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2017年5月17日 (水)

2017年春ニューヨークのアート写真市場
中堅業者のオークション・レビュー

現在のアート写真オークションには、5万ドル(約550万円)以上の評価の高価格帯、1~5万ドル(約110~550万円)までの中間価格帯、1万ドル(約110万円)以下の低価格帯のカテゴリーがある。カテゴリー分けは、オークション市場での取引実績により決まってくる。今どれほど高価な作品であっても通常は低価格帯から取引が始まった。取引実績と需給関係により、売れるごとに価格帯が上昇していく。
ちなみに、約38年前の1979年に刊行された"Photographs:A Collector's Guide"によると、アンセル・アダムスの代表作"Moonrise, Hernandez, New Mexico, 1944"は作家が存命していた1975年末にわずか800ドルだったという。現在は3万ドル以上の評価だ。また1970年代後半には、ウィリアム・エグルストンの全作品は600ドルで購入可能だったという。現在の評価は絵柄によるが、約10~30倍以上はするだろう。
ある程度高価な写真作品は資産価値があるといわれる理由は、現在の評価額にいたるまでの取引の積み重ねに裏付けされている。それは低価格帯の評価の作品はまだ取引実績が少ないという意味となる。以上から、撮影年が古いのにこの価格帯にとどまっているのは不人気作品の可能性が高いということだ。ここには、ギャラリーの店頭市場で人気があるがオークションでの取引実績が少ない作品と、20世紀写真としての骨董的価値はあるが不人気作が混在しているのだ。つまり、低価格帯作品の中には、将来市場価値が上昇する可能性を持つ作品と、それ以外が混在しているのだ。
 
通常はギャラリー店頭で販売中の現存作家はオークションでは取り扱われない。ただし例外もある。現存作家でも、長期間にわたりギャラリーで販売され続けている人気作や、エディション数が完売、もしくは残りが少ないものは出品されることがある。それにはオークション会社による、売り上げ増加のためにギャラリー店頭市場に食い込もうという思惑がある。特に英国でこの傾向が強い。アート写真の中心地であるニューヨークとの違いを出そうとしている印象だ。
余談だが、欧米では5000ドル(約55万円)くらいまでの価格帯にはインテリア系の写真作品が多く含まれる。それらは、資産価値はないのでアート系オークションでの取り扱いはないから安心してほしい。
大手のクリスティーズ、ササビース、フイリップスの低価格帯分野では市場性の高い作品が中心に出品されている。中堅業者は大手で取り扱わないような作品を取り扱う。そこには当然不人気作や状態の悪いものも含もまれてくる。大手は、それらの出品作をかなり綿密に選別してカタログリストを制作する。中堅業者は目玉作品以外は、市場性にこだわっている余裕はない、目玉作品がない場合も散見される。市場性はオークション結果に反映され、通常は大手の方が中堅業者よりも落札率が高くなる。景気が良くて市場に先高観があるときは、人気作が競りあがり高額になる場合が多い。不人気作を市場が過小評価していると考える業者やコレクターが増えて、中小業者の落札率も上昇して大手に収斂する傾向がある。
以上のような基礎知識を知っていると、オークション結果をより興味深く見ることができるだろう。
 
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Swann Auction Galleries
 
4月の大手の春の定例オークションの後に、スワン(Swann Auction Galleries)、ボンハムス(Bonhams)、ドイル(Doyle Auctions)3社のオークションが開催された。
3社で599点が出品され、全体の平均落札率を単純比較すると、昨年の春(61.9%)、秋(56.8%)よりも改善して66.1%だった。ただし総売り上げは、中間価格帯の勢いがなく200万ドルを切る約192万ドル(約2.11億円)と昨年の春秋レベルよりも低下。先立って行われた大手の低価格帯作品の好調な売り上げが、中堅業者のシェアを奪ってしまったようだ。
全体のトーンは大手同様といえるだろう。とりあえず2016年秋に底をつけて、緩やかな改善傾向になっている。
高額落札はボンハムスのアンセル・アダムス"The Grand Tetons and the Snake River, Grand Teton National Park, Wyoming, 1942/1973-1977"。こちらは落札価格上限を超える6万ドル(約660万円)で落札。続くのはスワンのエドワード・マイブリッジの"A selection of 60 plates from Animal Locomotion, 1887"。最低落札価格に近い4.5万ドル(約495万円)で落札された。
 
アート写真オークションは5月に英国で集中的に行われる。5月18日~19日にかけてロンドンで複数委託者のオークションが、クリスティーズ、フィリップス、ササビース、ドレワッツ&ブルームズベリー(Dreweatts&Bloomsbury)で開催される。ササビーズでは、単独コレクションからのオークション"The Discerning Eye: Property from the Collection of Eric Franck, Part I"も19日に行われる。昨年後半のロンドンのオークションは、英国のEU離脱による急激なポンド安で海外からの入札が活況で比較的好調な結果だった。しかし今年になって為替レートは落ち着いてきた。またフランスの大統領選挙も終了して欧州の政治不安も和らいできた。このような新しい市場環境でのオークションの動向が注目される。
 
(為替レート 1ドル/110円で換算)
 

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