2017年11月22日 (水)

マン・レイ作品がクラシック写真の
世界最高落札額!
欧州英国オークションレビュー

11月、大手業者のアート写真オークションは舞台を欧州英国に移して開催された。
まず2日にロンドンでフリップスの"Photographs"が開催。続いてパリフォトの開催に合わせて、クリスティーズとササビーズが、それぞれ単独コレクションと複数委託者のセールを開催した。ちなみに春には、大手3社ともにフォト・ロンドンに合わせてロンドンでオークションを開催している。
合計5セールの総出品数は486点で前年同期より約3%減。しかし落札率は約58%から約64%に改善した。売り上げ高は、ロンドンのフィリップスが約43%も減少したものの、パリの2社合計は約64%増加。トータルではユーロとポンドを円貨換算して合計すると約12.56億円となり、昨年同期を約33%上回る結果となった。
各社の売上結果を見る比べると、クリスティーズは約71%増、ササビーズが約57%増。数字からは、市場の中心地がロンドンからパリに移りつつある印象を受ける。
今回のロンドン・パリの結果は、2017年に回復傾向を示し始めたニューヨークと同様といえるだろう。景気が順調に回復して、株価も1年前と比べて上昇している状況が素直に反映しているのだろう。ちなみに為替レートは対ポンド・ユーロ共に昨年と比べて円安になっている。

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Christie's Paris"Stripped Bare Auction" 

最高額は、クリスティーズ・パリの"Stripped Bare: Photographs from the Collection of Thomas Koerfer"に出品されたマン・レイの"Noire et Blanche, 1926"。落札予想価格上限の150万ユーロを大きく超える268.8万ユーロ(3.57憶円)で落札された。(上記のカタログ表紙作品)

クリスティーズによると、これはオークションでのマン・レイ作品の最高額であるとともにクラシック写真の世界最高額とのことだ。クラシック写真の時期の定義は難しいのだが、もちろん現代アート系の写真作品は含まれない。
続いたのは同じオークションに出品されたダイアン・アーバスの双子を撮影した代表作"Identical twins, Roselle, N.J, 1966"。落札予想価格の範囲内の54.75万ユーロ(約7281万円)で落札されている。
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Christie's Paris, Irving Penn"The Hand of Miles Davis (B), New York, 1986"
アーヴィング・ペンの"The Hand of Miles Davis (B), New York, 1986"も人気が高く、落札予想価格上限の10万ユーロの2倍近い19.95万ユーロ(約2653万円)で落札された。
今シーズンは、ペンのスティル・ライフや花などの作品の高額落札が多くみられた。ササビーズ・パリの"Collection Europeenne de Photographies"では、ダイ・トランスファー作品の"STILL LIFE WITH WATERMELON, NEW YORK, 1947"が、落札予想価格上限の8万ユーロを超える15万ユーロ(1995万円)、プラチナ・プリントの"PICASSO (B), CANNES,1957"が11.87万ユーロ(約1578万円)、"FROZEN FOODS, NEW YORK, 1977"が8.75万ユーロ(約1163万円)で落札されている。
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Phillips London, Irving Penn"Single Oriental Poppy, NY, 1968"

フリップス・ロンドンでも、写真集"Flowers"に掲載されている"Single Oriental Poppy, New York, 1968"(上記画像の作品)が落札予想価格上限の7万ポンドを超える11.87万ポンド(約1780万円)で落札されている。今年はペンの生誕の百年を祝ってニューヨークのメトロポリタン美術館で大規模回顧展が開催された。ここ数年はやや上値が重かったペン作品だったが、再び注目が集まるようになったのだろう。

欧米では美術館での展覧会開催は作家の相場に大きな影響を与える。現代アート分野では2017年2月~6月にかけては、ウォルフガンク・ティルマンスの回顧展"WOLFGANG TILLMANS:2017"が英国ロンドンのテート・モダンで開催された。今年になって彼の巨大抽象作品は急騰しているのだ。

フィリップス・ロンドンで、6月29日に開催された"20th Century & Contemporary Art"では、彼の"Freischwimmer #84,2004"が、落札予想価格上限の約2倍の60.5万ポンド(約9075万円)で落札。ちなみに、同作は2012年10月フリップス・ロンドンでわずか3.9万ポンドで落札されている。4年間で約15倍に高騰したのだ。
現代アート分野の写真作品の動向は機会を改めて分析してみたい。
(1ユーロ/133円、1ポンド/150円)

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2017年10月18日 (水)

2017年秋のNYアート写真シーズン到来!
最新オークション・レビュー(パート2)

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Christie's NY"Visionaries: Photographs from the Emily and Jerry Spiegel  Collection"
今秋の大手3社による定例オークションは、複数委託者セールとともに、珠玉の名品を含む単独コレクションのセールが多く開催された。
フィリップスでの今春に続く"The Odyssey of Collecting"229点のセール、クリスティーズでは"Visionaries: Photographs from the Emily and Jerry Spiegel Collection"の40点と、"Important Photographs from the Collection of Donald and Alice Lappe"67点が開催された。また同社の"Photographs "では、ニューヨーク近代美術館(MoMA)コレクションからのセールが含まれる。同時にMoMAコレクションのオンライン・オークション"MoMA HC Bresson"35点、"MoMA Pictorialism to Modernism"58点も行われた。
 
2017年春は合計5つのオークションが開催された。出品数は741点、落札率は約73.8%、総売り上げは約1801万ドル(約19.8億円)だった。
今秋はオンラインを含めると合計8つのオークションが行われ、出品数は今春から約18%増加して874点、落札率は約69.8%、総売り上げは約6.1%増加して約1912万ドル(約21.4億円)だった。これは好調な企業決算やトランプ政権の税制改正や規制緩和期待から、ダウ工業株平均株価が史上最高値付近の2.2万ドル台で取引されているという好調な経済環境が影響しているといえるだろう。また最高の来歴のMoMAコレクションの売却や、多数の質の高いヴィンテージ作品を含む上記のような単独コレクションのオークション開催も大きく貢献している。
ちなみに3つの単独コレクションのセールは、平均落札率が約80.9%、売り上げは全体の52%を占めている。
 
オークションの総売り上げは、リーマン・ショック後の2009年に大きく落ち込み、2013年春から2014年春にかけてやっとプラス傾向に転じた。しかし2014年秋以降は再び弱含んでの推移が続き、ついに2015年秋にはリーマンショック後の2009年春以来の低いレベルまで落ち込んだ。2016年はすべての価格帯で低迷状態が続いていた。2017年は春から市場が回復傾向を示し、年間実績はちょうど総売上高が急減する前の2015年春のレベルを上回ってきた。過去5年の売上平均値を春・秋ともに上回った。売り上げサイクルは、2016年秋を直近の底に回復傾向にあると判断できるだろう。
 
ただし、クリスティーズで開催された2つのMoMA作品のオンライン・オークションの結果にはやや気になる点があった。5万ドルを超える高額予想のアンリ・カルチェ=ブレッソン、エドワード・スタイケン、クレランス・ホワイトなどの作品が軒並み不落札だったのだ。これはオンライン・オークションが高額作品には向いていないのか、それとも、20世紀を代表する写真家の最高の来歴の作品が過大評価されていたかのどちらかだと思われる。現時点で判断を下すのは難しいところだろう。
MoMA作品オンライン・オークションでは来年にかけて合計約400点が7つのオークションで売りだされる。今後の動向を注視していきたい。
 
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Christie's NY "Photographs Including Property from the Museum of Modern Art"
 
今シーズンの高額落札を見ておこう。
1位はクリスティーズの"Important Photographs from the Collection of Donald and Alice Lappe"のエドワード・ウェストンによる"Betty in her Attic, 1920"。落札予想価格60万~90万ドルの範囲内の約73.2万ドル(約8198万円)で落札。
2位はクリスティーズの複数委託者オークションのピーター・ベアードの"Orphaned Cheetah Cubs, Mweiga, near Nyeri, Kenya, March 1968"。落札予想価格30万~50万ドルの上限を超える約67.25万ドル(約7532万円)で落札されている。
3位はクリスティーズの"Visionaries: Photographs from the Emily and Jerry Spiegel Collection"のポール・ストランドの"Rebecca, New York, 1923"。落札予想価格50万~70万ドルのほぼ下限の約49.25万ドル(約5516万円)で落札。
4位もクリスティーズ"Important Photographs from the Collection of Donald and Alice Lappe"のエドワード・ウェストンによる"Dunes, Oceano, 1936"。落札予想価格25万~35万ドルの上限越えの約43.25万ドル(約4844万円)で落札された。
ランク外だが、杉本博司の海景作品"North Atlantic Ocean, Cape Breton Island, 1996"は、予想外の高額で落札された。これはエディション25の銀塩作品、落札予想価格上限3.5万ドルの4倍近い15万ドル(約1680万円)だった。
 
大手3者の実績を比較してみよう。
落札上位の結果からわかるように、今秋はクリスティーズがMoMAなどの単独コレクションセールで市場をリードした。売上トップは2014年秋以来ずっとフィリップスだった。今シーズンはクリスティーズが2013年春以来に久しぶりに奪い返した。一方でササビーズは、売り上げ、落札率ともに元気がなかった。
 
11月には、アート写真オークションの舞台は欧州に移る。
クリスティーズはパリで"Stripped Bare: Photographs from the Collection of Thomas Koerfer"と"Photographies"。ササビーズもパリで"Importante Collection Europeenne de Photographies"と"Photographies"。フィリップスはロンドンで"Photographs"を開催する。
 
なおヘリテージ、10月19日のスワンなど、フォトブックを含む中低価格帯のオークション結果は後日にお伝えする予定だ。
 
(1ドル/112円で換算)

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2017年10月11日 (水)

2017年秋のNYアート写真シーズン到来!
最新オークション・レビュー(パート1)

今秋の定例オークションは、前半の10月第1週の2日から5日にかけてボンハムス(Bonhams)、フリップス(Phillips)、ササビーズ(Sotheby's)が、後半の10月第2週からは、10日にクリスティーズ(Christie's)、11日にヘリテージ(Heritage Auctions)、19日にスワンで(Swann Auction Galleries)で開催される。今回は前半のレビューをお届けしよう。
 
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Phillips NY "The Odyssey of Collecting"
前半の注目はフリップスで開催される"The Odyssey of Collecting"セール。
これは春にも開催された、米国の金融家・慈善家のハワード・スタイン (1926-2011)の膨大な写真コレクションがベースの非営利団体Joy of Giving Something Foundationからのセール。いままで2回行われて今回が最終回となる。
19~20世紀の貴重なヴィンテージ・プリントから、20世紀写真、コンテンポラリー作品まで、幅広いジャンルの作品229点(春は228点)が出品された。今回は春と比べて中低価格帯の出品が中心。春の落札予想額合計の上限は約795万ドルだが、今回は470万ドルになっている。落札率は約83.4%で春とほぼ同じ、総売り上げは前回の638万ドルから363万ドル(約4.06億円)に減少しているが、事前予想の範囲内だった。やはり来歴がよいことはブランド価値を高めることになるようだ。
最高額を付けたのは、アルフレッド・スティーグリッツが編集した"Camera Work: A Photographic Quarterly"の雑誌セット。1903年~1917年に刊行された1号のみが欠落した2号から50号までのほぼ完璧なセット。落札予想価格10万~15万ドルの範囲内の約13.1万ドル(約1470万円)で落札されている。
ラースロー・モホリ=ナジの"Self-Portrait, 1925"は、落札予想価格上限の約2倍の11.25万円(約1260万円)で落札されている。
興味深い出品には、いまDIC川村記念美術館で展覧会が開催されているフェリーチェ・ベアトの写真アルバム"Japan, 1863-1866"があった。43点の鶏卵紙プリントが収録されている。こちらは、落札価格上限の3万ドル(約336万円)で落札されている。
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Phillips NY"Photographs"
 
複数委託者のオークションには、134点が出品された。こちらの落札率は67%にとどまった。
最高額はマン・レイの1点もの銀塩写真の"Rayograph, 1922"で、予想落札価格内の30万ドル(約3360万円)だった。
続くのはウィリアム・エグルストンの"Untitled, 1971-1974"。これは96.5 x 147 cmサイズ、エディション2の、ガゴシアン・ギャラリーで売られたピグメント・プリントになる。彼の作品は、いまや写真ではなく現代アートのカテゴリーと考えられている。落札予想価格7万~9万ドルを超える13.75万ドル(約1540万円)で落札されている。
現代アート系のクリスチャン・マークレー(Christian Marclay)によりサイアノタイプ技法で制作された"Untitled (Luciano Pavarotti, Halo and Four Mix Tapes II), 2008"は、カタログのカヴァー作品。なんと作家のオークション落札最高額の10.25万ドル(約1148万円)で落札された。
おなじく、セバスチャン・サルガドの179.1 x 245.1 cmの巨大作品"Southern Right Whale, Navigating in the GolfoNuevo, Valdes Peninsula, Argentina, 2005"も作家のオークション落札最高額の10万ドル(約1120万円)で落札されている。
フィリップスの総売り上げは約640.4百万ドル(約7.12億円)で、落札率は約77%だった。売り上げは、昨秋よりはよいものの、春の899万ドルよりは約29%減少している。落札率はほぼ春並みだった。
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Sotheby's NY "Photographs"
ササビーズは、10月5日に200点の"Photographs"オークションを開催。落札率は54%、総売上高は約290.1万ドル(約3.24億円)だった。売り上げはほぼ昨秋と同じだが春より約15%減少、落札率も昨秋66%、今春68%から低下した。
最初の53点が19世紀の貴重なダゲレオタイプ写真の単独コレクションのセールとなる"IMPORTANT DAGUERREOTYPES FROM THE STANLEY B. BURNS, MD, COLLECTION"。こちらの落札率は37.7%。多くの作者不詳作品が不落札だった。歴史的、骨董品価値の市場評価の難しさを感じさせられた。
複数委託者の147点の落札率は60.5%だった。最高額は19世紀中期のフィリップ・ハース作品"JOHN QUINCY ADAMS、1843"。被写体のジョン・クィンジー・アダムズ(John Quincy Adams)はアメリカ合衆国第6代の大統領だ。こちらは、 落札予想価格20万~25万ドルの上限を超える約36万ドル(約4032万円)で落札されている。
現代写真の最高値はロバート・フランクの"CHARLESTON, S. C.',1955"歴史的フォトブック"The Americans"に掲載されている、黒人女性が白人の赤ん坊を抱いているイメージ。1969年にフィラデルフィア美術館で展示されたという来歴を持つ作品。こちらはほぼ落札予想価格下限の34.85万ドル(約3903万円)で落札されている。
しかし、フランク作品でも、代表作"New Orleans、1955’ (Trolley)"は、落札予想価格20万~30万ドルだったが不落札だった。
高額落札3位は、エドワード・ウェストンの"NUDE ON SAND,1936"。落札予想価格20万~30万ドルの上限を超える約32.45万ドル(約3634万円)で落札された。
ロバート・メイプルソープの貴重な初期のコラージュ、ジュエリー、紙作品も7点が出品されるが、わずか1点のみが落札。これら有名アーティストの関連作品の市場性評価が極めて難しいことが印象付けられた。
 
ボンハムス(Bonhams)は2日に中低価格帯作品が中心108点の"Fine Photographs"を開催。こちらはすべての価格帯が低迷して落札率は約30.5%、落札額約72.9万ドル(約8164万円)だった。
最高額は、アーヴィング・ペンのフォトブック"Passage"のカヴァー作品の"Ginko Leaves (New York), 1990"で、落札予想価格内の19.95万ドル(約2234万円)で落札された。

全体的に中低価格帯で、人気、不人気作品の2極化が進んでいる印象だ。貴重な19世紀写真でも骨董品的価値しかないものへの市場の関心は低調だ。20世紀写真の有名写真家でも、絵柄によってはコレクターが関心を示さないという厳しい状況も見られた。ここ数年続いている傾向がより明確になってきた印象だ。一方で人気写真家の有名作品でも、強気の最低落札価格を設定している出品作は苦戦していた。2極化が進む中でも、人気作の高値はそろそろピークを迎えつつあるようだ。

さて10月第2週に開催されるクリスティーズは大忙しのスケジュールになっている。複数委託者によるオークションとともに、2つの単独コレクションからのオークションを開催する。また、同時にMoMAコレクションのオンライン・オークションも開催される。中低価格帯中心のヘリテージ、スワンのオークション結果とともにパート2でお伝えしよう。
 
(1ドル/112円で換算)

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2017年9月 6日 (水)

秋のニューヨーク・アート写真オークション
クリスティーズがMoMA所蔵品セール!

今秋のニューヨーク定例オークションでの大きな話題になっているのは、ニューヨーク近代美術館(MoMA)の所蔵品がクリスティーズで競売されることだ。
 
まず10月10日に"Photographs From The Museum of Modern Art"のデイ・オークションが開催。続いて同月の"MoMA: Pictorialism into Modernism"、"MoMA: Henri Cartier-Bresson"を皮切りに、12月に"MoMA: Women in Photography"、来年1月に"MoMA: Garry  Winogrand"、"MoMA: Bill Brandt"、4月の"MoMA: Walker Evans"まで、テーマやアーティストを絞って複数回のオンライン・オークションが行われるという。オークション前には全米各都市で内覧会が行われるという。写真部門ではとても珍しく、クリスティーズの本セールへの異例の力の入れようがわかる。
ちなみにササビースは、オンラインのみのオークションの落札手数料の廃止を発表したが、クリスティーズのポリシーに変更はない。
 
美術館がコレクションをオークションで売却するのは、日本人にはやや違和感があるかもしれない。しかし、欧米の主要美術館だと、複数のプライベート・コレクションから節税目的で作品が寄贈される。当然のこととして、特に写真の場合は有名作品が重複する場合もでてくる。また、コレクションには各館の方針があり、それ以外のカテゴリーの作品の収蔵数が意図せずに増える場合がある。その場合は、将来の収蔵予算捻出を理由としての作品売却が可能なのだ。決して経営が苦しくて運営費用のためにコレクションの切り売りをしているのではない。
今回は約400点が売却され、落札予想価格は1000(約11万円)~30万ドル(約3300万円)まで、総額約360万ドル(約3.96億円)の売り上げを見込んでいるとのことだ。出品されるのは、20世紀初期から戦後にかけて活躍した写真史を代表する人たちが中心になる。アルフレッド・スティーグリッツ、エドワード・スタイケン、マン・レイ、エドワード・ウェストン、アンリ・カルチェ=ブレッソン、ウォーカー・エバンス、アンセル・アダムスなど。
目玉になるのは、1923年と1928年にマン・レイにより制作されたともに1点もののレイヨグラフ作品。20~30万ドルと、15~25万ドルの落札予想価格になっている。前者はマン・レイの友人の、詩人、ダダイズムの創始者のトリスタン・ツァラ(Tristan Tzara)が寄贈した作品とのことだ。

 

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Man Ray, Rayograph (1928). Estimate $150,000–250,000.
Christie’s NYのカタログより

ニューヨーク近代美術館同館は1940年に全米で初めて専門部門を設立している写真コレクションの殿堂。同館でコレクションされていたことは、作品評価上で最高の来歴となる。世界中の美術館、企業や個人コレクションが強い興味を示すと思われる。

(為替レート 1ドル/110円換算)

 

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2017年7月 5日 (水)

2017年欧州アート写真オークション
ネット時代の情報氾濫は市場に何を起こしているのか?

アート写真の定例オークションは、4月のニューヨーク、5月のロンドンが終わり、6月にかけて、欧州各都市で低価格帯中心(約7500ユーロ以下)の中堅業者の、Villa Grisebach(ベルリン)、Kunsthaus Lempertz(ケルン)、WestLicht(ヴェストリヒト・ウィーン)によるオークションが開催された。ユーロ圏は底堅い個人消費や輸出の回復により経済の好循環が続いており、景気下振れリスクは和らいでいるようだ。以上から、将来的にECBが政策正常化に向かうとの観測もでているようだ。昨年と比べると円の対ユーロ為替相場は大きく円安になっている。欧州の経済状況は昨年よりは改善していると思われる。
 
さて3社の結果だが、昨年同時期と比べると、総出品数はほぼ同数の648点。売り上げはWestLichtが伸ばしたものの他の2社は減少。全体では約11%減の約165万ユーロ(約2.06億円)だった。落札率は3社ともわずかに改善。全体では約61%から約63.5%にわずかに改善した。
2017年前期の複数市場における落札率を比較すると、大手業者はニューヨーク73.8%、ロンドンが64%。一方で中堅はニューヨーク約66%、そして今回の欧州が約63.5%という結果だ。今年は高額作品の多いニューヨーク市場が改善しているものの、低価格帯中心の欧州市場は元気がない状況のようだ。
先週にフリップス・ロンドンで行われた"20th Century & Contemporary Art Evening Sale"では、今年になって相場が急騰しているウォルフガング・ティルマンズのFreischwimmerシリーズからの"Freischwimmer #84 ,2004"が、落札予想価格を大きく上回る60.5万ポンド(約9075万円)で落札されて大きな話題になっている。有名アーティストのエディションが少ない国際的に活躍する人気作品への強い需要が改めて印象付けられた。
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Phillips London "20th Century & Contemporary Art Evening  Sale"
Wolfgang Tillmans "Freischwimmer #84  ,2004"

今季の欧州アート写真オークションの結果を振り返るに、低価格帯カテゴリーの低迷が相変わらず続いている印象が強かった。ここからはその原因を考えてみたい。
そもそもは、2009年春のオ―クションで起きたリーマン・ショックによる市場規模の急激な縮小から始まる。それが2011年秋くらいから、高額価格帯の動きが次第に改善していく。しかし、中低価格帯は低迷からなかなか抜け出せないのだ。その後、株価の上昇、現代アート・コレクターのアート写真市場参入により高額セクターの市況の回復は続く。一方で中低価格帯の市場では、今度は内部での分断が始まるのだ。有名作家の人気作品に需要が集中して、知名度の低い作家の不人気作品の低迷という状況が顕在化する。現在でもその傾向は続いている。

いままでは、アート写真の主なコレクターだった中間層の没落がこの状況を引き起こした主因だとを考えていた。最近は、それとともにインターネットの普及も一因ではないかと疑っている。つまり、アートの情報がネットで発信・拡散され、また作品自体を販売されるようになったことだ。

どのように考えているかを簡単に説明してみよう。
かつて、といってもわずか15~20年くらい前までは、アート写真をオークションで買う場合は、海外の業者からカタログを航空便で取り寄せる必要があった。もし入札する場合は、現地に赴くか、電話するか、事前に入札額の書類を提出する必要があった。銀行の残高照明を求められることもあった。落札結果はFAXか郵送されてきた。アート写真の情報にはかなり偏りがあり、コレクターやディーラーでさえすべての情報を持っていたわけではなかった。
現在は、その状況が大きく変化した。世界中で行われるアート写真のオークション情報はすべてネット上で公開されている。オンラインでの入札やカード決済も可能になり、結果も即時にわかる。従来の公開オークション以外にも、テーマごとのオンライン・オークションが大手競売業者や専門業者により頻繁に行われている。
かつてのコレクターはゆっくりと時間をかけてカタログを眺め、欲しい作品を吟味して入札していた。いまや自主的に情報を取りに行くと、おのずと膨大な情報の洪水に直面してしまう。アート関係のウェブサイトは世界中に無数にあり、日々情報満載のニュースレターが送りつけられる。
情報は多い方がよいに決まっている。しかし、問題は人間の情報処理能力なのだ。いまアート情報のオーバーロードが起きているのではないか?これが私がいま持っている素朴な疑問だ。心理学によると、情報が多いと人間は判断無能に陥り、コンテンツの内容判断が的確にできなくなり、しまいには選択を放棄するといわれている。

オークションは現状販売となる。高額作品は点数が少ないものが多く現物確認が必須だが、低価格帯作品はエディション数が多く、業者のコンディションレポートを頼りに入札することも多い。高額品は通常の公開オークションに、低価格帯はネットオークションに向いている。たぶん低価格帯作品の情報量がより増加したのではないか。結果的にコレクターは同じような作品の情報に触れる機会が多くなる。心理的に、いつでも買えるような気分になり、作品の競り合い少なくなったのではないか。情報量が少ない時代は、欲しい作品はいま買わないと二度と入手できないかもしれないという、脅迫概念があったものだ。

また人間は判断不能に陥れるとブランドに基準を求める傾向がある。その結果として、低価格帯カテゴリーでは知名度の高い写真家の作品が好まれ、その中でも代表作や有名作に人気が集中してるのではないだろうか。

いま業界では、ネット普及のアート市場への影響がホットな話題になっている。わたしどもも市場の最前線の動きを参考にしながら分析を継続していきたい。

 
(為替レート 1ユーロ/125円で換算)

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2017年6月14日 (水)

2017年春NY現代アートオークション
マン・レイのヴィンテージ作品が高額落札!

ロンドンのアート写真オークションに先立つ5月17~19日にニューヨークで戦後美術・現代アートの定例オークションが行われた。ササビーズ"Contemporary Art Evening Auction"では、スタートトゥデイ社長の前沢友作氏が、ジャンミシェル・バスキアが1982年に制作した"UNTITLED"を約1.1億ドル(約121.5億円)で落札。高額落札がマスコミで大きな話題になったのは記憶に新しいだろう。
いまや写真は現代アート系アーティストの表現方法としても完全に定着している。一方で歴史的経緯から、アート写真と現代アート/戦後美術のオークションは個別のカテゴリーとしていまでも開催されている。しかし、二つの分野にまたがる写真は確実に融合が進行中だ。最近は、だいたい作品の価値評価によってカテゴリーの振り分けが行われている。現代アート系でも知名度が低い若手・中堅や、有名アーティストでもエディション数が多いものはアート写真カテゴリ―。これらは、写真コレクターには高額だが、現代アートコレクタ―にとっては低額の作品となる。20世紀写真も、極めて貴重で価値評価が高いヴィンテージ作品は現代アートカテゴリーのオークションに出品されるケースが多い。
今回の現代アート・オークションにも、マン・レイやダイアン・アーバスのヴィンテージ作品が含まれていた。現代アートのオークションは、だいたい価値評価の低い順に、午前(Morning)、午後(Afternoon)、夜(Evening)に別れて出品される。マスコミに取り上げられるような有名作品のオークションは夜のイーブニング・セールにかけられる。
これから先は、5万ドルくらいまでのエディション数が多い中間価格帯の写真作品のカテゴリーの整理整頓が行われると考えている。最終的には、19~20世紀写真というカテゴリーが残り、21世紀の現代写真や現代アート系の評価が低い作品は、午前や午後の現代アート、および写真と親和性が高いデザイン・インテリア系のオークションでの取り扱いになっていくだろう。
 
今回の現代アート系オークションの写真系作品の最高額は、クリスティーズの"Post-War and Contemporary Art Evening Sale"に出品されたマン・レイの"Portrait of a Tearful Woman,1938"だった。なんと216.75万ドル(約2.38億円)で落札されている。
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Man Ray"Portrait of a Tearful  Woman,1938"
Christie's NY "Post-War and Contemporary Art"Auction

これはゼラチン・シルバー・プリントに着色が施された貴重なヴィンテージ作品。同じく20世紀写真を代表するダイアン・アーバスのヴィンテージ作品"A Jewish giant at home with his parents in the Bronx, N.Y., 1970"は、58.35万ドル(約6418万円)で落札された。
 
その他、今シーズンは、リチャード・プリンス、アンドレアス・グルスキー、シンディー・シャーマン、ウォルフガング・ティルマンズらの常連アーティスト作品が好調に落札されていた。この中でもリチャード・プリンスは別格。ササビーズ"Contemporary Art"に出品された"Untitled(Cowboy), 2001" は、100万ドル超えの約181.25万ドル(約1.99億円)での落札だった。
ティルマンズも予想落札価格を超える高額での落札が相次いだ。英国のテート・モダンで開催中の回顧展の影響だと思われる。出品8点すべてが落札され、ササビーズ"Contemporary Art"に出品された全4点は落札予想価格上限を大きく超えて落札。181X240cmの大作"Freischwimmer 123, 2004"は、予想上限の約2倍の66.05万ドル(約7265万円)だった。
フィリップスでも、186.7 X 233.4cm.、エディション1/1でAP1点の"quiet mind,2005"が落札予想価格上限の約3倍の32.2万ドル(約3542万円)で落札。クリスティーズでも227.3 x 170.8 cmの"Freischwimmer 102"が40.35万ドル(約4438万円)で落札されている。
彼の作品は大判サイズで、エディション1/1でAP1点が多い。写真でも1点ものに近い点数が限られた大判作品は需給関係により絵画同様に高額になる。ティルマンズの抽象作品は、プリンスのカウボーイ作品のようにブランドが確立されつつあるようだ。
 
次回のオークション・レビューでは、5月下旬~6月上旬に欧州各都市で開催された中堅業者のアート写真オークションを取り上げたい。
(1ドル/110円で換算)
 
 
 
 

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2017年5月31日 (水)

オークションレビュー
2017年春ロンドン・アート写真オークション 好調な現代アート系 苦戦する20世紀写真

5月18日~21日に行われたフォト・フェア"Photo London 2017"の時期にあわせてアート写真オークションがロンドンで集中的に行われた。5月18日~19日にかけて複数委託者のオークションが、大手のクリスティーズ、フィリップス、ササビース、中堅のドレワッツ&ブルームズベリー(Dreweatts&Bloomsbury)で開催。ササビーズでは、単独コレクションからのオークション"The Discerning Eye: Property from the Collection of Eric Franck, Part I"も19日に行われた。
 
大手3社の実績を昨年春と比べてみよう。昨年の総売り上げは約533万ポンド、388点が出品されて250点が落札、落札率は約64.4%。今年は、総売り上げ約502万ポンド、408点が出品されて261点が落札、落札率は約63.97%だった。全体の結果は、売上高がやや減少しているもののほぼ昨年並みと判断できるだろう。しかし中身を分析してみると変化の兆候も見られる。
まず、高額価格帯で落札予想価格が5万ポンド(約750万円)以上のトップエンド作品が好調なことだ。特に中~高価格帯の現代アート系作品の人気が高かった。また作家の写真史上の知名度よりも、欧米のコレクターが好む大判サイズの、室内に展示しやすい絵柄の作品の人気が高かった。
ちなみに今春の最高額はフリップスの現代アート系作家ジョン・バルデッサリの"Transform (Lipstick),1990"の38.9万ポンド(約5835万円)。これは1点ものの、186.5 x 171.5 cmサイズの作品だ。通常は比較的小さいサイズが多いブルース・ウェバー。フリップスには、177.8 x 127 cmの巨大作品"Ric and Natalie, Villa Tejas, Montecito, California,1988"が出品された。こちらは1点ものの銀塩プリント。落札予想価格上限を超える8.75万ポンド(約1312万円)で落札されている。
クリスティーズでは、ファッション写真の巨匠ピーター・リンドバークの180 x 120 cmの巨大作品"Christy Turlington, Los Angeles, American Vogue, 1988"が落札予想価格上限の3倍に近い18.5万ポンド(約2775万円)で落札された。
ササビーズでの最高額落札は、迫力のある野生動物の写真で知られ、金融ビジネスを手掛けるスコットランド出身の話題が多い写真家デビッド・ヤロウの"Mankind, 2014"。こちらはピグメント・プリントによる125.8 x 264.6 cm の大作で6万ポンド(約900万円)だった。
一方で、ササビーズの単独コレクション・オークション"The Discerning Eye: Property from the Collection of Eric Franck, Part I"は残念な結果だった。落札率は40.3%に低迷。全般的に20世紀写真が不振で、写真界の巨匠カルチェ=ブレッソンは32点出品されてわずか13点しか落札されなかった。20世紀写真では抜群の知名度のアンリ・カルチェ=ブレッソン作品でも、人気度の低いスナップ的作品への需要は高くないようだ。
一方でフリップスに出品された彼の代表作"Behind the Gare Saint-Lazare, Paris,1932"(サン・ラザール駅、水たまりをジャンプしている男のイメージ)は、落札予想価格を大きく上回る13.1万ポンド(約1965万円)で落札されている。こちらは1947年にプリントされ、MoMAへの寄贈などの来歴が確かな作品だった。
サイズが小さめのファッション写真もかつての勢いは見られなくなっている、しかしクリスティーズのヘルムート・ニュートンのキャリアを網羅する代表作45点からなるポートフォリオ"Private Property Suites I, II & III, 1984"は、22.1万ポンド(約3315万円)で無事落札された。ただし落札予想価格20~30万ポンド(約3000~4500万円)の下限近くだった。同ポートフォリオ3点セットは2014年秋のニューヨークでフィリップスとクリスティーズで38.9万ドル(当時の1ドル105円の為替で約4084万円)で落札されている。ニュートンの相場もピークをつけて落ち着きどころが模索されているようだ。
 
20世紀写真の不人気作品の低迷は18日に開催された中堅のドレワッツ&ブルームズベリーでも明らかだった。こちらも落札率が42%と厳しい結果だった。
ロンドンのオークションで売れているのは巨大サイズの絵柄のわかりやすい現代アート的作品と、有名写真家の代表作だった。アート写真としては高額だが、現代アートとしては割安な価格帯の動きが良かった印象だ。
結果を見るに、総売上(約234万ポンド、約3.51億円)、落札率(87.1%)と、ともに大手業者での最高成績を上げたフィリップスが上記の傾向を的確にとらえたエディティングを行ったと思われる。
ちなみに、同社のカタログ表紙にはインパクトのある倉田精二の写真集"FLASH UP"の表紙に採用された"入墨の男、1975"が採用されている。
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Phillips London "Photographs"
 
これは1978年の初個展時に本人が制作した53X42cmサイズの銀塩プリント。日本人写真家の初期プリントは残存数が非常に少ないことで知られている。本作は落札予想価格上限の約2倍の約5.6万ポンド(約840万円)で落札された。
 
次回のオークション・レビューでは、写真作品の高額落札が相次いでいるニューヨークの現代アートオークションを取り上げる。

為替レート(1ポンド/150円で換算)

 

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2017年5月17日 (水)

2017年春ニューヨークのアート写真市場
中堅業者のオークション・レビュー

現在のアート写真オークションには、5万ドル(約550万円)以上の評価の高価格帯、1~5万ドル(約110~550万円)までの中間価格帯、1万ドル(約110万円)以下の低価格帯のカテゴリーがある。カテゴリー分けは、オークション市場での取引実績により決まってくる。今どれほど高価な作品であっても通常は低価格帯から取引が始まった。取引実績と需給関係により、売れるごとに価格帯が上昇していく。
ちなみに、約38年前の1979年に刊行された"Photographs:A Collector's Guide"によると、アンセル・アダムスの代表作"Moonrise, Hernandez, New Mexico, 1944"は作家が存命していた1975年末にわずか800ドルだったという。現在は3万ドル以上の評価だ。また1970年代後半には、ウィリアム・エグルストンの全作品は600ドルで購入可能だったという。現在の評価は絵柄によるが、約10~30倍以上はするだろう。
ある程度高価な写真作品は資産価値があるといわれる理由は、現在の評価額にいたるまでの取引の積み重ねに裏付けされている。それは低価格帯の評価の作品はまだ取引実績が少ないという意味となる。以上から、撮影年が古いのにこの価格帯にとどまっているのは不人気作品の可能性が高いということだ。ここには、ギャラリーの店頭市場で人気があるがオークションでの取引実績が少ない作品と、20世紀写真としての骨董的価値はあるが不人気作が混在しているのだ。つまり、低価格帯作品の中には、将来市場価値が上昇する可能性を持つ作品と、それ以外が混在しているのだ。
 
通常はギャラリー店頭で販売中の現存作家はオークションでは取り扱われない。ただし例外もある。現存作家でも、長期間にわたりギャラリーで販売され続けている人気作や、エディション数が完売、もしくは残りが少ないものは出品されることがある。それにはオークション会社による、売り上げ増加のためにギャラリー店頭市場に食い込もうという思惑がある。特に英国でこの傾向が強い。アート写真の中心地であるニューヨークとの違いを出そうとしている印象だ。
余談だが、欧米では5000ドル(約55万円)くらいまでの価格帯にはインテリア系の写真作品が多く含まれる。それらは、資産価値はないのでアート系オークションでの取り扱いはないから安心してほしい。
大手のクリスティーズ、ササビース、フイリップスの低価格帯分野では市場性の高い作品が中心に出品されている。中堅業者は大手で取り扱わないような作品を取り扱う。そこには当然不人気作や状態の悪いものも含もまれてくる。大手は、それらの出品作をかなり綿密に選別してカタログリストを制作する。中堅業者は目玉作品以外は、市場性にこだわっている余裕はない、目玉作品がない場合も散見される。市場性はオークション結果に反映され、通常は大手の方が中堅業者よりも落札率が高くなる。景気が良くて市場に先高観があるときは、人気作が競りあがり高額になる場合が多い。不人気作を市場が過小評価していると考える業者やコレクターが増えて、中小業者の落札率も上昇して大手に収斂する傾向がある。
以上のような基礎知識を知っていると、オークション結果をより興味深く見ることができるだろう。
 
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Swann Auction Galleries
 
4月の大手の春の定例オークションの後に、スワン(Swann Auction Galleries)、ボンハムス(Bonhams)、ドイル(Doyle Auctions)3社のオークションが開催された。
3社で599点が出品され、全体の平均落札率を単純比較すると、昨年の春(61.9%)、秋(56.8%)よりも改善して66.1%だった。ただし総売り上げは、中間価格帯の勢いがなく200万ドルを切る約192万ドル(約2.11億円)と昨年の春秋レベルよりも低下。先立って行われた大手の低価格帯作品の好調な売り上げが、中堅業者のシェアを奪ってしまったようだ。
全体のトーンは大手同様といえるだろう。とりあえず2016年秋に底をつけて、緩やかな改善傾向になっている。
高額落札はボンハムスのアンセル・アダムス"The Grand Tetons and the Snake River, Grand Teton National Park, Wyoming, 1942/1973-1977"。こちらは落札価格上限を超える6万ドル(約660万円)で落札。続くのはスワンのエドワード・マイブリッジの"A selection of 60 plates from Animal Locomotion, 1887"。最低落札価格に近い4.5万ドル(約495万円)で落札された。
 
アート写真オークションは5月に英国で集中的に行われる。5月18日~19日にかけてロンドンで複数委託者のオークションが、クリスティーズ、フィリップス、ササビース、ドレワッツ&ブルームズベリー(Dreweatts&Bloomsbury)で開催される。ササビーズでは、単独コレクションからのオークション"The Discerning Eye: Property from the Collection of Eric Franck, Part I"も19日に行われる。昨年後半のロンドンのオークションは、英国のEU離脱による急激なポンド安で海外からの入札が活況で比較的好調な結果だった。しかし今年になって為替レートは落ち着いてきた。またフランスの大統領選挙も終了して欧州の政治不安も和らいできた。このような新しい市場環境でのオークションの動向が注目される。
 
(為替レート 1ドル/110円で換算)
 

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2017年4月26日 (水)

2017年春のNYアート写真シーズン到来 最新オークション・レビュー(2)

今春は定例の複数委託者オークションとともに、前回紹介したフィリップス"The Odyssey of Collecting"の228点と、クリスティーズ"Portrait of a Collector: The John M. Bransten Collection of Photographs"で28点の単独コレクションからのセールが開催された。
Christies
Christie's NY
Image
Phillips NY

 

Sothebys
Sotheby's NY
合計5つのオークションの出品数は741点、落札率は約73.8%、総売り上げは約1801万ドル(約19.8億円)だった。出品数は昨秋から約19.5%増加、落札率も約65.1%から大きく改善した。売上高は昨秋よりも約58.5%と大きく増加。これは新大統領の政策による景気回復期待からダウ工業株平均株価が2万ドル台で取引されているという好調な外部環境と、多数の質の高いヴィンテージ作品の出品された二つの単独オークションの開催の影響によるといえるだろう。
オークションの総売り上げは、リーマンショック後の2009年に大きく落ち込み、2013年春から2014年春にかけてやっとプラス傾向に転じた。しかし2014年秋以降は再び弱含んでの推移が続き、ついに2015年秋にはリーマンショック後の2009年春以来の低いレベルまで落ち込んだ。2016年はすべての価格帯で低迷状態が傾向が続いていた。今回はちょうど総売上高が急減する前の2015年春のレベルに回復。2014年の秋以来ずっと売り上げ5年平均値を下回ってきたのが、ついに若干上回ってきた。売り上げのサイクルは2016年秋を直近の底に回復傾向を見せ始めてと判断できるだろう。しかし経済面を見ると、いまの株価はすべての良いニュースをすでに織り込んだレベルだと専門家が指摘している。期待先行で金融市場が先走っているだけに、決して今後のアート写真市場に対しても過度の楽観はできないだろう。
 
落札の中身を見るとやや気になる点がある。全体の落札率は約73.8%と良好だった。しかし5万ドル(約550万円)以上の高額価格帯をみると約60.19%とほぼ昨年の全オークションの平均落札率に近い結果になっている。特に、ササビーズとクリスティーズの複数委託者オークションでの高額価格帯の結果が良くない。クリスティーズでは、目玉だったアンセル・アダムスの名作"Moonrise, Hernandez, New Mexico, 1941"の100.3 x 143.8 cmサイズ作品が、落札予想価格は40万~60万ドルだったが不落札だった。今シーズンの好調な結果は、中低価格帯の落札率が大きく改善したことによる。
2014年秋以降の市場低迷で、中低価格帯はアイコン的な代表作とそれ以外の作品への需要が2極化した。アイコン的作品の需要に変化はないものの、いままでに低価格帯のイメージ人気がやや劣る作品の価格調整が順調に進み、需要とマッチングしたと分析している。一方で高額価格帯は、出品機会も減少気味のレア作品が多いことから委託者が強気の姿勢を崩していないと思われる。今後は、レア作品も適当な価格レベルの模索が行われるだろう。
 
大手3社の結果を比較してみると、"The Odyssey of Collecting"セールが成功したフィリップスが売り上げ、落札率ともにトップとなった。同社はこれで6シーズン連続の売り上げトップとなった。高額落札はクリスティーズの"Portrait of a Collector: The John M. Bransten Collection of Photographs"に出品されたエドワード・ウェストンの"Nude, 1925"で、87.15万ドル(約9586万円)だった。2番目はクリスティーズの複数委託者セールのアンセル・アダムス"Clearing Winter Storm, Yosemite National Park, California, 1938"で、55.95万ドル(約6154万円)だった。続いても、クリスティーズの"Portrait of a Collector"に出品されたダイアン・アーバスの名作"セントラルパークの手榴弾を持った子供"、"Child with a toy hand grenade in Central Park, N.Y.C., 1962/1963"で、51.15万ドル(約5625万円)だった。
 
4月中旬から5月中旬にかけて、中堅のスワン(Swann Auction Galleries)、ボンハムス(Bonhams)、ドイル(Doyle Auctions)ヘリテージ(Heritage Auctions)のオークションがニューヨークで開催される。こちらの中心は中低価格帯の作品となる。大手での好調が継続するかを注目したい。
 
(1ドル/110円で換算)

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2017年4月 5日 (水)

2017年春のNYアート写真シーズン到来!
最新オークション・レビュー(1)

春の訪れとともに、いよいよ今週から2017年ニューヨーク・アート写真・オークション・シーズンが始まった。外部環境は、昨秋の定例オークション後にドナルド・トランプ米国新大統領が選出。新大統領の政策による景気回復期待からダウ工業株平均が史上初の2万ドルの大台を越えて推移してきた。3月1日には株価は終値の史上最高値2万1115.55ドルを付けたものの、その後は医療保険制度改革(オバマケア)の代替法案の採決取りやめなどで政策への期待感後退から調整局面を迎えている。しかし税制改革への期待から、株価はいまでも2万ドル台の高値を維持している。明らかに1万8000ドル台だった昨秋よりは相場環境は良好だといえるだろう。

今春は、複数委託者による通常オークション前の4月3日~4日にフィリップスが"The Odyssey of Collecting"セールを行った。

Image
"The Odyssey of Collecting" Phillips NY

これは米国の金融家・慈善家のハワード・スタイン (1926-2011)の膨大な写真コレクションがベースの非営利団体Joy of Giving Something Foundationからの出品となる。同財団からのセールは2014年12月11日~12日ササビーズNYで開催された"175 Masterworks To Celebrate 175 Years Of Photography: Property from Joy of Giving Something Foundation"以来となる。同セールでは、単独コレクションからの最高合計落札金額の2132万ドルを達成している。

今回も、19~20世紀の貴重なヴィンテージ・プリントなどの逸品が、イーブニングセール43点、デイ・セール185点にわかれて入札された。落札予想価格が1万ドル越えの出品が全体の3/4を占めていた。
結果は、全体の落札率は約84%、昨年のオークション平均が61.75%だったので極めて好調なだったといえよう。しかし、中身をみると高額落札が予想されていた20世紀写真の不落札が多かったのがやや気になる。落札予想価格上限が5万ドル超えの価格帯の落札率は約65%にとどまっている。最高落札が予想されていたのはラースロー・モホリ=ナジの2点で、ともに15万~25万ドルだった。
"Photogram studies for Goerz (negative and positive), 1925"は落札予想価格内の21.25万ドル(約2337万円)で落札。しかし、"Photogram, 1922"は不落札。イーブニングセールに出品された、エドワード・スタイケン"The Spiral Shell" 、アルフレッド・スティーグリッツ"The Terminal"と" Lake George"などのヴィンテージ作品には買い手がつかなかった。
また中国現代美術のジャン・ホァン(Zhang Huan)の"Family Tree"も15万~20万ドルの落札予想価格だったが不落札だった。
フィリップスがメイン・ヴィジュアルの1枚として紹介していたジュリア・マーガレット・キャメロンの"Sappho (Mary Hillier), 1865"も、落札予想価格5万~7万ドルの下限以下の4万ドル(約440万円)の落札にとどまっている。
 
一方で、予想よりも高額落札された過小評価気味の作品も散見されたのでいくつか紹介しておこう。19から20世紀初頭の作品は歴史的価値や被写体の希少性をどのように評価するかによって、予想外の高額落札になることがあるのだ。
だいたいこの分野は個人よりも美術館などの公共機関が購入する場合が多い。
20世紀の彫刻家コンスタンティン・ブランクーシ。彼はマン・レイに写真を学び自作を撮影したことで知られている。"(Bois) Group Mobile (L’Enfant au monde),1917"は、4~6万ドルの落札予想価格のところなんと12.5万ドル(約1375万円)で落札された。
アルヴィン・ラングダン・コバーンのプラチナ・プリント"Self Portrait,1905"は、2~3万ドルの落札予想価格のところ9.375万ドル(約1931万円)で落札。
19世紀の英国人写真家のベンジャミン・ブレックネル・ターナーの"Trees (Pepperharrow Park)、circa 1853"も、2.5~3.5万ドルの落札予想価格のところ、何と16.25万ドル(約1787万円)の高額で落札。
ジュリア・マーガレット・キャメロンの天文学者ジョン・ハーシェルのポートレート作品"Sir John Herschel, 1867"は、落札予想価格2~3万ドルの落札予想価格のところ11.25万ドル(約1237万円)で落札されている。
 
4月4日~6日にけて、クリスティーズ(179点)、ササビーズ(188点)、フィリップス(118点)で複数委託者中心のオークションが開催される。クリスティーズではアンセル・アダムスの名作"Moonrise, Hernandez, New Mexico, 1941"の100.3 x 143.8 cmサイズが注目されている。こちらの落札予想価格は40万~60万ドルとなっている。
オークション結果の分析は"オークション・レビュー(2)"で紹介する予定だ。
 
(換算レート 1ドル/110円)
 

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