の20世紀写真カテゴリーの人という評価から抜け出せなかったのだろう。
しかしメイプルソープの近年の展示は、美術史との新たな関係性発見を試みるようなものが多くなっている。特に2004年にグッゲンハイム美術館ベルリンで開催された展覧会は、メイプルソープの写真作品と古典芸術、特に16世紀のマニエリズムの木版画、銅版画彫刻との関連を探求したもので印象深かった。ロシアのサンクトペテルブルクにあるエルミタージュ美術館の版画、彫刻などのマニエリズム作品と、グッゲンハイム・コレクションのヌード、花などのメープルソープ作品の多くがセットで紹介。表現方法や場所を超越した、過去から現在につながっているアート史との関連性が見立てられていた。
近年行われたその他の紹介は、作品カテゴリー別の編集、評価による企画が多かった。それらには、ポラロイド写真、セルフポートレート、SMやフェティズム、フラワーシリーズなどが含まれる。
いまメイプルソープ再評価の試みが世界中でゆっくりと着実に進行中なのだろう。もしかしたら最近の彼の相場は過小評価なのかもしれないと感じている。
 
今回のシャネル・ネクサス・ホールでの展示は、シャネルとかかわりが深い有名建築家のピーター・マリーノによるコレクションからの出品とのこと。ちなみに会場のあるシャネル銀座ビルディングは同氏の設計なのだ。プラベートな収蔵作なので新たな視点でメープルソープ作品の再評価を試みるような展示ではない。展示数はホワイトギャラリー1が26点、ホワイトギャラリー2が22点、ブラックギャラリーが43点の合計91点。リストによると5点がプラチナ・プリント、残りがシルバー・プリントだ。
彼は1976年からハッセルブラッドを入手してネガフィルムでの作品を制作している。本展ではそれ以前の、自作フレームを利用した作品、インスタレーション、ポラロイド、またカラー作品は含まれていない。日本での本格的な作品展示は2002年に大丸ミュージアム(東京)などで開催された回顧展以来とのことだ。
セレクション的には、モノクロのポートレート、花、黒人ヌードが中心に編集されている、1992年に刊行された"Mapplethorpe" (Random House Trade刊)に近いだろう。同書には、より衝撃的な部分的ヌードやハードなSM作品が収録されている。ちなみに日本版は1994年にアップリンク社から刊行された。想像するに、ピーター・マリーノのコレクションにもその種の作品は当然含まれているが、本展では総合的な判断から比較的穏やかな印象の作品がセレクションされたのだろう。
とても印象深く感じたのは銀塩やプラチナプリントで制作されたモノトーンな美しさだ。特に被写体の肌の部分の中間トーンの諧調の再現力は秀逸だった。最近の写真はモニターで見る機会が圧倒的に多い。特にそれに慣れた若い世代の人はコントラストが強めの写真プリントを制作しがちだ。それ自体が、何らかの作品テーマとの関わりがあれば問題ないのだが、最近の写真は私たちの実際に見て感じている世界とはかなり違っている。本展ではファイン・プリント写真のモノクローム表現の美しさを再発見させてくる。

カタログの紹介文でシャネルのコラス社長は、メイプルソープとシャネルの革新性を指摘し、「メイプルソープもシャネルも、物議を醸しだしたり、ルールを破ったり、予想を裏切ることを恐れませんでした」と書いている。しかし、死後約28年が経過し、メイプルソープの革新性はもはやクラシックになったのではないだろうか。私は、本展は現代アートが市場を席巻する前夜の、アナログ写真の歴史と伝統の集大成を見ているように感じる。それは老舗シャネルのブランド・イメージとも重なるだろう。

これだけの貴重なメイプルソープ作品を一堂に鑑賞できる機会はめったにない。写真ファン、アートファンは必見の展覧会だろう。なお同展は4月開催の「KYOTOGRAPHY 京都国際写真祭」のメイン展示にもなるそうだ。
 
「MEMENTO MORI ロバート・メイプルソープ写真展 ピーター・マリーノ コレクション」
3月14日~4月9日、12:00-20:00、無休無料
シャネル・ネクサス・ホール
東京都中央区銀座3-5-3 シャネル銀座ビルディング4階
 

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