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2017年6月28日 (水)

日本の新しいアート写真カテゴリー
クールでポップなマージナル・フォトグラフィー(8)
うつわ作家とクール・ポップ写真

今回は、クール・ポップ写真を撮影者がどのように把握したらよいかを説明していきたい。
念のために最初に確認しておくが、ここで述べるのは欧米で売買されているテーマ性を重視した現代アート系写真ではない。またインテリア・デコレーション用に制作された写真でもない。日本独自の新しい視点のアート写真の価値観に関わる説明になる。今までに語ってきた前提をもとに考え方を展開していく。もし興味ある人は過去に紹介した内容を読んでほしい。
 
私はこの分野の写真撮影者が参考にするべきは現代陶芸のうつわ作家だと考えている。陶芸作家が制作するうつわは手作り感や素材感が残るものの、あくまでも用の美を追求している。そこに作家性を最優先するようなエゴは存在しない。無心で土の中から形を呼び起こすような感覚だと想像している。
世の中には陶磁器は氾濫している。マーケティングを重視して巧妙にデザイン・制作されたものが大量かつ低価格で販売されている。手作業で作られるうつわは、大量生産品よりは高価だ。しかしそれらはアート作品ではないので一般の人に手が届かないほどの値段ではない。その上で購入者は生活の中で使えるし、うつわどうしをコーディネートしたり、料理と合わせることで一種の自己表現を可能にする効用もある。人気カフェは、料理とうつわとの相性、それを提供するインテリアという設えと取り合わせに心を砕いている。作家もののうつわで、同じようなことが家庭でも可能になる。ありきたりの表現だが、少しばかりのうつわの贅沢で生活者の心に潤いを与えてくれるのだ。このあたりが作家ものの陶芸コレクションが人気の理由ではないかと考えている。
 
写真で参考にしたいのはうつわの販売価格だろう。アートには作品の相場がある。アート写真市場の中心地である米国では、だいたい11x14インチ程度のサイズの写真作品は新人でも200~350ドルくらいから販売されている。日本でもディーラーがそれに合わせる形で新人の写真でも2.5万円くらいの値段をつけるケースが多い。アート作品は専門教育を受けた人により制作され、将来的に作家のキャリアによっては資産価値が上昇する可能性がある。このような真摯にアーティストを目指す若手の作品なら2~3万はかなり割安といえるだろう。
しかし日本ではほとんどの場合、写真はアート作品ではない。価格設定の前提が全く違うのに、混同されている。それらの写真は商品としての価値しかない。売れた後は中古品だ。使用価値がインテリア装飾に限定される1枚のシートの商品としては、2~3万円は高価だといえるだろう。インテリア系の写真を取り扱う専門業者は、飾り易い絵柄のマット付シートで8900円から販売している。額装込みでも1.5万円くらいだ。デパートなどのインテリア小物売り場では、額装されたインテリア用の版画が売られていることがある。それらは、A4サイズ、インクジェット作品が額込みで1~3万くらいだ。
ちなみに陶芸作家の器は、茶碗で3000円くらい、大皿でも1万円以下で買えるものが多いのだ。また1枚売れたから値段が上がることはない。もちろん生活食器として日常生活で使える。
市場で価値が受け入れられない商品はあまり売れないのが経済原則だ。クール・ポップ写真ではまず市場の適正価格を探ることが必要だろう。そして、それは制作に関わるコストや投入時間とはなんら関係がない。たぶん写真家が考えているよりも低価格になる。この点も作品制作の見極めと関わってくる。低価格の販売をためらう人は、お金儲けのために写真を売りたい人なのだ。

写真にとって、うつわの用の美に該当するのは、インテリアで生かされる設えと取り合わせの可能性だろう。しかし、ここは多くの誤解を生むので注意が必要だ。それらは、写真家や業者がマーケティングを行いアート・リテラシーが低い層向けに綿密にデザインされて制作されたハッピー系版画やインテリア系の写真ではない。これはプロ写真家や業者の仕事として特に欧米では一つのカテゴリーを形成している。日本では、感情の連なりと色彩・デザインを追求した同様のスタイルを持つ写真が非常に多い。そこには良い写真を撮りたい、評価されたいという撮影者の意図が見え隠れする。また本人がそれを無意識だと思いこんでいる場合も多い。作品完成後、写真に現代アート的なストーリーを後付けする人もいる。どうしても何か撮りたいという強い衝動がない場合、撮影自体が目的化してしまう。どうしても何かを頼りにしがちになるのだ。

仕事としてインテリア用の作品制作をするのでなければ、中途半端にグラフィックやデザイン性を意識した写真作品を制作しない方が良いだろう。また本当に無心で作品を生みだしたのならば、撮影者はそれについて語らない方が良い。無理して語ろうとすると、それは作り話になってしまう。それらの特徴は、経験を積んだ専門家が見れば一目瞭然だ。
それ故にクール・ポップ写真では第3者による作品制作の見極めとテーマ性の見立てが必要だと考えているのだ。
 
話は陶芸に戻る。では新人や無名の作家のうつわはどのように買われていくのだろう。それは鑑賞する側がうつわの質感や、手作業の痕跡から感じられる作り手の精神性のような感覚を共有できるときではないだろうか。また作家ものであるにもかかわらず、いわゆるお値打ち価格である点も重要だろう。一方でイケア、無印良品、100円ショップでは、デザイン性や値段がうつわ購入の決め手になる。
これを写真に当てはめると、前者がクール・ポップ写真で後者がインテリア系写真となる。写真の被写体は様々だ。したがってこの範疇の写真は、ポートレート、シティースケープ、ランドスケープ、抽象など広範囲に存在する。
サイズ的には、作品テーマに見る側を引き込むことを意図した現代アートのような大判サイズではなく、複数作品のコーディネートが可能な小ぶりな作品が中心になると考えている。
手軽に買える作家もののクルー・ポップ写真。毎回の繰り返しになるが、まずは作品制作の見極めが行われ、写真家が作品制作を継続する過程でテーマ性の見立てが行われるようになる。その先に、写真家のブランドが構築されていくかもしれない。それはうつわ作家のブランド構築に近い過程になると考えている。また流通にも新たな可能性が生まれるだろう。特にギャラリーに販売を頼ることなく、オンラインショップなどを通して自らが顧客に直接販売する流れが生まれると予想している。

夏休み期間には、「写真の見立て教室」(仮称)を、実例を紹介しながら行いたいと考えている。

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