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2018年1月10日 (水)

2017年アート写真市場を振り返る
相場回復の中、現代アートとの融合が進む

遅くなりましたが、明けましておめでとうございます。
本年もよろしくお願いします。

いま世界が歴史的な転換点に直面していると、マスコミや識者が盛んに指摘している。英国のEU離脱とトランプ大統領登場に象徴されるように、経済のグローバル化の変調がそれを推進してきた英国と米国から起きているということだ。グローバル化の終わりが始まり、国民国家や地域が志向されるようになったという言い方も見られる。トマ・ピケティが「21世紀の資本」で指摘しているように、欧米で70年代以降に貧富の格差が拡大したのが原因との見方が多い。
 
さてアート業界に目を向けると、2017年にはまだ変化が訪れるような際立った兆しは見られなかった。それどころか、市場の1極集中が進行した印象だった。まずアーティスト人気の集中化が進んだ。artnetニュースの分析によると、2017年前半の戦後/現代アートオークションでは25人の有名アーティストがオークション売り上げの約50%を占めたという。1位バスキア、2位ウォーホール、3位リヒテンシュタインとのこと。まさに一部の勝者が市場シェアを席巻したといえよう。
ギャラリーのプライマリー市場では、欧米の大手ブランド・ディーラーが市場が拡大しているアジアに拠点を新設する動きを見せる中、中堅クラスのギャラリーの閉鎖が各地で数多く見られた。
アート界も資本主義の一部として成立している。ギャラリーやディーラーは、経済グローバル化の影響を受け、コストのかかる世界的なアートフェアへの参加、家賃の高い世界的大都市でのギャラリー運営などを強いられてきた。しかしここにきて一部の富裕層を世界中で奪い合うという、コストのかかるアートビジネスは限界にきている印象だ。それに生き残り可能なのは、豊富な資金力を持つ大手ディーラーのみ。視点を変えれば、貧富の格差拡大により、富裕層相手の大手が繁栄して、中間層相手の中小ギャラリーが苦戦している構図ともいえるだろう。
中堅ギャラリーがビジネスを見直すのは、フランスの学者エマニュエル・トッドがいう"グローバリゼーション・ファティーグ(グローバル化の疲れ)"のアート版の動きともいえるだろう。もしかしたら、中期的には地元の幅広い中間層相手の民主的なアート・ビジネス回帰が始まったのかもしれない。もちろんそれにはやせ細った中間層の復興が前提となる。
 
さて2017年アート写真オークション実績の内容を見てみよう。念のためにに、ここでカバーずるカテゴリーを確認しておく。 現在は、写真表現は現代アート分野まで広がっている。また、高額な19~20世紀写真が現代アートのカテゴリーに出品される場合もある。しかし、統計数字の継続性を重視して、ここでは従来の"Photographs"分野のオークションの数字を集計している。
2017年の出品数は7248点。前年比約0.85%微減、一方で落札数は4884点で落札率は61.7%から67.3%へ改善した。
地域別では、北米は出品数が約6.3%増、落札率は64.8%から71.7%に改善。欧州は出品数が約21.6%増、落札率はほぼ横ばいの60.7%から61.1%。 英国は出品数が約53%減少、落札率は55.6%から60.2%に上昇した。
総売り上げの比較は、通貨がドル、ポンド、ユーロにまたがり、為替レートが変動するので単純比較は難しい。私どもは円換算して比較している。 それによると総売り上げは約78.9億円で、前年比約17%増加した。内訳は米国が約18%増加、欧州が約70%増加、英国が約27%減だった。主要市場での高額落札の上位20位の落札総額を比べると、2016年比で約9.3%減少している。 これは、高額セクターの19~20世紀の写真作品が現代アートのカテゴリーに出品される傾向が強まったことによると判断したい。
ちなみに2017年アート写真部門の最高額落札はクリスティーズ・パリで11月9日に開催された"Stripped Bare: Photographs from the Collection of Thomas Koerfer"に出品された極めて貴重なマン・レイのヴィンテージ作品"Noire et Blanche, 1926"の、2,688,750ユーロ(約3.63億円)だった。 現代アートを含む写真の高額落札の分析は機会を改めて行いたい。
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Christie's Paris, Man Ray "Noire et Blanche, 1926"
以上の数字から、米国市場が好調な経済環境の影響により良好だった一方、欧州では市場の中心がEUを離脱する英国から大陸にシフトしている構図が浮かび上がってくる。好調な欧州経済と減速気味の英国経済もその流れをサポートしていると思われる。
オークションの総売り上げの推移を中期的におさらいしておこう。まずリーマンショック後の2009年に大きく落ち込み、2013年春から2014年春に かけてやっとプラス傾向に転じた。 しかし2014年秋以降は再び弱含んでの推移が続き、ついに2015年秋にはリーマンショック後の2009年春以来の低いレベルまで落ち込んだ。 2016年はすべての価格帯で低迷状態が傾向が続いていたものの、2017年は春から市場が回復傾向を示し、 年間総売上高では急減前の2015年春のレベルを上回ってきた。 過去5年の売上平均値を春と秋ともに上回ってきた。売り上げサイクルは2016年秋を直近の底に2017年に回復したと判断できるだろう。

戦後・現代アート市場と同様に、写真市場も一部の人気作家の人気作品への需要集中傾向が見られた。 これは、従来中心だった中間層のアート写真コレクターではなく、現代アート分野の富裕層コレクターが主導したと思われる。 現代アート分野で、だれでも知っている人気作品を購入するのには多額な資金が必要だ。 しかし、エディションがあるアート写真ならいまでも写真史上の名だたる写真家の代表作品を現代アート系と比べるとはるかに手ごろな価格で購入可能なのだ。 もちろん、それは従来のアート写真コレクターの相場観からは高額なのはいうまでもない。

一方で、有名写真家の作品でも絵柄が良くない、来歴に特徴のない作品の市場性は低くなっている。 ギャラリー店頭では低価格帯の作品の売り上げは好調だったという。日本でもブランド作家の低価格作品の売り上げは順調だった。
経済グローバル化の揺り戻しはまだ始まったばかりだ。アート写真市場全体でみると、オークションで高額人気作品、ギャラリーで低価格作品が売れる一方、 中間価格帯の特徴がない作品が売れない状況がしばらくは続きそうだ。

日本ではアート写真はまだ20世紀写真を意味する場合が多い。欧米市場ではますますアート写真と現代アート系写真との融合が進んだ。 ちなみに2017年に現代アートのカテゴリに出品されたされた写真関連作品は867点となり、落札総額は約67.6億円にもなるのだ。 現在はちょうど過渡期にあたりカテゴリー分類の考え方は各業者により違いがある。将来的には19~20世紀のクラシック写真と、 現代アートの一部のコンテンポラリー写真に分類されていくのではないだろうか。今年からは、それを考慮したより多面的な市場分析を検討したい。

 

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