2017年7月 5日 (水)

2017年欧州アート写真オークション
ネット時代の情報氾濫は市場に何を起こしているのか?

アート写真の定例オークションは、4月のニューヨーク、5月のロンドンが終わり、6月にかけて、欧州各都市で低価格帯中心(約7500ユーロ以下)の中堅業者の、Villa Grisebach(ベルリン)、Kunsthaus Lempertz(ケルン)、WestLicht(ヴェストリヒト・ウィーン)によるオークションが開催された。ユーロ圏は底堅い個人消費や輸出の回復により経済の好循環が続いており、景気下振れリスクは和らいでいるようだ。以上から、将来的にECBが政策正常化に向かうとの観測もでているようだ。昨年と比べると円の対ユーロ為替相場は大きく円安になっている。欧州の経済状況は昨年よりは改善していると思われる。
 
さて3社の結果だが、昨年同時期と比べると、総出品数はほぼ同数の648点。売り上げはWestLichtが伸ばしたものの他の2社は減少。全体では約11%減の約165万ユーロ(約2.06億円)だった。落札率は3社ともわずかに改善。全体では約61%から約63.5%にわずかに改善した。
2017年前期の複数市場における落札率を比較すると、大手業者はニューヨーク73.8%、ロンドンが64%。一方で中堅はニューヨーク約66%、そして今回の欧州が約63.5%という結果だ。今年は高額作品の多いニューヨーク市場が改善しているものの、低価格帯中心の欧州市場は元気がない状況のようだ。
先週にフリップス・ロンドンで行われた"20th Century & Contemporary Art Evening Sale"では、今年になって相場が急騰しているウォルフガング・ティルマンズのFreischwimmerシリーズからの"Freischwimmer #84 ,2004"が、落札予想価格を大きく上回る60.5万ポンド(約9075万円)で落札されて大きな話題になっている。有名アーティストのエディションが少ない国際的に活躍する人気作品への強い需要が改めて印象付けられた。
Phillips20176tillmans
Phillips London "20th Century & Contemporary Art Evening  Sale"
Wolfgang Tillmans "Freischwimmer #84  ,2004"

今季の欧州アート写真オークションの結果を振り返るに、低価格帯カテゴリーの低迷が相変わらず続いている印象が強かった。ここからはその原因を考えてみたい。
そもそもは、2009年春のオ―クションで起きたリーマン・ショックによる市場規模の急激な縮小から始まる。それが2011年秋くらいから、高額価格帯の動きが次第に改善していく。しかし、中低価格帯は低迷からなかなか抜け出せないのだ。その後、株価の上昇、現代アート・コレクターのアート写真市場参入により高額セクターの市況の回復は続く。一方で中低価格帯の市場では、今度は内部での分断が始まるのだ。有名作家の人気作品に需要が集中して、知名度の低い作家の不人気作品の低迷という状況が顕在化する。現在でもその傾向は続いている。

いままでは、アート写真の主なコレクターだった中間層の没落がこの状況を引き起こした主因だとを考えていた。最近は、それとともにインターネットの普及も一因ではないかと疑っている。つまり、アートの情報がネットで発信・拡散され、また作品自体を販売されるようになったことだ。

どのように考えているかを簡単に説明してみよう。
かつて、といってもわずか15~20年くらい前までは、アート写真をオークションで買う場合は、海外の業者からカタログを航空便で取り寄せる必要があった。もし入札する場合は、現地に赴くか、電話するか、事前に入札額の書類を提出する必要があった。銀行の残高照明を求められることもあった。落札結果はFAXか郵送されてきた。アート写真の情報にはかなり偏りがあり、コレクターやディーラーでさえすべての情報を持っていたわけではなかった。
現在は、その状況が大きく変化した。世界中で行われるアート写真のオークション情報はすべてネット上で公開されている。オンラインでの入札やカード決済も可能になり、結果も即時にわかる。従来の公開オークション以外にも、テーマごとのオンライン・オークションが大手競売業者や専門業者により頻繁に行われている。
かつてのコレクターはゆっくりと時間をかけてカタログを眺め、欲しい作品を吟味して入札していた。いまや自主的に情報を取りに行くと、おのずと膨大な情報の洪水に直面してしまう。アート関係のウェブサイトは世界中に無数にあり、日々情報満載のニュースレターが送りつけられる。
情報は多い方がよいに決まっている。しかし、問題は人間の情報処理能力なのだ。いまアート情報のオーバーロードが起きているのではないか?これが私がいま持っている素朴な疑問だ。心理学によると、情報が多いと人間は判断無能に陥り、コンテンツの内容判断が的確にできなくなり、しまいには選択を放棄するといわれている。

オークションは現状販売となる。高額作品は点数が少ないものが多く現物確認が必須だが、低価格帯作品はエディション数が多く、業者のコンディションレポートを頼りに入札することも多い。高額品は通常の公開オークションに、低価格帯はネットオークションに向いている。たぶん低価格帯作品の情報量がより増加したのではないか。結果的にコレクターは同じような作品の情報に触れる機会が多くなる。心理的に、いつでも買えるような気分になり、作品の競り合い少なくなったのではないか。情報量が少ない時代は、欲しい作品はいま買わないと二度と入手できないかもしれないという、脅迫概念があったものだ。

また人間は判断不能に陥れるとブランドに基準を求める傾向がある。その結果として、低価格帯カテゴリーでは知名度の高い写真家の作品が好まれ、その中でも代表作や有名作に人気が集中してるのではないだろうか。

いま業界では、ネット普及のアート市場への影響がホットな話題になっている。わたしどもも市場の最前線の動きを参考にしながら分析を継続していきたい。

 
(為替レート 1ユーロ/125円で換算)

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2017年6月14日 (水)

2017年春NY現代アートオークション
マン・レイのヴィンテージ作品が高額落札!

ロンドンのアート写真オークションに先立つ5月17~19日にニューヨークで戦後美術・現代アートの定例オークションが行われた。ササビーズ"Contemporary Art Evening Auction"では、スタートトゥデイ社長の前沢友作氏が、ジャンミシェル・バスキアが1982年に制作した"UNTITLED"を約1.1億ドル(約121.5億円)で落札。高額落札がマスコミで大きな話題になったのは記憶に新しいだろう。
いまや写真は現代アート系アーティストの表現方法としても完全に定着している。一方で歴史的経緯から、アート写真と現代アート/戦後美術のオークションは個別のカテゴリーとしていまでも開催されている。しかし、二つの分野にまたがる写真は確実に融合が進行中だ。最近は、だいたい作品の価値評価によってカテゴリーの振り分けが行われている。現代アート系でも知名度が低い若手・中堅や、有名アーティストでもエディション数が多いものはアート写真カテゴリ―。これらは、写真コレクターには高額だが、現代アートコレクタ―にとっては低額の作品となる。20世紀写真も、極めて貴重で価値評価が高いヴィンテージ作品は現代アートカテゴリーのオークションに出品されるケースが多い。
今回の現代アート・オークションにも、マン・レイやダイアン・アーバスのヴィンテージ作品が含まれていた。現代アートのオークションは、だいたい価値評価の低い順に、午前(Morning)、午後(Afternoon)、夜(Evening)に別れて出品される。マスコミに取り上げられるような有名作品のオークションは夜のイーブニング・セールにかけられる。
これから先は、5万ドルくらいまでのエディション数が多い中間価格帯の写真作品のカテゴリーの整理整頓が行われると考えている。最終的には、19~20世紀写真というカテゴリーが残り、21世紀の現代写真や現代アート系の評価が低い作品は、午前や午後の現代アート、および写真と親和性が高いデザイン・インテリア系のオークションでの取り扱いになっていくだろう。
 
今回の現代アート系オークションの写真系作品の最高額は、クリスティーズの"Post-War and Contemporary Art Evening Sale"に出品されたマン・レイの"Portrait of a Tearful Woman,1938"だった。なんと216.75万ドル(約2.38億円)で落札されている。
Cmanray
Man Ray"Portrait of a Tearful  Woman,1938"
Christie's NY "Post-War and Contemporary Art"Auction

これはゼラチン・シルバー・プリントに着色が施された貴重なヴィンテージ作品。同じく20世紀写真を代表するダイアン・アーバスのヴィンテージ作品"A Jewish giant at home with his parents in the Bronx, N.Y., 1970"は、58.35万ドル(約6418万円)で落札された。
 
その他、今シーズンは、リチャード・プリンス、アンドレアス・グルスキー、シンディー・シャーマン、ウォルフガング・ティルマンズらの常連アーティスト作品が好調に落札されていた。この中でもリチャード・プリンスは別格。ササビーズ"Contemporary Art"に出品された"Untitled(Cowboy), 2001" は、100万ドル超えの約181.25万ドル(約1.99億円)での落札だった。
ティルマンズも予想落札価格を超える高額での落札が相次いだ。英国のテート・モダンで開催中の回顧展の影響だと思われる。出品8点すべてが落札され、ササビーズ"Contemporary Art"に出品された全4点は落札予想価格上限を大きく超えて落札。181X240cmの大作"Freischwimmer 123, 2004"は、予想上限の約2倍の66.05万ドル(約7265万円)だった。
フィリップスでも、186.7 X 233.4cm.、エディション1/1でAP1点の"quiet mind,2005"が落札予想価格上限の約3倍の32.2万ドル(約3542万円)で落札。クリスティーズでも227.3 x 170.8 cmの"Freischwimmer 102"が40.35万ドル(約4438万円)で落札されている。
彼の作品は大判サイズで、エディション1/1でAP1点が多い。写真でも1点ものに近い点数が限られた大判作品は需給関係により絵画同様に高額になる。ティルマンズの抽象作品は、プリンスのカウボーイ作品のようにブランドが確立されつつあるようだ。
 
次回のオークション・レビューでは、5月下旬~6月上旬に欧州各都市で開催された中堅業者のアート写真オークションを取り上げたい。
(1ドル/110円で換算)
 
 
 
 

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2017年5月31日 (水)

オークションレビュー
2017年春ロンドン・アート写真オークション 好調な現代アート系 苦戦する20世紀写真

5月18日~21日に行われたフォト・フェア"Photo London 2017"の時期にあわせてアート写真オークションがロンドンで集中的に行われた。5月18日~19日にかけて複数委託者のオークションが、大手のクリスティーズ、フィリップス、ササビース、中堅のドレワッツ&ブルームズベリー(Dreweatts&Bloomsbury)で開催。ササビーズでは、単独コレクションからのオークション"The Discerning Eye: Property from the Collection of Eric Franck, Part I"も19日に行われた。
 
大手3社の実績を昨年春と比べてみよう。昨年の総売り上げは約533万ポンド、388点が出品されて250点が落札、落札率は約64.4%。今年は、総売り上げ約502万ポンド、408点が出品されて261点が落札、落札率は約63.97%だった。全体の結果は、売上高がやや減少しているもののほぼ昨年並みと判断できるだろう。しかし中身を分析してみると変化の兆候も見られる。
まず、高額価格帯で落札予想価格が5万ポンド(約750万円)以上のトップエンド作品が好調なことだ。特に中~高価格帯の現代アート系作品の人気が高かった。また作家の写真史上の知名度よりも、欧米のコレクターが好む大判サイズの、室内に展示しやすい絵柄の作品の人気が高かった。
ちなみに今春の最高額はフリップスの現代アート系作家ジョン・バルデッサリの"Transform (Lipstick),1990"の38.9万ポンド(約5835万円)。これは1点ものの、186.5 x 171.5 cmサイズの作品だ。通常は比較的小さいサイズが多いブルース・ウェバー。フリップスには、177.8 x 127 cmの巨大作品"Ric and Natalie, Villa Tejas, Montecito, California,1988"が出品された。こちらは1点ものの銀塩プリント。落札予想価格上限を超える8.75万ポンド(約1312万円)で落札されている。
クリスティーズでは、ファッション写真の巨匠ピーター・リンドバークの180 x 120 cmの巨大作品"Christy Turlington, Los Angeles, American Vogue, 1988"が落札予想価格上限の3倍に近い18.5万ポンド(約2775万円)で落札された。
ササビーズでの最高額落札は、迫力のある野生動物の写真で知られ、金融ビジネスを手掛けるスコットランド出身の話題が多い写真家デビッド・ヤロウの"Mankind, 2014"。こちらはピグメント・プリントによる125.8 x 264.6 cm の大作で6万ポンド(約900万円)だった。
一方で、ササビーズの単独コレクション・オークション"The Discerning Eye: Property from the Collection of Eric Franck, Part I"は残念な結果だった。落札率は40.3%に低迷。全般的に20世紀写真が不振で、写真界の巨匠カルチェ=ブレッソンは32点出品されてわずか13点しか落札されなかった。20世紀写真では抜群の知名度のアンリ・カルチェ=ブレッソン作品でも、人気度の低いスナップ的作品への需要は高くないようだ。
一方でフリップスに出品された彼の代表作"Behind the Gare Saint-Lazare, Paris,1932"(サン・ラザール駅、水たまりをジャンプしている男のイメージ)は、落札予想価格を大きく上回る13.1万ポンド(約1965万円)で落札されている。こちらは1947年にプリントされ、MoMAへの寄贈などの来歴が確かな作品だった。
サイズが小さめのファッション写真もかつての勢いは見られなくなっている、しかしクリスティーズのヘルムート・ニュートンのキャリアを網羅する代表作45点からなるポートフォリオ"Private Property Suites I, II & III, 1984"は、22.1万ポンド(約3315万円)で無事落札された。ただし落札予想価格20~30万ポンド(約3000~4500万円)の下限近くだった。同ポートフォリオ3点セットは2014年秋のニューヨークでフィリップスとクリスティーズで38.9万ドル(当時の1ドル105円の為替で約4084万円)で落札されている。ニュートンの相場もピークをつけて落ち着きどころが模索されているようだ。
 
20世紀写真の不人気作品の低迷は18日に開催された中堅のドレワッツ&ブルームズベリーでも明らかだった。こちらも落札率が42%と厳しい結果だった。
ロンドンのオークションで売れているのは巨大サイズの絵柄のわかりやすい現代アート的作品と、有名写真家の代表作だった。アート写真としては高額だが、現代アートとしては割安な価格帯の動きが良かった印象だ。
結果を見るに、総売上(約234万ポンド、約3.51億円)、落札率(87.1%)と、ともに大手業者での最高成績を上げたフィリップスが上記の傾向を的確にとらえたエディティングを行ったと思われる。
ちなみに、同社のカタログ表紙にはインパクトのある倉田精二の写真集"FLASH UP"の表紙に採用された"入墨の男、1975"が採用されている。
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Phillips London "Photographs"
 
これは1978年の初個展時に本人が制作した53X42cmサイズの銀塩プリント。日本人写真家の初期プリントは残存数が非常に少ないことで知られている。本作は落札予想価格上限の約2倍の約5.6万ポンド(約840万円)で落札された。
 
次回のオークション・レビューでは、写真作品の高額落札が相次いでいるニューヨークの現代アートオークションを取り上げる。

為替レート(1ポンド/150円で換算)

 

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2017年5月17日 (水)

2017年春ニューヨークのアート写真市場
中堅業者のオークション・レビュー

現在のアート写真オークションには、5万ドル(約550万円)以上の評価の高価格帯、1~5万ドル(約110~550万円)までの中間価格帯、1万ドル(約110万円)以下の低価格帯のカテゴリーがある。カテゴリー分けは、オークション市場での取引実績により決まってくる。今どれほど高価な作品であっても通常は低価格帯から取引が始まった。取引実績と需給関係により、売れるごとに価格帯が上昇していく。
ちなみに、約38年前の1979年に刊行された"Photographs:A Collector's Guide"によると、アンセル・アダムスの代表作"Moonrise, Hernandez, New Mexico, 1944"は作家が存命していた1975年末にわずか800ドルだったという。現在は3万ドル以上の評価だ。また1970年代後半には、ウィリアム・エグルストンの全作品は600ドルで購入可能だったという。現在の評価は絵柄によるが、約10~30倍以上はするだろう。
ある程度高価な写真作品は資産価値があるといわれる理由は、現在の評価額にいたるまでの取引の積み重ねに裏付けされている。それは低価格帯の評価の作品はまだ取引実績が少ないという意味となる。以上から、撮影年が古いのにこの価格帯にとどまっているのは不人気作品の可能性が高いということだ。ここには、ギャラリーの店頭市場で人気があるがオークションでの取引実績が少ない作品と、20世紀写真としての骨董的価値はあるが不人気作が混在しているのだ。つまり、低価格帯作品の中には、将来市場価値が上昇する可能性を持つ作品と、それ以外が混在しているのだ。
 
通常はギャラリー店頭で販売中の現存作家はオークションでは取り扱われない。ただし例外もある。現存作家でも、長期間にわたりギャラリーで販売され続けている人気作や、エディション数が完売、もしくは残りが少ないものは出品されることがある。それにはオークション会社による、売り上げ増加のためにギャラリー店頭市場に食い込もうという思惑がある。特に英国でこの傾向が強い。アート写真の中心地であるニューヨークとの違いを出そうとしている印象だ。
余談だが、欧米では5000ドル(約55万円)くらいまでの価格帯にはインテリア系の写真作品が多く含まれる。それらは、資産価値はないのでアート系オークションでの取り扱いはないから安心してほしい。
大手のクリスティーズ、ササビース、フイリップスの低価格帯分野では市場性の高い作品が中心に出品されている。中堅業者は大手で取り扱わないような作品を取り扱う。そこには当然不人気作や状態の悪いものも含もまれてくる。大手は、それらの出品作をかなり綿密に選別してカタログリストを制作する。中堅業者は目玉作品以外は、市場性にこだわっている余裕はない、目玉作品がない場合も散見される。市場性はオークション結果に反映され、通常は大手の方が中堅業者よりも落札率が高くなる。景気が良くて市場に先高観があるときは、人気作が競りあがり高額になる場合が多い。不人気作を市場が過小評価していると考える業者やコレクターが増えて、中小業者の落札率も上昇して大手に収斂する傾向がある。
以上のような基礎知識を知っていると、オークション結果をより興味深く見ることができるだろう。
 
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Swann Auction Galleries
 
4月の大手の春の定例オークションの後に、スワン(Swann Auction Galleries)、ボンハムス(Bonhams)、ドイル(Doyle Auctions)3社のオークションが開催された。
3社で599点が出品され、全体の平均落札率を単純比較すると、昨年の春(61.9%)、秋(56.8%)よりも改善して66.1%だった。ただし総売り上げは、中間価格帯の勢いがなく200万ドルを切る約192万ドル(約2.11億円)と昨年の春秋レベルよりも低下。先立って行われた大手の低価格帯作品の好調な売り上げが、中堅業者のシェアを奪ってしまったようだ。
全体のトーンは大手同様といえるだろう。とりあえず2016年秋に底をつけて、緩やかな改善傾向になっている。
高額落札はボンハムスのアンセル・アダムス"The Grand Tetons and the Snake River, Grand Teton National Park, Wyoming, 1942/1973-1977"。こちらは落札価格上限を超える6万ドル(約660万円)で落札。続くのはスワンのエドワード・マイブリッジの"A selection of 60 plates from Animal Locomotion, 1887"。最低落札価格に近い4.5万ドル(約495万円)で落札された。
 
アート写真オークションは5月に英国で集中的に行われる。5月18日~19日にかけてロンドンで複数委託者のオークションが、クリスティーズ、フィリップス、ササビース、ドレワッツ&ブルームズベリー(Dreweatts&Bloomsbury)で開催される。ササビーズでは、単独コレクションからのオークション"The Discerning Eye: Property from the Collection of Eric Franck, Part I"も19日に行われる。昨年後半のロンドンのオークションは、英国のEU離脱による急激なポンド安で海外からの入札が活況で比較的好調な結果だった。しかし今年になって為替レートは落ち着いてきた。またフランスの大統領選挙も終了して欧州の政治不安も和らいできた。このような新しい市場環境でのオークションの動向が注目される。
 
(為替レート 1ドル/110円で換算)
 

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2017年4月26日 (水)

2017年春のNYアート写真シーズン到来 最新オークション・レビュー(2)

今春は定例の複数委託者オークションとともに、前回紹介したフィリップス"The Odyssey of Collecting"の228点と、クリスティーズ"Portrait of a Collector: The John M. Bransten Collection of Photographs"で28点の単独コレクションからのセールが開催された。
Christies
Christie's NY
Image
Phillips NY

 

Sothebys
Sotheby's NY
合計5つのオークションの出品数は741点、落札率は約73.8%、総売り上げは約1801万ドル(約19.8億円)だった。出品数は昨秋から約19.5%増加、落札率も約65.1%から大きく改善した。売上高は昨秋よりも約58.5%と大きく増加。これは新大統領の政策による景気回復期待からダウ工業株平均株価が2万ドル台で取引されているという好調な外部環境と、多数の質の高いヴィンテージ作品の出品された二つの単独オークションの開催の影響によるといえるだろう。
オークションの総売り上げは、リーマンショック後の2009年に大きく落ち込み、2013年春から2014年春にかけてやっとプラス傾向に転じた。しかし2014年秋以降は再び弱含んでの推移が続き、ついに2015年秋にはリーマンショック後の2009年春以来の低いレベルまで落ち込んだ。2016年はすべての価格帯で低迷状態が傾向が続いていた。今回はちょうど総売上高が急減する前の2015年春のレベルに回復。2014年の秋以来ずっと売り上げ5年平均値を下回ってきたのが、ついに若干上回ってきた。売り上げのサイクルは2016年秋を直近の底に回復傾向を見せ始めてと判断できるだろう。しかし経済面を見ると、いまの株価はすべての良いニュースをすでに織り込んだレベルだと専門家が指摘している。期待先行で金融市場が先走っているだけに、決して今後のアート写真市場に対しても過度の楽観はできないだろう。
 
落札の中身を見るとやや気になる点がある。全体の落札率は約73.8%と良好だった。しかし5万ドル(約550万円)以上の高額価格帯をみると約60.19%とほぼ昨年の全オークションの平均落札率に近い結果になっている。特に、ササビーズとクリスティーズの複数委託者オークションでの高額価格帯の結果が良くない。クリスティーズでは、目玉だったアンセル・アダムスの名作"Moonrise, Hernandez, New Mexico, 1941"の100.3 x 143.8 cmサイズ作品が、落札予想価格は40万~60万ドルだったが不落札だった。今シーズンの好調な結果は、中低価格帯の落札率が大きく改善したことによる。
2014年秋以降の市場低迷で、中低価格帯はアイコン的な代表作とそれ以外の作品への需要が2極化した。アイコン的作品の需要に変化はないものの、いままでに低価格帯のイメージ人気がやや劣る作品の価格調整が順調に進み、需要とマッチングしたと分析している。一方で高額価格帯は、出品機会も減少気味のレア作品が多いことから委託者が強気の姿勢を崩していないと思われる。今後は、レア作品も適当な価格レベルの模索が行われるだろう。
 
大手3社の結果を比較してみると、"The Odyssey of Collecting"セールが成功したフィリップスが売り上げ、落札率ともにトップとなった。同社はこれで6シーズン連続の売り上げトップとなった。高額落札はクリスティーズの"Portrait of a Collector: The John M. Bransten Collection of Photographs"に出品されたエドワード・ウェストンの"Nude, 1925"で、87.15万ドル(約9586万円)だった。2番目はクリスティーズの複数委託者セールのアンセル・アダムス"Clearing Winter Storm, Yosemite National Park, California, 1938"で、55.95万ドル(約6154万円)だった。続いても、クリスティーズの"Portrait of a Collector"に出品されたダイアン・アーバスの名作"セントラルパークの手榴弾を持った子供"、"Child with a toy hand grenade in Central Park, N.Y.C., 1962/1963"で、51.15万ドル(約5625万円)だった。
 
4月中旬から5月中旬にかけて、中堅のスワン(Swann Auction Galleries)、ボンハムス(Bonhams)、ドイル(Doyle Auctions)ヘリテージ(Heritage Auctions)のオークションがニューヨークで開催される。こちらの中心は中低価格帯の作品となる。大手での好調が継続するかを注目したい。
 
(1ドル/110円で換算)

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2017年4月 5日 (水)

2017年春のNYアート写真シーズン到来!
最新オークション・レビュー(1)

春の訪れとともに、いよいよ今週から2017年ニューヨーク・アート写真・オークション・シーズンが始まった。外部環境は、昨秋の定例オークション後にドナルド・トランプ米国新大統領が選出。新大統領の政策による景気回復期待からダウ工業株平均が史上初の2万ドルの大台を越えて推移してきた。3月1日には株価は終値の史上最高値2万1115.55ドルを付けたものの、その後は医療保険制度改革(オバマケア)の代替法案の採決取りやめなどで政策への期待感後退から調整局面を迎えている。しかし税制改革への期待から、株価はいまでも2万ドル台の高値を維持している。明らかに1万8000ドル台だった昨秋よりは相場環境は良好だといえるだろう。

今春は、複数委託者による通常オークション前の4月3日~4日にフィリップスが"The Odyssey of Collecting"セールを行った。

Image
"The Odyssey of Collecting" Phillips NY

これは米国の金融家・慈善家のハワード・スタイン (1926-2011)の膨大な写真コレクションがベースの非営利団体Joy of Giving Something Foundationからの出品となる。同財団からのセールは2014年12月11日~12日ササビーズNYで開催された"175 Masterworks To Celebrate 175 Years Of Photography: Property from Joy of Giving Something Foundation"以来となる。同セールでは、単独コレクションからの最高合計落札金額の2132万ドルを達成している。

今回も、19~20世紀の貴重なヴィンテージ・プリントなどの逸品が、イーブニングセール43点、デイ・セール185点にわかれて入札された。落札予想価格が1万ドル越えの出品が全体の3/4を占めていた。
結果は、全体の落札率は約84%、昨年のオークション平均が61.75%だったので極めて好調なだったといえよう。しかし、中身をみると高額落札が予想されていた20世紀写真の不落札が多かったのがやや気になる。落札予想価格上限が5万ドル超えの価格帯の落札率は約65%にとどまっている。最高落札が予想されていたのはラースロー・モホリ=ナジの2点で、ともに15万~25万ドルだった。
"Photogram studies for Goerz (negative and positive), 1925"は落札予想価格内の21.25万ドル(約2337万円)で落札。しかし、"Photogram, 1922"は不落札。イーブニングセールに出品された、エドワード・スタイケン"The Spiral Shell" 、アルフレッド・スティーグリッツ"The Terminal"と" Lake George"などのヴィンテージ作品には買い手がつかなかった。
また中国現代美術のジャン・ホァン(Zhang Huan)の"Family Tree"も15万~20万ドルの落札予想価格だったが不落札だった。
フィリップスがメイン・ヴィジュアルの1枚として紹介していたジュリア・マーガレット・キャメロンの"Sappho (Mary Hillier), 1865"も、落札予想価格5万~7万ドルの下限以下の4万ドル(約440万円)の落札にとどまっている。
 
一方で、予想よりも高額落札された過小評価気味の作品も散見されたのでいくつか紹介しておこう。19から20世紀初頭の作品は歴史的価値や被写体の希少性をどのように評価するかによって、予想外の高額落札になることがあるのだ。
だいたいこの分野は個人よりも美術館などの公共機関が購入する場合が多い。
20世紀の彫刻家コンスタンティン・ブランクーシ。彼はマン・レイに写真を学び自作を撮影したことで知られている。"(Bois) Group Mobile (L’Enfant au monde),1917"は、4~6万ドルの落札予想価格のところなんと12.5万ドル(約1375万円)で落札された。
アルヴィン・ラングダン・コバーンのプラチナ・プリント"Self Portrait,1905"は、2~3万ドルの落札予想価格のところ9.375万ドル(約1931万円)で落札。
19世紀の英国人写真家のベンジャミン・ブレックネル・ターナーの"Trees (Pepperharrow Park)、circa 1853"も、2.5~3.5万ドルの落札予想価格のところ、何と16.25万ドル(約1787万円)の高額で落札。
ジュリア・マーガレット・キャメロンの天文学者ジョン・ハーシェルのポートレート作品"Sir John Herschel, 1867"は、落札予想価格2~3万ドルの落札予想価格のところ11.25万ドル(約1237万円)で落札されている。
 
4月4日~6日にけて、クリスティーズ(179点)、ササビーズ(188点)、フィリップス(118点)で複数委託者中心のオークションが開催される。クリスティーズではアンセル・アダムスの名作"Moonrise, Hernandez, New Mexico, 1941"の100.3 x 143.8 cmサイズが注目されている。こちらの落札予想価格は40万~60万ドルとなっている。
オークション結果の分析は"オークション・レビュー(2)"で紹介する予定だ。
 
(換算レート 1ドル/110円)
 

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2017年3月 1日 (水)

アート写真オークションの25年
激動する20世紀写真の価値

オークション資料の調査で、1991年10月のニューヨーク・ササビーズで開催された写真オークションのカタログを偶然に見直す機会があった。ちょうど手元に約25年後の2016年10月のニューヨーク・ササビーズのカタログがあったので2冊の内容を見比べてみた。詳しく分析したところ、約4半世紀でアート写真の世界で起こった様々な変化が、この2冊の内容の違いに凝縮されており非常に興味深かった。

 

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まずカタログ内容の印象が全く違う。1991年(上のイメージ)のものは、だいたい年代順、写真家ごとに写真が並べられているが、全体のエディティングがあまり行われていない。委託者が売りたい作品全部が単に整理されて詰め込まれている印象だ。
それに比べ現在のカタログ(下のイメージ)では、掲載作品のセレクションは専門家の好みや見立てがかなり反映されており、多くの写真分野や時代などを網羅した、非常に洗練されバランスの取れた内容に仕上がっている。作品単価がはるかに高くなっているのも影響しているだろう。市場性が高い作品が中心に出品されているとも解釈できる。いまや市場性の低い作品は大手では取り扱わず、中小業者のオークションに振り分けられているのだ。
 
出品数も大きく変化している。1991年は534点だったのが、2016年には178点に減少。これは、必ずしも市場規模が縮小したのではない。当時のアート写真取り扱いは、春と秋のニューヨークのササビーズ、クリスティーズ、スワンくらいしか行っていなかった。いまは、開催都市が欧州にも広がり、取り扱い業者も大手フィリップスなどが加わり増加している。
オークション出品作家数も237名から78名と大幅に減少している。当時は、アート写真オークションは他分野のアートとは全く独立して存在していた。コレクター層もあまり他分野と被らなかった。それ故に、モノクロームの抽象的な美しさとファインプリントの高い表現力を持った作品は写真家のアート性とはあまり関係なく出品されていた。
その後は、写真も幅広いアート表現の一部であるという認識が一般的になり、高い作家性が求められるようになったのだ。2016年では、20世紀写真でも現代アートの視点で再評価が行われたうえで出品が決められている。
1991年に出品されていた多くの19世紀~20世紀の中堅写真家のうち、従来の写真独自の美学しか認められない人たちは市場から淘汰されてしまったようだ。
有名写真家も再評価を避けて通れない。1991年と比べて、アンドレ・ケルテス、エドワード・スタイケン、ウォーカー・エバンス、クラレンス・ジョン・ラフリンらの出品数は大きく減少している。ロバート・メイプルソープも激減しているが、ちょうど彼が1989年にエイズで亡くなったので、当時は利益確定の売りが多かったのだろう。出品数があまり変わらないのが、アンセル・アダムス、ロバート・フランクなど現代アートの視点からも評価されている写真家たちだ。

市場価値はどうだろうか?同じ作品はアンセル・アダムスの"Winter sunrise. Sierra Nebada, From Lone Pine,1944"を発見した。サイズ、プリント年ともほぼ同じだった。1991年は5000~8000ドルだったが、2016年には25,000~35000ドルになっていた。中間値で比較すると約4.6倍の価値上昇だ。アンリ・カルチェ=ブレッソンのボトルを抱えた少年をとらえた代表作"Rue Mouffetard,1954"は、サイズが2016年の方が多少大きいが、2000~3000ドルだったのが、15,000~25,000ドル。こちらは約8倍になっている。アルフレッド・スティーグリッツのフォトグラヴュールの代表作"The Steerage"は、5000~7000ドルだったが、15,000~25,000ドル。こちらは控えめの約3.3倍になっている。作品の骨董品的価値が強いものはあまり上昇していない。

ロバート・メイプルソープの花作品だが、まったく同じ絵柄はなかったが、エデイション10で19.25X19.25インチ・サイズ作品を発見できた。7000~9000ドルだったのが、15,000~25,000ドル。こちらも控えめの約2.5倍になっている。彼の相場は、亡くなる前のエイズ公表時点に当時のピークをつけていた。
驚いたのはロバート・フランク。当時はドキュメント系の評価は低かったのだ。同じ作品は発見できなかったが、写真集"The Americans"に収録されている一般的作品が1991年には、だいたい2000~3000ドルくらいの評価なのだ。いまなら、間違いなく15,000~25,000ドルだろう。こちらも約8倍くらい上昇している。
 
カタログ表紙を飾ったリチャード・アヴェドンの名作にも触れておこう。代表作“Dovima with elephants” (1955)は、ディオールの黒いドレスが有名だが、実は白いドレスのヴァージョンも存在する。1991年の作品は8X10"サイズの1点もののヴィンテージ・プリント。本作のネガはいまや存在しないそうだ。評価は20,000~30,000ドルで、18,000ドルで落札されている。2010年11月に、クリスティーズ・パリで黒いドレスのヴァージョンの1978年プリントの216.8 x 166.7cmサイズの作品が$1,151,976で落札されている。当時は円高時で1ドル82.50円くらいだったので、円貨だと約9503万円となる。1991年はまだファッション写真がアートとしては市場では広く認知されていなかった。ペンもアヴェドンも出品されてはいたが、ファッション系の評価は低く、ポートレート、静物、ヌードなどが中心だった。25年の間にファッション写真は時代の気分や雰囲気を表現したアート写真の人気カテゴリーへなった。この貴重な1点ものは当時明らかに過小評価されていたといえよう。
 
25年間を比較するといくつかの興味深い事実が明らかになる。例えオークションに出品された作品でも、いまや市場価値がつかない数多くの作品が存在する。これはアート一般で言われることで、ドン・トンプソン氏の市場分析を行なった著作によると、現代アートの世界では25年のうちにオークション出品作でさえも生き残るのは約半分とのこと。写真でその比率がさらに低くなっているのは、途中で市場の価値観の変化があったからだろう。
個人的な印象では、もともと知名度と価格が低かった人の方が市場から消え去る確率が高かったように感じる。ここでも現代アートの世界でいわれる、"低価格作品は個人が好きで楽しむもので価格が上昇する確率が低い"という一般論が当てはまる。当時、既に写真史で名前が知られていた人は、いまでもほとんどが生き残っている。ただし人によっては価格上昇率が高くない場合があるだけだ。逆にその後にアート性が認知された人の作品、特にその代表作の価値は大きく上昇している。いまや20世紀写真の大御所のヴィンテージプリントよりも、現存する現代アート系アーティストの写真作品の方が高額であるケースは珍しくない事実は広く知られているだろう。
 
今回の比較結果は、これから写真を買う人の参考になるだろう。アート・コレクションの基本は、気に入った作品をパッションと自らの目利きを信じて買うことだ。それらが生活の質を高めてくれることは間違いない。しかし、もし投資的な視点を加味して写真を買うならば、それに加えていくつかの留意点があるようだ。それは予算の範囲内で最も高額な、知名度が高い人の、代表作の購入を心がけることだろう。
 
1991年の平均為替レートは 1ドル/134.7067円

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2017年2月22日 (水)

米国トランプ新政権後のアート写真市場
スワン・アート写真オークション開催

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Swann Auction Galleries, Feb. 14.
2月14日のバレンタイン・デーに、米国の中堅業者スワン(Swann Auction Galleries)で"Icons & Images:Photographs & Photobooks"オークションが開催された。ドナルド・トランプ米国新大統領選出後の初のニューヨークでのオークションとなった。経済環境は、新大統領の政策による景気回復期待からダウ工業株平均が史上初の2万ドルの大台を越えて推移している。株高で利益を上げたコレクターは作品を買いやすい状況だといえるだろう。
総売上は約158万ドル(約1.78億円)、平均落札率は73.91%。昨年秋のニューヨーク定例オークションの大手・中堅の平均落札率は約59.8%、全オークション年間平均は61.7%だった。昨秋のような10万ドルを超えるような高額落札はなかったが落札率が高く、事前の予想に違わぬ良好な結果だった。
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Lot 13, 50 plates from "Animal Locomotion, 1887"
最高額は、エドワード・マイブリッジ(EADWEARD MUYBRIDGE、1830-1904)の"Animal Locomotion、1887"から50枚セレクションされたセット。落札予想価格上限を超える、6.25万ドル(約706万円)で落札された。スワンのニュースレターによると、マイブリッジ作品は同社にとって非常に縁深い写真作品とのことだ。
実はちょうど65年前の1952年2月14日に元々はレアブック専門だった同社は初の写真オークションを開催している。その時の最高額も、マイブリッジの1000プレートからなる"Animal Locomotion"シリーズ。落札価格はなんと250ドルだったという。昭和27年当時は1ドル360円だったので、円貨では約9万円。ネットと調べると、当時の日本の大卒事務職の初任給が約8900円という。1000プレートからなる最高額の写真の値段はその10倍程度だったようだ。
 
続く2番目は、22枚からなるNASAのミッションで撮影された宇宙飛行士などの写真セット。これらも落札予想価格上限を超える、4.375万ドル(約494万円)で落札された。
1点もの作品の最高額は、米国アフリカ系の画家で写真家として知られるロイ・デカラヴァ(1919-2009)の"Dancers、1956"で、落札予想価格上限を超える4万ドル(約452万円)だった。彼の名前は知らなくても作家ラングストン・ヒューズとともに制作されたフォトブック"The Sweet Flypaper of Life"(Simon and Schuster, 1955)は聞いたことがあるだろう。フォトブックの代表的ガイドブック"The Book of 101 Books"にも収録されている名作だ。本作などは過小評価されていた20世紀のファイン・プリントを見直す動きの典型例といえるだろう。大手ではなく中堅のスワンで高額落札されたことは、将来的にコレクターがデカラヴァ作品を物色する可能性が高いことを感じさせる。
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"The Sweet Flypaper of Life"
全体的に好調な結果だったスワンのオークション。しかし、中低価格帯の19~20世紀写真、フォトブックが中心で、中高価格帯のファッション系、現代アート系の出品は非常に少なかった。春の大手業者の定例オークションではそれらセクターの動向を見極めたい。
 
一方、日本でもSBIアート・オークションの"Modern and Contemporary Art"オークションが2月18日に開催された。全出品作334点中写真関連は22点とわずか6.5%。海外と比べると極端に少なく感じるが、これでも日本では多い方になる。普段は、写真分野の落札率はあまり高くないのだが、今回は完売している。最高額はロバート・メイプルソープの花の作品"African daisy,1982"。落札予想の下限の138万円で落札された。同オークションでは、いままでは市場性に疑問があるような写真家の出品が見られた。しかし今回の出品作は的確にエディティングされていた印象だった。日本で売れる写真作品の情報がオークション・ハウスに蓄積されてきた証拠だろう。しかし市場性重視の結果は、杉本博司作品の出品が全体の36%を占めている状況なのだ。日本における市場の多様性のなさが改めて印象付けられた。
 
(1ドル/113円で換算)

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2017年2月 8日 (水)

2016年アート写真オークション
高額落札トップ10

毎年オークションでの取引実績の分析や高額落札のランキングの集計を行っている。特に最近は、アート市場のグルーバル化進行と写真メディアの多様化で分析がますます複雑になってきたと感じる。客観的な比較がかなり難しくなってきたのだ。2010年代になって、従来の"Photographs"と現代アートのカテゴリーの写真の垣根がますます消失してきた。ここでは、"Photographs"のオークション結果を集計し分析しているが、現代アートオークションに出品される写真関連作品が増加している。オークション・ハウスによる作品のカテゴリー振り分けは落札予想価格の金額によると理解している。つまり高額価格帯の落札予想のものは現代アート、中価格帯以下は"Photographs"のカテゴリーになる。ほとんどが高額価格帯になるリチャード・プリンスなどはわかりやすい。しかし、シンディー・シャーマン、トーマス・シュトルート、アンドレアス・グルスキー、杉本博司などは落札予想価格の違いで両方のカテゴリーに出品される。また更に状況を複雑化しているのは、例えばダイアン・アーバスの高価なビンテージ・プリントが現代アート系に出品されるケースが散見されることだ。
また、昨年特に気になったのが為替レートの大きな変動だ。オークションは、米国、英国、欧州で取引される、それぞれが、ドル、ポンド、ユーロ建ての取引になる。英国のEC離脱投票の影響でポンドの価値が大きく下がった。私どもは円に換算して比較しているのだが、為替レートの変動により価値が大きく変動する。年間で比較すると、ランキング順位への影響が見られるようになっているのだ。
円の為替の平均レートは、2015年は、1ドル/121.04円、1ユーロ/134.29円、1ポンド/184.99円で換算。2016年は、1ドル/108.79円、1ユーロ/120.33円、1ポンド/147.62円。ドルは年央に円高になった、トランプ新大統領の経済政策期待から再び円安になっている。
 
それなら単純に高額ランキングを集計すればよいというツッコミがはいるかもしれない。しかし、そうなると上位はすべて現代アート系というような面白味のない結果になってしまう。
ちなみに2016年は、単純な金額ベースでは上位4位までがリチャード・プリンスの作品というような極端な結果になるのだ。将来的には、オークション別ではなく、現代アート系、19世紀/20世紀写真、コンテンポラリー写真のようにアーティストのカテゴリーをもっと細かくしたうえでのランキングが必要なのだと感じている。どちらにしても、写真というメディアの評価基準は非常に流動的になっているのだ。
今回も"Photographs"のカテゴリーに出品された作品中心にランキングを集計している。しかし上記のような条件での結果であることを理解した上でコレクションの参考にしてほしい。また2016年は世界中の34の主要アート写真オークションをフォローしたが、それらがすべてではない。もしデータに見落としがあれば、より正確にするためにぜひ指摘して欲しい。
 
さて最高額落札だが、現代アート系オークションで落札された写真作品を含めると、5月にクリスティーズ・ニューヨークの"Post-War and Contemporary Art"イーブニング・セールで落札されたリチャード・プリンス(1949-)の"Untitled (Cowboy),2000"だった。
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Richard Price, Christie's NY, May 2016, Lot 57B
エクタクローム・プリントによる121.3 x 195.6 cmサイズの有名なマルボロ・マンを引用したカウボーイ作品で、落札予想価格のほぼ上限の352.5万ドル(約3.8億円)で落札されている。
上位5位までが100万ドル越え、すべてが現代アート系。なんと4位までがリチャード・プリンスで、5位がシンディー・シャーマン。ちなみに2015年の1位はシンディー・シャーマンの "Untitled Film Still #48, 1979"で、 296.5万ドルだった。
現代アート・オークション出品作を除外したアート写真の高額落札ベスト10は以下の通りになった。ギュスターヴ・ル・グレイ作品は別格としても、骨董的価値よりも作家性を重視する、現代写真の評価基準が反映された結果といえるだろう。
 
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Gustave Le Gray,Christie's  NY "Modern Vision"

1.ギュスターヴ・ル・グレイ(Gustave Le Gray)
"Bateaux Quittant le Port du Havre,1856-1857"
クリスティーズ、NY、2月17日"Modern vision"
US$965,000 (約1.04億円)
 
2.トーマス・シュトゥルート(Thomas Struth)
"Art Institute of Chicago II, Chicago, 1990"
フリップス、LDN、11月3日
£635,000 (約9373万円)
 
3.ギルバート&ジョージ(Gilbert & George)   
"Day,1978"
フリップス、NY、10月5日、6日
US$670,000 (約7288万円)
 
4.ヘルムート・ニュートン(Helmut Newton)
"Sie Kommen (Dressed) and Sie Kommen (Naked), 1981"(2点セット)
ササビーズ、NY、4月3日
US$670,000 (約7288万円)
 
5.エドワード・スタイケン(Edward Steichen)   
"In Memoriam, 1901"
クリスティーズ、NY、2月17日"Modern vision"
US$665,000 (約7234万円)
 
6.ピーター・ベアード(Peter Beard)   
"Heart Attack City, 1972"
クリスティーズ、LDN、5月20日
£434,000 (約6406万円)
 
7.ロバート・メイプルソープ(Robert Mapplethorpe)   
"Flag, 1987"
クリスティーズ、NY、10月4日、5日   
US$487,500 (約5303万円)
 
8.ポール・ストランド(Paul Strand)   
"The Family, Luzzara, Italy, 1953"
クリスティーズ、NY、4月6日   
US$461,000 (約5015万円)
 
9.アンドレアス・グルスキー(Andreas Grusuky)   
"Athens, 1995"(2連作)
フリップス、NY、4月4日
US$401,000 (約4362万円)
 
10.ドロシア・ラング(Dorothea Lange)   
"Migrant Mother"
クリスティーズ、NY、2月17日"Modern vision"
US$389,000 (約4231万円)
 
2016年の平均レート
1ドル/108.79円、1ポンド/147.62円で換算。
 

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2017年1月11日 (水)

2016年市場を振り返る
アート写真オークション

本年もよろしくお願いします。
まずは、2016年のアート写真市場を振り返ってみよう。
昨年も、ニューヨーク、ロンドン、パリ、ベルリン、ケルン、ウィーンの各都市において、Christie's、Sotheby's、Phillips、Dreweatts & Bloomsbury、Bonham、Heritage、Swann  Auction Gallerie、WestLicht、Villa Grisebach、Lempertzにより開催された34のオークションをフォローした。いまや写真は現代アートのカテゴリーの一つになった。現代アート・オークションにも写真作品が多数出品されている。私どものはあくまでも従来のアート写真に特化したオークションに限って集計している。したがってアート写真カテゴリーに出品される現代アート系作品は含まれるが、リチャード・プリンスなどの多くの現代アート系写真作品は含まれない。また欧米では小規模の写真オークションが数多く開催されているが、すべては網羅されていない。
もし上記以外で興味ある内容のオークションがある場合はぜひ情報を提供して欲しい。
 
さて2016年オークションの内容を見てみよう。
出品数は7310点、落札数は4515点と、前年比約13%と11%増加、落札率は63%から61.7%へ微減。地域別では、北米は出品数が約27%増、落札数約26%増、欧州は出品数が横這い、落札数約4%減だった。総売り上げは、通貨がドル、ポンド、ユーロにまたがり、為替レートが変動するので単純比較は難しい。私どもは円換算して比較しているが、それだと総売り上げは約67.5億円で、前年比8.1%減少している。北米が約4%減、欧州が約14%減。欧州の減少は、ポンドがEU離脱で急落したことが影響していると思われる。
アート写真の市場規模は、リーマンショックで2009年に大きく落ち込んだものの、2014年にかけて回復してきた。しかし2015年後半に再び調整局面を迎え、2016年もほぼ同じ水準にとどまったといえるだろう。
主要市場での高額落札の上位20位の落札総額を比べると、2015年比で約15%増加している。高額セクターは比較的順調だった。これは2016年2月クリスティーズ・ニューヨークで行われた、珠玉のヴィンテージ作品多数そろえた"Modern vision"オークションの影響だと思われる。ちなみに2016年の最高落札は上記オークションに出品されたギュスターヴ・ル・グレイ(Gustave Le Gray)による、港を去っているフランスの皇帝の艦隊帆船のイメージ"Bateaux quittant le port du Havre (navires de la flotte de Napoleon III)、1856-57"で、落札予想価格上限を大きく上回る96.5万ドル(@115/約1.1億円)だった。
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Christie's New York "Modern  vision"sale
Photograph by Gustave Le  Gray

 出品数は、特に北米で低・中価格帯作品が増加したようだ。結果的に1点の落札単価は、北米市場で24%も減少。欧州は約10%減。トータルでは約17%減少している。アート写真市場では、低・中価格帯作品を売りたい人が増加しているが単価は低下している。結果的に、人気作品に需要が集中して、不人気作の流動性低下が続いている。

これは、供給増、需要減という典型的な景気低迷期の構図だといえよう。長年写真を集めてきた中間層がコレクションを手放しているような構造的変化とも解釈できる。その傾向は、北米では1年を通してみられる、欧州では特に年後半に顕在化している。
市場では2015年後半から相場が全体的に弱含んできた。2016年も同様の傾向が続いたことから、2017年では市場の2極化がさらに続くだろう。特に不人気作の最低落札価格の低下が進むと思われる。
米国の株価は秋のオークション・シーズン終了後のトランプ相場でニューヨーク・ダウが2万ドル寸前までラリーしている。しかしこれは本格的な景気回復によるものではない。予想外の選挙結果による、売り手の損失覚悟の買戻しから始まった、将来の政策期待による上昇だ。現時点で。4月のオークション・シーズンに、どのような経済状況になっているかを見通すのは非常に困難だ。
日本のコレクターからみると、トランプ後の円高局面の急激かつ大幅な転換はせっかくの購入意欲を完全にそぐものだった。いま思えば秋のオークションは絶好の買い場だったのだ。しかし、相場、為替ともにベストのタイミングでのコレクション構築は非常に困難だ。どちらかが有利な状況の時には打診買いを行ってもよいと考える。2017年は、自分が狙っている作品の市場動向には注視が必要だろう。

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